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19 仲間にしてほしそうな可愛い顔の白いぷるぷる。


二話連続更新! 二話目。






 巨大な大型犬のような獣が来た。

 虎模様の毛にまみれ、はみ出た犬歯と、額には角。

 この周辺で、手ごわいとされる魔獣の姿だ。


 しかし、私の『万能眼(ヴィアイン)』には、半透明の魔獣の中にスライムが視えた。


 ……白い……スライム?


 スライムはスライムだけど、白い。真っ白なスライムだ。


 魔獣の姿をまとう白いスライムが、飛びかかってきた。


「避けろ!!」

「!」


 普通に、風の魔法『風ブースト』を使おうとしたけれど、その前に、ソードンさんが爪を剣で弾き、私を抱き締める形で守る。

 その際に、ソードンさんの肩に、赤いモヤが灯っていることに気付く。


「ソードンさん、怪我してます?」

「今まさにお前さんが怪我しそうになったが!? ボケっとすんな! 魔獣に食われたいのか!?」


 冷静な私に、キレ気味で声を上げるソードンさんは、剣を構えた。


 赤いモヤは、右肩の奥にある。

 動きに支障はないように見えるし、痛みを覚えているわけでもない。

 変なの、と首を傾げた。


「ああ、もうなんでだ! この沼地に、こんなデケー魔獣がいるとは聞いてねぇぞ! オレが相手するから、お前らは下手に動くな!」


 なんだかんだで、ちゃんと護衛を努めようとするソードンさん。

 いや、常識的に考えて、子どもを守るのは当然か。


「いや、私が相手するから、ミリー達を守って」

「お前さんだって守るべきだろうが! あの魔獣は、危険だ!」

「魔獣じゃなくて、スライムですよ。アレ」

「はぁ!? 何言ってんだ!?」


 ぺしっとソードンさんの腰をはたいて、前に出る。


 一応と、腰の剣を抜いて、構えておく。

 ソードンさんが爪を弾いた通り、擬態姿とは言え、実体だ。身を守るために、剣を振るうべき。


「言葉が通じるかわからないけれど、知能が高いと聞くから、話しかけておくわ。白いスライムさん。会えて嬉しいよ。他にも、擬態が出来るのかしら?」


 魔獣の姿の白いスライムに、声をかける。

 すると、しかめっ面の犬顔が、ピクリと眉を動かした。


 どうやら、話は通じるようだ。


「ルジュ、レフ、ミリー。周囲を警戒しなさい。擬態で隠れているスライムがいるかも」


 ルジュ達にも、注意を払うように伝えておく。


 まぁ、”かも”じゃないけれど、本当に”いる”けれども、断言はしない。

 私の能力を明かさないため。


「えっ? マジかよッ? 希少種のスライムが、他にもッ?」と、レフはキョロキョロとした。


 ルジュも警戒をしながら、不安げなミリーを、レフと一緒に挟んだ。


「おお?」


 白いスライムは、大型犬の魔獣から、白い角を額に生やした黒い豹の魔獣に姿を変えた。


 その際、紫の魔力が動いたのを目にする。

 液体と紫の魔力が、姿を作ったように視えた。


 レフが魔物の容姿に変わる時、紫の魔力が作り上げるのと似た動きか。


「な、なんだと!? 変身!? 本当に、擬態能力を持つ希少種のスライムなのか!?」


 慄くソードンさん。


 希少種のスライムの擬態能力。

 レフの魔物への変身とは、また異なる気がする。

 『魔力視』だけで視れば、紫の魔力は魔獣の姿となっていた。

 レフの父親の分身体だったという小鳥と同じ。


「他にも擬態が出来るって教えてくれてありがとう。悪いね。君の仲間の亜種スライムは、子ども達の成長のために討伐させてもらうよ。そういうことで、私の相手してね。いざ、勝負!」


