表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/34

11 新入りの少年は魔法が不得意。


2023/05/29


本日、3話連続更新!

1話目!





 マラヴィータ子爵領には、防壁なんてものはない。


 囲い込む壁が必要なほどのそんな危険が、今までなかったからだ。

 それでも、森に熊や猪、稀に魔獣や魔物も出る。または盗賊。それら相手に、自己防衛ぐらいは、持ち合わせているのだ。

 普段、魔国方面には、侵入防止のために兵士が待機する。大森林の魔国までは、馬で駆けて丸三日はかかるのだが、その間は、植物が育たない岩の更地だ。

 元々は、辺境の領地があったのだが、300年ほど前に戦により壊滅。放置した末に、建物の形跡はあっても、更地が広がっている。

 大森林の魔国は、これまでアルトゥオーロ王国に侵略する動きは一切見せなかったので、警戒はされてはいない。ちょうど、隣国ともかろうじて挟まれる形にある大森林。隣国は友好国なので、攻撃すれば両国に反撃されることになるから、不利。そもそも、不利益なのだ。

 その更地も、互いにとって、価値はない。


 そんな更地を超えて、マラヴィータ子爵領に侵入したかもしれない。

 更地方面の警備をしている兵士の大半は変わらず、その場で厳重体勢。

 兵士が、一人参加。あとは、狩人を中心に男手が集まり、危機に対処する隊を結成する。

 熊も魔獣も、そういう相手に手慣れた狩人が、調べるのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()


 その情報を元に、領地中が警戒した。

 事態の真相がわかるまで、不用意な外出は禁止されたが、三日で外出禁止令は解かれた。


 少年は、狩人の父親と旅をしていたが、魔獣に殺されてしまい、少年は命からがら遠くから逃げてきたそうだ。それで、力尽きて倒れた、と。

 確認した周辺に魔獣の形跡もないため、警戒は解かれたというわけだ。


 少年の名前は、レフ。ただのレフ。

 身内は、父しか知らず、他に行く宛てはないとのこと。


 第一発見者である私に、父は「孤児院に預ける、でいいかい?」と念のために尋ねた。


 身寄りのない一文無しの少年だ。

 そうするべきだと、答えるしかない。


「うん。じゃあ、見舞いに、行ってもいい?」


 にこ、と笑みを見せて、私はレフと名乗る少年に会いに行くことにした。


 小さな病院に運ばれて手当てを受けたけど、目立った外傷はなく、一日眠れば翌日には起き上がれたらしい。


 よって、発見から五日目のこの日には、病室から移り、孤児院で部屋を与えられていた。



「身体の具合は、どう?」

「あっ……君は……あの時の……」


 部屋の真ん中で、呆然とした様子の立ち尽くした少年に声をかけると、目を見開かれて驚かれる。


 金髪の髪を後ろで束ねた少年は、やはり人間の姿。白いシャツとカーキのズボンと質素な服を着た彼は、ルジュよりちょっとだけ背が高い。


 『魔力視』で確認すると、魔力は回復したようで、身体の周囲に漂っていた。

 やっぱり色は、ほんのりとした紫色か。


「えっと、ありがとう。君が見付けてくれたおかげで助かった」

「倒れてる人を助けないわけにはいかないでしょ」

「……うん、助かった。なんか、領主の娘さんが、ここを使っていいって許可までくれたんだって。ホント、助かる」

「ん? うん」


 力なく笑って見せるレフ少年は、どうやら第一発見者である私こそが、領主のご令嬢だと教えてもらっていないらしい。


 ……黒いワンピースのせいか? 喪服だから、飾りっ気ないせい? お嬢様オーラなし?

 まぁ、別に。全然いいけど。


「君も、この孤児院の子? さっき紹介された子が、全員だと思った」

「私は違うよ。母を亡くしたばかりの喪中だけど、父親は生きてるから」

「!?」


 黒いワンピースの裾を片手で摘んで見せる。

 喪服だよ、これ。


 ギョッとして、少し慌てふためくレフ少年。


「そ、そうか! ごめんっ! えっと、つらいよな……お悔やみを」

「ありがとう。君こそ、父親を魔獣にやられてしまったと聞いたよ。お悔やみを」

「! ……っ」


 気遣いの眼差しでお悔やみを言ってくれるけど、私に言い返されると、何かをグッと堪えるような強張った表情になった。


「あの、さ……。変なこと、聞くようだけど……オレの近くに、鳥を見なかった?」


 恐る恐ると、尋ねられたのは、あの小鳥のことだろう。


「気になる小鳥なら、いたけど」

「その鳥は、()()()()()()()


 ”どうなった”……?


