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16 少年は初恋相手に誕生日の贈り物を。



 従兄のエドーズから、手紙はしょっちゅう送られてくる。


 エドーズが苦手としていた火の魔法を使えるようにしてあげた見返りに、古代文明についての情報を送ってもらう約束だった。


 それがいつの間にか、文通をする約束にすり替わり、かろうじて、やり取りをしているのだけれども。

 本当に、”やり取りはかろうじて”。

 何故なら、大半はエドーズの一方的な手紙を送り付けているような形なのだ。


 手紙は、一週間かかって相手に届く。

 返事を待つことなく、エドーズは翌日にも手紙を出すので、新しい手紙が手元に次から次へと届くのだ。

 まるで、エドーズの日記を送りつけられているような内容。


 ……ストーカーでは? と思うレベルの量の手紙。


 従兄で、役に立つ情報を添えてなければ、親に苦情を送り付けていたところだ。

 ちなみに、エドーズが言っていた友人に手紙は渡ったのだが、たまにエドーズの手紙の中に入っている程度で、エドーズを通してのやり取りしか出来ていない。

 エドーズが、直接の手紙のやり取りを阻止していることは、尋ねずとも理解出来た。


 ここにも、独占欲彼氏面がいたのだ……。


 ……モテるね、今世。

 まぁ、外見のいいお嬢様だ。”聡明で優しいお嬢様”認定されてるのだから、このモテ期は納得。




 エドーズに求めた情報には、古代文明の魔法以外にも、大魔法で滅んだ説の論文など。


 求めれば、邪神の教団についても。これは、嫌悪を抱かれる話題なので、古代文明が滅びた説に関してのついでのように、情報を要求しておいた。


 しかし、新しくわかったことはない。

 邪神の信仰など、許されるわけがなく、各国では小さからず処罰を与えられる。信仰の証があれば、拷問による処罰と投獄を数ヶ月。他にも、近所の人々が、信仰者の家を放火するケースが多いらしい。元は、邪神の悪い力の影響を受けたくないがために、信仰者の家を消し去りたかったのだ。それで、放火するケースがつきものになった。

 禁忌とされている邪神の信仰。見付かれば、即座に処罰。しかし、邪神の力を得たという話はないらしい。……ふむ。

 現代で、邪神に力をもらったなんて、実例は遺されていないらしい。


 代わりに、”一目”が特徴的な存在について、情報がないかと尋ねた。

 瞳孔が金色の緑色の瞳で、特殊な能力を持っていたり与えたり……という、情報はわざと出さなかった。

 変に勘繰られても、面倒だ。

 現在、保有中の特殊能力である『魔力視』や『ヴィアイン』を、迂闊に明かすつもりもない。


 逆に、目についての異能を調べるか。人間の異能の記録が、いいかもしれない。

 でも、それは、約束の範疇を超すから、躊躇中。


 正直、すでにエドーズは見返り以上のことを送ってきている。

 解読された古代文明の魔法について。使用は禁止されている魔法の特徴の資料のまとめ。古代文明の遺産のアーティファクトの存在。

 私の興味を引きそうな魔法関連の情報を手当たり次第って感じではあるが、正直いい情報ばかりだ。


 こちらも、お返しをしなくてはいけないと思ってくる。

 しかし、自分よりも持っている物が多いエドーズに、いいお返しが思いつかなかった。


 そんな中、花が送られたのである。

 なんでも、新しく開発中の花らしく、偶然、美しいストライプ柄になった大輪の一輪。ドライフラワーに加工して、ガラスケースに入れてプレゼントをしてきた。


 水色のストライプ柄の大輪の花。


 ”僕の大切なベラへ、心を込めて”


 というメッセージに、女使用人のカリーナ一同が黄色い悲鳴を上げた。

 エドーズからの手紙(ラブレター)の多さに、カリーナ達はニヤニヤが止まらない。滞在中のエドーズの引っ付き具合に微笑ましいと眺めていた彼女達は、私の結婚相手候補ナンバーワンのエドーズを、応援気味である。


 手紙にもイチイチ”僕の大切なベラへ”とつけてくるのだけれど、私は総無視。華麗にスルー。



 従妹というワードを入れ忘れただけよ。正しくは”()()()()()()()()()()へ”なのだ。



 そうカリーナ達に言い張ったのだが「お嬢様には、まだわかりませんか。そのうち、わかるでしょう」と緩んだ顔で諭された。


 ”わかっている”上で言っていることを、わかってほしいものだ。



 とにかく、エドーズにお返しに困る旨を伝える手紙を送ることにした。

 一体どうしてこんな色の花が出来上がったのか、と雑談程度に前置きをして、”お返しが出来ないから困るわ~”と、やんわり苦情の文面を入れて、何か欲しい物はないかと、一応尋ねておく。