 『風ブースト』で飛び込み、剣を振り下ろす。

 横に避けたので、右手を振って雷の魔法を放つ。

 浴びた黒豹は、声なき悲鳴を上げたが、加減しすぎたせいか、よろけても踏み止まった。


「うお!? 出た!」

「!」


 レフの声を聞いて見てみれば、レフ達の後ろに、黒い中型犬の魔獣が三体現れる。


「恐らく、姿はハリボテ。邪魔なら切って、魔法でダメージを与えるといいよ」


 コクリ、と頷いたルジュ達も、剣を抜いて構えた。


「なッ!? どうしてそんな、あっさりと戦闘法を!?」と、ソードンさんは慌てふためく。

 ルジュ達と私の方を、交互に見た。


 そのソードンさんがいる前でも、使う魔法は加減しろと言っておいたけれど、どうかな。三人とも、この状況変化で、忘れてないといいんだけど。


 気にしつつも、飛びかかってくる黒豹を、風の魔法で盾を作って防ぐ。

 ザッと、踏み込んで、剣で突いた。

 貫いたが、魔力で作られた身体は、消えるだけ。


 ぽよん、と白いスライムが、地面に着地した。


「あれ? 終わりかな?」


 スチャ、と剣先を向ける。


 魔力の動きとともに、白いスライムは止まってしまった。


 横目で見れば、ソードンさんが魔獣を次々と切り裂いていく。


 ルジュとレフとミリーが、それぞれが魔法をぶつけて、三匹のスライムにダメージを与えた。


「他にもいるのに、動かないのはどうしてかな? 白いスライムさん?」


 白いスライムと同様に、希少種らしきスライムはまだ他にもいる。それなのに、動かない。

 一斉で襲いかかって来ないのは、こちらとしてはありがたいけれど、どうしてなのか。

 わかる返答をもらえるかはわからないけれど、尋ねた。


 すると。


 ぴょいっ。

 白いスライムは、左の方に、液体が突き出る。

 ぷるぷるっと、その突き出た白い部分は、左右に振られた。


 ぷるぷる。白いものが、振られる……。


 お? もしや、それって……白い旗?

 降参?


