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10 見抜く第三の目の開眼。



 納得いかぬ。

 あんな仕掛けで隠しておいて、中を開いてみれば、真っ白なページ。



 ゲームだったら、納得いかないとクレームの嵐が来るところだ。

 だが、これは現実。クレームの送り先がない。


 仕掛けをかいくぐって辿り着いた先にあった宝物箱が、実は(カラ)だったなんてオチなら、現実もあるんだ。

 現実は、厳しい……。

 頑張っても、報われないことがある……。



 …………だがしかし。

 納得いかないので、私は負けじと模索した。

 何かしら、この本に情報があるはず、と。

 絶対に何か収穫が、あるはずなのだと!



 私の『魔力視』について、情報を得るためには、コレを調べるべき。


 隠されているだけなら、暴くための方法があるはず。


 白いページならば、黒い魔力を侵食させて、文字が浮かぶかと思ったのだが、それはなかった。

 むしろ、ページは染まらない。魔力を、全くもって受け付けなかった。




 何日も頭を抱え込んで考えていたけれど。


 眠るためにベッドに横たわっていれば、思いつく。


 秘密地下にあったのは、一目の絵画。天井にも、一目だった。


 私は両目で視ていたけれど、片目にしてみれば、何か視えるという意味では?


 起き上がった私は、片手で左目を隠して『魔力視』を発動。


 しかし、これじゃない感。


 違う。違うなら。……うーん。


 ぼすんっと、背中からベッドに倒れた。


 そして、暗い寝室の天井を見つめる。


 マラヴィータの家の者じゃないと、見付けられないはずの本。


 あー、でもー……。

 『魔力視』は、三段階あるし、もしかしたら……もっと『魔力視』の能力を上げる必要があるとか?

 一目をヒントに、片目に集中しても、感覚的に違ったしね。


 はぁー、と一息ついて、瞼を閉じた。

 で、すぐに、パチリと開く。


()()って……()()じゃなくて、()()()()では?」


 額の真ん中を、人差し指でこすった。


 第三の目を開眼すると……何が視えるんだっけか?

 前世で中二病くすぐるファンタジーなマンガやラノベ内で、額に第三の目を持つキャラクターは、特別な能力を使う。未来を視たり、本質を見抜いたり。


 まぁ、すでに、私は『魔力視』という特別な能力を使っているようなものだからな……。

 第三の目を開眼してみたら、何が視えるのだろうか。


「まっ! 物は試し」


 もう一度、目を閉じた。

 額にある目が開くイメージ。

 『魔力視』と、同じ要領を心掛ける。


 すると、()()()


 夜で真っ暗な寝室が、くっきりと形が視えるようになった。

 瞼を開いても、同じように暗さに遮られることなく、視える。


 自分の手を視てみれば、ほんのり水色のラメのマーブル模様の魔力が漂っていた。

 三段目の『魔力視』と変わらない。


 ベッドから下りることにして、黒の本を改めて開いた。


「おおっ」と、声を零す。

 いや、まぁ、ずっと独り言を呟き続けてるけど。


 白いページには、手形が浮き彫りになっていることが視えた。

 手形。大人の手形だから、私の手と比べて大きすぎる。

 まぁ、手は手。とりあえず、置けって意味でしょ。

 そこに自分の片手を置く。

 しかし、何も起きない。


 何かしらの起動のために、魔力を込めてみた。

 何も起きない。


「クッ……! ……また何かいるのか? 次の条件はなんだ?」


 一体、何個の仕掛けがあるんだ。


 『魔力視』で仕掛けを見抜き、魔力を使って黒い本を見付け、開封。

 そして、第三の目の開眼で、次の仕掛けを見付けた。


 三段階目の『魔力視』が、一つ目の条件。

 そして、目にした魔力を操る操作力が、また二つの条件。

 新たに、第三の目の開眼。これで三つ目。

 これが最低限の条件だ。


 条件。条件……。条件、かぁ。


「あ。――――()()()()()()


