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陽だまりの陽炎。~ちょっと幸福な異世界転生魔法エンジョイライフを目指す~  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
序章・転生少女の手抜きの魔法エンジョイスローライフ

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32 (三人称視点)3ー聡明で優しいお嬢様を考察。


引き続き、三人称視点。




 母親の死について、病気を見抜いても、救う術を持っていなかったと自嘲していたベラ。

 その顔が、過った。


「……奥様の魔力欠乏症を見抜いたのは、ベラお嬢様だと、街でも耳にしましたが……」


 恐る恐ると、尋ねる。

 ベラ自身の口からも、見抜いたとは言った。でも先に、ソードンは街の噂で、ベラが医者よりも先に言い当てていたと聞いたことがある。


「ええ、そうです。私めから、魔力がなくなる病気があるのかと質問して、魔力欠乏症という不治の病の存在を教えると……真っ先に、それではないかと、ベラお嬢様が疑ったのです。始めは主治医も断定が出来ませんでした。そもそも、魔力欠乏症だと診断出来る頃には……。そんな不治の病ですが、主治医が断定するより前もずっと疑い、魔力の回復にいいとされる薬草や木の実も集めては、奥様の様子を何度も窺っておいででした」


 ジェラールは、深く頷いた。

 ソードンは、目を見開いてしまう。

 医者が断定していない間も、疑い続けては、最善を尽くしていたベラ。


 子どもの思い込みによる、不安からの行動と片付けるには、ベラはあまりにも賢すぎる。



「まるで……――――ベラお嬢様は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 初めから。魔力欠乏症だと、見抜いていた。


「……見、抜いて…………」


 ”()()()”ことが得意だと、笑う少女。

 思わず、自分の右肩を押さえた。

 彼女は、ここを怪我をしていると言う。まるで、怪我を目視しているかのように、そこをレベルの高い治療を受ければ、剣の天才として再起が出来るかもしれないと告げてきた。


 ”聡明で優しいお嬢様”の目には、一体――――()()()()()()()


 あの人の心の底まで見透かすような黄緑色の瞳に、恐怖心が湧いてきたソードン。


「奥様が原因不明の不調で、領地に回れない間も、ベラお嬢様は代役を務めておりました。だから、亡き奥様の代わりを務めることは当たり前だと思っていらっしゃるのでしょう。間違いではありませんが、まだ幼いベラお嬢様が全てを背負うことはないのに……ですが、あの頭のよさ故に、ただの子どもではいられないベラお嬢様は、出来るうることをなさるのでしょうね。凌駕するほどの天才児であるベラお嬢様は、視点も、思考も、異なるのでしょう」


 ジェラールの言葉に、ハッと我に返る。


 視点が違う。

 そうか。そうだよな。

 病気や怪我が、目視出来るなんて。聞いたことがない。


「お嬢様は物心がついた頃から、奇天烈な発想を口になさる方だと思っておりました。自分の経歴から能力が数値化する物が、空中に浮かび上がらないのか。という問いには、皆で首を傾げてしまいました」

「え? な、なんですか……それ」


 暗い話から切り替えるように、ジェラールは朗らかに笑って語った。


「呪文を唱えれば、自分の名前や年齢、そして魔法のレベルなど。それらが表記される薄い紙のような、光の文字が浮かび上がるとか」

「ど、どこから、そんな発想が?」

「さあ? 読み聞かせた絵本や童話には、そんなもの、ありませんでしたが。必死に説明しては、存在しない魔法だとわかると、かなりショックを受けた顔をなさっていましたね。愛らしい」

「(愛らしい、のか……?)」


 奇天烈すぎる発想が、ただの空想だと知って、ショックを受けた幼女の顔。

 理解不能な奇天烈な発想に戸惑いすぎて、ソードンは、愛らしいかなりショックを受けた幼女の顔を全然想像出来なかった。


「だから、お嬢様がどんな奇天烈なことを言い出しても、お覚悟を」

「そういう話でしたっけ!? これ以上なことあるんですか!?」


 もう十分奇天烈じゃないか!

 古代文明の本を読み漁るわ、擬態能力を持つ希少種のスライムを飼い鳴らすわ。

 まだ覚悟が必要なのか!


