第5話 陥落!力無き人間を操れ
我の魔贋により、諸悪の根源とされる人物が数名出揃ってきた。
『仁智 翔』
認知症の高齢者をモノとして扱う男。
楊木に入れ知恵した張本人だ。
『長谷川 史忌』
長谷川式認知症スケール20点以下を邪険に扱う男。
その徹底ぶりは目を見張る。
『森 盛男』
食事介助の際、嚥下を確認せずに摂取させる危険人物。
自身の食べるスピードと同等を対象に強要する。
『古見 祥子』
コミュ障で何を考えているかわからない女。
介助も下手で、高齢者を怪我させまくるヒヤリハッター。
『口狩 弓子』
兎に角、口が軽い別名スピーカー。
事を大袈裟にし混乱を招くお局。
『厭成 悠』
色濃い沙汰を始め、手当たり次第に男漁りをする女。
トラブルメーカー。
そして元締めが、『悪井 矢津男』
この有料老人ホームの長である。
無法地帯を見てみぬ振りをし、自身の利益を第一に考えている守銭奴。
現段階で認識できたのがこの7名だ。
彼奴らがいては我の復活の障害となり得る。
一人ずつ裁きの鉄槌を喰らわし、復活の贄にしてくれるわ。
手始めに・・・そうだな。
地盤を固めて立ち回りやすくするのが定石。
『陶前 涼真』
まだ2年目の若くてウブな男。不慣れながらも仕事は頑張っているが、周囲のキャラ濃さに埋もれ、最早空気のような存在。
だが男の中では一番まともだろう。
涼真を陥落させ我の思い通りに操り、まずはこの施設を牛耳ってやろう。
逆転生までの余興とし、腐った人間どもを始末してくれる。
*****
2年目である涼真のシフトは夜勤がなく、ほぼ日勤である。
それ故、一番昼間にいる時間が多い。
我を誘導した時に仕掛けるとしよう。
早速食堂に涼真が来た。
我は恥ずかしげもなく涼真に手招きをする。
ちょいちょい・・・
「あ、我久武留さん。なんですか?」
「へ・・・へや・・・」
「部屋・・・に戻りたいんですね。わかりました」
我が発したやっとの声が、どうにか涼真に伝わったようだ。
それにしても声を出すことがこれだけ疲れるとは・・・。
先が思いやられるな。
居室に着いた我はまず涼真を椅子に腰掛けさせようとした。
「そこに・・・」
椅子を指差すと、涼真を慌てながら
「あー・・・えと・・・なんか話ありました?今からお風呂に入る入居者さんがいて・・・それが終わってからでもいいですか?」
ふむ、それは真っ当な理由だ。
我の都合で引き止めてはいけない。
我は首を縦に振ると
「それではまた後にきます!」
そう言って居室から出ていった。
横になった我は魔贋を使う。
涼真を追うためだ。
どこへ行った・・・?
風呂と言っていたが。
脱衣所に気配・・・。
「おい、遅え。一人部屋に持ってくのにどんだけ時間かかってんだよ」
「涼くん、優しいから話聞いちゃうんでしょ。でも先にやることあるでしょ?ウフフ」
「はい、すみません・・・」
涼真が男女に叱られている。
こいつらは確か、仁智翔と厭成悠だったな。
入浴介助の為か軽装になっていて名札はない。
「我久を横にすんのにどんだけかかるんだよ。もう何年目だ?進歩しねぇな」
「ゆっくりでいいんだよ涼くん〜、お姉さんが色々教えてあげるから」
「はい、すみません・・・」
「・・・ったく、悠ちゃんは甘いんだよ」
・・・涼真のやつ、何故言い返さないのだ。
我が、入居者が話しかけてきたと言えば済む話であろう。
ぐにゃあ・・・
・・・っく!?
ば、馬鹿な・・・もう力の反動が限界を・・・。
こんなでは・・・到底・・・。
我の意識は暗黒に吸い込まれた。
*****
「んー、血圧は大丈夫だね。昼食はスキップして様子をみましょ。おやつには起こしてあげて。その時水分アップでお願いしますー」
む・・・、我は・・・意識を失ってたのか・・・。
「あ!目開けた!我久さーん!聞こえるー?大丈夫ー?」
こやつは・・・。
白衣の天使というやつか。
・・・いや、今はあまりそんな言い回しはしていないな。
名は・・・『看護主任 出来杉 典子』か。
珍しい名字だな。
聞き慣れぬ名に違和感を覚えながら、全身隈なく目をやる。
「ご飯食べるー?無理しなくてもいいよー」
我は首を振った。
「いらないんだね。じゃあおやつにまた声掛けしますー」
そう言って出来杉は去っていった。
看護主任にしてはやけにフランクだったな。
だが悪い気はせず、嫌悪感も受けない。
これが人柄というやつか。
・・・しかしこの調子では力を少し使っただけですぐに全消耗して気絶してしまうな。
能力が復活しただけではこの先、施設を牛耳ることすら難儀である。
進化・・・、開花させねばなるまい。
15時・・・
コンコン
「我久さん、おやつです・・・起きれます?」
ドアを叩いて入ってきたのは涼真だった。
「やっときおった・・・」
「・・・!!あ、忘れてた・・・すみません!!」
・・・こいつめ。
仕方ない、多忙であった故のことだ。
「涼真よ・・・座れ・・・」
「え・・・僕の名前・・・覚えてくれたんですか!」
名前を呼んだだけで喜んでいるな。
単純な奴よ・・・。
「みんなすぐ忘れちゃうんで、なんか・・・嬉しいですね」
「涼真よ・・・。お主は何故・・・介護を選んだ・・・?」
「え・・・!?」
魔贋を使えばわかるが、直接涼真の口から聞きたかった。
魔力節約としての理由の方が大きいが・・・。
「い、いきなりですね・・・。えー・・・僕は・・・、昔からお爺ちゃん子で・・・死んじゃった後もお爺ちゃんの影を・・・」
なるほどな。
純粋に爺婆の世話がしたかったのか。
それが、周りの連中に絆されて自分のやりたかった介護が出来ていないとみえる。
グレシャムの法則か・・・。
そう考えるとやはり邪魔者は排除すべきだ。
「涼真・・・、こっちへ・・・」
我は覚悟を決めた。
「な、なんでしょうか・・・」
手を差し出し、握手を求めた。
「あ、はい・・・」
手に触れた瞬間、我は力を込める。
「うわっ・・・!!」
シュウウウ・・・
涼真よ、聞こえるか・・・我が声が。
「え・・・なに!?声が・・・もしかして・・・我久さんの・・・?」
そうだ。
我の思考を直接、主に繋いでおる。
これは転生前に氷華のリーディングから得た能力だ。
これで涼真と簡単に会話ができる。
「ひょう・・・か?転生・・・?」
む、しまった。
考えていること全てが筒抜けになってしまった!
これでは我が転生前に魔王として君臨していて、今現在、涼真を使ってこの施設を牛耳ろうとしていることがバレてしまうではないか!!
「えっ・・・我久さん・・・」
・・・(汗)
考えることを止めることができない。
何故こういう事態になることが前もって予測出来なかったのだろうか。
これは完全に我の失態である。
「我久さんって・・・魔王だったんですか?」
・・・(ダク汗)
書き込んだあとに気づきました。
古見さん…既出でした!!
まさかの(汗)漫画にあったとは…
しかもタイトルにもなってたし!
気づかなかった…。
というわけで、変更検討します。