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13 子ども達を子爵邸へご招待。


連続3話更新! 3話目!





 アルトゥオーロ王国の隅っこの何の変哲もないマラヴィータ子爵領。

 ど真ん中に位置するマラヴィータ子爵邸。

 近所がいないと言えるほど、無駄に周囲が広くて、建物は他にない。

 本邸が一つ。馬車も管理する馬の厩舎や馬を遊ばせるための広場。使用人のための小さな寮舎。

 小さな小さなガーデンパーティーが開ける庭園。

 マラヴィータ子爵邸は、領主の家だけあって、一番大きな屋敷と敷地だ。


「ようこそ。我がマラヴィータ子爵邸へ」


 玄関前で、軽いお辞儀をして出迎える。

 孤児院の教育担当ローリーが、引率で子ども達を連れてきた。

 ルジュ達は、ポッカーンと屋敷を見上げている。


「じゃあ、あまり騒がないようにね」

「いや、少しくらい構わないよ」


 注意した矢先に、奥からやってきた当主の父がやってきた。


「ベラと仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしく頼むね」

「「「はいっ! 領主さま!!」」」


 私の頭を撫でると、子ども達にそう一言かける。

 元気よく、彼らは返事した。

 満足げに笑みを返したお父さまを見送って、二階へと上がるように手で指示して、階段を上がる。


「ベラおねえちゃんの部屋にいくの!?」

「あ、そうだったわね。隣の部屋に行く前に、女の子達だけよ」


 先ずは、女の子達のお楽しみ。


 二階の私の部屋。ジェラール達に扉を開けてもらえば、居間。寛ぐためのソファーと脚の短いテーブル。右端は、本棚と机。

 左側は、寝室で大きめのベッドやドレッサー。

 家具は、アンティーク調。ダークブラウン色を基調にした落ち着いた部屋は、淡いピンク色のカーテンで少しだけ女の子らしくしている。


「ここ全部、ベラおねえちゃんの……!?」

「エドーズお兄さまの部屋は、ここの二倍だよ。きっと」


 あっちこっちと歩き回るミリー達に、エドーズの家の方が大きいと言っておく。


「誰? 兄がいるの?」

「従兄よ。亡くなった母の実家が、ドルドミル伯爵家で王都にあるの。この屋敷の二倍はあるし、別邸もあるから、そっちが豪邸」

「お、おお……確かに、そりゃあ豪邸……。なんで、ルジュは変な顔してんの?」

「…………別に」


 ちゃんと廊下に立っているレフに、教えていれば、隣のルジュはあからさまに不機嫌顔になっていた。


「ベラおねえちゃん! クローゼット見たい!」

「それは、また今度にしよう。今日は、工作しに来たんだからね」

「「ええー!」」


 私のドレスが見たいだろうけれど、それを始めてしまうと、男子達がかなり待つ羽目となる。

 本日の目的は、家具作りという工作だ。

 ブーイングする女の子達を手招いて、隣の部屋に移動した。


 私の部屋より一回り小さな部屋。

 テーブルを三つ並べて、その上に、古代文明の本を並べて置いてある。一時保管中。


「こ、これ……全部、古代文明の? す、すげぇ……価値って、すごいんじゃ?」

「さぁ? まだ読めてないから、どれほどの価値がある知識が書き記されてるかはわからないけど、まぁ、趣味で解読してからのお楽しみよね」

「い、いや……その歳で古代文明の本の解読が、趣味って……おか、ゴホンゴホンッ」


 口をあんぐりと開けて、恐る恐ると首を伸ばして積み重なった本を覗くレフ。

 ”おかしい”と言いかけて、咳払いで誤魔化す。


 他人(ヒト)の趣味を、とやかく言うのはやめましょうね。特に、恩を感じる相手なら、なおさらだ。


「これは……なんか、区別してるの?」


 ルジュが、バラバラの高さに積み重なった本の山を見比べて、気になったように尋ねた。


「そうよ。中身をザッと見て判断しただけだけど、多いのは小説の類で、こっちは図鑑の類。魔物や魔獣。様々な種族。魔法」

「読めないのに、区別出来たのか!?」

「挿絵で区別出来るでしょ。例えば、これ。魔物の図鑑のはずよ。現代の魔物の図鑑の挿絵と似てるところがあるから、そう判断した」


 黒い本を置いたテーブルの上。一番最初に手にした魔物らしき図鑑の本は、すぐに手に入った魔物の図鑑と一緒に開いたままにしている。


