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陽だまりの陽炎。~ちょっと幸福な異世界転生魔法エンジョイライフを目指す~  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
序章・転生少女の手抜きの魔法エンジョイスローライフ

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26 予定二週間滞在の面倒で忙しくなりそう。



 予定は、二週間の滞在。

 その間、遅れてデザイナーがやってくるそうで、来年の社交シーズンのドレスをこの機会に決めておこう、とのことだ。


 忙しくなりそうだな……。


 すでに来年の社交シーズンに行く約束をしているので、父も追い出せず、やや強張った笑みで滞在の承諾をするしかなかった。


 さらには、秀才ばかりが入学する超エリート学校に、入学するために勉強に励み始めたエドーズが、家庭教師を連れてきたため、ついでに授業を受けたらどうかと提案される。


 ようやく来たな。

 いつか教師を連れてくると思っていたが、こんな形とは……。

 ジェラールが”いい教師を差し向けてくれるはず”と、ずっと期待していたけれど……。

 エドーズに引っ付かせる形とは…………。よほど、この田舎に差し向けられるのは、嫌だったのかな。


 忙しくなりそうだなぁ……。

 …………めんどい。



 午前中の勉強の時間。

 エドーズの三人の教師を紹介された。

 三人とも、例の超エリート学校の卒業生らしい。


 ちなみに、小学校は存在するけれど、この世界では、大抵は自宅学習。常識や義務教育は、家庭で学ぶべきというのが、風習で根付いている。

 そして、例の超エリート学校は、言わば、中学校。

 11歳から14歳まで。王都内で高等教育を受けることが出来て、卒業した功績は、秀才の証。

 貴族ならば誰しも通う王国一の王立学園へ入学も、箔がつくとのことだ。


 一人目は、国語担当のマランさん。柔和な笑みの三十代の男性。

 二人目は、歴史担当のダヒさん。眼鏡の四十代男性。

 三人目は、算数と社会担当の前ハリー男爵夫人。吊り目の四十代の女性。



 打ち合わせ済みらしく、私にはテストを渡されて、早速実力を試された。


 ……年相応の貴族令嬢の実力を知らない私は、ジェラールの熱い視線を受けながら、しぶしぶと解ける問題の答えを書いておく。


 私が学んでないない歴史やら社会やら、それ以外なら、まぁまぁ答えられた。


 答え合わせを済ませた三人は、難しそうな表情のあとに満足げに頷き合っていたのだが、一人の私を見る目は、些か厳しすぎるように思う。


 ……なんだ。あの人。



 何故か、エドーズの家庭教師の三人は、孤児院へついてくると言い出した。

 なので、馬車を用意。

 エドーズもそこに乗ればいいのに、私と馬の二人乗りを希望した。


 ソードンさんが必死に笑いを堪えてるせいで、変な顔をしているのが見える。


「私は護衛と乗るから、エドーズお兄様も護衛と乗って行きましょう」


 ちょうどいいので、キラキラーッと笑顔で提案。


 エドーズはしょぼんと沈んだ様子で、気の毒そうに見る護衛の男性と二人乗り。


「言動に注意してないと、ジェラールが雷を落としますよ」

「……機嫌、悪いですね。お嬢様」


 二人乗りするソードンさんに、忠告しておく。

 護衛として、きっちりした態度でないと、マラヴィータ子爵家の品質が疑われると、ジェラールに長々と説教されるだろう。


 エドーズの家庭教師は、厄介だ。

 二週間も貴族令嬢として、大人しくしないと。



 孤児院へ、到着。

 一応、元とはいえ男爵夫人もいるから、家庭教師達を院長に紹介しに行く。


「あー! エドーズさまだ! ホントに来た!」

「やぁ、ミリー達。久しぶり」


 廊下でミリー達と遭遇するなり、エドーズがスッと左手を握ってきた。


 ……何故。


「あれ? エドーズお兄様……お揃いだったのですか?」

「あ。気付いた? うん。お揃いだよ」


 パァーと輝かんばかりに笑顔を明るくするエドーズの右手首には、私の左手首につけたブレスレットと、全く同じ物があった。

 同じデザインの緑の魔法強化をもたらす魔石のブレスレット。


 なるほど。叔母が、あんなに満足げに口元を緩ませたわけだ。


 お揃いをつけている。

 そのことを見せ付けるために、手を握り締めて上げているエドーズは、まだ挨拶も交わしていないルジュと、バチバチと火花を散らせた。


 ルジュ。かなり激怒しているオーラを出しているせいで、ミリー達が身を引いている。


「あれ? もう一つのブレスレットは……風の魔石?」

