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陽だまりの陽炎。~ちょっと幸福な異世界転生魔法エンジョイライフを目指す~  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
序章・転生少女の手抜きの魔法エンジョイスローライフ

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33 (三人称視点)4ー聡明で優しいお嬢様を考察。


ルジュside




 ルジュは、非常に怪訝な表情で首を捻った。

 気が付いた時には友だちとしてそばにいたベラと、喧嘩なんてものはした記憶が全くもってない。

 一番の友だちであり、一番の幼馴染。そして、想い人だ。


 ルジュにとっての世界の始まりは、ベラだと言っても、過言ではないほど。


 ルジュは、生まれて間もない赤子の状態で、孤児院の前に置き捨てられていたらしい。

 あの孤児院の原則では、誕生日が明らかになっていない子どもは、元旦を誕生日にして祝うことにしている。捨てられた年に、イザベラ・マラヴィータ子爵令嬢は誕生した。

 だから、恐らく、ベラと同い年。

 ルジュを発見したのは、たまたま寄付にやってきた近所の老女。彼女に名付けをしてもらい、数年の間は可愛がられた。と、思う。

 物心がつく前の記憶はあやふやで、正直名付け親の老女の顔は覚えていない。


 神秘的な光りを放つしなやかな白銀の髪と、明るい黄緑色の瞳の少女。

 当たり前のように、そばに存在していた。


 恋心を自覚したのは、当たり前のように会っていたベラと、一ヶ月以上も会えなくなった去年のことだ。

 貴族の社交シーズンで、母親のマラヴィータ子爵夫人とともに、遠く離れた王都へと行ってしまった。

 ベラは身分もそうだったが、性格的にも、子ども達の中心人物的存在だったのだから、皆が寂しがった。

 ルジュも、そうだ。

 心がぽっかり、空いたような、そんな時間だった。

 太陽のようなキラキラした存在が、隣から消えてしまったのだ。

 毎日、ベラは今頃何をしているのか。いつになったら帰ってくるのか。いつ、また会えるのか。


 ……帰って、こなかったら?


