第9話 驚愕!更なる進化を遂げる!!
涼真よ、頃合いだ。
次のターゲットを言い渡すぞ。
「(あ、わかりました。ちょっと今、入浴介助中なので、落ち着いたら居室に行きますね)」
口狩の退職から数日後、再び力を取り戻した我は涼真を呼んだ。
コンコン・・・ガラッ
「失礼します。・・・我久様、次は誰なんでしょうか?」
そうだな。
森盛男なんてどうだろうか。
ヤツの食事介助は危なっかしい。
提供するスピードも速い上に、一口あたりの量もかなり多い。
あれでは誤嚥しかねない。
本来ならば言語聴覚士などから指導があるといいのだが・・・施設にはそのような者はいないからな。
「も、森さんですか。食介のスピードが速い・・・っていうのは知らなかったです。・・・まぁ彼にはもっと、我久様が目をつける理由がありそうですけどね・・・」
知らなかったのか?
ヤツは自分で『スピード★スター』と名乗っているんだぞ。
己が早食いと食事介助の速さで右に出るものはいないと。
・・・そんなもの、全く自慢にならぬ。
誇っていいものではない。
遅いのがダメなわけではなく、速いのが良いわけでもない。
前も言ったが、適度なスピードが一番いいのだ。
何故それがわからんのか。
「そ、そうですよねー・・・あはは・・・」
とりあえずだな。
ヤツの食事介助の時は注意して見てくれ。
「わかりました!」
そう言うと涼真は出ていった。
・・・ん?
他に目をつける理由・・・?
ふむ・・・。
*****
そして翌日、事件は起きた。
「あ〜ぁあ・・・早番クソだりぃな・・・。おーい、夢魔ジイー。朝だぞ起きろー」
最悪の目覚め。
我は現在、最大限で魔贋を使用しているが故、睡眠を多く欲している。
体への負担は計り知れない。
それをこの男に最悪の起こされ方を・・・。
仁智翔・・・。
森盛男の方が危険度は高いと思い、あっちを優先に考えていたのだが・・・。
「ふぁ〜ぁ・・・。ホレ、自分で顔拭けー」
そう言ってビチョビチョに濡れたタオルを我の頭に乗せた。
ビキビキと血管が切れていく音が聞こえる。
いかん、この依代の既往歴にHT(高血圧)があったはずだ。
心を落ち着けなくては・・・。
「・・・おーい、早くやれー、夢魔ジイ!」
ペシッ!
・・・こ、コイツ・・・。
我の頭を叩きおった・・・!
誰にも打たれたことはなかったが、今、ペシッとしおったな・・・!?
直接的に手を上げられたのなら話は別だ。
今すぐにコイツを仕留める。
我は魔贋を開く。
すると、我を取り巻く力の渦がいつもと違うことに気づいた。
む、これは一体・・・。
・・・まさか、ここにきて我の力が進化しようとしているのか・・・!!
テレテレッ!・・・テッテッテッテッテッテッテッテー・・・
おめでとう!魔贋は魔真贋に進化した!!
ク・・・ククク・・・。
人間の依代でも十分やれることに気づく。
この調子で、施設を陥したあと逆転生まで一気に突き進む・・・突き進める!
