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宇宙怪獣は叫ばない

 ――太平洋沖。四十海里先に出没した謎の白い石像。

 海面を二十ノットで陸地を目指して接近している。


 その姿はすでに監視衛星から捉えられ、海上保安庁と連携して海上自衛隊の無人哨戒機で確認されていた。


 大きさはそれほどでもない。全長約四十メートル。

 それでも見た目からは、まさにゴーレム……と思われたが。


 ――浜辺から離れた場所でヨットクルーズを楽しんでる人たちがいた。

 オジサンと美女の二人。甲板(デッキ)の上で楽しそうにいちゃついていたところ。


 突如、海面がうねり出した。

 海中から「ザバァァーン」と浮上した石像は波をたてながら前方へと進む。


 すぐ隣でその大きな白い石像を目撃したオジサンがこう言った。

「あれは、……ここブラジル?」


 ゴーレムは、いかついアゴの救世主像。……その推進方法が謎だった。



      *


 ――浜辺では、のんびりとした感じで、その時間(とき)が過ぎていた。

 地元のお兄さんたちから借りたビーチパラソルが、チハルたちを眩しさからさえぎってくれている。


 食っちゃ寝大王のロンは満足顔でへそ天で寝ていて、チハルもひと泳ぎを終えてから昼寝をしていた。


 小1時間ほど寝てしまっただろうか。

 近くでざわめき出したところでマサミちゃんから起こされたチハルとロン。


 どうやら現れたらしい……。それと同時に視認済(しにんず)みとの聳孤(しょうこ)様からの念話は頂いている。


『さあ。狩りなのじゃ!』と飛び起きたロン。

 チハルたちの姿はすでに水着ではない。


 水泳帽子と水中ゴーグルを付けて黒のTシャツに半ズボン姿のチハル。さすがに水中戦を考えて迷彩服は持って来ていなかった。

 同じくマサミちゃんも同じように動けるかっこうをしている。


 チハルはママの趣味の一品を台所から拝借(はいしゃく)している。

 和鋼(わこう)で作りし出雲(いずも)の刃。島根安来鋼(しまね・やすきはがね)の万能包丁が二振り。すでに巨大化させ背中でクロスに挿していた。


「あつい。……背中のペティナイフで目玉焼きができそう」と強い日差しを浴びて言う。


 すでに浜辺には人はおらず、チハルたちしかいない。


 チハルは眼前の海に白い巨像が両手を広げて待っているを眺める。

 ……なぜあれなの。どうしてあれを選んだの。謎過ぎる。


 ペリーよりもザビエルよりも大胆な行動だ。

 …そこにお前たちは信仰心があるのか。と言ってやりたい。


「パンチパーマにしてから出直してこいやぁ。ほなら岬に立たせてあげよう」とマサミちゃんが言い放ったのを見て驚くチハル。


 聳孤(しょうこ)からもらっている情報によれば、十本のにょろにょろで立ち泳ぎしているらしい。

(……どうして宇宙怪獣って、にょろにょろ。多いのかなぁ)と考えるチハル。


 そこでマサミちゃんが奴の呼称(こしょう)を付けた。「カラマル」スペイン語でイカだそうだ。すでにニ本からまっているらしいが……。「ヒガンテ」スペイン語で巨人と名付けた方が良いか相談されて適当に「エイドリアン(・・・・・・)」になった。


 チハルの住む商店街にあるおしゃれな料理屋の名前だ。イタリアンとスペイン料理が出てくる。


『これより、宇宙怪獣エイドリアンを討伐するのじゃ』とロンがにこやかに指揮を取り始めた。

 ……そうだよね。空も飛べないし、水の中も素早く動けないし。だから応援するしかないのか。


 ピヨコが空中から「ポンッ」と具現化した。

『のん。マサミちゃん。あれが動いただに?』とマサミちゃんに慌てて伝えた。


 ピヨコに飛び乗りマサミちゃんがチハルに言う。

「チハル。はよ行こかぁ」


(あれ、あれれ……)

「うん。ちょっと待ってよ。行くってどうすんの?」と焦るチハル。

 何も武器を持っていないマサミちゃんに催促されて驚く。


「なんや。怖気づいたんちゃう?」

「あの。マサミちゃんって、武器は使わないのかな?」


「ああぁ。それな。うちの武器はこれやぁ」

 手のひらから現れたのは白い三叉(さんさ)(もり)だった。


「マサミちゃん。それって、もしかして……」とチハルは訊いて見た。

「うちが守護神様から授かった。この武器は無限にでるんや」

(……ず、ずるい)


『チハルちん。そろそろ、動かれた方がよいぞぇ』とロンに催促された。

「仕方ないね。行きましょう。山の神にお願い……」とチハルは聳孤(しょうこ)を呼び出す。


 目の前に飛び込むように現れる麒麟(きりん)聳孤(しょうこ)


『遅いぞ! チハルどの。すぐに乗るのだ!』と聳孤(しょうこ)に怒られた。

(……のんきに構えていたのが、失敗、失敗)