「あ、うん。これもプレゼントにもらったの、レフって子に」


 ルジュの後ろに立って、この状況にひたすら困惑中の髪を束ねた少年なんだけど。


「レフ? 初めて聞く名前だけど」

「エドーズお兄様達が帰ったあとに、孤児院に来た子だから、新入りよ」

「え? 孤児院の子が、魔石をプレゼント?」

「あー、いえ。たまたま手に入っただけで」


 小山で採れるとは、言わないでおこう。

 情報漏洩、よくない。


「たまたま手に入った魔石を、お金に換えるわけでもなく、ベラにアクセサリーとしてプレゼント? どういう子なの?」


 ギラリ。幼いくせに、自分の恋敵だと、勘付いたエドーズの目が鋭くなった。


 いや、まぁ……高値になりえる魔石を、孤児が自分のお金にすることなく、プレゼントしたのなら、それ相応に”特別な気持ちがある”と疑うだろう。


 めんどくさそうなので、紹介したくない。


「オレが、レフですけど」


 なんと。レフ自ら、名乗り出た。


「……へぇ? 君が?」

「はい」


 同じくブレスレットをプレゼントしたせいもあるのか、対抗意識に火をつけたらしく、こちらも作り笑いのまま、バチバチと火花を散らす。


「歳はいくつかな?」から、エドーズのライバル調査が始まる。


 私はそっとエドーズの手から、自分の手を抜いて離れた。


「とてもおモテになって、流石ですねぇ。お嬢様」


 ソードンさんが、くつくつと喉で軽く笑って面白がる。


「身近なモテ期なんて、面倒極まりないですよ。愛憎で人間関係のトラブルだなんて、厄介なだけです」

「……お嬢様は、老けてないですか?」

「今の発言は、根に持っておきます」

「待って? 怖い。仕返しが怖い。ごめんなさい、許してください」


 毎日会っている幼馴染二人がたまに競い合うが、従兄まで参入し闘争心を焚き付けて、険悪を増させるなんて……地獄か。

 三つ巴って……まったく。

 リアル逆ハーの現実問題。面倒極まりない。


 ソードンさんへの仕返しは、後々考えておこう。


 バチバチな三人を放っておいて、院長と家庭教師達を挨拶させた。

 領地の学校開校について、彼らが質問を始めるので、止める。


「領地の学校開校については、まだ計画段階ですし、部外者にお話しすることではありませんわ」


 やんわりと、答える義務などないと、拒否の言葉を微笑んで告げた。


 ……また、厳しい眼差しを向けてくる人だな、あの人。


 あまり、この人達を孤児院に連れて行くべきじゃないのかも。


 所詮、エリートだ。エリート思考で、王都で教師をやっている人達に、本業というわけではないジェラールやローリーと関わらせるのは、ちょっと身近なモテ期の三つ巴より面倒そう。

 田舎と軽んじているのは、少なくとも、もう、一人はいる。


 どうしたものかな。

 開校する学校の教師筆頭のローリーの自信を失わせるわけにはいかない。エリートになじられては困る。

 でも、子ども達と遊んでいる間は、彼らも暇で、院長達と話すしかない。

 何か、気を引いていないとな……。


 しっかし……教師は教師でも、子ども好きで教師をやっている連中とは違うらしい。

 ミリー達とは、笑みを交わす程度で、話をして深く関わろうとしないのだ。孤児と下に見ているなら、早々に立ち去ってほしい。……なんで孤児院に来た、この人達。

 理由は私が母の慈善活動を引き継いで、学校を開校するから、それを知りたかったのだろう。


 なんだか、保守的な領地経営をしている父の気持ちがわかってきたわ。

 いや、私がマラヴィータ子爵家の人間らしさを、持ち合わせてきたのかも。


 もう帰ろうか。

 でも、子ども達が遊ぶことなく帰るなんて言っても、駄々をこねられるだろう。


 んーと。何か、ないかなぁ。


 そこで、バッチバチな火花を散らしながら、エドーズ達がやってきた。

 険悪な雰囲気に、ヒヤヒヤしているエドーズの護衛を見て、閃く。


 私の護衛であるソードンさんを見上げた。


「ソードンさん。ちょっと剣の腕前を試しません?」

「……はい?」


 にっこりと笑顔で、提案。


「私よりマシな手合わせ相手がいるのですから、この機会に、ぜひに」


 ソードンさんの了承の言葉をもらうことなく、エドーズに話しかけて、護衛同士のかっこいい手合わせを、子ども達に見せたいとお願いした。


「彼は、ソードン・アンバートさん。元騎士の経歴を持つ方で、今は私の護衛と剣術の指南役を務めてくれているの」

「さっきも剣術の稽古してたけれど……子爵様は、健康のためと言ってたね。必要だったの?」

「うん。まぁ、ちょっと、事情があって、ブランクを解消するため、も兼ねて、私の稽古をしてもらったの。それで、だめかな? かっこいい剣の手合わせを見れると、子ども達も喜ぶと思うんだけど」


