第1章―5、鋼鉄の鬼は金色の風と舞い踊る
鋼鉄の板を適当に貼り付けられたドラゴンは雄叫びを上げていた。
対峙する便利屋を睨みつけると瞳を赤く輝かせ、ガラクタドラゴンはさらに天に向けて声を轟かせる。
ラフィルは興奮しているガラクタドラゴンを見て、僅かに口元を緩めた。
「ラフィル、遊ぶなよ」
「わかっていますよ、ベイス。少しやりがいがありそうと思っただけです」
「もう一度言う。遊ぶなよ」
「しつこいですね、ベイス。ならとっとと片づけてあげますよ」
ラフィルはトントンと右のつま先で白い大地を叩く。
次第に全身を使って軽く飛び、ラフィルは自分より遥かに大きな体格を持つガラクタドラゴンを見つめた。
「いつも通りに全力でいきます。ついてきなさいよ、ベイス」
「わかった。ちゃんと追いかけるから行ってこい」
ベイスの言葉を聞いたラフィルは、着地すると共に深く身体を沈めた。
足に限りなく力を溜め一気に解放すると、粉雪が上がると同時にラフィルの姿は消える。
ガラクタドラゴンは一瞬だけラフィルを探そうとした。
だが、その前にラフィルはガラクタドラゴンの真正面に姿を現した。
「ハァッ!」
ガラクタドラゴンが反撃する前にラフィルはレイピアを突き出した。
刃がガラクタドラゴンの額に向かって突出するが、甲高い音が響くだけで貫けなかった。
硬い。刀身が折れてもおかしくないほどガラクタドラゴンの頭は硬い。
しかし、それはラフィルにとって想定済みのことだった。
「ガガガガガッ!」
ガラクタドラゴンは首を振り、突き出したレイピアごとラフィルの身体を弾いた。
ラフィルは空中で体勢を立て直そうとする。
しかし、そうはさせまいとガラクタドラゴンが猛烈な勢いで突進した。
そのままガラクタドラゴンはラフィルを押し潰そうとする。
だが、その突進は唐突に止められた。
「相変わらず無茶をするな、ラフィル!」
大きな衝撃が右足に走り、ガラクタドラゴンは崩れ落ちた。
何が起きたかわからず倒れたガラクタドラゴンは右の足元に目を向ける。
そこにはベイスが立っており、ガラクタドラゴンの右足を掴み持ち上げた。
だが、ベイスよりも大きな身体のためか完全には持ち上がらなかった。
それでもベイスはガラクタドラゴンの身体を引きずり、回転し始める。
「ラフィル、黒魔術を発動しろ!」
次第に勢いがつき、ガラクタドラゴンの身体が浮かび上がり始める
ガラクタドラゴンは大きな悲鳴を上げると、ベイスは体勢を立て直したラフィルに向かって放り投げた。
「あなたは意外とせっかちですね、ベイス!」
ラフィルはベイスの指示通りに黒魔術を発動させた。
詩を読まず魔法名も口にしない簡略式の黒魔術で風を起こすと、突撃してきたガラクタドラゴンの身体が天高くへと飛ばされた。
「上出来だ、ラフィル!」
「しっかり決めなさい!」
空へと飛ばされたガラクタドラゴンはどうすることもできないままベイスの元へ落ちていく。
ベイスはその様子を見て、硬く拳を握った。
ただ拳を突き出すだけ。力を籠め、力を瞬間的に放ち、力で圧倒するだけだ。
「ガガガガガッ!」
しかし、ガラクタドラゴンはただ黙ってやられるなんてことはしない。
背中のフレームが剥がれると翼が出現する。それを羽ばたかせ、体勢を立て直しベイスの一撃を回避しようとしていた。
「詰めが甘いですね、ベイス!」
だが、ガラクタドラゴンの苦肉の策はラフィルによって潰される。
ラフィルは宙を蹴り、一気にガラクタドラゴンの背中へ回り込む。
そのまま足に力を溜め、同時に足へ魔力を集中させ、二つの力を一気に解放した。
「その翼、邪魔です――〈ヴァン・アソー〉」
ラフィルの突撃。それは目では追えないスピードでの突撃だ。
風をまとい、一気に間合いを詰め、まだ体勢を立て直せていないガラクタドラゴンの翼を切り飛ばした。
「ガガガガガッ!!!」
翼を失ったガラクタドラゴンは錐揉しながらベイスの元へと落ちていく。
ベイスは大きく拳を振りかぶると、落ちてくるガラクタドラゴンへ向けて力いっぱいに突き出す。
その一撃は強烈で、ラフィルが持つレイピアの突きでは貫けなかったガラクタドラゴンの頭が歪むほどだった。
「ガッ!」
ベイスの一撃を受けたガラクタドラゴンはもう一度宙へ飛ばされると、そのまま力なく転がっていく。
ラフィルが確認するようにガラクタドラゴンへ近づくと、事切れたのか動き出す様子はなかった。
「まあまあですかね」
突然の襲撃による戦いは終わった。
ラフィルはそれを確認すると、レイピアの刃を腰に備えている鞘へ収める。
ベイスもまたラフィルの様子を見て、硬く握っていた拳を緩めたのだった。
「どうにかなったな」
「どうにかしてあげたんです。全く、あなたは毎回詰めが甘いですよ」
「お前もだろう。俺が来なかったら押し潰されていたぞ?」
「一人でどうにかできました。たぶん、ええたぶんですけどね!」
仲良くケンカする便利屋の二人。
それはとても楽しいものであり、傍から見るとじゃれ合っているように見えた。
しかし、そんな二人を邪魔する声が響く。
「――けてぇ~、助けてぇ~」
妙な声に気づいた便利屋の二人は、動かなくなったガラクタドラゴンに目を向けた。
耳を澄ませ、声が聞こえてくる場所を確認する。
するとその声は、ガラクタドラゴンのお腹から聞こえていることがわかった。
「ベイス、これもしかして」
「食べられたんだろうな」
「どうします?」
「助けたほうがいいだろ、ラフィル」
話し合いの結果、便利屋一行はガラクタドラゴンのお腹を開くことにした。
すると案の定、中に人がいた。ギルドの制服を来た人達はとてもボロボロの姿をしており、全員が軽いケガを負っていた。
「あ、ありがとうございますうえぇぇ! ホント、ホント死んじゃうかと思いましたぁぁ」
「そうか、助かってよかったな」
「ホントですよぉー。食べられて真っ暗で狭い空間にいたんですけど、突然揺れたり上下逆さまになったりして何が起きていたのかわからなかったですよぉー」
「そ、そうなんですね。とりあえずご無事で何よりです」
ラフィルはギルド職員の悲劇を聞き、笑って誤魔化していた。
本当は俺達のせいだが、とベイスは感じたのだが敢えて不都合なことを言う必要はないと判断し口にしないことにした。
「本当、ありがとうございますぅぅぅぅぅ!」
ギルド職員に感謝され、強く手を握られているラフィルは笑った。
とにかく誤魔化すように笑い、何事もなかったように振る舞ったのだった。