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第7話 疾風!怒涛の吊し上げで悪を叩け

「あ、口狩さんが事務所から出てきましたよ。・・・ちょっと落ち込んでるように見えますね」


 ふむ。

 まあ注意されたのであれば少しはこたえてくれねば意味はあるまい。



「んもう!全く誰だい!マイク入れたのは!怒られちゃったじゃないの!大目玉だよ!!」



「・・・だそうです。独り言で・・・大目玉だと」


 大目玉か。

 その様子だと懲りてないと見える。

 まだまだキツめの罰が必要だな。


「そ、そうですね・・・」



 20年も同じ職場で続けていると、変に慣れてあらが出ることが多い。

 他の誰よりも勤続年数が長いと、強く言える者も限られてくる。

 ある種、自動的にパワーハラスメントに近い状況を作り出している。


 ベテランだからこそ、おごらず努めるべきであろう。

 周りの手本となり、導くことが本来の姿。

 豊富な経験を活かして、新人の育成をしていくことが役目ではないのか。


 ・・・やはり思い知らせねばなるまい。


 無知は罪。


 自身の稚拙ちせつさをかえりみようともせず、周りの声に耳も傾けない。

 なるほど、これが老害というやつか。


 確実に反省させ、今までの行いを懺悔ざんげさせてやるぞ。



「我久様、次はどうしたらいいですか?」


 ・・・お前は想像以上に献身的だな。

 自ら進んで我の右腕になろうとは。


「いや、だって我久様って魔王って言う割には施設を良くしようとしてくれてるじゃないですか。ヒーローみたいで格好いいですよ」


 な、なに?ヒーローだと・・・!?

 バカな・・・我は唯一無二の魔大帝またいてい、無慈悲の最狂魔王ぞ!

 悪の化身ともなれど、善の心など持ち合わせておらぬわ!!


「わ、わかりましたよ!そうです、我久様は凶悪な魔王ですね!!よーくわかりました!」


 ふん、理解わかればよい。



「あ、それでどうするんでしたっけ?」


 ふむ、その前に・・・入居者の中で比較的クリア・・・認知症の既往はないが情緒不安定な者はいるか?


「え、えーと・・・その2つある人はいないですね。怒りっぽくて認知症の人と、しっかりした穏やかな人・・・怒りっぽい人ってあまりいないんですよ、今は。経管の人とかが多くてですね・・・」


 そうか、確かにここは24看護を売りにしていた有料老人ホームだったな。

 経管栄養の入居者が多いということは、平均介護度も高めであるか。


 それに事欠いて物言わぬ高齢者を甚振いたぶっているのか、外道らめ・・・。


 その者で構わん。

 では口狩がその者の介助中に仕掛けるとする。

 涼真はなるべくでいい、口狩の居場所を目で追ってくれ。

 出来る範囲で良いぞ。

 前みたいに他の職員から文句を言われても面白くないだろう。


「いや、僕は・・・大丈夫ですよ。目で追えば良いんですね?簡単ですよー!」


 そ、そうか・・・頼んだぞ。


 ・・・涼真はそう言うが、やはり好き好んで叱られたい者はそうそういまい。

 特殊なへきを持っていなければな。


 

 まあ良い、ここは気長に待つとしよ・・・


「あ、口狩さんが早速連れていきますよ。怒りっぽい方の方です!すめらぎさんって人です!」



 ・・・何故かトントン拍子で物事が進んでいくな。

 ここまで都合が良いと、ストーリーの構成を疑ってしまうぞ。



「見守りでトイレに行くみたいです。どうしますか?」


 よし、ではバレぬよう、その皇とやらにてのひらを向けてみよ。


「え・・・こう・・・かな?」


 我は涼真の手から、遠隔で気を飛ばす。

 それは一時的なリーディングを引き起こす『気』である。




「栞さーん、はい!部屋のトイレだよー!ここをお手手で掴んで座って!シーってしたら横になっていいからねー」


 「お手手」に「シー」だと!?

 く・・・口狩の奴、何を言っているんだ!?

 ガキじゃないんだぞ!!