 では、気を取り直して行ってみよう。

「チハル。参る!!」と聳孤(しょうこ)につかまり空へと飛び立った。

 ピヨコもマサミちゃんを乗せて垂直離陸する。


 ――上空から観察するチハルとマサミちゃん。


 ……海面に浮かぶ謎の巨人像。

 よくみれば、こいつ誰だと言いたくなる顔をしていた。あの救世主像と顔が異なり、見たことがある細目の土偶に似ていてアゴがやたらでかい。


 さて、どうしたものかと悩むチハルに聳孤(しょうこ)が意見する。

『チハルどの。我に良い考えがある。奴はこれまで観察していたが、どうやら石像は奴の殻であるとみえる。そこで先に石像を破壊してみてはどうだ』


 ……ほほうぉ。そうなるか。あれ、ゴーレムじゃないんだ。装飾いや、貝殻か。


「でも、こちらが攻撃した場合、水中に逃げらたら駄目だよね」

『チハルどの。そこでだ。なるべく奴を海面に留めさせてくれ。そして(われ)が、上から雷撃を食らわせてやる』

「そんなことができるのですか? 聳孤(しょうこ)様」

『我の必殺技じゃ』

「必殺技? ……それって、一回で済むんですか?」

『多分。大丈夫だ。痛くないように一撃で沈めてくれよう。ハハハ』


 そこにマサミちゃんが加わる。

聳孤(しょうこ)様。その案で行きましょう。仮に海中に潜られても追い掛けられます。向こうの狙いは上陸ですから、見失っても守護神様が教えてくれます」

『うむ。では。よろしいな。チハルどの』


「はい。お願いします」と言って見たものの聳孤(しょうこ)にまたがる私には選択権はない。

(……まあ、やれるところまでやってみようか)

 相手もここまでくれば、もう逃げれないしね。


「ほな、チハル。うちとピヨコが攻撃して誘い出す。合図してくれれば退避するからよろしくなぁ」とマサミちゃんたちは移動していった。


「さあ、攻撃開始だ!」とチハルは気を引き締めた。


 謎の石像は海面に漂い、マサミちゃんが近づくと動きがあった。

 海中からしゅるしゅるっと触手が伸びて空中に飛び出す。


 それを空中で上手くかわしながら、「よし、うりゃあぁー」とマサミちゃんは白い(もり)を打ち込んだ。


 触手の付け根に近い白い部分に刺さると痛がるように触手を縮める。


「ピヨコ旋回」「分かってるだに」

 マサミちゃんとピヨコは上手く触手を相手に健闘している。


聳孤(しょうこ)様の言う通り、上の石像は何も動きませんね」と上空から観察していたチハル。


『では、我らも準備するぞ! チハルどの』

「待って下さい。聳孤(しょうこ)様。確実に避雷させるようにアンテナを差します。奴の後頭部へ近づいてもらえませんか」

『うむ。分かった。無茶はするでないぞ!』

「それは十分承知してます」


 高度を下げて背後から気づかれないように近づく。

『駄目だ! チハルどの。逃げるぞ!』と聳孤(しょうこ)が叫んだ。


 高度を一気に下げて海面すれすれから旋回して距離を取った瞬間。


「ボオォォォォォォォォン!!」と頭部が自爆した。


「ひえぇぇ!。えげつない。そういうことするぅぅ~」

 思いっきり涙目になるチハル。


 マサミちゃんたちも危険を察知して避難していた。

「チハル。あれなんや? 宇宙怪獣の癖に自爆テロ? せこいやろ。もうびっくりしたわ」


「でもね。これで逆に狙いやすくなったよ。あの大きな穴にこの剣を落として避雷させるからね」

「そな。頼んだぞ。うちは引き続き誘導しとく」

「気をつけてね。マサミちゃん」

「チハルもがんばれぇぇ―」


 再び態勢を取り直して、宇宙怪獣エイドリアンに向かった。


「では、行きます。聳孤(しょうこ)様」と声を掛けてチハルは、万能包丁を一本、パックリ空いた首元の穴に落とした。


『天よ。我に従え。……《マリアス》』

 ぶっとい青白い雷が石像の上に落ちた。遅れて爆音のような雷鳴が轟く。

「ゴォギャギャギャギャギャャャャャャャャャーン!!」


 大きな雷を叩き込まれた石像はパシッ……。

「パァァァァァァァァーン!!」とすべて炸裂した。


「うわぁぁぁ。はぁはぁはぁ。心臓が止まりそうになったよ」

『すまぬ。渾身の一撃がでてしまったのぉ』

 上空で漂う聳孤(しょうこ)は旋回する。


「そういうのは、する前に教えて下さいよ。もうぉ」チハルは頬を膨らませた。

『すまぬ。以後、気をつけようぉ』


「おーい。チハルぅぅ」とマサミちゃんたちが近づいてくる。

「マサミちゃぁぁーん。確認したのぉぉ―」と遠くへ、声を返すチハル。

「なぁぁにぃぃ―」と返事が帰ってきた。

「しがいぃぃぃ―。浮いて来たぁぁぁぁ―」


「あ!?」とマサミちゃんたちは引き返した。


「チハルどの。どうやら逃げられたようだのぉ」どこ吹く風の聳孤(しょうこ)

