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陽だまりの陽炎。~ちょっと幸福な異世界転生魔法エンジョイライフを目指す~  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
序章・転生少女の手抜きの魔法エンジョイスローライフ

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27 好きすぎるのは可愛いけれど君達も好きすぎか。



 薄々、予想は出来ていたけれども。


「添い寝しましょ! ベラ!」

「……はい、叔母様」


 叔母様。一緒に寝る気満々だった。



 夜の魔法訓練も、お休みね。

 仕方ないので、承諾。変に断れないもの。


 エドーズに飼っているスライムを見せるついでに、ハクに伝言を頼んだ。


「どうして、そのスライムだけは、猫のままなの?」


 擬態能力も持つ希少種のスライムのキジ達を観察していたエドーズが、私が抱えた黒猫姿のハクに目を留めていた。


 ハクは、しれっとしている。なんか、つれない態度だ。


 まぁ、白いスライムということは、知られない方がいいだろう。


 家庭教師がスライム飼育小屋について来なかったから、擬態能力を持つ知能の高いスライムということを、エドーズだけに話しておいた。


 猫の姿でだらけていたキジやミケとタマは、スライムの姿を見せたが、ハクはそのまま。


「さぁ? 機嫌が悪いのかな」


 私もそうだしね。飼い主に似たかな。


 ちなみに、飼育小屋は、扉付き犬小屋風。四つ並んでいる。

 気に入らなかったのか、その前に暇そうに、地面にだらけているキジ達。


「すごい従順なんだね。何か新しいことでもわかった?」

「んー。秘密」

「むぅ、意地悪。僕が資料を送ったのに」

「研究成果を見せるという約束はしてないもの」

「そうだけど……」


 かわしたことに、不満げにややむくれるエドーズ。


 私は右手首のブレスレットを、一瞥したけれども、この擬態能力の道具も話す気はない。

 そういえば、名前決めてないな。コレ。つけないと。


「そんなことより、あの家庭教師の先生方とは、仲はいいの?」

「え? ああ、うん。今年から住み込みで教えてもらっているから、それなりに」

「そうなんだね」


 話を逸らしてみれば、エドーズは不思議そうに首を傾げた。


 エドーズは、家庭教師陣と問題はないらしい。

 まぁ、本来の生徒だし、伯爵家の跡取り息子だ。将来有望で、エリート学校入学のために励んでいる優等生。

 エドーズ自身に、問題はない。


「でも、前ハリー男爵夫人は、なんだか厳しそう」


 ハクの顎をコショコショしながら、呟くように言っておく。


 あの教師……一番面倒そう。


「あはは、確かにちょっと厳しいところはあるかな。マナーとか」

「マナーに厳しいのね」


 笑って答えたエドーズから、視線をずらして、ソードンさんを見る。


 ”なんでオレを見るんだ”って顔をしているけれど、マナーに厳しいのだから、要注意だろうに。

 ジェラールとカリーナに並び、火を噴く勢いで叱られかねない相手だ。


 つんつん、と鼻を手に押し付けてくるハクが、私の気を引く。

 じっと、黄緑色の瞳で見上げてくるハク。


 なんだろう。警戒してくれるってことかな。

 頬を撫でて頷いて見せれば、ハクも深く頷いた。


 すぐにキジ達も、猫の姿に変身をすると、ビシッと背筋を伸ばす。

 尻尾をフリフリしながら、キジ達は屋敷の方へ歩き去っていく。


 ハクが、何かを指示したらしい。


 カリーナに屋敷内をウロつくなって言われているけれど、大丈夫だろうか。

 まぁ、もう言っておいているから、キジ達もわかっているだろう。見付からないようにしてくれるはず。


 いい子いい子、とハクの頭を、人差し指でこすって撫でてやった。



 夕食後、叔母と過ごすことは、わりと充実している。

 明後日やってくるデザイナーへの要望をまとめようとしているけれど、別にお洒落に興味がないわけではないので、あれこれとカリーナ達女使用人も混ざって、話し合った。


 添い寝というか、抱き枕にされる。

「ベラと添い寝が恋しくて堪らなかったのよ~」と、言うんだけれど、つまりは、抱き枕の私が安眠に効果的だから、一緒に寝るのか。わかった。わかった。


 …………え?


 窓を見れば、黒猫姿のハク。

 なんか、ショック受けたような顔をしているように見える。


 え、あ、う、うん。……ごめん?


 そういえば、毎日私とベッドで一緒に寝てたね、ハクは。

 キジとミケとタマは、床で毛布を敷いて寝ていた。上下関係の表れかな。


 ごめんよ、ハク。

 叔母が寝ないと、ハクが入ってきたことが、カリーナにバレちゃうから。

 スライム立ち入り禁止中だよ。

 バツ、と人差し指で、示す。


 耳をペションと垂れ下げるハク。かなり沈んだ様子で、闇夜に消えていった。


 う、うん……なんか、ごめん?