「ん?なにやってんだ夢魔ジイ・・・」
我は、自らの手から発したカオスバーストで仁智翔を覆う。
「な、なんだこれ・・・!?」
ククク・・・。
手加減など我の辞書には無い。
さて、存分に断罪と絶望を与えよう。
「うぐぁぁぁ!!!」
*****
「いっちち・・・、な、なんだここは・・・」
「気がついたか。仁智翔」
「っ!?な、おま・・・夢魔・・・我久ジイ。喋れたんか?・・・って、ここはどこだよ」
「ここはどこかって?そうだな・・・。さしずめ地獄の入り口・・・といったところだな。まぁ正確には我の固有結界『サウザンズ・リブ・オア・ダイ』の渦中・・・」
「こ・ゆ・う・け・っ・か・いwwwはぁ?我久ジイはいい歳こいて中二病発症でもしちゃった?w・・・意味不。ついにボケマックスか。サンズのリバーだ?うちの施設のことだろ?ボケがあんまり酷いとまたショック治療しちゃうよ?」
「まだわからんか。いいだろう。我の魔真贋、とくと賞味させてやろう」
「うっせぇ!頭出せや我久ジイ!」
翔が我の頭目掛けて手を振りかぶった刹那、我は左腕を前に出して拳を握った。
グシャッボキッ
「ぐああああ!!」
仁智翔はその場に倒れ込み、のたうち回った。
「・・・な、に・・・しやがった・・・」
「ほほう、意識が飛ばなかったのは褒めてやろう。なに、お前の大腿骨の頸部を折っただけだ」
「はぁぁ・・・?ジジイにそんなことできるかよ・・・」
「まだわからんか。ならば我に手をあげたことを後悔し、走馬灯と共に朽ち果てるがいい」
再び我は左手を突き出し、翔の前で握る。
グシャッバキッ
「うぐぁぁぁ!!」
「橈骨遠位端」
ニギッベキベキッ
「ウッッッ!!!!ク!」
「椎体。高齢者は骨が脆くなりやすいからな。こうした箇所が骨折しやすい。覚えておけ」
「な・・・何言って・・・やがる・・・」
「ふむ、意外に根性がある奴だな。・・・だがここまでは序章。そろそろ我もお前にされたことを同様に行うとするか」
我は立ち上がり、横たわる翔に歩み寄る。
「・・・なに・・・すんだよ・・・」
「お前はもうすぐ、死ぬ」
ガタガタガタ・・・
「我のモットーは『万倍返し』。これからお前の頭を10000回叩く。安心しろ、キッチリ返すまでは殺さん。9999回は生き返らせてやる。しかし最後まで精神は持つだろうか?」
「死ぬつもりは・・・ねぇ・・・」
「それなら神に祈るがいい。この世に、本当に救いの神がいるのならば。縋れる者があるのならば。・・・まぁ本来それは生死になんら関係のないものだ。人間が勝手にそうした幻想を抱いているだけ。神がいたらいいなと妄想し、有りもしない極楽を夢見る。・・・そうだな、お前も作ったらいい。せめて頼れるモノを創造しておけ」
「・・・そんなもんは・・・クソ喰ら・・・」
べチッ!ドシャァ・・・
「まずは一回目だ。綺麗に砕け散ったな。・・・では蘇生魔法『キリングコール』」
シュウウウ・・・
「ハァっ、ハァっ・・・オエエアアアア!!や、やめてくれ・・・」
「フハハ!いいねその反応!自然体で。それが本心、虚勢などない、心の叫びじゃないか」
「もうしないから・・・許してくれ・・・我久の爺さん・・・。意識がなくなる前に激痛で死にそうなんだよ・・・」
「そりゃ死んでるからな」
「もうしないから許してくれ!!助けてくれ!!」
「もう決定事項だしな。大丈夫だ。本当に死んでいる訳ではない。ここは我の固有結界内。死ぬと同等の痛みを想像で感じているだけだ」
「いやだ・・・確かに砕け散ったんだよ・・・俺の頭がよお・・・吹っ飛ぶ感覚が残ってるんだよ・・・」
「・・・翔よ。お前はどうなりたいんだ?更生したいのか?真面目に働く気があるのか?」
「あっます!!あります!!どうか助けてくれ!!!」
「・・・その言葉の重みが残り9999回分だ。だが覚えておけ翔。今の言葉を忘れることは本当の死だぞ・・・」
我は翔に取り巻くカオスバーストを取り除く。
すると結界は消失していった。
*****
今回の件で、十分な成果を得られた我は安堵した。
これが魔真贋の力・・・。
フフフ・・・フハハハ!!
やれる・・・やれるぞおおおお!!
ビクッ
「毎度毎度・・・大声を出されてびっくりするこっちの身にもなってほしいです・・・我久様・・・」