 自分の一回りも二回りも上・・・人生の先輩に向かって・・・。

 本気でダメだコイツは。



「あー、一人で大丈夫だよ!アンタももう学校に行きな!遅刻するよ!!」


「(何言ってんだい、このボケ婆さん!)ほら、オシッコしたのを見届けてからいくから!ほい!座るんだよ!」


 そう言うと口狩は皇の下衣を無理矢理脱がし、トイレに座らせた。


「あーー・・・なんだよーーーいやだよーーー」



・・・チャポン



「(ウンチした!汚ぇ!臭ぇ!)ほら、出たでしょ!」


「く、臭い汚いって・・・アンタ!自分だってウンチくらいするだろう!!どういう了見だい!!」


「え、汚ぇなんて言ってな・・・(ヤバ!汚いって無意識で口に出ちゃった!?こんなクッサいウンコだから当たり前だけど)」


「あ、アンタ・・・!!また言ったね!!絶対許さないよ!!」


「え、え・・・どうなって・・・」




「我久様・・・、これはどういうことですか・・・?」


 そこの婆さんを一時的に人の心が読める状態にしたのだ。

 故に、口狩の心の声が全部聞こえてしまう。

 本来ならば口に出さないような事だが、本心ではどう思っているのか。

 口狩がどれだけ腹黒なのか、一度高齢者自身に聞いてもらった方がいいと思ってな。



「うわ・・・流石にそれはエグいですね・・・。あ、皇さんが・・・」


 どうした?


「事務所に向かってると思われます」




ドンドンドン!


「ちょ、ちょっと壊れちゃいますよ!皇さん、どうしたんですか!」


「ここの従業員はどうなってるんだい!臭いだの汚いだの!!」


「えと、落ち着いてください!なにがあったんですか!?」


「どうしたもこうしたもあるか!あんなこと言われたことなんて今まで一度も・・・グスっ・・・」




 その後落ち着いた皇は、先程のことを事務員へ話した。




天樹あまた主任。皇さんから話は聞いたけど・・・いくら認知症があるからってあそこまで具体的な内容で怒ると思う?」


「うーん。皇さん、短期記憶はそんなにないですけど・・・。ご飯食べたことも時々忘れちゃいますし・・・」


「でも直接、口狩さんに話聞いたほうがいいんじゃない?ご家族が来た時にはっきりしとかないとマズイと思うよ?」


「うーん、そうですねぇ。一度施設長に話してみます」




「・・・だそうです、我久様」


 ふむ、それで良い。

 次の手を打つとするか。


 普段、面談などを行う時はどの部屋を使うのだ?


「大抵は倉庫を使ってます。ここの施設は古いのでちゃんとした面接室なんか無いんですよ・・・」


 そうか。

 ならば先回りしてそこに行ってくれ。

 話が聞けるように陣を置いておく。


「マジでなんでもありですね・・・。流石です・・・!」



 涼真に託した魔力で、陣を描かせる。

 これでこの部屋を我がテリトリーとし、起こる全ての事象を把握できるようになった。



数十分後・・・



「ここ座って。口狩さん、それでほんとに言ってないの?」


「私、臭いなんて言ってませんから!」


「いくら認知症があるからって、嫌なこととかは覚えていたりするもんですよ。何もないのにここまで嫌われるってことは無いと思いますけど」


「あー、そうですか!私よりもボケた婆さんを信じるんですね!」


「だからそういう言い方が良くないんですよ。この前もだし、さっきも注意したばかりじゃないですか。わかってないですよ」


「私だってねぇ!色々頑張ってるんですよ!お風呂介助だって買い物だって、受診の送迎だってやってるし!それをこんなことで・・・やる気なくなります!」


「うん、それはわかってる。でもね、やっちゃだめなこともやってるよね?赤ちゃん言葉使ったりあだ名で呼んだりしてるわけじゃない。暴言まで吐いたら・・・ここにいられなくなっちゃうよ?」


「もういいです。わかりました、辞めさせていただきます」



・・・



 ふむ、思い通りの展開だな。

 まずは一人だ・・・。


 こうして一人ずつ潰していけば良くなるはずだ。

 悪の種が芽吹く前にな・・・。

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