 翌朝の稽古で、昨夜のハクの用件がわかった。


 いつものように魔法練習に来たルジュ達が呼び出せと騒いだらしく、私に伝えられなかったために、代わりに使用人寮に引っ越してきたソードンさんの部屋に突撃したらしい。


「迷惑だったぜ」とやれやれと、首を振るソードンさん。

 ハクを使って呼び出されたソードンさんから、ちゃんと事情を話したが、ルジュ達のエドーズへの不満がありありに膨れ上がらせたのが見えたとか。


 ……簡単に、目に浮かぶ。

 ルジュの露骨に嫌そうな表情が、ありありと……。


「ベラ、おはよう」

「エドーズお兄様? おはよう。どうしたの?」

「僕も、稽古しようと思ってね。ベラが剣の稽古をしているのに、僕だけ寝ているわけにはいかないよ」


 あはは、と笑うエドーズは、木剣を持って来た。


「ジェラール……と、え? ルジュ達?」


 こちらに歩いてきたジェラールの後ろから、ルジュとレフとミリーが見える。

 彼らも、木剣を持っていた。


「え? なんで、エドーズさまもいるの……?」


 みんなの妹分ミリーが、嫌そうに、げんなり顔をする。


 少しからず、痛みを覚えたのか、胸をさするエドーズだった。


「いや、君達の方が、なんで……」

「「……」」

「いや、何故?」


 ”お前のせいだけど”と、顔にデカデカと書いたルジュとレフを見て、ツッコミを入れるエドーズ。


 夜の魔法特訓がないから、朝の剣の稽古に割り込んできたのかな……。


 悪いことに、そこにもエドーズがいた。


 ずもももっ。

 という効果音を響かせそうな険悪ムード。


「わっ! キジ!」

「ミケ~! おはよう!」


 レフとミリーの胸に、猫の姿のキジとミケが飛び込んだ。


「え? 懐いてるんだね?」

「あー、うん。なんというか……まぁ、相性がいいから、固定したペアだよ」

「へぇ……ハクが、ベラのペアだよね? だから、タマ、だっけ? タマは、ルジュのペア? 懐いてないの?」


 懐いていることに間違いないけれど、私が決めたペアである。

 レフにキジ、ミリーにミケ、ルジュにタマ。私はもちろん、ハクだ。


 魔法訓練のいいペアだもの。


 エドーズが、嫌われてるのかと、ルジュを笑おうとした。


 ルジュの手前でお座りしたタマは、ルジュと静かに目を合わせている。


「ルジュとタマも、いいコンビよ。むしろ、すごい息が合いすぎ」

「……そうなんだ」


 ……露骨に残念がるな。従兄よ。年上でしょ、大人げない。


「キジとミケは、まぁ、人懐っこいね」

「人懐っこい……?」


 顎に手を添えて首を傾げるエドーズ。


 ……疑いの目を向けないでほしいな。エドーズには、まだ近付いてないけれども。

 うん……多分懐かないかもしれない。エドーズには。


「この前、呼び間違えたら、拗ねちゃうくらいには、繊細な子達」

「えっ? そんなに繊細なの? というか、わかるの?」

「うん……物凄く傷ついてた」

「きずついてた……」


 うっかり。本当にうっかり。

 キジとミケを呼び間違えたら、溶けるかと思うほどにスライムボディーで伸びていた。


 キジ、ミケ、タマは、同じ水色のスライムボディーで、見分けがつかない。魔力量だと、タマの方が多い程度。そういう差しかないけれど、不思議と私は区別がつく。

 なので、本当に、うっかり、なのである。

 言い間違いみたいなものだ。


 それでも傷付いたようなので、ちゃんと謝った。


「タマは、冷静沈着。ちょっと一人行動が好きかな」

「へぇ? 流石、研究してるだけあって、性格ってやつを把握しているんだね。じゃあ、ハクは? タマと同じく、冷静沈着でつれない?」


 研究とかではなく、普通にペットとして一緒に過ごしていて、わかっただけである。


「んー? ハクは……」


 足元のハクは、お座りすると、なんと言われるのかと、期待の眼差しで見上げてきた。


「とても頭がいいね。機転が利いて、臨機応変に、統率する力がすごいの」


 希少種のスライムの群れのリーダーだったものね。


「それから……可愛い」

「え? 猫の姿が?」

「いや、姿じゃなくても、性格が可愛い」

「え? ど、どこが?」

「んー……私が好きすぎて、可愛い?」

「「「”私が好きすぎて可愛い”!?」」」


 ……なんで、目の色変わったの? エドーズ、ルジュ、レフ。


 抱え上げたハクを、私と交互に見る。

 ハクはキリッと目付きを鋭くすると、背伸びをして、すりすりーと頬擦りしてきた。


 そういえば、昨夜、ショックを受けた顔をしていたっけ。

 ご機嫌取りしてなかったや。


 ちゅっと、頭の上にキスをして、背中を撫でてあげた。


「「「……ッ!!」」」


 ……なんで、衝撃を受けているの? エドーズ、ルジュ、レフ。


「オォーゴッホンゴッホンッ!!!」


 そこで下手すぎる咳払いを大声で響かせたのは、ソードンさん。


「稽古を始めましょう!? お嬢様!!」


 ……忘れかけてた、ごめん。


 毎朝の剣術の稽古。

 ソードンさんと木剣の打ち合い。


 ……を、しようとしたのだが、よくよく考えたら、元神童のソードンさんも私のことを天才だと言ったので、そんなソードンさんとの普段通りの打ち合いなんて見せられないな?


