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06 異世界の500年前と700年前の歴史。



 ドルドミル伯爵一家には、もう王都に帰ってほしいと思った。



「ベラ。マラヴィータ子爵の歴史を知ってるかい? 僕は全然知らないから、よかったら知りたいんだけど」


 帰る際の馬二人乗りは、遠慮なくお腹に腕を回されて、ギュッと密着するエドーズ。


 マラヴィータ子爵領に興味を持っても、いいことはないけれど、その領地の娘を嫁に狙うならお勉強すべきだよねぇ。


 うん。帰ろうか? 王都へ。


 なんて。母の訃報に、遥々すっ飛んで来てくれた親族を、突っぱねることは出来ないので、我慢我慢。


「元はドルドミル伯爵家と同じ爵位だったんだって」

「そうなの? どうして、爵位が子爵に?」

「大きな事業を失敗したとかで、200年前から子爵になって、それからずっと領地だけを守ることに専念してたから……今のなーんにも、名産品とかがない領地になっちゃったんだって」


 マラヴィータ家の歴史は、500年前から始まる。

 戦争の手柄で伯爵の爵位を頂き、この領地をもらった。

 しかし、300年後の当主が大いにやらかして、以降、保守的になったのだろう。

 新事業など手をつけることなく、現状維持をするように領地経営をすることで、この何もない辺境の田舎領地に仕上がったのだ。


 500年前の諸国との小競り合いな戦争で、爵位を得た貴族は多いだろう。

 かくいう、ドルドミル伯爵家も、その一つの貴族である。


 エドーズが教えようとしてくれたけど「知ってるよ」と、止めておく。

「すごいね! ベラは!」と、エドーズに後ろで興奮されたけど、普通に母の実家だから、聞かされたのである。

 すごくないよ。普通だよ。


「ドルドミル伯爵家は、領地は要らないって断って、事業に専念したんだって。逆だね」

「うん。花とか、新しいものを作ることが趣味だっからね。初代当主様が」


 それでお母さまが緑の魔法が、得意なのである。

 緑の魔法を使ってきた家系だから。


 王城のとある区画には、ドルドミル伯爵家から献上した美しい大輪の薔薇が咲き誇っているらしい。

 ドルドミル伯爵家の代表的な功績として、一番に挙がるのが、その薔薇だ。


「ねぇ。ドルドミル伯爵家と、新しい花作りをしない?」

「え?」

「こんなに自然豊かだし、場所はいくらでもありそうだから、新しい事業としてやってみようよ!」


 共同作業をやってみよう! という提案。

 それは、政略結婚のダシになり得る案である。


「どうかなぁ……。お父さまが、よしとするかな」

「領地で何かを始めるって、いいことじゃないかな? ほら、領民の仕事になって、お金を稼げるでしょ?」

「それはそうだけど」


 んー。なんともなぁ。

 保守的な領地経営が定着してしまったからか、お父さまも新しいことは考えていない様子。


 母は現状を少しでもよくしようと、領民との交流や学校の設立を進めてはいたけど、それも領地の中だけ、って感じだった。

 学校の教育に、わざわざ他の地から人材を勧誘する話は聞いたことはない。こんな領地からの勧誘は嬉しくないだろうけれど、勧誘する気すらしないとなると……。

 最早、閉鎖的な領地に思えてきてしまう。


 領民のほとんども、自給自足で済ませちゃう生活しているから、田舎あるあるかもしれないが……。


「お父さまが乗り気になる案があればいいね」とだけ、無難な返答をしておいた。



 夜は、マラヴィータ子爵邸の食堂で、夕食。

 アシュリー叔母さまも、ちゃんと起きて、食卓につく。

 昨夜の謝罪は済んだのか、気まずいというより、重い空気。母の墓参りあとだからだろうから、アシュリー叔母さまも沈んだ表情だ。


「孤児院では、今日、どんな遊びをしたんだい?」


 ジャクソン叔父さまは、明るい微笑みで尋ねた。

 それに答えたのは、エドーズだ。

 かくれんぼで20人ほどの子どもを、広い森の中からあっさりと発見したこと。そして、孤児院で孤児や近所の子どもに、最低限の教育をする女性達と学校を作る計画があること。楽しげに語った。


「ベラは聡明で優しいお嬢様だと、愛されているのです」と、ご機嫌な微笑で締めくくる。


 そんなぽわぽわした雰囲気で浮かれていると、目に見えてわかる息子を見て、アシュリー叔母さまは、キラリと目を見開いた。



 ……うん! 帰ってもらえないだろうか!?