「あなたって、可愛いのね!」

「「「「!?」」」」


 私の場違いな明るい声に、戦闘態勢の彼らが、ギョッと振り返る。


「スライムへの攻撃中止。相手は降参したから」


 それだけ声をかけた私は、その場にしゃがみ、白いスライムの球体をツンツンとつついた。


「でも、なんで降参したのかしら? ……”()()()()()”?」


 口元をつり上げて、不敵な笑みを零す。


 この白いスライムは、私達が本気を出していないことに気付いているのか。

 それはそれで、どうしてわかるのか、知りたいものだ。


 でも、一斉で襲いかからない判断は、賢明。

 その際は、私がまとめて、感電させて討伐するまでだった。


 擬態能力を持つ故に、レフが魔物だと言うことも見抜いていたり、私達の実力も勘付いているのか。

 勝ち目がないから、早々に降参した。


「え? で? どうするの?」

「希少種のスライムが、見付かったけれども……」


 弱っている三匹のスライムを気にしつつも、レフもルジュも、ミリーを連れて、私に近付く。



「ねぇ、白いスライムさん。ウチに来る?」


「「「「!!?」」」」



 私は、そう笑いかけた。

 後ろが、ざわっとしているが、私は白いスライムをつつき続けた。


「な!? 飼う!? 飼うのか!? ええぇ!?」

「やめろや! そんな頭のいいスライムなんて、飼っていいわけねーだろ!? 絶対にやめとけ!!」


 レフとソードンさんが声を上げる。ソードンさんは、全力で止めてきた。


 でもお構いなしに、剣をしまった私は、白いスライムを抱え上げる。


「ほら。仲間にしてほしそうな可愛い顔をしてるよ?」


 と、腕に抱える白いスライムを見せてやった。


「わかんねーよ顔!! スライムに顔なんてねーよ!!」

「白い球体にしか見えないよ!!」


 ソードンさんとレフは、全力ツッコミ。


「え? 見える気がする……可愛いぽよよんスライムに!」

「……そんな気がする……気がする」


 意外なことに、ミリーとルジュが同意した。

 うん。可愛いよね。うんうん。


「「マジかよッ!!?」」と、心底ビックリ仰天するソードンさんとレフ。

 ミリーは素だけど……ルジュってたまに、天然ですっとぼけた言動をするよね。


「だめだだめ!! そんな奇天烈な魔物を連れ帰らせるなんて、オレが子爵様に叱られるだろーが!! 放せ、お嬢様! 討伐する!!」

「ところで、ソードンさん。あなたって、酒癖の悪さで騎士をクビにされたと、ご自身で吹聴してましたけど」

「急に話題変えんな! 誤魔化そうとしてんのか!? いいから、その白いの放せ!!」


 剣を構えるソードンさんは、怒鳴ってきた。


 普通の子どもなら、無精ひげのオッサンに剣を向けられて怒鳴られたら泣くんだけどなぁ。恐喝そのものなんだけどなぁ。


「あなたの剣の実力は、相当なものでは?」

「はっ……? 何をいきなり……」


 怪訝に顔を歪めたソードンさん。


「兵士の方々の太刀筋を視てきましたけれど……日頃から鍛錬している彼らよりも、なんだか鋭さがあるように視えたんですよね。先程のソードンさんの剣さばき」


 ギュッと、ソードンさんが眉間にシワを寄せた。


「日頃飲んだくれて身体が訛っていても……才能は片鱗を見せる。――――ソードンさんって、天才だったりしました?」


 身体が覚えているのか、身のこなしと太刀筋の鋭さが、気になる。

 何より気になるのは、『万能眼(ヴィアイン)』で視える赤いモヤだ。右肩の奥にあるソレ。


 ソードンさんは、これ以上ないぐらいに驚愕に顔を歪めた。


「……ハッ! ちょっと見ただけでわかったようなことを……こんなクソ田舎のお嬢様に、剣の何がわかる?」


 嫌悪を込めて吐き捨てたソードンさんは、その悪態でこれ以上の詮索を拒絶しているのだろう。

 踏み入られたくない、と。なるほどね。


「そうですね。でも、まぁ……()()()()()()()()()()()、ついつい気になっちゃって。不躾でごめんなさいね」

「…………」


 目を細めて見上げれば、ソードンさんは歪めた顔の色を悪くした。


「見抜くことって……。そういえば、なんで最初から、魔獣に擬態したスライムが白いってわかってたんだ? あっさり戦闘指示まで下して……賢い賢いって聞いてたが……一体、なんなんだ? お前さんは」


