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18 魔法訓練の実戦でスライムの沼地へ。

2023/06/10


本日、二話連続更新。一話目。





 その夜。

 魔法練習にやってきたルジュ達に、スライム狩りの計画が立ったことを伝えた。


「え……? なんで、スライム狩り?」

「オレ達の練習の成果を発揮するわけじゃないんだろ?」

「え? 違うの?」


 キョトンとして、首を傾げるミリーはともかく、こうして隠れて魔法練習をしている成果を発揮させるわけがないと、ルジュとレフはちゃんと理解してくれている。


「違うよ。スライム相手でも、手加減しようね。ジェラールにバレちゃうから。隠れて練習してるって」


 しー、と人差し指を唇に当てて、笑って見せた。


 ジェラールに怒られたくないミリーは、嫌そうな顔を縦に振り回す。


「実戦したいから、いい機会だし、魔力回復薬を試したいし、希少種のスライムの擬態能力も知りたいからね」

「エラーナさまに作ったジュース? また作るのっ? 集める、がんばる!!」


 魔力回復薬は、魔力が減り続けた母のために、魔力回復にいいとされる木の実を集めて、他の薬草や果物も入れたジュースのこと。

 覚えていたミリーは、笑顔で気合いを入れた。


「ベラ……希少種だぞ? そう簡単に見つかるわけないじゃないか」


 希少種のスライムが目的だとわかり、レフは呆れ気味に言う。


「いや、いれば見付けられるよ」

「何を根拠にそんなことを言うんだ?」

「先ず、今まで希少種らしきスライムがいた、という記録はなかった。まぁ、知能が高いとなれば、繁殖期の狩りから逃れるのは簡単でしょ。擬態能力があるなら、なおのこと、群れの討伐をやり過ごせる」

「! ……そんな頭のいい希少種のスライムが、その沼地にいると、思うのか……?」

「一匹ぐらいはね。きっといるはず」


 レフも魔物の習性を事細かに知っているわけではないけれど、私の推測に否定を出さなくなった。


「例えいたとして……どうやって見付け出すんだ? 擬態って、変身するってことだろ? 亜種、だっけ? 普通の亜種のスライムがわんさかいて、その中にいたら、区別つかないかもしれないじゃん。木や草にでも化けたら、終わらない()()()()()……あっ」


 終わらないかくれんぼになる、と言いたかったルジュだったが、気が付いて声を零す。


 私はついつい、子どもらしかぬ、不敵な笑みを浮かべてしまった。


()()()()()()、ベラ()()()()()()()()()()!!」


 ミリーがルジュの代わりに、言葉にして言う。


 そうである。

 かくれんぼも瞬殺で終える私ならば、見付ける自信があるのだ。


「いやいや! かくれんぼと、魔物の擬態なんて、違いすぎだろ!」

「それは直接見ないとわからないけど、まぁ、そこにいるなら、見付けるよ。必ずね」


 レフのツッコミに、平然と言葉を返す。


 全くもって、同じことなのである。

 ただ、”()()()()”なのだから。


 『万能眼(ヴィアイン)』ならば、擬態しているスライムを見付けられる。

 魔法で隠されたレフの魔物の姿を目に映すように、何に擬態していても、希少種のスライムを発見出来るはず。

 見付け出すことが、楽しみである。


「そうだ。このスライムの群れの量次第では、お小遣いがもらえるんだよ。基本魔法と護身の心得と度胸の試験を、先ずはクリアしないと参加出来ないけど、子ども達にも討伐の報酬がもらえるんだ」


