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第6話 始動!これが我のやり方だ

 だ、だったらどうしたというのだ。

 我を捕らえて拘束でもするつも・・・


「凄い!魔王に会ったのなんて初めてです!」



 ・・・へ?

 お、おい・・・涼真。

 この老体が魔王だと、何の説明もなく信じるのか?


「え、だって・・・テレパシーで話してる時点で何かしらの能力があるってことじゃないですか。それに我久さんってなんかそういうオーラありましたし。一度瀕死になってから復活したっていうのも聞いてたんで・・・頷けますって感じですかね」


 まあテレパシーというより、今の我はどちらかと言うとサトラレに近い状態ではあるが・・・。



 しかし最近の若い人間は順応が早いな。

 その方が都合は良いのだが。



 ゴホン、貴様は我に選ばれし人間よ。

 よいか、本来の姿であればこのなど一瞬で灰にすことなど容易いのだ。

 涼真よ、我が右腕となり存分に献身するがいい。

 

「わかりました、我久様!」



 ・・・そうだろう。

 だが拒否を続けようものなら・・・



 ん?


「僕に出来る範囲でですが手伝いますよ!」



 お約束の反応をしてしまった。

 ・・・随分物分りが良い奴よ。

 逆に心配になるぞ。


「自分の身に起きたことは事実なので、否定したところで変わらないし。逆にそういう状況を楽しむ性格なんですよ、僕」



 ・・・やはり我の見立てに間違いはなかった。

 存分に働いてもらうぞ。


「報酬はこの世界の半分ですか?」



 ・・・それはゲームのしすぎだ。




 こうして、新たな仲間『陶前涼真』を従え、この施設に改変を巻き起こす計画を始める。




 まず我は涼真に、7名の処罰対象を伝えた。

 7名とは言っても魔贋でパッと見ただけだ。

 まだまだ罪人が隠れているかもしれない。


 それら全てを話すと、涼真は全面的に協力することを約束してくれた。



 高齢者施設で働く身として、有り得ない精神を持ち合わせた曲がり者たち。

 人間界のいざこざなど興味はないが、我が爺になってしまった以上、このような舐めた真似を黙認するつもりはない。

 我が確実にその悪行を暴き、罪を償わせ罰する。



「(あ、でも古見さんはもう辞めましたよ。なんでも都合が悪くなったとかで・・・)」


 む、そうだったか。

 それならそれでいいのだ・・・作者の都合的にもな・・・。




 とりあえず次に鉄槌を下す人間を選ぶとしよう。



 ・・・うーん、お前がいいな。



 『口狩弓子』

 齢61歳  介護歴20年  保有資格、介護職員初任者研修 普通自動車第一種運転免許


 この者は職員同士のいざこざが多く、悪口などを周囲に拡散・誇大表現を行って職場の調和を著しく乱している。

 それに加え、過度なギャンブル依存、勤務態度劣悪ときた。


 我の魔贋ではそこまでしか把握できない。

 だが制裁を下すには十分すぎる理由だ。


 まずは調和を乱す因子を押さえ、職員の関係性をこれ以上悪化させる前に叩くとしよう。



***



 我は昼食後、部屋へ戻り涼真に指示を出す。


 涼真よ。

 今、口狩は昼休み中だな?