 大前提の条件がある。

 マラヴィータ家の末裔。この家。


 この家の者ではなければ、そもそも、秘密地下を知ることはなかっただろう。

 目についての能力を開花したのは、私しかいないようだけれど、元々マラヴィータ家の者の能力のはず。


 あの一目の絵画の地下部屋。条件の一つ。


 仕掛けとして、黒の魔力や透明の魔力が設置されていたこと。

 一回、あの魔力の仕掛けがあった地下部屋で試すか。



 思い立ったが、吉日。

 ランタンを手にして、忍び足で一階まで下りた。

 子どもの手では、秘密通路の開放は重いと覚悟したのだけれど、まだ開眼中だった第三の目で、カラクリを見抜くことが出来たので、簡単に開けられる。魔力をひょいっと流せば、カラクリの歯車が動く仕組みだ。


 マジでこの能力、言い伝えられてないんだなぁ……本来の地下の開け方すら教えないとか、ハードル高めね。


 ランタンと黒い本を持って入ろうとしたけれど、第三の目があれば、暗さなんて邪魔じゃなかったから、ランタンは必要ない。ということで、ランタンは置いた。


 例の部屋の中心で、改めて、()()()()()()()


 天井に、一目が在った。

 アーモンド形の片目の円形の中で、透明の魔力が一本の柱を作っている。


 正解だったみたいだな。

 この中が、条件の一つか。


 そこに座って、本を開く。手形に右手を置いた。

 そこで魔力を込めてみたが、それでもまだ変化なし。


 魔力を黒く染めても、変わらない。


 んー。でも、第三の目としては、ページに浸透していると視える。

 黒い魔力は、正解。だけど、何か足りない、ということか。

 正解の一部。あとはぁ……。


「…………」


 じっと、自分の手を見つめた私は、物は試し。

 掌を風の魔法で、サクッと切った。


 マラヴィータ家の人間の血。

 ダメもとで塗り広げた血の手形で、ぺったりとした。黒い魔力を込める。



 ()()()()()()()



 そう感じた瞬間。


 ガツン、と頭を叩かれたような衝撃を食らう。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()



「――――ッいったぁ! こんの!」


 両手で頭を押さえたあと、その両手で本をぺしっと叩いた。

 どうせ、痛みは与えられないだろうけど。


 むぅ、と本を睨み付ける。


「……()()()()?」


 目が合ったのは、”()()”のはず。

 問うも、返事はない。


 こめかみを揉んだ私は、先程の衝撃の際に、頭に入れられた情報を思い出す。



 ()()()()()()()()()()()()()()

 逆三角形の黒灰色の少しだけ複雑な模様。


 それを、見せ付けられた。

 ……どういうことだ?


 まさか、邪神に関係あると?

 古代文明が滅びた原因と云われていた邪神の信徒達。その者らの紋章。


 邪神から得た能力だってこと?

 嫌な真実だな。

 ウエッと思ったが、いやでも……。


 あの一目。……邪神、か?

 邪神ゲトゥラシュの姿は、黒い巨人。黒灰色の瞳だと、語り継がれている。


 仮に、ゲトゥラシュ邪神から、マラヴィータ家が『魔力視』の能力を得たとすると、マラヴィータ家も信徒だったという形跡がどこかに残っているはず。せめて、この秘密地下にでも。


 勝手なイメージだけど、邪神の信徒ならば、表では隠していても、裏では信仰しそうだ。さらに、能力だってもらったと仮定するならば、信仰は妄信的なもので、健在なはず。しかし……痕跡は、一切ない。


 今さっき、目を合わせたわけだけど、そういう信仰心は芽生えてない。

 むしろ、邪神だったらという可能性に、しっかりと嫌悪でオエッとなりかけている。『魔力視』も、今後使うことが嫌になるくらいだ。


 邪神に関して、好意の欠片はない。

 あの一目が邪神なら、断固拒否で本を燃やしたいくらいだ。


 なんなんだろう。今の一目。


 邪神とは、違うかもしれない……。


 とりあえず…………ヒントが、邪神の教団の紋章?