 私が用意出来る範囲で、何か。

 ……全然思い付かないので、物凄く困る。


 二週間後に返ってきた手紙には、あの花が出来上がった経緯についての詳細が書かれていた。

 秘匿すべきところは伏せているけれど、これはこれで面白そうだと思った。


 種から作る。種の調合で、人工的な種を作り上げ、魔力を注いで成長させたモノを確認するのが、一般的な研究作業らしい。期待通りの種が出来上がれば、自然による成長で栽培。自然の栽培の方が、魔力消費なく、多く育てることが可能。


 なるほど。緑の魔法に、植物の種。

 ……って、またいい情報をもらってしまった。


 お返しなんて要らない。

 なんて、紳士に育つ従兄らしい回答。


 予想はついていた返事に、ムッと口を尖らせる。

 そんなことを言われても、だ。気にしているんだから、何か私が用意出来る範囲の物を要求してほしい。


 何故か、逆に欲しい物はないか、という質問文が書かれていた。


 が、それには理由がある。

 私の8歳の誕生日が、夏にあるからだ。

 そのための誕生日プレゼントを、叔母達も知りたがっているとのこと。

 例年通り、多めの植木の花でいいじゃん。


 そう思ったのに、封筒には叔母からの手紙も入ってあり、”欲しい物を言いなさい”とのこと。”花以外で”と、先に釘をさされた。


 ドレスなどを贈りたいけれど、喪中だから、喪中明けに着れるようにドレスを用意しておきたいとのこと。

 だから、来年にはサイズを測って送ってくれ、と指示をされた。


 来年の春まで、喪中。黒のワンピースを着回していることに、私に文句はないのだけれども……。


 あ。なんなら、アクセサリーをねだろうかな。

 母の物は、使うことなく大事に保管しておきたい。

 だから、ネックレスとか。あー、指輪もどうかな。

 ……魔法強化のアイテムとか。


 普段使いのネックレスか指輪が欲しい、と叔母宛てに返事をすることにした。

 ただし、出来れば魔法強化のアイテムがいいな!