「ルジュ達がせっかく来てるから、彼らと打ち合いますね」

「!!」


 ショックを受けた顔をしないでほしい、ソードンさん……。


 ほら。大人の打ち合いの相手がいますよ。ほれほれ。

 ということで、子どもは子ども同士で、打ち合った。



 そんな様子を、叔母がカリーナやハリー夫人と見ていた。

 叔母は微笑ましそうに眺めている様子だったけれど、ハリー夫人は何か言いたげに眉をひそめている様子。


 まぁ。カリーナと同じく、騎士を目指してもいないのに、剣術を磨くことが理解出来ないのかも。

 別に、剣術は、騎士だけのものじゃないのにね。


 ピアノを習えば、ピアニストになれ、と言うのか。

 なんて、バカ正直に口にしちゃえば、頭ごなしの説教をされる光景が目に浮かぶ。


 ピアノ演奏と剣術は違うとか、屁理屈を並べ立てることを聞くよりは、黙っていた方がいい。


 ハリー夫人に、とやかく言われる筋合いは、ないしね。



 なんて。高をくくっていた。



 稽古を終えれば、ルジュ達を帰らせて、朝食。


 そして、勉強の時間。


 私の家なのに、私がエドーズの授業に割って入る形。

 ……おかしいね?

 とか思っていたら、エドーズのおさらいがてらと称して、私に合わせた授業が開始された。

 うん……おかしいね?


 エドーズをエリート中学校に入学させるための家庭教師なのに。

 でも、私がおさらいの授業を足を引っ張ることなく理解するから、普通にテンポよく進んでいく。


「そういえば、ベラお嬢様は、古代文明の本をいくつもお持ちだとか」

「ええ、まぁ、はい。我が家の地下に保管されていたのを発見したのです」

「どんな類の本か、おわかりで?」

「大まかに予想は出来ています」


 ふと、ウズウズした様子のダヒさんに尋ねられた。

 だが、見せる気はないと、素っ気ない態度で応える。


 ぶっちゃけ、昨日から作業部屋に入れていない。

 鍵をきっちりと閉めて、封鎖中。


 ドルドミル伯爵家に仕える者が盗みなんて働くわけがないけれど、古代文明の本は高値で売れることもある。


 何より、私があれこれと考えを書き散らしたメモも挟んであり、魔法に関しての資料を山ほど。

 重要なのは、覚えていることをいいことに、日本語でメモしているけれども。

 あれを見られると、そこが研究室とわかる人にはわかってしまうだろうから、信用していないこの人達に立ち入らせる気は毛頭ない。


「古代文明の本の解読や、新しい魔法の研究発表の助手や、魔物の研究……さらには、小説の原案提供。マラヴィータ子爵令嬢は、幅広く手を広げすぎて、中途半端になってしまわれないか、心配ですわ」


 そう口を開いたのは、ハリー夫人。


「中途半端、ですか?」

「はい。まぁ、ですが……好奇心旺盛なのは、いいことなのかもしれませんね」

「……」


 トゲを感じる言葉に、私は笑みを作るだけにしておいた。


 サラッと嫌味に聞こえない程度に、言ってきたわ、この人。

 しかも、趣味の方か。とやかく言われたくないわ〜。


 早く二週間終われ!

 と、念じたけれど、よくよく考えると、その趣味であっという間に時間が過ぎていたのに、それを抜きにして時間を過ごすとなると…………。


 絶対二週間が長くなる感じるヤツ!

 と、気付いてしまった。


 とほほ……。

 どうにかしたいなぁ。



 昼食時。

 私と父と叔母とエドーズの四人で食べていると、そっとダイニングルームの扉を開いて、廊下に待機していたソードンさんが、黒猫のハクを抱えている姿を見せた。


 屋敷内に入らないと決めたはずのハクが、姿を見せている。

 ハクが目で何かを訴えているから、何かを知らせに来たと、勘付く。


「少し、失礼」


 そう一言残して、ダイニングルームを出る。


 早足で廊下を進むが、幸い誰もいなかったので、『風ブースト』の強力版で、階段を使うことなく、二階へと文字通り、飛んだ。


「んな!?」と、声を上げて驚くソードンさんを置き去りに、素早く駆け上がったハクと、自室の前に向かう。


「おやめなさいっ! シッ!」


 私の自室の隣。鍵をかけた作業部屋の前には、前ハリー男爵夫人がいた。

 足元には、白い猫の姿のタマ。

 振り上げられた猫の手を、ハリー夫人は避ける。


「こんなところで、何をなさっているのでしょうか? ハリー夫人」

「っ……マラヴィータ子爵令嬢……」


 少し顔色を悪くするハリー夫人を、私は貴族令嬢らしく、柔らかく微笑んで見上げた。



 


主人が好きすぎて可愛いスライム達。


2023/10/08

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