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第3話 反撃!魔王は夢に降臨する

 まずはあの男の名前を知る必要がある。


 そして奴を罰するためには我の力をどうにかして復活させねばなるまい。

 一つでもいい・・・。

 我を馬鹿にしたものの末路を見届けるために。




 あまり手につかず残した夕食を気にしてか、女がやってきた。

 人間の食事をしなくなって数百年になるが・・・。

 どことなく懐かしさを感じた。


「我久武留さん、まだ調子は戻っていないようですね。少し早いですが横になりますか」


 我は言葉を発せず深く頷いた。



 連れて来られた先は205号室・・・。

 そこが我の居室という訳か。


「エアコンは入れておきましたから。ではベッドに座りましょう」


 お、コヤツ・・・。


 手慣れておる。

 移乗の仕方もうまいではないか。

 我のADLを熟知しているに違いない。


 この娘の名は・・・『平緒ひらお 恭子きょうこ』か。

 ぬ、CW副主任と書いてある。


 どおりで手技・配慮共に一通りこなせているわけだ。

 他の者にも爪の垢を飲ませてやりたいが。


「それでは我久武留さん。朝には迎えに来ますのでそれまで横になって休んでてくださいね」


 我は再び深く頷くと、平緒は車椅子を端に寄せてブレーキをし、その後テキパキと記録を済ますと一礼して退出していった。


 うむ、見ていて気持ちが良い。

 まるで魔法の様だった。



 なるほど・・・、現代の魔法か。


 我も力を戻さねば。



 横になってからはすぐに微睡まどろみ、泥の如く眠りに落ちた。

 体力が無い為か、睡眠を欲している・・・。




*****




 夢を見た。

 久しくまた懐かしい感覚・・・。



 遠い昔、我がまだ人間だった頃の夢だ。

 物事の善悪、全てを見通す力『神贋しんがん』を得たばかりの我は、人間の底を知ってしまった。

 何が真実で何が偽りかを。


 虚勢しかない力なき者たちの小さな争い・・・

 娯楽の如く他種を狩り、自ら低俗を晒す所業しょぎょう・・・

 長き年月を経ても尚、その愚かな行為は度を越して劣悪と成す。



 我は、そんな種族を見限り、魔への扉を叩く。

 そして滅びへのカウントダウンを始めた・・・。


 『神贋』は『魔贋まがん』へと進化を果たし、後に『アカシックレポート』を我が手中に収めた。



 『魔贋』・・・、全てを見通す力・・・。

 それさえあればあのような者を野放しにすることもなく、自身の愚かさを知らしめてやるのだが。




 ・・・そうか!

 この夢でなら自身の思い通りになるやもしれぬ。


 我が魔贋よ、全てを見通せ・・・!


ポワァ・・・


 寝ながらにして僅かだが力を取り戻した我は、無礼なあの男を探す。


 ほう、この家か。

 良い家に住んでいるではないか。

 家の表札と部屋の扉のプレートを確かめる。


 『楊木やんき一等賞ひとし


 これぞ正にキラキラな名だ。


「おい、お前。起きろ」


 声をかけた。


「・・・んだよ、ねみぃんだよ。話かけんな・・・」


 ヤンキー風情が。


 我は夢の中でも容赦はしない。


 いや、今は()()()()()、か。


「楊木一等賞、貴様に罪と罰を与えに来た」


「あぁん!?んだとコラてめぇ!どこのどいつだ・・・」


 我が夢の中で起きあがった楊木は目を丸くした。


「お、お前は我久の爺さんじゃねぇか・・・」


「ふん、名前は覚えておったか」


「何のようだ!調子に乗んならぶっ飛ばすぞ!」


 ほう、虐待を示唆する発言をしたな。


「よかろう。ならばコレをくれてやる」


 我の右手を振り上げる合図と共に、鉄が四方から飛んできて楊木を押さえつける。


「ちょ・・・なんだよコレ!!ぶっ殺すぞ!」


 そう言って楊木はどこからか取り出したナイフを我に投げつけた。


 今度は殺害をほのめかし、あまつさえ刃物を投擲とうてきしてきた。


 我が眼前で消える刃物。


「な、なんだよそれ・・・」


 我は、されたことは相手にも同じ目に合わせねば気がすまない性質たちだ。


 我が子を虐待し死亡させる親は、同様の所業をって撲殺を行う。

 女を犯した者へは自身の菊を散らし、二度と過ちを犯さぬよう陰を切り落とす。


 それをなくして、何が同種か。

 したことは、自身がされても何も言えぬ。

 何を以って、自身のみが許された行為と置換えられるのか。


「さて、我もお前を()()()()()()()としよう」


 再び右手を挙げる。

 そして鉄の箱に閉じ込めたこの男に、無数の剣を突き立てる。


「うぐぁあああ!!」


 突き刺さった手応えと同時に断末魔が聞こえる。


 そう、それでいい。

 痛みは正直だ。

 夢の中だが、その瞬間は知識で痛みを感じることができる。

 「きっと刺されたらこれくらいの痛みがあるだろう」とな。


「どうだ。夢の中の痛みでは死ぬことはない。それ故、死ぬまで剣を突き立てるのは無間地獄むけんじごく。お前が起きるまで続く、永遠にも感じられる絶望を与えよう」


「や、やめてくれ・・・!!」


「ぬ、どうしてだ。お前が他者に行ってきた報いを今、受けているだけだ。何故自身にのみ許された行為だと思うのだ?」


「わ、わかった!!もうしねぇからやめてくれ!!」


 ・・・ふむ。

 今の発言のみで許される話ではない。

 夢の中だけであって現実での、所謂いわゆる仕返しは済んでいない。


「自身の行いを深く省みるならば考えんでもない。しかし我は何度でもお前の元に現れる。そして本当に死ぬまで剣を突き立てようぞ」


「は、はいいいぃぃ!!すみませんでした!!!」



 今はこれくらいにしておくか。

 我もこの力の反動がどの程度のものか大凡おおよそ検討もつかぬ。


 命を削るに値した内容であるものだったか、それは今の我には到底知り得ぬことだ。



 左手を挙げると剣と箱は消滅した。




 そして白の世界へと誘われる。

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