 その疑問が過れば、今までに感じたことのない不安に襲われた。

 それで、ベラに対して、恋心を抱いているということを自覚したのだ。


 予定よりも早く帰ってきたベラに、想いを伝えることはなかった。

 多くのことをまだまだ知らない子どものルジュでも、ベラが同じ想いを返して、応えてくれることはないとわかっている。それに、孤児と貴族令嬢という身分差もあった。

 それでも、変わらず、当たり前のように、一緒に居る。

 貴族令嬢だから、一線を引く気は、今更ない。ベラ本人も、望んではいない。

 一番の幼馴染。

 その特権を、ルジュは持っている。

 これから、変わるかどうかはわからないが、今はただ。そばにいたい。

 それだけだった。


 しかし、ベラを結婚相手候補として考えているベラの従兄エドーズの出現に、余裕はなくなり、機嫌は急落下した。

 二歳も年上なのに、基本魔法が上手く使えないエドーズのために、手を繋いで練習に付き合うベラ。

 その光景には、嫉妬が湧いた。

 確かに、ベラは、魔法に関して、大人の誰よりも教え上手だ。それも手を繋いで、使う感覚を教えてくれるのだから、子ども達の上達は早かった。

 手足の動かし方を教えるかのように、導いてくれるのだ。感覚は、掴みやすい。

 触れ合って練習は、必要なこと。

 最初だけは言い聞かせていたが、それが一週間以上も続くものだから、メラメラと嫉妬の炎が燃え上がった。

 でも、理由があったのだ。

 ベラのその魔法の教え上手は、あまりにも特別だから、エドーズの上達には、あえて時間をかけたという。

 ただでさえ、ベラをマラヴィータ子爵領から、王都に連れて行きたがっているドルドミル伯爵家に、ベラのその特別な才能を知られないためだった。

 王都に住む気がさらさらないベラは、隠したかったのだ。

 不服ではあるが、理由に納得する。不服ではあるが。


 そもそも、エドーズが上達に遅れたのは、ベラの加減が原因ではないと思う。

 エドーズが、ぽーと、ベラを熱く見つめていたせいだ。集中力が、欠けていた。

 何度、その繋いでいる手とともに、切り落としたかったか。


 そして、孤児院の新入り、レフの登場だ。

 ベラが発見した父親を亡くしたばかりの一歳上の少年。身寄りも何もないために、孤児院へ。

 初めこそは、他の孤児仲間として、ベラに面倒見てもらっている子どもだと思っていた。

 ルジュより一つ年上だったため、現時点では最年長。だから、ルジュが教えてやるだけで、兄貴分として、他の子ども達にすぐに慕われていった。


 そんなレフが、魔法は不得意だと言って、使うところを見せようとしなかったのに、いきなりベラが子ども達にだけ教えていた『風ブースト』を使って、一緒に遊ぶようになって不可解だった。

 魔法は不得意じゃなかったのか。そもそも、『風ブースト』は、ベラに教わらないと、コツがわからないものだ。

 なのに、日中、レフがベラに教わっていたところなど、見たことがない。

 気になって気になって。

 眠れなかったある日の夜。

 レフの部屋を訪ねれば、もぬけの殻。

 それで、悟った。レフは夜、孤児院を抜け出して、ベラの元へ行き、魔法を学んでいたのだ。


 途端に、レフの特別感が脅威に思え、不安が大波のように押し寄せた。

 ベラに救われて、衣食住をもらったレフ。

 さらには、夜にこっそりと会って、魔法を教えてもいる。

 レフへの特別扱いが、自分の一番の幼馴染という特権を上回っている気がして、感情は爆発した。


 自分の部屋の窓から帰ってきたレフは、バツが悪い顔をした。

 問い詰めても答えないから、殴り合いの喧嘩となった。


 思えば、殴り合いの喧嘩なんて、レフとしかしたことがない。

 殴り合いの喧嘩をしたと聞いても、ベラは事情を察したようで、言い聞かせるように、静かに叱るだけ。

 過去でもそうだ。

 ベラは「失礼ね」と、言い返すだけで、どんな軽口も、いなす。

 他の子ども達の喧嘩だって仲裁しては、叱りつけるが、大人な対応ばかり。


 悪いことも、いけないことも、言葉で伝えて言い聞かせてくれる。

 納得いく理由も説明もして、解決案も出してくれるのだ。


 その夜に、ちゃんと納得いく理由を教えてもらった。

 レフが魔物と人間のハーフだから、差別により、二つの国を追われて、母親と父親を殺されてしまったのだと。魔力を使うと、魔物の姿になってしまうから、ベラは今後も隠し通せるように、と練習に付き合っていたのだ。

 夜でもなければ、誰かに見られてしまう。だから、こっそり屋敷の塀の外で合流して、そこで練習していたのだ。


 せっかくだから、今後はみんなで魔法特訓をしよう、と提案してくれたから、すぐさま頷いた。

 毎晩! ベラと会える!

 喜んで! だった。


 ……だが。

 また、エドーズである。

 『風ブースト』の論文が、魔法学会で高評価を受けたことを口実に、唐突にやってきたエドーズのせいで、ベラは、昨夜から魔法特訓に参加していない。


 ソードンが、ベラと喧嘩したり、子どもらしく怒ったことはないかと尋ねてきたが、そんな姿は見たことはないと答えた。そのあとに、ベラの一番強い魔法についての質問に変えてきた。