「あっ……。ベラお嬢様が、よく書いている、古代文明の文字とはまた違うように見える文字って……ベラお嬢様が考えた暗号か何かですか?」

「さあ? あれは、もう文字の練習を始めた頃には、書いてましたね。あの頃は、嬉々として読み方を教えてはくれましたが……今ではもう教えてくれないので、やはり、ベラお嬢様にしか読めないと言う意味では、暗号でしょうね」


 いや! 文字を覚え始めた頃には、書いていた暗号ってなんだ!?


 盛大にツッコミをしたいが、それもまたベラの奇天烈な、もとい、独特な発想から生まれたものなのだろうか。

 あれは母国語のようにスラスラと書いているところを見れば、きっと文字のはずだ。

 独自の文字を綴る少女。恐ろしい。

 天才すぎて恐ろしいな。


「…………かなりの量の紙に、ぎっしりと書いていますけど……もしかして、もう魔法学会に発表する論文があるんじゃ……」

「……」

「……」


 ベラの趣味の時間も護衛として見守っているソードンは、昨日から作業をしているところは見ていないが、普段からの作業量からして、あり得るのではと口にしてしまった。

 可愛い孫を語る優しい祖父のような表情だったジェラールが、顔付きを変える。正しくは、目付きをギラッと変えた。


「至急、ベラお嬢様に確認してきます!」

「えっ! ちょっ! やめっ」


 やめてくれっ! と止めようとしたが、老人とは思えない素早さで踵を返したジェラールは廊下を歩き去ってしまう。

 『風ブースト』の論文を書いたこと自体黙っていたベラが、素直に話すとは思えない。

 ソードンのせいで、ジェラールが根掘り葉掘り聞き出したとなれば、ベラが怒らないだろうか。


 そうだった。

 ベラが怒ったことがあるのか否かの話をしていたのだった。


 結局、ベラは子どもらしく、癇癪を起すような怒り方をしたことがない。

 だが、昼間のように、侮辱には侮辱を返すという、”怒った”というより”制裁をした”という行動を目にしたソードンは、口元を引きつらせるしかなかった。

 あわよくば、自分のせいで、ジェラールが問い詰めていることが、バレないことを願う。


 ベラは、ガードが堅い。

 伯爵家一行が来てから、作業部屋を封鎖するほど、手の内を晒すような行為はしないのだ。

 『風ブースト』は、きっと序の口。それがお試し感覚だと言うのだ。まだまだとっておきの手札を隠していることは大いにある。


「(……魔法といえば)」


 ふと、暗くなった外をアーチ形の窓ガラス越しに見た。

 今日も、彼らが来る予感がして、めんどくさいと頭の後ろをガシガシと掻く。



 使用人寮に用意された自分の分の夕食を済ませて、寝支度をせずに時間まで待っていれば、予想通り。

 窓からスルリと黒い物体が侵入しては、黒猫の姿で床に降り立つ。


「またなのか?」


 佇む黒猫の姿をしたスライムは、鳴きはしないものの、頷く。

 ベラほど意思の疎通は出来ないが、問いかけには、大抵応える。

 このスライムもまた、飼い主に似て、賢すぎて異常だ。

 むしろ似ているから、同族意識で懐いていたのではないか。と、バカな推測をしながらも、重たい腰を上げた。


 屋敷の塀を、風の魔法で軽く身体を押し上げてから飛び越える。

 その先に、魔法の特訓をするために来たルジュとレフとミリーがいた。


「また来たのか、お前さん達。お嬢様は、客人の相手で来れないって言っただろ」

「「ええー!」」


 キジを抱えたレフと、ミケを抱えたミリーに、ブーイングをされても、面倒で顔をしかめるしかない。


「今日は、こじいんにも、来なかったぁ」


 ぷくーっとふくれっ面をするミリーは、目をウルウルさせた。ランタンの灯りが反射しているので、よく見える。


「だから、そう言ったじゃないか」


 年相応にむくれるミリーに、ソードンはしゃがんで言い聞かせた。

 ドルドミル伯爵家一行が滞在している間、ベラは孤児院の訪問を控えると、伝えている。

 エリート思考のあの傲慢な前男爵夫人を連れて、孤児院には行きたくなかったのだろう。

 昨日の時点で、侮辱の視線を感じて、あの老害の本質を見抜いたから。


「……そーいやぁ。ルジュ」


 今夜もベラに会えないとわかっても、帰る素振りを見せないルジュに、ソードンは顔を向けた。


「お前さんが一番、この中だと、お嬢様と付き合いが長いんだろ?」

「そうだけど……?」


 あまり愛想のいいとは言えないルジュは、怪訝そうに首を傾げる。


「多分、同い年で、気付いた時にはもう、ベラは友だちだったけど……それが?」


 おお。絶好の存在だ!