 もっとヒント寄越せと、手を置いて魔力を込めたが、今度は、まるで阻まれるように弾かれた。


 ムカつくな、コイツ!!


 本を持ってブンブンと振り回した。

 ぜんっぜん、気が晴れない。



「フンッ!」と、鼻を鳴らして、引き下がることにした。



 ヒントの邪神の教団について、ジェラールが知っていることを聞き出すか。


 第三の目という新しい能力も開花したから、別に収穫は少なくはない。

 この目の能力を、しっかりと把握しておこう。


 邪神からもらった能力ではない、という前提で。



 『魔力視』と異なる目は、見抜く目だ。

 瞼を閉じようと、視ることが出来る。

 隠されているものは、見付けられるはず。


 翌日に、ルジュ達とかくれんぼをすれば、呆気なく発見。茂みや木の向こうで、人影が透けて視える。


 うん。探し物、見付けるの、(らく)そう。


 どこまで見抜けるんだろうか。

 そういうわけで、色々と第三の目の能力を試してみた。



 一番近くの大工店。

 領主の娘ということで、対応は大工店の(かしら)だ。

 前から、母も依頼をしていた。学校の机などの家具も依頼予定だったけれど、只今保留中。学校開校すら、保留しているもの。少なくとも、母の喪中には進められない。


「大工からすると、組み立て式の家具って、作るのは嫌ですか?」

「はい……?」


 陽に焼けた筋肉質の大男の(かしら)さんは、キョトンと目を瞬かせた。


「簡単な家具を、組み立てるだけの材料があればいいように用意してほしいんです。美しい細工を施した家具とは別に、一人暮らしなどをする若者向けとか、必要な簡易の家具を自分で作れるように用意すれば、購入者は低価格で手に入れられますので、どうかな、と。自立のために質素な部屋作りをする人向けに、そういう組み立て式家具が低価格で手に入るなら、好まれるかと思いまして。でも、作り手からすると、そういう家具があるのはどう思うのか知りたいのです」


 ちょっと複雑な積み木のオモチャ作りの依頼を求めて来たけど、実は地下から出した古代文明の書物を、隣の空き部屋にちゃんと保管する本棚を用意することにしてジェラールが注文したから、ついでに提案してみたのである。


 基本的に、家具を作り上げるのも、大工の仕事。

 組み立て式の簡易の家具。可能なら、作ってほしいものだ。複雑な積み木のオモチャより、楽しいだろう。


 問題は、職人からして、邪道かどうか。


「いや、別に……。試しになら、いいですけど」


 頭を掻いた大工の(かしら)さんは、とりあえず、試していいらしい。


 そういうわけなら、古代文明の書物用の小さめな本棚を注文することにした。

 簡易なものでいいと思ったけれど、部屋のデザインに合うように、とジェラールがこだわるように言うから、少し話し合った結果、決定。


 大工店を出ると、ジェラールが尋ねた。


「お嬢様。本当に、自分で組み立てるおつもりで?」

「私が体験して何が悪いの?」

「お嬢様が家具の組み立てなど……好ましくないですよ」


 ジェラールだけではなく、カリーナも小言をうるさくするだろうなぁ。


 組み立て式家具の製作を提案したなら、それの出来具合を試すべきなのに。

 まぁ。貴族のお嬢様なら、家具の組み立てなんて、だめだろうなぁ……フツー。


 咎めるような視線に、私は明後日の方に目を向いて、黒いワンピースを整えた。

 高く括った白銀の髪を払って、馬に乗り直す。


 すると、小鳥が私の馬の頭の上に降り立つ。

 チチチッ、と鳴っては、首を傾げてくる小鳥。


「ん? 変わった小鳥ね」


 馬に怖じ気づかないで、そんなところで私を見つめてくるなんて。

 愉快な小鳥だな、と私も首を傾げた。


 じっと見つめ返す小鳥は、ふわっと翼を広げて飛び立つ。

 くるくるっと、私の周りを三回も回ると、マラヴィータ子爵領の外の方角へ飛ぶ。

 やけに低い。そう見ていれば、また小鳥はこちらに飛んできては、Uターンして同じ方角へ飛んだ。


 ……ただの小鳥じゃないな。

 変にもほどがある。


 第三の目の開眼をして、お付きのジェラール達を置いて、馬を走らせた。


 ご丁寧に、魔力の残滓が残っている。


 動物のモノじゃない。

 馬などの動物の魔力は、土色のマーブル模様の色だ。

 この小鳥らしき魔力の残滓は、土色のマーブル模様の色ではない。


 魔力は、紫色のラメが、キラキラ。


 ()()()()()