()()()()()()()

「……!!」


 そう答えると、少年は絶望に歪んだ顔をした。

 酷く悲しみに苦しんだ顔を俯かせると「そう、か……」と、か細い声で相槌を打つ。


 物凄いショックの受けようだ。

 あの小鳥の消失に、深い意味があるのか。


 消えちゃった。

 文字通り、消滅したのだけれど、”飛び去って消えた”と言ったと思っているみたい。


 ……会話の流れから察するに、父親に関係があるのでは?

 亡くした父親の話をしたら、すぐに小鳥の話になったし。


 尋ねる前に、ルジュが部屋に来てしまった。


「ベラ。来てたのか」

「ベラ? 領主のお嬢様の名前と同じ?」

「は? このベラが、領主のお嬢様だぞ」

「……へっ?」


 呆れた表情のルジュが、あっさりと明かすので、声を裏返したレフ少年は目を点にする。


「申し遅れたわ。私の名前は、ベラ・マラヴィータ。マラヴィータ子爵家の令嬢よ。改めてよろしくね、レフ」

「はいっ!? す、す、すみませんでしたっ!! 無礼でしたよね!? あの! あのっ! 色々ありがとうございます!!」


 慌ててペコペコと頭を下げては、感謝を伝えようとするレフ少年。


 第三の目で視なくても、演技ではないとわかる。


 悪い者ではないらしい。


 まぁ、父親を亡くしたのは、本当だと思っていいだろう。魔獣からも、なんらかな理由で襲われたというなら、大森林の魔国で問題を起こしたと考えるべきか。


 このまま、孤児院に身を寄せる気なら、”()()()()()()()()()”というわけではないのだろう。


 マラヴィータ子爵領に、危険な問題を持ち込んでいない。

 断定はまだ早いから、様子見だけどね。


「そうかしこまらなくていいよ。子ども達とは、対等な会話してるし、いつも遊んでる幼馴染だから」

「ベラおねえちゃんは、そうめいで優しいおじょうさまなんだよ!」


 ルジュの後ろから飛び出すようにミリーも部屋に入ってきては、私に抱き付いた。


「聡明で優しいお嬢様……?」

「頭いいの! こだいぶんめいのずかん! 読もうとしてるんだよ!! すごいでしょ!!」


 鼻息荒くするミリー。


「古代文明の図鑑? えっ? 古代文明の文字を読めるのか!?」

「違うよ。読もうとしてるだけ。魔物の図鑑みたいだから、挿絵を頼りに、解読しようとしてるの」


 魔物。

 そのワードに、ピクリと眉が震えたのを見逃さなかった。


 彼が、魔物か否か。

 探りを入れたいところだけど、ルジュ達の前で刺激するのは、どうかな。

 魔物の図鑑と聞いて、気まずそうではあるけど…………確証はイマイチ。


「そんなことより、ベラ。レフの親睦会をしたいんだけど……何がいい?」

「私に聞くの?」

「だってベラが、レフを孤児院で引き取るって決めたんだろ? 保護したのは、ベラみたいなもんだし」


 レフの決定権が、全部私にあるみたいに言わないでほしいな。


「じゃあ、本人に聞こうか。レフは、新しく仲間になるから、遊んで仲良くなろう。そういうわけで、遊ぶわけだけど、何して遊びたい? いつもは、この周辺の森や野原でかくれんぼや鬼ごっこをするんだ。体調が大丈夫なら、どう?」

「えっ……遊び……? なんでもいいけど……。お嬢様も?」

「ベラでいいよ」

「えっ! ……わ、わかった……ベラ……。……ベラも、参加をするのか?」

「うん。()()()()()()()()()()()、”()()()()()()()