「えぇ? えぇえぇぇぇ! あれ、一撃で倒しますって宣言してましたよね」

「すまぬ。向こうも気づいていたようだ。ギリギリで逃げ延びることができたのであろう」


「おーい。チハル。いないよぉぉ―。どうしようぉぉ―」

 マサミちゃんがピヨコの上で肩を落としていた。


 ――その時だった。

「はっ! ロン!」とチハルは浜辺がある陸の方を振り向いた。


 そこには上陸しようと這い上がってきたグロテスクなヒトデのようなウネウネが移動していた。

 その表面は焦げただれ、内臓が飛び出して体液で海面が汚れていた。


 そのさらに先にちょこんとロンが待ち構えている。


聳孤(しょうこ)様。急いで下さい!」とチハルは聳孤(しょうこ)に呼び掛けた。

『うむ。急ごうぉ!』と聳孤(しょうこ)はそこから急スピードで飛び出した。


 それに気づいてマサミちゃんたちもあとに続く。


(……ロンだったら。あれを止めていてくれるはず)

 焦るチハルは聳孤(しょうこ)のたてがみをぎゅっと握った。


 ――ところが、ロンは砂浜でこうなるかもと思い待機している。

 その場からチハルたちの戦いをずっと見守っていたのだ。


 海面から姿を現した宇宙怪獣エイドリアンは軟体生物。

 ゆっくりと巨体をずるずると引きずり、ロンに近づいていた。


 そこでロンは先手を打った。

 空に大きな黄金色の半透明な小槌を「ポン!」と出現させる。


『うむ。小さくなれ。……《パルウゥス》』と唱えた。


 ――小槌は振り下ろされる。

「ピッコォォーン」と甲高い衝撃音と共に一瞬にして目の前の巨体は小さな小さなヒトデとなった。


 ゆっくりと近づくロンは、上から覗いてひとこと……。

『お主も、哀れよのぉぉ』と情けを掛けて前足で「ぷちっ」と踏みつぶした。


 これにて宇宙怪獣の退治は終わった……。


 上空を漂うチハルはその光景を一部始終ながめて思った。

「……ロンを最初から連れていけば良かったんじゃない?」


 マサミちゃんたちもロンの行動を見ていて固まっていた。

(……だよねぇぇ)


「あやつはいつも、美味しいところをもっていくのぉ。ハハハ」聳孤(しょうこ)は大いに笑った。

 チハルたちも笑うしかなかった。


 こうしてまたしても宇宙怪獣はチハルたちの手によって倒されたのだ。


 ――海の(ほこら)の前に行き、マサミちゃんとロンとチハルは戦勝報告として目を(つぶ)った。


 守護神様はうっすらと姿を現し、チハルたちに礼をする。

『ありがとう。マサミ。チハルさん。ロン』


『いえ。守護神様。今回はチハルとロン様のおかげです』とマサミちゃんが言う。


 それを聞き守護神様はこう伝える。

『いいえ。みなさん。全員の協力でこの海を守れたのです。誰が欠けても倒すことはできなかったと思います』

『はい。ありがとうございます』マサミちゃんは笑顔で答えた。


 守護神様も笑顔を見せたあと、チハルの方を向いてお願いする。

『チハルさん。マサミと仲良くしてあげて下さい。同じ立場の人間は中々、出会わないと私は思っています』

『はい。そうさせて頂きます』とチハルも返した。


『では。このたびは、ご苦労様です。私からあなたたちに新たな力を授けます。マサミ。チハルさん。どのような力かは、それぞれの神獣から聞いて下さい』

『『はい。ありがとうございます』』


 ――無事に報告も終わりマサミちゃんちに帰ろうとする。

 夕日が沈む海に照らされ、砂浜をゆっくりと歩いて行く。


「チハル。今日はうちに泊ってな」とチハルの前を歩いてたマサミちゃんが振り向いて言った。


「ううん。マサミちゃん。今日は帰るよ」

 ふっと思うところがあってチハルもそう伝える。


 ……そう、ロンがいつもより静かにしているから。


「そっか。また連絡する」マサミちゃんも何となく気づいて諦める。


 荷物を引き取りマサミちゃんのお父さんの車で駅まで送ってもらった。

 車中では楽しく会話は弾んだ。


 ――駅の切符売り場の前。


「では。今日はお世話になりました」

 喧騒の中、チハルは二人に挨拶をする。


「チハルちゃんも、また来てくれなぁ。うちのマサミも楽しみにしとるから」と笑顔で見送ってくれるマサミちゃんのお父さん。


「またなぁ。チハル。うちも何かあればいくから」とマサミちゃんは少しだけ目が潤んでいた。


 電車が来たので改札口のところでマサミちゃんたちに手を振ってホームに走っていく。

 見送りを終えたマサミちゃんとお父さんは駅舎を出て車に乗った。


 ……その日も、いつも通り夕焼け空が、綺麗だった。


ラシオです。

最後まで読んで下さいまして、ありがとうございます。

続きは次週に投稿します。

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