 他にも聡明さを感じた私の話をエドーズは次から次へと語るから、ジャクソン叔父さまも感心した様子。

 ()()()()()()()()()()()()()()


「ベラの教育は、誰が?」と、ジャクソン叔父さまが、お父さまに尋ねた。


「周りが教えていますが……正式に担当しているのは、ジェラールです」と、お父さまはジェラールを呼び寄せる。

 やってくるまで、ジェラールが古株の使用人であり、自分の補佐の父親だと紹介。


「ベラお嬢様は、理解力に優れたお方です。難なく学び、吸収します。我が息子よりも、賢い子どもだと認識しております。また、魔法に関して人一倍興味を抱いていらっしゃいまして、近頃では大人顔負けの魔法の使い手となったと言えます。火、水、風、緑、雷の魔法を、人並み以上に使えるようになられました」


 自分の白い髭を撫でて、ジェラールは雄弁に語った。


「えっ? その歳で? もう基本魔法が使えるようになったというのか?」

「そうなの? 明日。明日見せてくれる? 僕はまだ、火が苦手で……」


 二歳年上の10歳になったエドーズは、まだ”基本魔法”と位置付けられる五つの属性の魔法が使えないらしい。

 10歳頃には、基本魔法を身につけるのが、一般的な認識。

 先に二歳年下の私が使えていることを知って、エドーズは少々焦った様子だ。


「魔術師の魔法には、興味がある? 王都に行けば、現役魔術師から教えを受けられるでしょう?」


 王都に連れて行く口実として、アシュリー叔母さまが言い出した。

 それは魅力的ではあるけれど……うん。隙あらば、王都に行く流れに持って行こうとしないでいただきたい。


「あなたに頼まれて魔力譲渡に関しての情報を集めてくれたのは、現役魔術師の方でね。頭がとてもいい方だから、気が合うかもしれないわ」と、つらつらと一人喋り倒した。


 興味はあるけれど、王都に行く流れは嫌である。かといって、その人をこの領地に招いて教えを乞うなど、無理な案だ。

 アシュリー叔母さまは、私と一緒に寝ると言って、またもやベッドにもぐりこんだ。ギュッと私を抱き締めて、王都に行きたがる話をしては、眠りに落ちた。

 自分の妹を亡くした傷を癒すためか、私を癒したいためか、べったりだ。


 …………いつまでいるんだろうか。この叔母一家。



 翌朝。

 朝食を済ませたあとに、改めて、お父さまが屋敷内を案内することとなった。

 使用人10人程度で維持が出来る屋敷なんて、そう改めて案内する程ではない。

 ドルドミル伯爵邸の半分しかないような屋敷を案内とか……ちょっとした罰ゲームな気がするんだけど。


「この本棚。左右と違うね」

「え?」


 談話室の壁際の本棚を見比べて、エドーズが言った。

 なんのことかわからず、首を傾げて見る。二つの本棚の間に、突き出た本棚が一つ。


 見慣れた本棚だけれど、見比べれば、確かに違うような……?


「ああ、そこには隠し通路の扉があるんだ」

「かくし、とびらっ……!?」


 エドーズに平然と答えたお父さまに、ビックリ仰天の顔を向ける。


 え!? なんて!?

 ちょっと!? 私住んでるのに、なんで知らないの!?


「500年前の建物には、大抵あるんだ。この屋敷には、三つの入り口があって、下の部屋に繋がっている」

「どうやって開けるのっ? ねぇ、どうして私に教えてくれなかったのっ?」

「え? と、特に使うことがないから……。僕も子どもの頃に開けたっきりだし……」

「だめでしょ! お父さま! もしも万が一にも、私が開けちゃったら怪我するかもしれないでしょ!? こういうのは、黙ってないで、予め教えておくべきなの!」

「ご、ごめん、ベラ……」

「さあ! 怪我をしないように、正しい開け方を教えて!」

「「「「…………」」」」


 黙っていたことを叱っておいて、秘密の地下への扉の開け方を教えてくれるように急かした。


 ドドーン、と胸を張る私に、一同から生温かい視線を受ける。



「「「(隠し扉に、可愛くはしゃいでる……)」」」



 隠し通路にワクワクと興奮している様子に、ほっこりと微笑ましそうにしていた。


 恥ずかしいとか、ないね! 子どもらしいところをしっかり見せられたなら、御の字である!

 さあ、さあ! 隠し通路を開けてちょうだい!



