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第1章―4、ガラクタドラゴンは雄叫び上げる

「さて、そろそろ行きますか」


 試作品とはいえ、防寒コートを手に入れたラフィルは十分にアイテムを仕入れとある場所へ移動していた。

 後ろをついてくるように歩くベイスは、ラフィルにいろいろ確認しながら一緒に進む。


「依頼人とどこで合流するか決めているか?」

「抜かりありませんよ。ちゃんと図書館で待っててくださいって言いましたから」


「そうか。あとはこちらが遅れないように向かうだけか」

「ご安心を。待ち合わせ時間はとうに過ぎています。もう依頼人はカンカンですよ、どうしましょうか」


「お前なぁ……」


 ベイスは頭を抱える。しかしラフィルは素知らぬ顔で進んでいく。

 いつもながら自分勝手で気ままなラフィルにベイスは疲れたような息を吐きつつ、マリベルが怒っていないことを祈るのだった。



「遅い! 何をしていたのよ、アンタ達は!」


 迷宮探索者達が集う旅立ちの間。

 そこには多くの書物が敷き詰められた本棚がズラリと並んでいた。

 どれも見たことがない書物ばかりであり、それを目当てに読みに来る一般人もいる憩いの場所。

 通称〈図書館〉と呼ばれている施設で便利屋は怒られていた。


「失礼、マリベル。少し準備に手間取ってしまいましてね。これでも急いだほうなんですよ」

「にしても時間がかかりすぎよ。というか待ち合わせに一時間以上も遅れるってどういう神経してるの?」


「迷宮に行きますからね。今回は探索しませんから、荷物は多めにしたんですよ。万が一のことがあっても大丈夫なように、しっかりと準備をさせていただきました」


 ラフィルがしっかり丁寧に、ある程度嘘を交えて言葉を口にすると不思議なことにマリベルの溜飲が下がっていく。

 ベイスはそれを見て、相変わらず上手い言い方をするなと思った。

 物は言いようともいうが、ここまで来ると嘘も方便という言葉の意味をベイスは理解する。


「まあいいわ。ひとまずしっかり準備してきたならもう出発しても問題ないでしょう?」

「大丈夫です。では早速〈銀色湖畔〉へ向かいましょうか」


 ラフィルに促されるようにマリベルは移動する。

 そのまま中央に設置されている翡翠色の巨大クリスタルの前に立つと、バッグから一枚のカードを取り出した。

 そのカードを近くに置かれていた機器にはめ込み、スライドさせるとクリスタルの目の前に置かれていた台座が輝き始めた。


「それじゃあ行くわよ。頼りにしているからね、便利屋さん」


 マリベルが一足先に台座の上に立つ。

 少し遅れてラフィルが隣に立ち、ベイスが二人の後ろへ移動した。

 そのまま強烈な光に三人は包まれると、一瞬にして光ごと空間の中へ消えていった。


◆◆◆◆◆


 迷宮〈銀色湖畔〉――そこは一面が雪で覆われ、水も分厚い氷が張る極寒の世界。


 闊歩するモンスターは温かそうな毛皮に覆われ、ゴブリンなどはそれを利用して作った衣服を身につけていた。


 死霊系モンスターはというと、迷宮の環境に適応するために冷気を身にまとったものが多い。

 扱う黒魔術も身体を凍えさせるものばかりであり、油断すると氷づけにされてしまう恐ろしい迷宮でもある。


 マリベルと便利屋はそんな銀世界の拠点になる小さな村のギルド支部にいた。


「さて、それじゃあ早速出発するわよ」

「その前に手続きしないといけませんよ。到着したことを記録しておかないと後々が面倒です」


 ラフィルはそう告げ、ギルド職員を探した。

 しかし、どれほど見渡してもそれらしい人物はいない。

 それどころか人が一人も部屋の中にいなかった。


「どこに行ったんでしょうね?」

「知らないわよ。それより早く出発したいんだけど」


「ラフィル、ここに記録簿がある。書いていくか?」

「致し方ありませんね。何もしないよりはいいでしょう」


 ラフィルはベイスが見つけた記録簿に必要事項を記入する。

 不備がないか確認した後、急かすマリベルのために部屋を出ることにした。


「本当なら宿も取っておきたいところですが」

「そう遠くない場所に遺物はあるわ。といってもモンスターがいるから一人だと危険だけどね」


「まあ、ひと目見てからでもいいんじゃないか?」

「そういうことにしておきましょうか。案内を頼みますよ、マリベル」


 一行はそのままギルド支部から外へと出ることにした。

 だが、外へ出ようとした瞬間に聞いたこともない雄叫びが耳の中に飛び込んできた。


「ギャガガガガッッッ」


 それは、人の声にしてはあまりにも歪。

 それは、モンスターにしては妙に機械的な鳴き声。

 聞いたこともない雄叫びに、マリベルは思わず「何の声?」と振り返った。

 だが、ラフィルは違う。声を聞いた瞬間に一目散に外へと駆け出していった。


「ちょっ、ちょっと!」

「ここにいたほうがいい。依頼人、悪いが少し待っててくれ」


 ベイスがマリベルに声をかけると、遅れて動き出した。

 ラフィルを追いかけるように大きな身体を揺らし駆けていく。

 そのまま外へ出ると、思いもしない光景が目に入ってきた。


「ギャオォォォォォ!」


 ベイスの目に入ってきたのは、銀色に輝くドラゴンだった。

 だが、普通のドラゴンとは何か違う。

 よく見るとネジやナットなどが関節部分にあり、体表は銀に輝く鉄板で覆われていた。

 とても不格好なドラゴンを見て、ベイスは怪訝な表情を浮かべる。


「なんだこいつは?」


 そんな不格好なドラゴンをベイスが見つめていると、唐突に頭が左へと振られた。

 よく見るとラフィルがドラゴンの頭を右から蹴り飛ばしている。

 そのまま蹴った反動を利用し、ベイスの隣へ移動し滑るようにラフィルは着地した。

 ベイスはラフィルに目を向けると、その表情は若干痛みで引きつっていた。


「大丈夫か?」

「結構硬いです。蹴って損しました」

「文句が言えるなら上等だ」


 ベイスは手を握り、硬い拳へ変える。

 ラフィルはベイスに目を向けることなくレイピアを握り、刀身を剥き出しにした。

 何が起きたかわからないが、今はこの不格好なドラゴンをどうにかしたほうがいいと二人は判断する。


「マシンドラゴン、にしては格好が悪いですね。ガラクタドラゴンと名づけましょうか」

「相変わらずのセンスだな。俺は嫌いではないが」

「減らず口は結構。行きますよ、ベイス」


 ラフィルは駆ける。追いかけるようにベイスも大地を蹴った。

 目の前にいるガラクタドラゴンを倒すために、二人は戦いを挑む。


◆◆ユルディアのゆるゆる知識◆◆


【転移クリスタル】

 ・旅立ちの間(通称図書館)に存在する巨大クリスタル。様々な迷宮探索者が迷宮近くの拠点に移動するために利用している

 ・拠点はギルド支部となっており、様々なサポートを迷宮探索者にしてくれる


【図書館】

 ・ギルドの旅立ちの間の通称。たくさんの書物が入った本棚が並べられた部屋のためそう呼ばれるようになった

 ・書物はギルマスが集めた本で、中には珍しい魔術や技術が記載された書物もある。迷宮探索者の中は新たな魔術や技術を手に入れるために通っている者もいる

 ・本当に危ない書物はレプリカにされて置かれている。だがギルマスが適当に本棚へ入れるため、管理する職員は日々戦々恐々としている

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