01 幸か不幸か異世界転生で魔法を。
(2023年5月13日)
おかげさまで、本日、「小説家になろう」活動を始めて、13周年となりました!
ありがとうございます!
『なろう作家13周年記念』に乗じての、
記念投稿作品です!
異世界転生したので、魔法エンジョイのスローライフを楽しもうと決めていたヒロインが、
序章の終盤でスローライフしている場合じゃないので、
気付いたら才能フル活用の無双展開になるお話!
ジャンルを「異世界恋愛」にしましたが、ヒロインがあまりにも冷めすぎて、意図的に好意をスルーします。
……逆ハーでモテまくりなので、安心してくださいね!(?)
異世界転生者の最強少女ヒロインの無双!(残酷な描写ありのR15指定)
13周年記念作品として、大いに楽しんで書いていきますね!
先ずは、3話!
◆―――◆
自分の血に溺れて死にかけるのは、心底恐ろしい経験だ。
そんな前世の死の経験を思い返しながら、私は。
「このことが知られたら、報復される。その前に……全員の息の根を止めるわ」
冷静に告げた声は、酷く大人びて淡々と響いた。
まだ10歳にも満たない少女だったのに。
頭から垂らす血が、白銀の髪を赤く染めようとも。
両手から他人の血が滴り落ちようとも。
今すべきことを、決定した。
◆―――◆
私の前世は、不幸だった。
いやでも、本当は……。
そこそこ幸せで。ちょっと不幸だった。
お世辞でも、いい家庭環境ではなく、いい子ども時代とは言い難かった。それなりにグレて、すれて。それでも見捨てない親がいて。自立だと息巻いても、ブラックな仕事に心が折れても。静養させてくれる実家があって。それで、結婚相手なんていなくても、充実した生活をしていた。
うん。だから。そう。
そこそこ幸せだった。不幸せなことだって、経験していたけれど。
いや、でも、やっぱり。
……安息の実家に、ストーカーに押し入られて、刃物で喉を刺されて、自分の血で呼吸が出来なくて、死んで逝ったなら。
不幸だったのかな。
もうわかんないや。
そこんとこの判定は、正直、もうどうでもいい。
ライトノベル。特に異世界転生モノを、まったりと実家暮らしの静養最中に堪能していた私。
夢見ていた異世界転生をした。やったね。
しかも、ファンタジーな異世界。やったね。
かろうじて、貴族の娘。やったね。
利点は、貴族だからこそ、平民よりは学べるレベルは高いこと。魔力量があること。
かろうじて、領地を持つ子爵でも、そんなに裕福ではなく、だからと言って貧困していない。
不便ない生活が送れるはず。やったね。
嫌なのは、弱小だとしても貴族。貴族っぽいことをする。
王都で親戚の貴族と会い、社交活動をしたが、早々に私は「おウチに帰りたい!」と駄々をこねた。
ぶっちゃけ、王都なんて、洋風のお城と街並みを観賞しただけで満足。
お茶会をいくつも参加させられたが、お高くとまったマセた令嬢達は、すでに貧乏田舎令嬢だと私を認識して、見下して嘲笑っていた。
子は親に似る。親もそんな顔なんでしょ、やれやれ。
高級菓子を食べることで気を紛らわせたが、やはり、長くは付き合い切れない。
それ以外のまともそうな子どもとも顔見知りにはなったけれど、特に遊ぶ約束をすることもなく、ちゃんと別れの挨拶もすることなく、私は母と領地に戻ることになった。
『アルトゥオーロ王国』。王都『ラン』。
王国の真ん中、王都から領地は、先ず、機関車で一日移動し、その後、馬車で一週間ほど移動しなくてはいけない距離にある。
アルトゥオーロ王国には、三つの都市があり、一つが王都ラン。
その下に位置する形で、『エジトラン』という名の都市がある。そこまで列車で一日。そして、降りる。
そこから、一週間も馬車に揺られて、東に真っすぐいけば、辺境とも呼べるマラヴィータ子爵領に到着するのだ。
おともは、女使用人の三人と、男使用人の三人。
