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陽だまりの陽炎。~ちょっと幸福な異世界転生魔法エンジョイライフを目指す~  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫
序章・転生少女の手抜きの魔法エンジョイスローライフ

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22 元神童は返り咲くために護衛兼指南役に。



 観念したソードンさんは、自分のことを語った。


 剣を持ち始めた頃から、天才ともてはやされていたという。

 剣の才能を発揮し、平民の家でそれなりの教育を受けさせてもらい、騎士へと駆け上がった。

 所属先は、王都保安騎士団。

 王都内の治安を守るために、剣を振るう騎士というわけだ。


 そんな騎士の中でも、才能を振るい、地位を上げようとしていたが。

 徐々に剣の腕前が下がっていくことを感じてきて、騎士の家系の出である周囲の騎士達には、実力だけで認めさせていたため、弱くなれば見下されるようになってきた。


 結局、騎士仲間の風当たりの悪さと、思うように剣を振るえない苛立ちや不満が募りに募って、お酒に溺れるようになって、エリート思考の騎士達とひと悶着を起こして、クビになってしまったということだ。


 剣の神童が、ヤケ酒に走ったダメ大人になった経緯が、それか。


「なるほどねぇ……」


 『万能眼(ヴィアイン)』を見るからして、実力が下がった原因は、右肩の怪我。

 私にわかるのは、肩の奥に怪我らしき赤いモヤがあるから、知らずに痛めて、己の本来の実力が発揮出来ずに、苛立ちや不満が募っていたか。


「医者には、診せなかったのですか?」

「は? なんで?」

「身体に異変は感じていない? 腕が上がりにくいとか、振りにくいとか、そういう違和感はなかったのですか?」

「……まぁ、少しは……」


 右の肩を、ソードンさんは押さえた。

 自覚はあるが、とても小さいのか。


「医者じゃないから、正しいことは言えないけれど、もっと前から身体に支障があったのだと思います。自覚が少ないのは、最初から”()()()()()()”という認識が根付いているのではないですか?」

「……な、なんなんだ……。見抜いた上で、頭のよさで答えを見付けようとするんだな……」

「見抜いても、知識で答えを見付けても……残念ながら、解決策を出して治す術なんて持ってないけれどね」

「?」

「母の魔力欠乏症を見抜いても、あなたの身体の不調を見抜いても、私は治療法を見抜けなくて助けられなかった」

「!」


 自嘲気味に笑っては、肩を竦めた。


 ソードンさんは、気まずげにたじろぐ。

 ルジュとミリーは、視線を落として俯いた。

 レフは、気遣いの眼差しを向けてくる。


「才能があろうがなかろうが、やれることはやる。いや、やりたいことをやるだけのこと。魔法を極めたいから特訓してるし、研究解読してるし、他にも興味あることをやり尽くすだけです。ルジュ達に魔法を教えて一緒に練習してるように、ソードンさんもどうですか?」


 私の提案に、ソードンさんが首を傾げた。


「ご自身が理想の実力を振るえないのなら、教え子を理想の強さに育てることを始めてみてはどうでしょうか?」

「……つまり、教えろ、と? オレの剣術を」


 呆れ顔のソードンさんは、私が剣の指南を要求していると思っている。


「いや、ソードンさんに教える才能があるかどうか、試してみたらどうかと思いまして。教えてもらえると、私も今後、魔物の研究のためにも、身を守る戦闘能力を高められるとなれば、助かるんです」