「スライム?」と、指差した挿絵の魔物を、レフは言い当てた。


 そう、スライムのページ。

 現代の魔物の図鑑では、ぽよぽよんした小さな魔物。液体で飲み込まれると厄介だと、書かれている。

 しかし、どんな魔法でも効果覿面、とのこと。


「現代の図鑑だと一ページで説明が終わっているけれど、古代文明の方はそうじゃない。この本は、多分、五ページ。文字については、まださっぱりだけど、明らかに書かれている情報は多いはず。古代文明時代は、図鑑にどんな情報を書き込んだのか……気になる」


 スライムについて、長々とどんなことを書き込んだのやら。気になって、このページを何度も眺めていた。


 そんな現代の魔物の図鑑の方を見て、レフは難しそうに眉間にシワを寄せる。

 そこには難しいことは書いてないだろうに……と思ったが、彼が他国育ちだということを思い出した。

 秘薬で言葉を不自由なく使えていても、この国の文字の方は学習していないのだ。

 よって、古代文明の文字と同じく、レフには未知の文字にしか見えない。


「スライムの情報が、長々あるなら……亜種以外のことも、書かれてるんじゃないか?」

「亜種?」

「父さんが、スライムは一般的に認識されてるのは、亜種だって言ってた。亜種はどんな魔法でも倒せるけど、普通は生息地に合わせた体質になってるから違う……変種って呼ばれてるスライムが、本当の普通のスライム」

「変種のスライムが、普通のスライム」


 レフの父。となると、魔物本人か。

 魔物の常識の方が、正しいのだろう。

 群れの中で、一匹だけ変種のスライムがいるから、それを”エリアボス的な存在”に、人間は認識していたのに。


「あと、希少種のスライム。一番知能が高くて、擬態能力が凄まじいって聞いた」

「擬態能力? 魔物って、そんなに化けるの、上手いの?」

「あー、えぇーと。人間の姿に近い魔物とか、翼や尻尾に爪、角。それらは、魔力で出来てるんだって」


 父親から教えてもらったことを、レフはなんとか記憶から掘り起こした様子で答えた。


 魔力で、出来ている。それで変身するのか。

 レフが魔物の姿になる原因は、その溢れる魔物の魔力により、爪や翼が出てくるのだろう。

 あの小鳥だって、紫色の魔力の塊みたいなものだったから、それと似たようなものか。


「なんで魔物に詳しいの? レフ」

「えっ。えっと……父さんが、教えてくれたから」


 不思議そうなルジュに問われて、レフは無難に答えた。

 自身が魔物の父親から教わった、とまで言わないで済むように。


「さすらいの狩人の知識はすごいね」と、私はその一言でフォローした。

 ……そういえば、父親が狩人設定だけど、そこはボロが出ないのだろうか。あとで確認だな。


「じゃあ、この古代文明の書物をしまうための小さな本棚を作ろう」


 パンッと手を叩いて、号令。


 先に運ばれ込まれた組み立て式家具の材料と組み立て説明書で、ルジュ達と組み立てを始める。


 大人達の見守りを受けるのだけれど、正しくは見張りだったり。

 カリーナが、貴族令嬢が家具の組み立てをしないように目を光らせている。

 ジェラールもだけど、彼は運んできた大工の一人と一緒に、子ども達にも無事に組み立てられて、その出来栄えを確認するために立ち会っているのだ。


 『ヴィアイン』を発動して、組み立て説明書を見て指示をしようとすれば、簡単に効率のいい組み立て方を理解した。

 さながら、迷路の正しい道筋が視えているように。


 年長の男子であるルジュとレフに支えてもらい、ミリー達女の子には釘を手渡して、他の男子にハンマーで叩いてもらう。

 指示通りにしてくれれば、そう時間がかかることなく、完成。


「ありがとう、みんな。完成だね。いい本棚」と、パチパチと拍手すれば、本棚を組み立てられたことに、ミリー達は大喜び。


「とても理想的な仕上がりです。組み立て説明書もわかりやすくて、子ども達の手だけでも完成出来ました。どうでしょうか?」


 ジェラールにも聞かせつつ、大工さんに意見を確認させてもらった。

 客に作らせるために、材料を加工して用意した大工の感触の方は、如何に。


「こちらとしても、想定通りでいいですね。ベラお嬢様が的確な指示だからこそでしょうけども、子ども達も怪我なく上手く組み立ててもらえて、満足ですよ。面白い取り組みでしたね」