道中は、ファンタジーな生き物である魔獣も出没はするが、田舎の一般的な害獣レベル。猪や子熊程度。
男使用人達の自己防衛の戦闘能力で十分、という考えらしい。
でも、運が悪ければ、イレギュラーな凶暴な魔獣や魔物と遭遇する可能性もある。
そんな危険な旅をしてまで、どうして王都に行ったのやら。父は領地の仕事のために、残ったのに。
母の親戚だけど、お呼ばれしたわけではない。
あっちがお金持ちなら、行き帰りも安全なように、せめて傭兵などを雇って、寄越してくれればいいものを。
どうして、王都に行ったのか。
私のその質問に対して、母は微苦笑で言った。
「あなたのお婿さんを見付けたかったのよ。ベラ」
面食らう。
白銀色の髪の美女は、ライトグリーンの瞳を細めた。
「また来年でも、いい人を見付けられるといいわね」
なんて、穏やかに笑う母。
要するに、一人娘しかいないから、婿養子で跡継ぎとなる貴族令息を探していたのか。
そのために、王都へ出てきた。
結婚相手は、貴族でなくてはいけない。そう思うと、非常に面倒だった。
顔を合わせた貴族令息の大半は、クソガキだったのだ。もちろん、例外はいた。でも、そんな例外も、来年にはどうなっているのやら……。
かろうじて、領地を経営している子爵家。そこに婿入りするなら、せめて恋愛婚がいい。むしろ、それしかない。
それが母の考えらしく、オススメの貴族令息の話をされた。
あの家の次男、または三男がよさそうだ、とか。
私が話していたのは、あの家の長男だから難しいわよ、とか。
……どの子か、わからん。
乳母も勤めた年配のメイドとも話をしている間、私は言ってやった。
「お母さまは、身体が弱いの?」
「え? まさか。どうして? ピンピンしてるけど」
「なら、私に弟が出来れば、他の家から婿養子の跡継ぎを考えなくてもいいのでは?」
「……まあ!!」
母は、たちまち顔をポッと赤らめる。
作ればいいじゃん、直系の跡継ぎ。息子をさ。
『恋愛結婚でとっ捕まえろ★』という難関なミッションを、私にさせるより、そっちが早い。
「誰からそんなこと! もう! ベラだって、いい人と早く出会った方がいいわよ! 早くしないと、いい人が取られちゃうわよ!」
真っ赤になって動揺した母を見て、乳母達は笑った。
「取られちゃうって……」と、肩を竦める。
変なことを言う。
確かに、結婚相手が貴族令息一択になるなら、同年代に婚約者などの相手が出来る前に……ということらしいけど。
それが、ものすっごく、面倒だ。
「私じゃなくて、お父様に似たのね。社交は楽しいのに……」
私の気持ちを察したのか、ちょっぴり寂しげに微笑む母エラーナ。
彼女は、社交好き。親戚とも、社交界で目立っていたという話をしていた。楽しげだったと思う。
白銀色の髪とライトグリーンの瞳と美しい顔立ちの母。昔は、そこそこ人気のご令嬢だったと、簡単に想像がつく。
実家も、王都に家を持つ伯爵家だしね。領地はなくても、事業を上手く動かしているとか。
私が生まれてから会っていなかった友人達と会えて、心底嬉しそうで楽しそうだったっけ。
社交界で華やかな付き合いを楽しむことが好きで、それに似合っているのに。
嫁ぎ先は、王都から離れた領地を持つ子爵家の長男。
優しさに惚れ込んで嫁いだらしい。
ぶっちゃけ、父の長所は優しさぐらいだろう。
ぶっちゃけ、冴えない優男。
ぶっちゃけ、母ほどの美女を嫁にもらえたことが、意外すぎる。それくらいには、父の魅力は母と釣り合わないと、子どもながらに思っていた。
お茶会や夜会がない代わりに、母は慈善活動から、近所付き合いに力を入れている。
本当は、物足りないのだろう。そんな代わりなど。
愛のために、好きな華やかさから離れてしまった母。
……ちょっと、可哀想だ。
前世の母も、社交的な性格だったということは覚えているので、つまらなそうだと、想像で理解が出来る。
「来年は、もっと頑張るわ。お母さま」
「まあ!!」
ポッと頬を赤らめる母は、嬉しそうに笑みを零した。