「……」


 趣味の魔物研究を続ければ、危険な戦いもあるだろうから、戦闘能力は高い方がいい。

 その点、天才として剣を振るってきた経験を活かして、ソードンさんが剣術を学ばせてくれたら、都合がいいだろう。


「護衛兼指南役を務めてくれるなら、それ相応の報酬を受け取りながら、”()()()()()()”を稼いだらどうですか?」

「聖女の治療費だと!?」

「聖女じゃなくても、肩の不調を取り除ける治療を受けてみたらいいかと」


 つんつん、と私は自分の右肩を指差した。


 ソードンさんは、自分の右肩を押さえる。


「聖女の魔法で……治ると!?」

「確かなことは言えませんが、怪我の分類にあるはずです。聖女の魔法、聖魔法ならば、体内の骨粉砕や内臓破裂までも治すと聞きました。治る可能性は、高いかと」


 治癒魔法があるけれど、その上位に、究極の治癒魔法とも言える聖魔法があり、それを扱える女性に『聖女』の称号と役目が与えられるのだ。

 治癒魔法は、外傷の治療。また、解毒も術者によっては、使用可能。

 ちなみに、我が領土には、治癒魔法の持ち主はいない。


 私の目の『万能眼(ヴィアイン)』では、ソードンさんの右肩に赤いモヤが宿っているから、怪我の分類。病気とは違うのだから、治癒系魔法で治療が可能なはず。


「…………庶民じゃあ、聖女の聖魔法なんて、高値すぎる」

「そうですね。稼がないと」


 険しい顔で考え込むソードンさんに、私は適当に相槌をした。


 聖女の治療を受けるには、神殿に多額の寄付が必要。

 聖魔法は、それほどにも、希少価値が高いとみなされている。


「……それに、今更だ……」

「”今更”? おかしなことを言うんですね」


 私は膝を組んで、嘲笑う。


「未だに剣を持っているのは、未練があるのでは?」

「!」

「本来の実力が発揮出来ることになったのなら、今更だろうが、それをひけらかせばいいじゃないですか。かつての同僚の騎士団に決闘でも申し込んで、全員を敗北させたりね」


 それはそれで面白そうだと、ケラケラと笑ってしまいそうだ。

 ざまあをするチャンスを掴むがどうか。

 ソードンさんの選択肢次第だろう。


「本領発揮出来るようにする治療費を稼ぎ、護衛と指南役で再起のための肩慣らしにもいいかと」

「……お前さん。どうして、そう提案してくれるんだ?」

「私にも利があるからですし……まぁ、そうですね。領民のためということで……慈善活動の一環?」

「どんな慈善活動だ」


 適当な答えを言ったら、ソードンさんにツッコミを入れられては、呆れ果てたようにため息を吐いた。



「…………本当に、もったいない逸材だと思うんだがな」



 と、ガシガシと頭を掻きながら、私を見てぼやく。


 まだ、王都に行くべきだという意見が推したいのかな。

 まぁ、私は私の選択で、ここにいるんだ。好きなところで、好きに才能を活かすまで。


「……考えさせてもらうぜ、お嬢様」

「ええ。今後の人生の選択、まどろみに溺れて酩酊し続けるか、剣の天才に返り咲くか、熟考なさってください」


 どっちがいいかなんて、明白な二択だ。

 熟考よりも、固める覚悟が必要なだけ。

 酒に溺れる悪癖を治せば、再起となるだろう。


「…………お前さん、本当に子どもか?」

「失礼ですね、ホント。見ての通りですよ」

「見てて子どもかどうか疑わしいんだが」


 また異常なものを見ている目を向けるソードンさん。


 見た目は子どもなのに。

 ……そういえば、前世からの合計年齢を考えると、ソードンさんは大体同い年では……?


 そんなソードンさんが、同意を求めるかのように、ルジュ達に視線を送る。


「……ベラはベラだから」

「そんな漠然な枠の中に入れて納得してんのか!?」


 ルジュは、淡々と答えた。


 私は私。

 私という人間だからこそ、子どもとかそうじゃないとか、そういう枠には当てはめていない。


「ベラおねえちゃんは、ベラおねえちゃん。特別! そうめいで優しいお嬢様! ねっ? ミケ!」


 ミリーがドヤッと言い切ると、抱えていたミケもビンッと背伸びした。


「うん、まぁ……オレも付き合いの日が浅いけど、ベラがすごいのは常日頃思ってますよ。でも、異常とかじゃなくて……正しくは、超天才では?」

「その真顔、真剣に思ってるんだな!?」


 ドーンと言い放つ真顔なレフもまた、そんな認識をしていたのか。


 賑やかだなぁ、まったくもう。




 父とジェラールにもかけ合わせたので、ソードンさんを正式の護衛兼指南役として雇うことになった。


 ソードンさんには日頃の生活習慣と態度が見直されるという課題が強いられたが、治療費を稼ぐためにも、再起のためにも、変わることを覚悟したソードンさんは、泣く泣くお酒を控えることを誓う。


 本当に、泣く泣くだった。

 最初は、完全に断つことを言い渡されたのだけれど、夜になって私に泣きついて、譲歩して欲しいと頼み込んだ。

 よって、”飲酒を控えめにするということ”に変更してくれるように、交渉してあげた。

 お酒の量の少なさに嘆きながらも、ソードンさんは、泣く泣く受け入れたのである。


 ダメ人間っぷりに、ミリーまでも、残念なものをも見るような憐れみの視線を注いでいた。

 多分、ハク達もそんな感じで見ていたと思う。……そんな気がする。



 剣術を学ぶことに、カリーナはいい顔をしなかった。

 騎士を目指すわけでもない令嬢が剣を振るうことに、不満げだ。


 でも、魔物研究を趣味に加えたから、いずれは必要になると、父とともに納得させた。

 適度ならば、健康にもいい。

 という理由も、推したので、毎朝、稽古を行った。


 最初は、しんどそうだった。

 ……ソードンさんが。

 そんなに朝早くないだろうに、と呆れて思いつつも、早起きでげっそりしたソードンさんと準備運動しては、手合わせした。


 木剣の打ち合い。


 打ち合いもまた、まるで、準備運動。いや、ソードンさんが実力を取り戻すためなのだから、準備運動なのだろう。

 剣を振って、資本となる動きを身に着ける。

 そうやって、毎日の積み重ねを続けていく。


 私の新しい習慣に過ぎない。


 朝起きたら、剣術の稽古のために準備運動をして手合わせ。


 父と朝食をとり、食後の紅茶を啜って、少しまったり。

 猫の姿で過ごすハク達には全然懐いてもらっていない父は、毎日そっぽを向かれて傷心していたりする。


 午前中は、貴族令嬢としての作法などの勉強をしたり、ちょこっと勉強と研究。


 父と昼食を終えた午後は孤児院で遊んだり、領民と交流していく。

 陽が暮れる前に、マラヴィータ子爵邸に帰り、父と夕食。入浴。そして、頭の中の整理のために書き物。

 そして、寝ると見せかけて、ルジュ達と魔法練習。彼らにも、朝は木剣を振るう特訓をさせている。


 一時間未満で解散したら、寝室に戻って、ぐっすりと寝るという日常となった。



 

 

2023/08/02

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