 同い年で、出会いすらも思い出せないほどに、幼い頃からの付き合いの長さの一番の幼馴染。


「お嬢様と喧嘩、したことあるか? もしくは、怒ったところ、見たことあるか?」


 ジェラール達よりも、ルジュ達の方が、ベラの魔法の実力を知っている。

 だから、もっと、子どもらしい面も、見ているかもしれない。


 期待を込めて尋ねると、わからないと顔をしかめたルジュ。


 隣で首を捻るミリーも。


「ベラおねえちゃん。悪い子には、たくさん、めっ! って言うよ?」


 と、叱る姿をよく見ると答えた。

 違う。そうじゃない。

 確かに、リーダーのような存在であるベラなら、叱りつけている姿が浮かぶ。

 大人が子どもを諭すように、叱る光景がしっかりと。

 だから、違う。そうじゃない。


「そうじゃなくてな。おもちゃの取り合いだとか、悪口の言い合いだとか…………お前さん、したことないのか? ベラお嬢様と」

「………………ない」


 困惑する程に考え込んだが、ルジュはベラと子どもらしい喧嘩をした覚えがないと答えた。

 ガクリと頭を垂らすソードンは、引きつった笑みで苦笑を零す。

 あのベラと、この不愛想で物大人しいルジュでは、子ども同士のじゃれた喧嘩をするわけがなかった。

 逆に、どうやったら、この二人は、ポコスカと殴り合いの喧嘩をするというのだろうか。もちろん、殴り合いとは言い難い、子どもの硬くない拳の軽いぶつけ合いのことなのだが。


 やはり、結論としては、ベラは癇癪を起したことはないのだろう。

 子どもらしく、怒ったことはない。それが答えなのだ。


「じゃ、じゃあ……ベラお嬢様の魔法。一番、強い魔法を使ったところ、見たことあるか?」


 ベラの魔法の実力は、一体どこまで把握しているのか。

 質問を切り替えて、ソードンは三人に問う。


 三人は揃って首を傾げては、思い出そうと考え込む仕草をする。


「……スライム狩りの時の攻撃魔法?」

「ミリーも!」

「うん。多分、あの時が一番強い魔法だったと思う」


 レフが同意を求めるように顔を向ければ、ミリーもルジュも、頷いた。


「は? あれが? ここで魔法特訓してるのに、アレしか見たことないのか!?」


 スライム狩りの際、ハクと戦った時に使っていた魔法攻撃に比べれば、ソードンを脅してきた雷魔法は凶器だ。小山を爆破した火魔法と比べると、天と地ではないか。


「こんなところで、夜、派手な魔法を使わない」


 何を言ってんだ、と言わんばかりの仏頂面で、ルジュが言い放つ。

 確かに、気付かれないように派手な魔法は使わずに、夜の魔法特訓をしていたのだろう。

 それは理解出来るのだが……。


 ルジュ達ですら、ベラの本気の魔法を知らない。

 あの爆破の魔法が、最大限の威力が強い魔法だったのだろうか。


「(……アレを人に向けたら、恐ろしいよな……)」


 通常の大人ですら、火力全開の魔法攻撃の一発では、死なない。

 だが、ベラの全力投球の一発では、人体が丸焦げになったり、部分破損しかねないのではないか。

 恐ろしすぎる想像をしてしまったソードンは、青い顔で身震いした。


 その分、今日の昼の侮辱には侮辱で返して、制裁を下して排除をしたやり方は、かなりの理性的な怒りの示し方。

 真剣を持っていても、あくまで護身用ではあるが、むやみやたら、剣先を向けない。

 剣術を教えている身としても、怒り狂って、剣を振り回さないことに安堵したいところだ。


 万が一にも、ベラが激怒して、自分の武器とも呼べる力を振り回したら?


 いやいや、恐ろしい。死人が出るじゃないか。冗談抜きで。

 ヒクヒクッと、口元を引きつらせたソードンは、きっとそんなことは起きることはないだろうと、首を横に振った。



 ベラほどの”聡明で優しいお嬢様”が、激怒するようなことなど――――起きるはずがないだろう。



 



フラグ。


いいね、ありがとうございます!

2024/03/09◇

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