 ジェラールと男使用人が、ガチャリと真ん中の本棚を引き出しては、横にスライドさせた。

 手動で重たい本棚を押し開けるタイプか。

 下に繋がる階段を早速降りようとしたけれど、その前に、ひょいっと私の身体を持ち上げられてしまった。

 お父さまだ。


「中に入ることこそ、怪我をしかねないよ。手入れをしてないし、古びて床が抜けるかもしれない」

「みーる! 見たい! お父さま、早く!」

「あはは……わかったよ」


 私のおねだりに、仕方なさそうに苦笑いを零すお父さまは、ランタンを用意させた。


 それを持たせたジェラールに先に降りてもらって、秘密の地下へ。


 談話室のように、家具が置いてあった部屋に到着。

 本当に手入れをされていないので、使用するのは賢明じゃないソファーやテーブルだ。


「これ、()()()()()()では?」

「古代の?」


 ついてきたジャクソン叔父さまが、テーブルの上に無造作に置かれた一冊の本の埃を払って気付く。

 私は下ろしてほしいと足をジタバタした。下ろしてもらって、その本を渡してもらう。


「ええ。500年前からありますので、当時の貴重品として集められて保管されたのでしょう」

「へぇ? 他にも?」

「奥にも、本がいくつもあります」

「骨董品として、価値がないのかい?」

「あ、はい。そう聞いております。だから、ここに放置状態で……」


 古びたページは厚紙だからか、原型を留めているし、文字も消えていない。

 だが、読めない文字だ。知らない文字。


 挿絵があるところを見ると……図鑑かな。

 恐らく、魔物の図鑑。挿絵が、魔物らしき姿のものばかりだ。


「古代文明について。エドーズとベラは、答えられるかい?」


 ジャクソン叔父さまが、問題を出してきた。


「700年前に滅びた文明です」


 そう素早く答えたのは、エドーズだ。

 しかし、すぐに紳士らしかぬ行動だと思ったようで、私と目を合わせると、気まずげに俯く。


 歳上として、私に譲るべきだった。とか、思ってるのかな。紳士は、大変そうだ。


 そんな息子を、クスッと笑ってジャクソン叔父さまが「ベラ」と名前を呼んで答えるように、指名して促した。


「700年前に滅びた文明を基に、現在の世界が生まれたそうですね。滅びた理由は、”罪深い時代だったために、ヴェアスター男神が蔓延る邪神の信徒達を滅したことによる巻き添え”、と習いました」

「うん、その通りだ」


 ヴェアスター男神は、この異世界の神の一人。

 戦いの神であり、正義の神だ。

 邪神は、災いをもたらす神のことだけれど、この異世界だとゲトゥラシュという名で知れ渡っている。

 負の対価で、巨大な富や力を与えてくれる邪神を、教団が崇拝していたらしい。


 そういう話は、滅びた文明の生き残りが、かろうじて伝えたそうだ。


 古代文明の生き残りが語り伝えた知識を、基に現在の世界がある。

 500年前の戦争も、新たな国作りのため、生活や発展に必要な資源を得るため、滅びから持ち直した人々達が、あっちこっちで始めたのだ。


「他にも、説があるんだよ、ベラ。空から星が降ったことで、地上が半壊したという説があるんだ」

「へぇー、星で半壊かぁ。その説は、すごいね」

「あと、そういう本が山ほどあって、しかも、魔法に関してらしくて……”()()()()()()()()()()()()()()”もあるんだ」

「え? 大魔法?」

「うん。魔法に関しての書物が多いけれど、それを読み解く知識を残さなかったのは、()()()()()()()()()()()()()。そういうことで、”ヴェアスター男神が邪神の教団を滅ぼした罪深い時代と言い遺された”という説も、出ているところなんだよ」


 エドーズが、得意げに追加の情報を教えてくれた。

 隕石による地上半壊の文明崩壊説を、興味津々に見たあと、エドーズが続いて教えてくれる大魔法による文明崩壊の説を聞いて目を見開く。


「……()()()()()()()()()

「魔法だと、気になる? 好きなんだね、ベラは。魔法が」


 いや、魔法が好きだということは、別に否定はしないけれど。

 文明が滅びるほどの大魔法。しかも、それを語り継がせなかった魔法の数々。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()



 真っ先に頭に浮かんだのは、核爆発。

 文明を滅ぼすほどの核爆発となれば、威力は計り知れない。そして、爆発だけではなく、何かしらの害悪が残るはずだ。


 例えば……。

 『魔力視』で、エドーズの身体を漂う魔力を目にする。



 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 なんて。

 突拍子かもしれないけれど、否定も出来ない。


 『魔力ポケット』とは別に、漂う魔力。普段使用する魔力だけれど、身体を支えているという役割も担っている。魔力欠乏症も、あるのだ。


 魔法の超古代文明。

 これは、調べた方が、絶対に面白いだろう。


 子どもらしかぬであろうから、ニヤリと口角が上がる口元は、見られないように片手で隠しておいた。



 



異世界転生魔法エンジョイスローライフに、超古代文明の解明はいかがですか?


ブクマ、ポイント、いいね。ありがとうございます。

2023/05/17

(次回更新予告、来週の月曜日5/22の予定)

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