 初めて視る。

 人間は水色で、動物は土色が、基本。あとは個性で色がちょっぴり帯びている程度。

 属性の魔法を使おうとすれば、その属性の色に光が……あれは、何属性だろうか。

 考えている間に、小鳥に追いついた。


 あれ? 小鳥……()()()()()()()()

 この存在は、魔法で作り出した小鳥ってこと?



 その小鳥が導いた先にいたのは――――少年だ。



 森の中。道の端っこの一本の木。そこに寄りかかって倒れている少年。


 金髪に見えたが、髪の毛というより、羽毛を生やした頭。隙間に尖った耳。手には、鋭利な爪。今は畳まれているけれど、背に緑色のグラデーションの大きな翼もあるらしい。

 衰弱した様子で、息は浅く、私を見上げる黄緑色の瞳も、虚ろげ。



「……たす……け……て…………――」



 絞り出された声は、微かに聞き取れた。

 人間とは思えない姿の少年は、瞼を下ろして、カクリと頭を垂らす。気を失ったらしい。


 彼の『魔力ポケット』の魔力の色は、()()だ。()()()()()()()()()()()()

 属性の色じゃない。その者自身の魔力の色、ということだろう。


 馬から下りて、第三の目を閉じた。


 すると、私の目に映ったのは、少し長めの金髪の少年だ。歳は、私やルジュと変わらなそう。

 ボロボロの身なりではあるけれど、人間にしか見えない。


 ここに導いてきた小鳥が、私の顔の前にパタパタと飛ぶ。

 手を出してやれば、そこに留まった。


 小鳥は、まるで深くお辞儀をするかのように、頭を下げると、紫の煙となって、スゥッと消えてしまう。


 ……なんだろう。この魔法で出来た小鳥。

 少なくとも、この少年が操っている小鳥ではなかったな。


 少年のそばにしゃがんで、喉に指先を当てれば、呼吸が確認出来た。

 本当に弱っている。さっきも、身体の周囲の魔力は、ほぼない状態だった。

 魔力切れもあるし、体力切れもあるのだろう。疲れ切って、気絶した。


 さて。どうしたものか。

 この明らかに、()()()()()()()()


 なんか、小鳥に()()()()()()()()()()が拭えない……。


 なんの種族の少年だろうか。見抜く第三の目には、翼を生やした姿が視えたが、今は人間にしか視えない。

 本当の姿を隠さなければいけない種族、か。


 考えられるとすると……。

 ここから、三日かけた距離に、魔物が巣食う大森林がある。魔王もいるとか。

 俗に、魔国と呼ばれる、魔物の国の一つ。この世界でも、そこが一番、小さな魔国らしい。


 魔物にも、色々といるから……もしかしたら。


 ()()()()()()()()()は、()()なのかもしれない。


「ベラお嬢様! 何があったのですか!?」


 お付きのジェラール達が、追いついた。

 私の前に倒れている少年を見ると、血相をかいて馬から下りて、確認する。


「”助けて”って言って、気を失ったの。何かあったみたいだから、対処の指示をお願い」

「はい! かしこまりました!」


 私は彼が人間ではないことを伝えることなく、彼を追い詰めた何者かの対処をするように、ジェラールに頼んだ。



 


新しい能力、開眼!!!


10話目にて、新キャラ登場!

幼馴染その2になる少年です。


どんな子かは、また明日更新する次回で!


いいね、ポイント、ブクマ、よろしくお願いいたします!

2023/05/28

(次回更新予定日、明日5/29!)

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