 討伐依頼が必要だった場合は、子ども達にタダ働きをさせては悪いからと、父がそう決めた。


 お小遣いがもらえることに、大なり小なり、目を輝かせたミリー達。


 レフには、小説の件は進んでいると話しておいた。



 沼地のスライムの群れの討伐計画。

 毎年、周囲から野生動物や魔獣を狩っている狩人の人々が部隊を結成して、繫殖しすぎたスライムを討伐してきた。


 今年は、私の誕生日プレゼントと銘打って、子ども達の実戦経験のためのスライム討伐計画が立てられて、実行される。

 父と同じく、大人達は、子どもの安全を心配した。

 よって、一度、人を行かせて、現場の沼地を偵察させて、状況を確認して、去年のように繁殖はそれほど多くないと判断。

 一週間、子ども達に準備をさせて、決行。


 イベント事として、子ども達は大はしゃぎ。

 領民に好かれていた夫人が亡くなって、暗くなっていたが、これで少しは持ち直しただろう。

 子ども達がはしゃぐ笑みで、保護者も笑みになる。


 ちょくちょく、こういうイベントを作って行うべきかしら。

 いや、でも。

 このスライム討伐計画は、経費がかかりすぎるか。タダ働きがすぎる。

 貴族の私が慈善活動をするのはともかく、保護者が子どもを守るためだけではなく、狩人としての仕事や護衛もあるのだから、負担が多い。



 スライム沼地へは、馬車だ。

 私だけがマラヴィータ子爵の紋章入りの良質の馬車に乗ることは拒否して、子ども達と同じく、貸し切った大きな荷馬車で移動。


 少し陽射しが熱くなってきたこの頃。

 泥と湿気の匂い。鬱蒼とした森に降り立てば、地面がすでにぬめっていた。


 本日の格好は、白銀色の髪はカリーナにフィッシュボーンで編み込んでもらった髪型。

 叔母が連れて来た侍女に、女使用人一同が教わったものだ。


 ブラウスの長袖を捲って、カーキ色のベストと、ダークブラウン色のズボンと黒いブーツ。

 なんとも地味な格好ではあるけれど、動きやすい格好となれば、これで十分。別に貴族仲間に見せるわけでもないので、当然だ。

 腰には、子ども用の真剣を携えた。スライム相手には、効果的ではないが、護身用に持つ。


「まるで、冒険者見習いだな」


 同じことを思った酔いどれ元騎士の男性に、しげしげと上から眺められる。


「おい、金髪小僧。それじゃあ剣が抜けにくいぞ」

「え? そうですか?」


 元騎士のソードン・アンバートは、レフの前にしゃがむと、ベルトの位置をずらして整えてやった。


「はぁあ……なんでオレがこんな面倒事をやんなきゃいけないんだ」と、気だるげに零す。


「酒代、要らないんですか?」

「いる!」


 ギラッと目を光らせるダメなオッサン。

 

 表向きは、念のために護衛の一人としてついてきてもらったことになっているが、しぶる彼に頼みごとを引き受けてくれたら、報酬を支払うと約束をしたのだ。


 報酬は、すでに飲み代だと決まっている。居酒屋に入り浸ること以外、やることがないと言っても過言ではないと噂されているこの男。雇われ兵士で、仕事というか、出勤日数が少ないらしい。


 飲んだくれたせいで、騎士をクビになったダメオッサンではあるけれど、剣は振れる。戦闘能力は低くない。魔法だって使えて、スライム相手から、子どもを守ることも可能だろう。

