そんなの泣いちゃうよ
久しぶりに、ブランコ、乗りませんか?
公園にある、ブランコに。
彼氏でも彼女でもない、でも「特別」な人と。
コンビニでアイスを買った。限定品じゃなくて、いつものバニラの。限定品とかもたまにはいいんだけど、なんだかんだ、アイスはどのメーカーもバニラが一番おいしい気がする。私の偏見だ。
そして、このアイスを私はこのくそ寒い12月の公園で食べるのだ。自分でも正直やめておけよって思うけれど、食べたいものは肉まんよりもアイスだったのだ。だからいい。食べたいものを食べるのが、一番いい。
「いっくん」
今日はいっくんに呼び出されて公園に来た。私たちはたまに連絡を取り合って、公園のブランコに乗りながら話をしたりする。大体日が暮れてから。大の大人がブランコを占領できるのって、やっぱりそんな時間なのだ。
「凛ちゃん、お疲れ~」
そう手を振るいっくんは先にブランコを陣取っていた。片手には肉まん。その判断、間違ってないよって、片手にアイスを持つ私は思う。
私たちはくだらないことを話す。いつもいつも、内容のない話ばかり。大切なことなんて話したことがない。
きっと、いっくんが気が付いているから。私がいっくんのことを好きなことを。
この前は隕石落ちてこないかななんて話をした。ありえない、くだらない。でも、いっくんはそれを笑って聞いてくれる。それは嬉しいようで、少し寂しい気もするのだけれど。
「凛ちゃん、アイスなの!? 正気?」
「私はいたって真面目だよ」
「体冷やすなよ~」
「はいはい」
ブランコに私も座ると、いっくんは肉まんを食べ始め、私はアイスを食べ始めた。冷たい。やっぱりバニラが甘くて美味しいけど、これは寒い。やっぱり私はバカだな。
「知ってた?」
「何を?」
「俺、彼女と別れちゃったんだって」
「……知らなかっ、た」
他人事みたいに言うんだね。アイスをすくうための木でできたスプーンを落としそうになってしまった。ぎりぎりで耐えた。ぎゅって、握りしめた。
「そう、なの」
「凛ちゃんが悪いとかは全然ないから。なんか、上手くいかなくなっちゃっただけ」
それを言われると、苦しくて悲しい。だって、私が影響で別れたなら、私にだって、脈ありかもしれないってことなのに、違うってことは、どう頑張ってもやっぱり私はいっくんの彼女にはなれないってことでしょう。
わかってるよ、それくらい。いっくんの中で私はキープの女の子でもないこともわかってるよ。本当にただの友達なの。わかってる。サッカー勝ったね、あの女優さんの出てる映画観たい、ハロウィン何もしないよね、とか。本当にくだらないことしか話さない。
でも、私はずっといっくんが好きだった。彼女がいても、変わってもずっと好きだった。でもね、だから、私決めてることがあるの。
「私はずーっといっくんの傍に居るよ」
「凛ちゃんは優しいねぇ」
「だって、彼女じゃないもん。彼女じゃないし、友達でもないかもしれないけど、家族でもないけど。ううん、だからこそ、私、ずーっといっくんの傍に居られる気がする」
私もいつか、いっくんじゃない人を好きになって、その人も私を好きになってくれて。結婚とかするかもしれない。先のことはわからないけれども。でも、それでも私はいっくんが好きだし、ずっとずっと傍に居たいよ。
「凛ちゃんが優しくて、俺泣いちゃうよ」
いっくんのバカ。泣きたいのは私の方だよ。こんなにいっくんのこと好きなのに、報われないのに、傍に居たいって言うの、どれだけ辛いと思ってるの。
「俺、凛ちゃんがいてくれてよかった」
そう言って、いっくんが笑う。この笑顔が大好きで、この笑顔が憎らしくて、でも大好きで。
バニラアイスはやっぱり冷たくて、心まで冷えてきそうだった。それでも全部食べ切った。甘くて、柔らかくて、美味しい。そんな恋を、私もしたかった。
ブランコに乗って話をする大の大人を書きたかったです。大人になりきれていない、でももう子どもじゃない。そんな二人を描きたかった。