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過ぎ去った日々

 ――見事に(うわさ)が立たなくなったころ。


 「人の噂も七十五日とよく言ったもんだ」と誰かが口ずさんだ。

 そんなことを通りすがりに聴いた私。チハルは足早に商店街を駆けて行く。


 一時的な宇宙人フィーバーと化した商店街は、例の宇宙人を見ようと全国から観光客がたくさんやってきた。

 もちろん外国人観光客も多い。どこかの研究者風の団体さんも来ていた。


 それを目の前にして商店街青年会の老若男女たちは戦った。

 一生に一度のビックウェーブに果敢に挑み、ありとあらゆる商品に「宇宙人(・・・)」のキーワードをこじつけて……。


 宇宙人まんじゅうはお約束として宇宙人ダイコンといったさきっちょが二股に別れたダイコンも売られていた。宇宙人タピオカミルクティーとか、宇宙人トレーニングベンチとかもあった。それに宇宙人ゼリーといって、からし味とわさび味が各一個だけ含まれたこんにゃくゼリーがなぜか、一番売れたとかは謎だ。


 その革命も失敗に終わり通常運転の商店街に戻っていった……。

 宇宙人を見つけることが出来なかった観光客の姿も消えた。


 パン屋さんのナルミさんは、私が頼んだ米粉パンを袋に詰めながら、この話をしてくれたのだった。


「とまあ、うちの旦那もさぁ。頑張ったんだけどねぇ」

「あれですか? 緑色の抹茶風味のアンパン」と私はガラス越しに見えるように詰まれた謎パンを指差す。(……宇宙人アンパンというらしい)


「そう。でもね。出だしは中々売れたのよ。ホホホ」

 ナルミさんから色々と話を聞き終え、私はお店を後にした。


 丘の上にある神社も観光客でにぎわい。「地域経済を十分潤すことができたのだろう」と学校の先生が自慢気に言っていたのを憶えている。


 パパは出版社の人たちに拉致られ、ホテルに監禁されて戻って来た時にはやつれていた。

 ……それはパパが悪いので何も言えない。


 近々、映画「ポンチーロンちゃんセカンドリーチ(仮)」が製作されるらしいと教えてもらった。


 ――さて、私はいつも通りの日常を過ごしている。


(……宇宙人さん。来ないで下さい)を毎日千回以上も念じた日が懐かしい。

「あれはなんだったんだろうか」と思いたくなるくらい平穏な日々を送れている。


 また、宇宙人の頭が角の長い牛だったせいか。新たな般若説が生まれた。

 般若は古代のミノタウロスなのか鬼なのかという言い争いにまでなったとか。


 この前だったが、その新しい般若のお面を被って三輪車で「キコキコ」と近づいてきた近所のこどもになんらかの奇妙(シュール)さを感じる。


 私の環境は完全に宇宙人だらけになってしまったんだろうか。


 だが、私にも収穫があった。宇宙人三人の連携を見て、空手の団体形に使える体捌(たいさば)きを得られたからだ。


 ……でもね。彼女たちと素手で戦っていたら私は死んでたと思うよ。

 フルコンタクトだし、蹴り技が変則的でめちゃくちゃ早かったし、間合いに入っていたら危ない危ない。「ぶるっ」


 そうなるとロンが作ってくれた武器はとても強力だった。なんだかんだといっても、今回も聳孤(しょうこ)様に助けられたような気がする。

 一度、きちんとお礼をいう機会を作らないといけないよね。


「ただいまぁぁー」と玄関ドアを開いて台所に移動して頼まれていた晩御飯のお惣菜など諸々を冷蔵庫につめて、二階に進む。


 ロンは普段から部屋にいる。私が帰って来ても喜んで一階に下りてきて出迎えることなどはない。


 だが、ころごろは暑い日が続くせいなのか。部屋に入って見れば、涼しくなっている。

 ――しかも、適温だ。


 それはというとロンは賢い。普通に喋るんだったら教えればできるよねと思うが、ロンは私とお兄ちゃんが、エアコンの温度調整をするときに使っているリモコンの操作を見て覚えたのだ。ル()ムエ()コン取()()書なしで……。


 さらにだ。リモコンのボタンの蓋を「ぱかッ」と開けて細かいボタン操作まで完璧に知っている。

 唯一無二のタイマー設定ができるキツネ。――恐るべし。


 よって、宇宙人から(ほこら)を守る指令ルーム。チハルの部屋は完璧に温度管理されている。


(……そうだ。そろそろ、エアコンのフィルターを洗わなくちゃね)

 これはエアコンを買ってもらったときの約束ごと。洗ってくれる小人の宇宙人さんはいないのだ。


『チハルちん。お帰りぃぃ。ポテトチップス買ってきたぁ?』


 学校から帰ってくるとお決まりのフレーズで出迎えてくれる。

 この時ばかりは尻尾を振って目をキラキラさせているロン。


 なぜ、ロンはポテトチップスを要求するかと言えば、買い置きしていると全部食べてしまうからだ。昨日買ってきた分は食べてしまって無いのだろう。


 ある日のことだった。パパが狭い庭の物置に買ってきたポテトチップスを隠していたが、それも見つけて食べてしまう事件が起こった。

 だから、うちでは買い置きはせず、当番制でお菓子を買ってくる御触(おふれ)ができのだが。


「ない。買ってきていない」

『なぜじゃ。なぜ買って来ないのじゃ。妾への供物を忘れたのかぇ』と肩を落として残念がるロン。


「怒んないでよ。そこで、変わりにアイスを買って来たよ」

『アイスぅぅ?』少しロンの反応が弱い。

「氷菓子だよ。食べたことないでしょ」


『うぅぅ。チハルちん。このまえなぁ。お兄さんが食べてたやつかぇ?』

「多分そうだけど」(……先手を越されたか)

『あれなぁ。あれ。お腹が冷えるからあまり好きくないのじゃ』


「そうなんだ。……それも考えて、はいこれ」

『おおぉぉ。これは……。守護神様へのお供え物じゃ…… えぇ。妾が食べてよいのかぇ』

「うん。多分、これなら大丈夫だよね」


 それは、ぼたもちだった。たっぷりと餡子(あんこ)が塗ってあるやつ。


 ……そうなんだよね。少し暑くなり始めたときには、渋いお茶とぼたもちを食べるとほっと落ち着くよね。


『うんうん。ありがとうなぁ。チハルちん』

 ロンはにっこり笑った。


ラシオです。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

少しでもGWの楽しみになれば幸いです。3話投稿します。

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