 ベラが威力の強い魔法を使って見せたのは、初めての実戦経験をしたスライム狩りの時だ。

 むしろ、その時以外、見る機会などないだろう。

 夜の魔法特訓は、屋敷の者に気付かれないように、派手な魔法は発動させたことがないし、そもそもベラは助言をするばかりで、大きな威力の魔法の見本を示すのも少ない。


 考えてみれば、ベラの”本気の魔法”なんて、見たことがなかった。

 ルジュだけではなく、レフ達だって、ベラの魔法の腕は最強だと思っているはず。

 実際に、目にしたことはなくとも、確信はしているし、今後それは揺らがないとさえ思う。


「(…………ベラの”本気の魔法”は、よくわからないけど……)」


 もう一つだけ。ベラの”本気の魔法”について言えることがあれば。


「(――――絶対に、他人(ヒト)に当てちゃダメなヤツだ)」


 生身の人間に、ベラの”本気”は放たれては、大惨事になる。

 漠然ではあるが、ルジュはそう理解した。

 ソードンの話の流れで、ベラが怒って魔法を本気で振るう危険性を想像をしてしまうが、絶対にそんなことは実現しないと思う。

 ベラは、そんな怒り方をしないのだ。

 そもそも、その年齢で研究する程に魔法が大好きで、子ども達にも、他人に攻撃魔法を使ってはだめよ、と何度も注意してきたベラが、怒りのままに魔法を放つわけがない。


「……お前さん達も、ベラお嬢様を”聡明で優しいお嬢様”だと思ってるのか?」


 何故か疲れたように息を吐いては肩を落とすソードンは、やけにベラのことを尋ねる。


 ”聡明で優しいお嬢様”か。

 ルジュは、思いっきり顔をしかめた。


「な、なんだよ?」

「……別に」


 戸惑うソードンから、しかめっ面をぷいっと背ける。

 ベラの定評となった、その表現のきっかけは、エドーズだ。

 子どもらしかぬベラを、大人びてすぎるとか、おかしいとか、マイナスな表現ではなく、いい表現として”聡明”とエドーズが言い出したのだ。

 意味を理解したミリーはそれを気に入って、舌足らずな口調で”聡明で優しいお嬢様”と、大好きなベラに笑いかけた。


「(エドーズめ……。孤児院に来れないし、夜も会えないし…………ムカつく奴だ)」


 むぅ、と唇を尖らせて俯いたルジュの視界に、スッと白い毛並みの猫が入り込む。

 スライムのタマ。ルジュのペアのタマは、キジやミケと違って、必要以上に構ってほしがらないクールな性格。

 ベラに絶対服従なスライム達だが、ちゃんとこちらの意思は伝わるし、頼みだって大抵のことは聞いてくれる。

 そんなタマが、スチャッと左の前足を上げては、鋭利な爪を見せた。


 やってやろうか? と、問わんばかりの顔に見えたルジュ。


 もしかしたら、ソードンによくない反応ばかりをしているから、ソードンに仕返しをしてやると示しているのかもしれない。

 別に、ソードンには何もしなくていいが……。

 代わりに、エドーズの顔を、ザックリと引っ掻いてもらおうか?

 顔に怪我したということで、王都に帰ってくれるかもしれない。この領地には、治癒魔法の使い手はいないのだから。


「うん! だって、ベラおねえちゃんは、そーめいで、優しいおじょうさま!!」


 悪い考えをしていたルジュは、ミリーの明るい声に意識が逸れた。


「優しい、ねぇ……」

「なんですか? 優しいじゃないですか。領地のみんなもそう思ってますし、一番親しいオレ達だって、ベラは優しいって思いますよ」


 意味深に、笑みを引きつらせるソードンに、レフは何かあるのかと理由を問う。

「(今、”一番親しいオレ達”って言う必要、あっただろうか……)」と、ひっそりと横から、レフにジト目を向けたルジュだった。


「それがなぁ。エドーズ坊ちゃまの家庭教師に、厳しそうな前男爵夫人がいただろ? あの人が、ベラお嬢様を怒らせて、追い出されたんだよ。お昼にな」


 へらりと、ソードンが教えてくれたことに、目を丸める。

 そして、うっすらとしか記憶にない、きつそうな雰囲気の年配の女性を頭に浮かべた。

 うっすらとしか記憶にない理由は、興味がないことが大きいが、彼女自身が関わろうとしなかったからだ。壁を作っているような雰囲気を、ルジュ達は感じ取って、こちらも関わろうともしなかった。