「? わかった」


 躊躇しながらも名前を呼ぶレフに、目を細めて意味深に言っておく。

 少しだけ引っ掛かりを覚えた反応をしたが、見定められるとは気付かないまま、レフは鬼ごっこを選択した。



 そういうことで、レフと親睦をするための鬼ごっこを開催することに決定。


「レフって、私の一つ年上だって聞いたけど、ホント?」

「ああ、うん。今、8歳だ」

「ふぅん、そう……」


 グイグイ、と腕のストレッチをしながら確認すると、平然と答えた。


「じゃあ、基本魔法は?」

「……ま、魔法は……不得意で…………」


 顔色を悪くしたレフは、不得意の一言で済ませようとする。


「なら、ベラに教えてもらえばいい」

「え? なんでベラに?」

「ベラは教えるのが得意なんだよ。オレもミリーも、ベラに基本魔法を使えるようにしてもらったんだ」


 ルジュは私を指差して、答えた。


 他の人には、秘密だって言ってるのに……。

 そういうことをあっさり話すなんて、ルジュはもうレフを信用しているのだろう。

 まぁ……普通に考えて、孤児になった子どもを信用しない、と警戒するはずがないか。

 私以外が、彼を人間の子どもだと認識しているのだから。


「教えるって……?」

「手を重ねて、使いたい魔法が使えるようにサポートするの」

「えっ……あ、ああっ……えっと。オレ、ホント、不器用なんで! そのっ! また今度で!」


 バッと、両手を後ろに隠して、レフは首を左右に振り回した。


 顔色悪い。魔法を使うことを、避けたいらしい。

 どうしてかしら。


「そうなると、レフ、すぐに捕まると思うよ?」

「え?」

「複雑ではないけど、森の中は広い。みんな、慣れてるし……何より、”()()()”?」


 私は黒のスカートの裾を、キュッと結んだ。

 下には、白のキュロットを履いている。


 ミリー達も、ストレッチの準備運動を終えた。


「オレも一応、森で狩りをやってたし……森で走り回るぐらいなら、別に」


 ポリポリ、と頬を掻くレフは、森の中での走行について、自信はあると答えた。

 狩り経験は、事実ではあるらしい。


 これは言ってもいいのか。

 と、ルジュ達が、私に注目した。

 うん。そこは言わないのは、えらいね。


「自信があるなら、いいけど」


 私は、意地悪に笑って見せるだけ。

 ミリーを含む子ども達は、この意地悪に乗ることにして、ニヤニヤを堪えた。


 ルジュは同情して、全然わかっていないレフの肩を、ポンッと叩く。


「じゃあ、私が10数えたら、捕まえに行くよー。新入りのレフが、狙い目になるから、他の子より、遠くに逃げないと不利だからね」


 一応、それだけは助言しておく。


 そういうことで、パンと手を叩いて、鬼ごっこ開始を合図。

 数字を聞こえるように数えている間に、彼らは森の奥へと走っていった。


「は!? はやっ!?」


 呆気なく、レフが置き去りにされる形となる。


 ルジュ達は、魔法を使っているのだ。


 風の魔法。

 足に風を巻き起こすように、使っているのだ。


 風のブースト。少しからず、移動速度を上げる。

 そういう魔法の使い方をしてみれば、成功。遊びの最中に使っていたら、ずるいと怒られてしまい、誰にも話すなという約束で、使い方を教えてあげた。


 『魔力視』で確認すれば、他の子達の魔力は安定して使われている。調節も問題ない。

 その目で、レフを追いかけ続けた私は、10数え終えたので、走って追いかけることにした。


 レフを、真っ直ぐに追う。

 迫ってきたとわかり、レフも全力で走ったが、足の裏で風ブーストを強めれば、加速したことで、手が届いて捕まえた。


「うえ!? なんでッ!?」

「……わからないんだ?」

「な、何がっ?」


 風の魔法。

 本来の姿では、翼を持っているから、風の魔法に強いのかと。敏感ですらもないらしい。

 この間抜け顔が演技なら、とんでもない腹黒悪党であるけれども、それは違うはず。


「みんなで風の魔法を使ってるだよ。追い風で走る感じ」

「えぇ!? そんな魔法の使い方が!? でも! そんなに魔力、持つの!?」

「コツを掴めれば、簡単だし、魔力もそんなに減らないんだよ」


 ビックリ仰天な顔をするレフに、子ども達が走り去った方を指差してタネを明かしてあげるけれど、実は、私の方は魔力の使用量を増やして、レフを捕まえた。

 でも、自分の魔力を減らしたわけではない。


 私が使用したのは、周囲の魔力だ。


 第三の目の開眼後、影響でレベルアップでもしたのか、『魔力視』が地面や木などから魔力を溢れさせていることまで視えるようになった。なので、触れている箇所から魔力を吸収して、使用したのだ。

 自然からの魔力も、奪いすぎれば植物などは枯れてしまうが、程よくならば、また魔力はすぐに戻る。


「母さんから、そんな魔法が使えるだなんて、聞いてない……」


 呆然と口をあんぐりさせるレフ。


「お母さんは、魔法に詳しいの?」

「あ、う、うん……」

「でも、レフは不得意?」

「……う、うん」


 顔色を悪くして、レフは視線を足元に落とした。


 そんなレフを小首を傾げて見てから、周りを見回す。

 近くに、子ども達はいない。

 私とレフの二人きり。

 今が絶好のチャンスかな。



「――――魔法使うと、本当の姿になるから、使いたくないの?」



 レフが、ビクリと肩を震わせた。

 息まで止めているかのように固まっている。


 また、絶望したみたいに、酷い表情で顔を驚きで歪めた。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