 ということも、厚かましく、つけ足しておく。


 エドーズではなく、叔母に要求。

 エドーズにアクセサリーを求めると、なんか火に油を注ぐ予感しかしないので。

 魔法強化効果のある魔石のアクセサリーは、高価なんだから、ドルドミル伯爵家からの一つの贈り物にしてくれればいいよ。



 話は変わるけれど、ジャクソン叔父さまが差し向けた視察の人は、春が終わる頃にやってきた。


 しかし、あまりの何もなさに、引きまくっていた彼は、一週間の滞在の予定だったのに、三日で切り上げて帰ったのだった。

 何もなさすぎて、一週間も視察する必要がなかったのか、急用が入ったと引きつった笑みで帰ったのである。


 父は遠い目で、はぁー、と深いため息を吐いていた。


「ベラは、この領地は悪いところだと思うかい?」

「いえ? 領民が暮らしていて不便だと言うなら、悪いと言えるでしょうけど……平穏で暮らしていけるなら、そこはいい領地だと思うわ」

「……そうか。素晴らしい考え方だ」


 父は私の答えに微笑み、頭を撫でる。


 領民がこういう領地だとわりきって生活しているからだろうけれど、特別不便で暮らしにくいわけではないのだ。

 ”何もない田舎”と言うのは、単なる言いすぎ。そこまで酷くはない。

 改善出来るところを、、改善していけばいいだけのことだろう。住めば都、ってやつだ。


 ……まぁ、そこのところ、父は消極的すぎるのは、悪い点だと思うけど。



 解読されて使用可能な古代文明の魔法や魔法陣。

 それは特徴ぐらいしか情報をもらえていない。

 というか、エドーズ自身も得られる情報ではないのだ。

 魔術師の資格を得た者が学習するために、本を閲覧したり、教わることが可能になるとのこと。


 魔法陣。または、陣の魔法。魔法道具に刻印するモノのことだ。

 それが記載されている本を、私もいくつか所有している。

 相も変わらず、文字は読めないまま。

 よって、どんな魔法かはわからない。



「魔法陣? 使ってみないの?」


 昼の遊びの休憩中の野原にて。

 魔法陣のページを睨みつけていた私に、レフはそう試すように提案してきた。


「まぁ、説明文が読めなくても、魔法陣を使って魔法を発動すれば、わかるだろうけれど…………古代文明の魔法を使うと、死ぬケースが多いんだって」

「え”っ!!?」

「魔力を膨大に使うから、一気に失くすことが死因らしいよ。古代文明の魔法は、魔力量の消費の桁が違うからこそ、迂闊には使わないの」


 試しに使うだけでわかるなら、とっくに解読は済んでいる。

 しかし、その試しに発動して死者が多数出たために、古代文明の魔法の解明は慎重になっているのだ。


「ご、ごご、ごめんっ。ごめんなさいっ」と、レフは危険な提案をしたことに、青ざめて謝罪した。


「古代と現代……魔法の魔力消費量の違いは、なんでだろうね」


 独り言を呟く。

 やはり、文明を滅ぼした大魔法の後遺症により、圧倒的な違いが出来上がったか。

 魔力がないと、生きていけないような、そんな世界になったせい。


「手っ取り早く、古代の魔物に尋ねたいねぇ」

「いやいやいやいやッ!」


 眠っているらしい古代の魔物なら、その違いを知っているのではないか。

 いくつかある魔国の魔王にも、古代からの魔物の強者がいるとかいないとか。


 そんな古代からの魔物に、会って尋ねたい。

 でも、無理な話なので、冗談と笑って見せる。


「そ、それより、ちょっとお願いがあるんだけど、ベラ」


 レフは、あせあせと話題を変えた。


「自由に使えるお金が欲しいから、ちょっとお小遣いをもらうために働きたいんだけど……何かない?」

「それって、孤児院で提供している衣食住に不満があるとかではなく?」

「う、うん! 違うんだ! 孤児院に問題はないない! ちょっと、お金が欲しいだけ!」


 孤児院への支援が足りないわけではない。

 少しからず、お小遣いを渡して、お金の使い方を教えている。お菓子を買う程度のお小遣いだけど。


「んー。じゃあ、提案してみたかっただけど、レフの両親の話を、本にして売ってみない?」

「へっ? ど、どういう、意味……?」

「レフさえよければ、レフの両親の愛の話。春になる前に、小説家の男性がこの領地に来ててね。まぁ、簡単に言えば、彼は次の本が書けなくて悩んでて、こののどかな田舎でゆっくりしながらアイディアを思い付くことを待ってるの。そんな彼に、愛の物語を書かないかって提案するのよ」

「……オレの母さんや父さんの、愛の話で…………お金が稼げるの?」

「うん。その小説家は、結構いい文章を使うのよ。いい感じに書き上げてくれると思うけど……まぁ、断定とはいかないね。助けた鳥が実は魔物だった、そして求愛された。そのお話が世間に受け入れられるかは、博打。でも、当たれば、お小遣いだなんて額じゃない報酬が受け取れるよ」


 本当に微妙なものだ。

 亡くしたばかりの両親の話を、売り物にする。


 私としては、ラブロマンス的には、いい話だと思った。

 レフから尋ねられたから、私も他のネタを押し付けて書かせようとか考えていたので、レフにも問う。


 ヒットした処女作を出して以来、スランプな小説家。

 何もなさすぎる田舎を選んでしまって、全く浮かんでいないであろう小説家に、色々とネタを提供する気だった。

 処女作、面白かったしね。

 ネタ提供で書いてくれるかどうはわからないけど。


「……えっと……よくわからないけど、別にいいよ。……いや、でも! オレ、なるべく早く欲しくて!」

「いつまでに?」

「えっ? あ、えっと、な、夏が終わる前に!」


 オロッと、目を泳がすレフ。


 夏が終わる前?

 ……あー、なるほどね。私の誕生日か。

 恩返しもかねて、誕生日プレゼントを用意したいのね。


「わかったわ。ネタにしていいなら、とりあえず話を通しておくね。お小遣い稼ぎに適した他の仕事の手伝いも、見付け出しておくから」

「あ、うんっ!」

「何の話?」


 ひょっこり。他の子ども達の相手をしていたルジュが、やってきた。


 お小遣い稼ぎの話を聞いて、ルジュもレフが私への誕生日プレゼントの購入が目的だと気付いたらしく、素早く「オレも!」と、力強く告げて参入。


 ……やれやれ。


 幼馴染の聡明で優しいお嬢様。少年の初恋キラーか。



 


一番長い付き合いの幼馴染のルジュ!

有力結婚相手の従兄であるエドーズ!

新入り! 救われた人外少年のレフ!


初恋キラーな"聡明で優しいお嬢様"ベラは、遠い目をしている!


2023/06/07

(次回更新、6/9の予定)

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