 お金で頼みごとを引き受けてくれるなら、好都合な相手だ。


 レフもルジュも、ダメ人間に憐みの眼差しを向けた。


 スライムが出てきたと、子ども達が騒ぎ出す。

 だから、そっちの方へ進んでみれば、初めての魔物に悲鳴を上げて離れていく子ども達が、私達の後ろに回った。


 ぴょんぴょん、と球体の群れが跳ねてやってくる。

 ぷるるんと、液体の塊が十匹程度。大きさは、子どもの頭二つ分。半透明な薄緑色。

 これが、スライムか。

 恐らく、亜種のスライム。


 『魔力視』だと、やはり紫色の魔力が見えた。でも、まとっているのは、かなりの微量だ。


 『万能眼(ヴィアイン)』で確認すれば、『魔力ポケット』も拳程度で小さい。綺麗な紫色のラメのマーブル模様。

 これが、純血の魔物の魔力、かな。


「ホワまでお嬢様の後ろに隠れるなよ、おいおい。討伐のお手本を見せましょうかい?」


 右目を隠すような長めの髪型の息子ホワの父親である狩人のリーダー、ミルウィルさんは、頭をガシガシと掻くと、私やジェラールに見本が必要かと尋ねた。


「私が見本になってもいいでしょうか?」と、挙手する。


 子ども達の見本になるのは、基本的に私だ。

 私が先導する方が、いいだろう。

 それを理解しているので、ミルウィルさんもジェラールも頷き合った。


 大人の了解を得たから、ぴょんぴょんと近付くスライムの群れに、一人歩み寄る。


 右手を上げて、そして突き出す。黄色に光る魔力を使って、バチンッと雷の魔法を発動して、小さく弾けさせた。

 一匹のスライムは、弾けて消滅。呆気ない。


「おお、やりますなぁ! ベラお嬢様!」と、ミルウィルさん達、大人一同が拍手をした。


「ありがとうございます。じゃあ、次、ルジュ」


 ニコッと笑って見せてから、ルジュにバトンタッチ。


 孤児院のリーダーであるルジュが、先に手本を見せることも効果的だ。


 ルジュも手を突き付けて、バチンッと雷の魔法で一匹を仕留めた。

 ちゃんと手加減が出来ている。


 何故か、むすーっとしているレフは、手を振り上げて、ザクッとスライムを風の魔法で両断。

 こちらも加減をしながら、人間の魔力が使えている。魔物化の心配はなさそうだ。


 ミリーも「えいっ!」と、両手を突き付けて、木の葉の刃でダメージを与えて倒した。

 ミリーの得意な緑の魔法だ。うん。手加減したね。


 実戦に問題はないな。


 次は、ホワ達。他の子ども達が、私達を見本にしたので、進んで魔法を行使して、スライム討伐を始めた。


 一通り見たが、大丈夫そうだ。


「魔力切れでぐったりしたら、魔力回復薬を飲んでね」

「「「はーい!」」」


 どんどん湧いてくるスライムに、魔法を当てていく子ども達は、大人達に囲まれている。安全だ。


「じゃあ、ジェラール。ソードンさんと一緒にその辺にいるね」

「離れすぎませんように」

「うん」


 私の一番の目的は、希少種のスライム。

 探したいということは予め話していたので、ソードンさんを護衛にすることで、周辺の散策の許可を得た。

 スライムに対して、怖じ気づかない様子も目にしたから、ジェラールはしぶしぶながら頷く。


 魔力切れを感じたら、魔力回復薬を飲んで休憩。

 その様子を目で確認して、効力を知りたいけれど、またあとででもいいだろう。


 三段階目の『魔力視』で、別の場所にいるスライムを見付けて向かった。

 メンバーは、ルジュ、レフ、ミリー。そして、お守り役のソードンさん。


 そういえば。

 『魔力視』って、壁の向こう側でも魔力を視るけど、擬態で隠れた場合は、どう目に映るのだろうか。

 『万能眼(ヴィアイン)』なら、本性が視えるはず。でも、擬態で木や地面に隠れていても、紫の魔力でバレバレになるのかな。


「……!」


 私は足を止めて、左手を上げて、後ろのルジュ達にも止まることを指示。


 さっきのスライムの群れは、どんどんと湧いては真っ先に人間の元へ飛びかかっていた。

 恐らく、テリトリーの侵入者に攻撃をする習性を、発揮しているのだろう。


 でも、今、私が見付けたスライムは、動かない。

 複数のスライムが、隠れ潜んでいる……?


 『万能眼(ヴィアイン)』に切り替えて、あちらこちらにいるスライムを観察した。


 あの亜種スライムと、違う。

 魔力量が、異なっていた。漂う紫の魔力は、少し多い。


 変種だろうか?


 この沼地に適応したスライム。

 魔物の常識だと、一般的なスライムと呼ばれるモノ。



 一番近いそれに近付こうかと思えば、目の前にそれが現れた。



 

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