 挫折と酒癖の悪さによるブランクは伏せておいて、あくまで子ども達を楽しませるための手合わせだと、ちょちょいと急かす。


 エドーズは自分の護衛と顔を合わせると、頷き合う。


「いいよ」

「ありがとう、エドーズお兄様」

「あー、でも……ただやるのは、面白くないな。どうせなら、勝負としよう。僕の護衛が勝ったら、そうだな……ベラは、僕をエドって呼んでほしいな」


 たった今思いついたみたいに、エドーズは要求を口に出す。


 そういえば、前回の滞在中もそれとなく言ってたなぁー。

 両親は”エド”と呼ぶんだ、と。

 でも、”呼んで”とは言う勇気はなかったので、今回は手合わせの勝負に乗じたか。


「いいよ。じゃあ……私も、何かお願いを呑んでほしいな。些細なお願いを一つ」

「うん? 何かな」

「お願いする時に言うよ。大丈夫、小さなお願いにしておくから」


 そちらがそうなら、私も乗っかっておこう。


 念のための手札として、”お願い一つ”を。

 まぁ、勝負がどう転ぶかわからないけど。


「そういうことで」と、ルジュ達に、子ども達を集めてもらうことに。


「……オレは、勝つべきだよな?」

「負ける気で勝負を挑むのですか? そんなに、お心が偏屈になっていたなんて……」

「なってないですが!? 勝つ! 勝ってやりますよ!」


 こそっと、ソードンさんが私に確認するから、憐みの眼差しを向けてみれば、クワッと否定して拳を固めた。


 相手が、伯爵家の長男につけられた護衛ということもあって、引け腰気味になっていたのだろう。

 昔は才能をひけらかした神童だったのだから、実力を出すだけでいいじゃないか。

 私と稽古をして、肩慣らしをしてきた成果を試すだけ。


 ついでだ。客観的に、もう一度、ソードンさんの強さも、目にしておこう。


 木剣を用意させて、孤児院の前庭で護衛二人の手合わせ勝負を行うことになった。



 ミリーに呼ばせて、ローリーと密かに話す。


 ちょっかいをかけられたくないので、エドーズの家庭教師が帰るまで、来ることを控える。

 探られても、学校開校計画については、話さないでほしいと頼んだ。

 それだけを手短に。



 ソードンさんと、エドーズの護衛は、互いに様子見の打ち合いをしていた。


 徐々に力を入れていき、スピードを上げていき、そして、相手を押しに行く。

 すぐに押していったのは、ソードンさんだ。

 交わった木剣を押し返し、倒した。


 パチパチッと、ミリー達の拍手喝采。


「ソードンおじさん、すごい!! ソードンおじさんなのに!」

「意外とかっこいい!」

「勝つなんてすごい!! ビックリ!」

「……なんかビミョーにイラッとすんだが……」


 純粋な称賛ではないとわかり、ソードンさんはヒクリッと口元を痙攣させた。


 それはソードンさんが、今まで飲んでくれていたダメ人間っぷりを知られていたせいだ。

 自業自得なのである。どんまい。


 でも、しっかり護衛として鍛え続けていた本業相手に、勝った実力は素晴らしいと評価出来ると、私も拍手。

 少しはソードンさんの自信も戻っただろうし、子ども達にも正当な評価を受けるのも、いいことだろう。


「強いね……すごい。でも、負けは負けだね。ベラのお願い事は?」

「ん? またあとで。お願いするよ」

「? そう?」

「うん。もう帰りましょうか」

「えっ? なんで? 遊んでないけど」

「ちょっと疲れちゃったわ。ごめんね、みんな」


 ブーイングの嵐だけれど、申し訳ないと弱く笑いかけると、ミリー達は不貞腐れた顔ながらも、引き下がってくれた。

 ローリーと目配せをして、小さく頷く。


 あとで、ルジュ達に手紙でも送ろうか。


 仮病を使ったので、私はエドーズのエスコートで馬車へと乗った。


 馬車の中には、私とエドーズと、それから、前ハリー男爵夫人とダヒさん。


「ウィリー・エンダースさんの『風ブースト』の論文について、ぜひともお話を伺いたいのですが」

「申し訳ございません、夫人。ウィリーさんはお年を召しております故、調子に波がありますので、先に伺わないといけません」

「まぁ……それはそれは」


 前ハリー男爵夫人に、にこりと笑顔で対応する。

 濁した言葉に、ダヒさんとともに深く掘り下げることを避けてくれたようだが、少し眉をひそめた表情が、いただけない。


 本当に、面倒だな。


 すでに、ウィリーさんには手紙を手配済み。

 バートンさんにも、私の原案で執筆中だという事実は秘密だという旨も、送っておいた。


 面倒事を避けるために、古代文明の本や希少種のスライムも、隠さないとなぁ。


 ……面倒で忙しい二週間になりそうだ。



 

(2023/09/25)

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