「その夫人、何したの?」「何をしたんですか?」「どんな悪いことをしたの?」


 ルジュもレフもミリーも、質問を被らせてしまったが、追い出された前男爵夫人の怒られた理由を問う。もちろん、前男爵夫人が悪いという前提だ。


「ははっ。あの夫人が、あんまりにも失礼でな。元々、問題が起きないように、孤児院に行くことも避けたのは、あの人のせいらしい。今日は、オレの方が激怒したいくらいの侮辱を並べ立てたから……お嬢様自身が、侮辱を特大の侮辱で返して、伯爵家の家庭教師をクビにしてやったんだぜ」


 説明が短いが、なんだか自慢げに、ニッと笑って見せるソードン。


「めっ! したんだね!」と、ミリーなりに理解する。

 ルジュも、きっと”特大の侮辱”と呼ぶに相応しい言葉を並び立てて、従兄の家庭教師を解雇に追い込んだのだろうと、受け取った。


「えっ……? 従兄とはいえ、伯爵家の家庭教師を、ですか……?」


 レフは、困惑をする。一体どうやって、解雇出来たのか。


「それはだな……ん? これ、言っていいのか?」


 詳しい話をしようとしたソードンが、ふと我に返る。

「(多分、ダメだと思う)」と、ルジュは思った。思っただけである。

 護衛の立場で、親戚同士でも、子爵家と伯爵家の間にトラブルが起きたのなら、勝手には言い触らしてはいけないはずだ。格下の子爵家の護衛は、なおさら。

 話が聞きたいので、言わないが。


「いや、ダメだよな……」と、ぶつくさと自分に言い聞かせるソードン。


「オレから聞いたこと、言うなよ!? そして誰にも言うな!」


「ええー」と、三人揃ってブーイング。

 せめて、全部話してから、口止めをしてほしい。


「ほら! 帰った帰った! 伯爵家の者が滞在する間は、夜の魔法訓練はお預けだ!」

「ええー! ベラおねえちゃんに会いたい!! こじいんにも来てくれないのぉ?」


 ソードンは駄々をこねるミリーの肩を掴んでは、引き返すために背を向かせる。


「あー、あのきつい家庭教師がいなくなったなら、行くかも……。いや、無理だな。明日には、デザイナーが来るって言ってた。来年の春の社交シーズンで着るドレスを新調するんだとよ」

「ええ~……。えっ! ベラおねえちゃんのドレス!? 見れるかな!?」

「は? いや、それは……知らんが……」


 ぶぅぶぅー、ふくれっ面をしていたミリーは、コロッとベラのドレスに食いついた。

 喪中でずっと黒のワンピースを着ていたベラは、来年の春には、色とりどりのドレスを着るようになる。


「(……また、ベラが、長く離れるのか……)」


 社交シーズンで、また遠くの王都に行く話には、正直気が沈む。

 それから意識を逸らすように、思い出す。


「(王都から帰ってきたベラの新しいドレス…………キレイだったな……)」


 去年、予定よりも早く帰ってきたベラが、見せてくれたのは、王都で買ったというドレス。

 もちろん、着た状態で、裾を掴んでは、クルッと回って見せて「綺麗でしょ?」と、眩しいくらいの笑みで尋ねてきた。

 ミリー達は大はしゃぎで褒めちぎっていたが、ルジュは見惚れていて、それどころじゃなかった。


 白いフリルで縁取られた愛らしさもあるのに、温かな陽だまりのような淡いオレンジ色のワンピースドレスは、上品な美しさもあった。クルッと回った時に舞い上がった白銀色の髪も、明るい黄緑色の瞳も。

 どれも綺麗としか思えなくて、しょうがなかった。

 恋心を自覚してから初めての対面で、ルジュはぶっきらぼうにも「お嬢様みたい」と言ってしまったが、ベラは「これでも、本物のお嬢様ですが、何か?」と、いつもと変わらず、呆れ顔で言い返した。


 当たり前のように、そばにいる存在の”聡明で優しいお嬢様”。


 どんな新しいドレスで、着飾るだろうか。

 それを見る楽しみに、ルジュは意識を集中させてみた。


 さもないと、本気でタマにエドーズの顔を引っ掻ようにと、頼みをしてしまいそうだ。

 社交シーズンの間、王都のエドーズの家で滞在する事実から、必死に考えないようにした。



 


次回は、レフsideです。


2024/04/04◎

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