社交好きな母に付き合う。
私の相手探しは、王都に帰って、そして社交の場に出る、いい口実なのだ。
私も私で、出来る限りの勉強をしたい。
だって、辺境の田舎領地では、いい教育なんてないもん。
魔法の書物は、一握り。しかも、だ。魔法の歴史と基礎の類だけ。
都市の方が、いい本がある。領地なんて、図書館もない。あったところで、利用者がいないのだ。ほぼ無意味。
あるのは、小さな書店が二つ。新作が欲しければ、取り寄せを頼まないといけない。最低二週間は、かかる。お取り寄せ費も込み。お高い。
王都で社交活動も頑張って付き合ったら、褒美として勉強させてもらおう。
なんなら、母の姉の息子であり、賢そうな従兄が学んでいることを、丸ごと教えてもらってもいい。
王都だと、見栄もあって、それなりに有名な教師を雇うから。私は両親に頼めないので、従兄からおこぼれもらうわ。
魔法は、基本的に道具のようなもの。
使えれば、便利な物。
魔力の量は、成長するにつれて、増えるものだ。
ただし、子どもから大人の身長が伸びる程度のもの。
魔物や魔獣という害獣から身を守るためにも、平民だってなんらかの攻撃魔法を備えている。身を守るための。
父は、バリバリッと感電させる魔法を使う。
母は、植物を操り、身を守る緑の魔法を使う。
男使用人のほとんどは、火の魔法。ボボンッと、派手に爆発やら、燃え上がらせるやら。
あとは、水の魔法。両手に溜まるくらいの水を出せれば、上々。
それから、風の魔法。これは、そよ風。
相当不器用ではなければ、この雷、緑、火、水、風の魔法は、使えるようになる。
俗に『基本魔法』と位置付けられて、そう呼ばれていた。
これが、小難しい。
本を熟読して、実践。
火は、マッチレベル。雷は、静電気レベル。
他は、惜しいってレベルで、発動しそびれる。練習している間に、魔力は切れてしまって、ぐったりとしてしまう。
「ほほほっ。また魔力切れですな、ベラお嬢様」
我が家の使用人の一番の古株、執事のジェラール・ナーザが笑った。
白髪に白いくわえ髭の老人と紳士の風格。屋敷を母の指示の元、管理しているのは、彼だ。
ちなみに、彼の息子のタシェルは、父の補佐を務めている。秘書。右腕。
魔法が器用に使えるジェラールは、私の魔法だけではなく、ちゃんと時間を設けて、義務教育レベルの知識を教えてくれている。
「はい。次は、行儀作法の勉強ですよ、ベラお嬢様」
乳母のカリーナ・ケイリンには、魔法の練習が終わったあとに、貴族令嬢としての礼儀作法を習った。
「……給料って、ちゃんと働きに見合うものをもらっているの?」
使用人の仕事と並行して、私の教育もこなす彼らに、私は疑問でならずに尋ねる。
しかし、キョトンとした二人は、けらりと「もらっています」と言い退けた。
正式な教師を雇えないような貴族の家。
魔法教育や淑女教育なんて、本業でもないのに、行うってどうなんだろう。
んー、まぁ。
こんな辺境田舎領地の貴族の子どもには、しっかり学んだ大人が教える程度で、十分ということなのだろうな。
そんな辺境田舎領地に、一見、実力を秘めた隠居生活をする魔術師や騎士がいたりしないか、と探してみたりした。
実力のある人から、得るものを得たい。
とか、思っていた。
だが、しかし。
いたのは、よぼよぼに老いたおじいちゃん。ずいぶん前から、引退生活を楽しんでいる元魔術師の老人だ。少々ボケ始めているとか。
あと、騎士だったらしいが、普通に飲んだくれていたせいで、クビになったダメオッサン。雇われ兵士の仕事をしているだけだとか。夜は大半、居酒屋に入り浸っているので、本当にダメオッサン。
うん。
いい師匠を得て、スムーズにレベルアップ!
とかは、無理だったわ。
しょうがないので、魔法は執事のジェラールに学ぶ。
剣術は護身術程度に、心得を持っている兵士の人達に教えてもらった。幼い子どもが、身を守るための必要最小限の術だ。