 私が抱えた白いスライムを睨み、ルジュ達を一瞥してはまた、私を不可解なものを見る目で見下ろす。


「……私ですか?」


 フッと口元を緩める。



「私は、聡明で優しいお嬢様と定評のある、辺境のしがない田舎の領地の令嬢ですよ」



 にこり。そう笑みを繕っては、持ち上げた白いスライムに頬擦りをした。


「魔物なんかに頬擦りをするな!!」

「ひんやりして気持ち〜」


 液体のせいか、ひんやりしてる。すりすり。


「触りたい! いいかな? ねぇねぇ!」

「オレも」

「ミリーもルジュも、なんで抵抗と警戒がないの!?」


 ミリーとルジュに、レフは信じられないとツッコミを入れる。


「やめろっつーの!! つか、なんでそのスライムは大人しいんだ!?」

「んー。降参して、仲間にしてほしいから?」

「お前さんが、いいように解釈してるだけだろ!?」


 毛を逆立てた猫並みに警戒したソードンさんに、一理あると気付く。


 ちゃんと白いスライムから、返事をもらってない。


「ウチに来るよね? 白いスライムさん」


 ぷるるん。

 上下に揺れたので、首を縦に振ったのだろう。


「決まりだね。仲間はみんな、連れていく? 君がリーダー格だよね? ん? あの子達だけでいいの? わかった」

「スライムと……会話……してる、だと……!?」


 ガガーン、とショックを受けているソードンさんは、スルーしておく。


「ミリー達は、あの子達を運んでくれる? 一緒に連れ帰る」

「マジかよ……」

「抱っこしていいんだ!?」

「ゆっくりだぞ、ミリー」


 恐る恐るながらも、自分で攻撃したスライムを各々で抱え上げた。


「そうだ。今、亜種のスライム狩りしてるから、すぐに止めた方がいい? ……え? 別にいいの? ……そういえば、君達のそばに、亜種のスライムはいないのね。別の群れであって、関係ないということ?」


 子ども達が亜種のスライム狩りをしていることは、止めなくていいと、横に震えた白いスライム。

 別行動しているところを見ると、仲間意識はないのだろうか。


「あっ!」と、何かに気付いたように、レフが声を上げたので、注目した。


「魔物は弱肉強食ってことで、実力主義だって聞いた。だから、弱い亜種のスライムが狩られるなら気にしないし……強者のベラの傘下に、入ることにしたんじゃ?」


 そうレフは予想を口にしては、白いスライムを戸惑いながらも見張るように見つめる。


「強者についていき、生き延びる選択をしたわけか」

「いや、やっぱり、ソイツを連れ帰ることに、賛成は出来ねーな。……どういう仕組みで擬態出来るかはわからねーが、ソイツが変身した魔獣はそんじゃそこらの獣とワケが違う。下についたと見せかけて、油断した隙に飲まれたらどーすんだ?」


 疑うソードンさんが、厳しい眼差しで私達が抱えたスライムを見据えた。

 そんなソードンさんに、私は言う。


「見る目ないですね、ソードンさん」

「はぁ!? 魔物を見る目があってたまるか!!」

「こんな可愛い顔をしたスライム……目を見ればわかるじゃないですか」

「ねーだろ! 目!! お前さんの目の方が、どうかしてねーか!?」


 言われちゃった。てへっ。


「ソードンさん。うるさい」

「直球だな!? 小僧!」

「ベラは時々バカな茶番をするから、騒いでも無駄」

「ルジュはホント、失礼だよね」


 諦めろ、と言い聞かせてるみたいだけど、もっと他に言い方があるはずでしょ。


「あとね、ソードンおじさん……」

「な、なんだ? じょーちゃん」


 ミリーが深刻そうに暗い顔で、口を開く。


「ベラおねえちゃんは、優しいから言わないけど、ベラおねえちゃんをちゃんとおじょうさまあつかいしなきゃいけないと思うの。ソードンおじさんは、ベラおねえちゃんから、お金もらってお仕事してるし……悪いたいどはダメ。それに、そういうことばづかいは、悪えいきょーだから、ジェラール先生やカリーナ先生に怒られるよ?」

「うぐっ……!」


 幼い少女の真っ当な指摘が、グザグザ刺さったソードンさんは、胸を押さえて狼狽えた。


 ソードンさんの粗暴な言葉遣いが、悪い影響を与えたとなると教育担当のカリーナとジェラールが、般若の顔になりかねない。


 二人の恐ろしさを知ってか知らずか、冷や汗をダラダラと垂らすソードンさん。


 ルジュとレフは、そんなダメな大人に憐れみの眼差しを注いだのだった。


「そうだね。じゃあ雇用主のお嬢様として、スライムを連れ帰ることを、決定するわ」


 もう反論したところで、無駄だと告げておく。


 ワナワナと震えたあと、ソードンさんはガクリと頭を垂らした。

 ソードンさん、完全敗北。



 



酔いどれ元騎士。一話で、師匠候補から外れた人です。


スライム、お持ち帰り。


次回から、更新スペースを遅くしますね。

予想より、忙しくて、ストックを更新する作業すら大変で……。

完全ストップしたら、申し訳ありません。あらかじめ、謝っておきますね←


2023/06/10

(次回更新予定、6/16)

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