「今後も、組み立て式家具を作ることに抵抗はないのでしょうか?」

「抵抗? 別にありませんねぇ。でも商品化するというと、難しいのでは? コストの方は低くても、大工の手間がありますしね。子ども達が大工になる練習用としては、最適だって、お(かしら)達と話しましたけど」


 へらりとする若めの大工さんは、流通化は前向きではないと仄めかす。

 まぁ、前世なら、工場でザクザクッと加工するだろうけれど、ここでは全てにおいて手作業だ。


 それなら、風の魔法でザックザク切ったり、風の魔法の刻印で魔法道具を作って工場を……。


 考えてみたけれど、実現は不可能だ。

 風の魔法で材料作りだなんて、一般人には魔力量は足りないし、技量も持っていない。

 生産するための魔法道具を作るのも、現実的じゃないな……。


 うーん。ジャクソン叔父さまの伝手を頼って、魔法道具を作ってもらって…………っていうのも、微妙ね。大工職の仕事になるのか否か。

 この領地に、芸術品のような匠はいないから、量産するシンプルな家具を作ることに抵抗はない。


 ジェラールが「その練習用の延長上で、利益を出すのはどうでしょうか?」と、話しているところを、眺めながら考え込んでいた。


「ベラおねえちゃん」

「あ、ごめん。完成してくれたお礼に、庭園でお菓子を食べようか。みんな」

「わあーい!」


 子ども達が、置いてけぼり。ミリーに気付かされて、目的達成したので、報酬のお菓子を振舞う。

 ジェラールに大工さんの相手を頼んで、一階へ下りて、庭園で用意させていたテーブルにお菓子を置かせた。

 子どもが大喜びの量。最低限の作法を守ればいいと、カリーナにも許可をもらったので、パクパクと食べていく。


 クッキーからマフィン。チョコやアーモンドなどで、バリエーションとつけている。

 たらふく食べられて喜ぶ子ども達を見て、作ってくれたカリーナ達はニッコニコだ。


「レフ。この屋敷までの道は、覚えた?」

「ん? うん、まぁ……?」

「じゃあ、夜の九時に来れる?」

「はっ……?」


 盛り上がっている中で、レフの隣に来て、そっと声をかけた。


「夜ぐらいじゃないと、時間がないから。魔法練習」

「いや、で、でもっ……オレに、領主の家に忍び込めって言ってんの!?」


 ギョッとしたレフは、手で口元を隠して、声を潜めて問い詰める。


「うん。お嬢様が許可するから、大丈夫。あっちね」

「え、ええぇっ……!」


 万が一でもバレたとしても、私の許可はもらっているということで、守ることは可能。罪は咎められない。……多分。


「何? どうかした?」


 ルジュが何を話しているのかと、聞きたがってやってきた。


「レフ、文字は学んでこなかったんだって。だから、ルジュ、教えてあげてよ」

「そうなのか? 不便だろ。わかった」

「ミリー! ミリーが教えたい! いい!?」

「じゃあ、オレと一緒にな」

「あ、ありがとう。ルジュ、ミリー」


 ミリーも聞きつけて、突撃。

 この国の文字を年下に学ぶことに、恥ずかしそうに苦笑いをしつつも、レフはお礼を言う。


 それから、こちらに向ける戸惑う黄緑色の瞳が、私に”本気なのか!?”と尋ねていた。


 ()()()()()()()()()()()


 と込めて、にっこりと笑みを返しておいた。



 


夜に領地のお嬢様に、屋敷の塀裏に呼び出しを喰らう新入り。

ということで、密会。します。


今月ラスト更新だし、まだストックたくさんあるから大丈夫だろ! ということで、本日は3話を連投です!


いいね、ポイント、ブクマ!

よろしくお願いいたしますね!


2023/05/29

(次回更新、6/3の予定)

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