「(はい、さっきご飯食べ終わりましたね。今は多分タバコ吸いに行ってます)」


 席を外したタイミングで休憩所にある全館放送のマイクをオンにするんだ。


「(え!?そんなことして大丈夫ですか・・・?入居者全員の居室に声が聞こえちゃいますよ・・・?)」


 よい。

 何かを変えていくには犠牲が付き物、それが今だ。



「ハァ、ハァ・・・ええい・・・!どうにでもなれっ!!」


ポーン


 その音と共にマイクが全居室と繋がった状態になる。


「逃げろー!」


 そう言って涼真は退散した。



 ・・・今の声も全館放送されてるぞ、涼真よ・・・。



 そこへ何も知らない口狩は、『厭成悠いやなりゆう』『花科結衣はなかゆい』と共に戻ってきた。


 ・・・厭成悠はわかるが、花科まで煙草を吸っていたとはな・・・。



「ほんと頭きちゃう!陶前の奴、仕事遅すぎ!何年目なんだよもう!」


 口狩は涼真の悪口を言いながら椅子に座る。



「顔はまあまあ・・・なんだけどね。動きは確かに遅い」


 厭成悠は必ずと言っていい程、まず男の顔について触れる。



「・・・まあ彼なりに頑張っているとは思いますけどね」


 花科はあくまで中立という立ち位置で発言をする。


「昼前に我久の爺さん相手に何分かかってると思ってんの。起こしてくるだけで20分だよ?」


 我とやり取りをしていたからだな。

 それを抜きにしても、確かに涼真は何にしても丁寧だ。

 遅いと感じる職員もいることだろう。


 だが、どっちを取るかだ。

 『離床が速い』というのは、それは誰に合わせたスピードなのだろうか。

 速すぎず遅すぎず・・・。


 介助とは時に適切なスピードを要求される。


 例えば車椅子だ。

 電動車椅子の速度は時速6km/h、秒速だと凡そ1.6mだ。


 それを遅いと思うかどうかは人それぞれだが、実際にそのスピードで押されるとそこそこ速い。

 我はそう感じるが、他の者はまた違う意見であるかもしれない。


 それこそが、対人介護の難しさよ。


 『正解が無い』・・・いや、『無限大』と言った方が良いか。


 こうしてほしいと希望が言える高齢者なら、言われた通りのやり方で行えば済む話だ。

 だが・・・物言えぬ状態だったら?考えることすら出来ぬ状態だったら?


 すると全ては憶測でしかなくなり、その時点での解答は闇に葬られる。


 解は無いが解を出さねばならないことに変わりはない。

 介助者の知識と経験・・・そして自信も必要になってくる。

 何故自信が必要かと言えば、何かを行うにしても・・・


「・・・我久様、話長いです」


 っく!良いところを邪魔するでない!我なりの解釈をだな・・・。


「それより口狩さん、ヤバいですよ。入居者様の悪口まで言い始めましたよ。それも割としっかりしてる方の・・・。声も大きいし完全に聞こえてますよコレ・・・」


 こちらとしては好都合なのだが。口頭注意からの厳重注意経由・・・面談→処罰!の流れだ。流石に施設長もここまで話が大きくなったら動かざるを得まい。


「んー、どうなんでしょうかね。でも口狩さんは車の免許があって、受診とか行ってくれる唯一の人ですよ?辞めたら会社的に困るんじゃないですかね・・・」


 別に我も辞めさせるつもりでやっている訳ではない。反省し、気をつけて業務に臨めば何も問題ないのだ。だが実際はどうだ?注意しても数日で元通りではないか。注意するのを辞めたらそこで試合投了だろう。


「・・・そ、そうですね。あ、今副主任が・・・!」


 む、どうした?



バンッ!


「ちょっと!口狩さん!!マイク入ってるよ!全部丸聞こえだよ!!」


「え、え・・・嘘!?え!なんで・・・!」


「ちょっと来て!」


 副主任の平緒は口狩を連れて行く。


 厭成と花科は、口狩ほど過激な発言をしていた訳ではない故、連れて行かれなかった。


 口狩が連れて行かれた先は恐らく施設長のところだろう。

 これで改めてくれればいいんだが・・・。


 少し様子を見るか。


「我久様・・・、ちょっとやり過ぎだったんじゃないですかね・・・」


「(な、なんだと?ヤツは涼真の悪口も言っていたんだぞ?憎くないのか?悔しくないのか?)」



「・・・うーん、でもあの歳になるとそれくらいしか楽しみがないんじゃないかなって。だから別に悪口を言われても気にしなきゃ全然・・・」


「(楽しみがそれくらいってのは逆に偏見だが・・・。しかし、貴様は案外大人なのだな。少し驚かされたわ。・・・だが、我のやり方に従ってもらう。拒否は無しだ)」


「わ、わかってますよ!ふと思っただけです!次は何をすればいいですか?」


 とりあえず今後の様子を逐一報告するんだ。

 その都度、指示を出す。


「わかりました!」


 ・・・涼真があんなことを言うなんてな。

 自分の陰口を叩かれてた事を知ったら普通、心中穏やかじゃなくなる筈だが。



 ・・・それでも我は覇道を突き進むのみ。

 何人たりともそれを阻むことなど出来ぬ。

 それが魔王たる本懐であり、野望でもある。

 歯向かう者は全て捻じ伏せる。


 そして全ての人間が我に平伏ひれふすのだ!

 ワハハハ!!


「・・・我久様。それも全部、僕に聞こえちゃってるんだよなぁ・・・」

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