救出作戦
私たちは作戦通りに編成を組んで現地に向かい、神的防壁の周辺をうろつく、ブラウニー星人の掃討作戦を行なう。
上空から一度、偵察して所定の配置に着く。
「みんな、予定通りに始めるよ」
「「了解」」
こちらは全員、護符を持っているので座標を確認して遠方攻撃を開始した。
着弾を確認するため、私は前に海の守護神様から授かった力を使う。
【千里眼】
裸眼で自由自在に遠くのものを見る力。
マサミちゃんは既に使っているが、私が使うのは今回が初めてとなる。
機能が凄いが、使う機会が無かったからね。
うん、よく見える。しかし、神的防壁が邪魔だ。
力を使うと白い壁が見える。……力を停止すると通常の視力で向こう側がぼんやりと見える。
うむ、不思議な感覚だ。……でも、端の方はくっきりと見えるからね。
始めに左右の端からヤツらを追い込み、奥へと押し込むように攻撃をお願いした。
前方にはやんちゃなカイチ様が暴れまくっている。これはこれでよし。
その後ろをアズネさんが逃げたブラウニー星人を槍で刺していた。
うん、頑張っているね。
それを支援するコハクの鉄球攻撃。
そして、左翼を見れば、マサミちゃんとピヨコが上空から爆撃している。
踊るように逃げ惑うブラウニー星人たち。これはこれで良い。
右翼はユイナさんの魔法の矢で絨毯攻撃を行い、ブラウニー星人の敗走経路を誘導している。――順調だ。
まさに完璧な、先制攻撃である。これまでの苦労が思い出されるよ。
突然の襲撃にブラウニー星人たちに反撃する暇を与えず、攻撃を継続した。
奥の位置に敵が集結すれば、何らかの反撃があるかも知れないが、そもそも襲撃に備えていなかった時点で、今回は警備か監視程度に配置されただけだろうと推測する。
これが防衛体制をきっちりと敷いているヤツらなら、こっちの想定通りに反撃してくるはずだ。だが、こちらの予想が大きく外れて少しガッカリさせられる。
油断させて引き込まれ殲滅を狙っていることも考えるが、しかし、徒歩での移動範囲から見て敵が奥に敗走して、そこから何らかの反撃とするとしても、それなりに時間は掛かる。
だが、それも想定済み。所用時間内にきっちり完了できるから問題なし。
正面が開けば、そこから私が中に踏み込む。
その先は守護神様から授かった力は使えないが、これまで鍛えてきた身体能力を活かして小山を登り聳孤様と合流するのだ。
聳孤様の姿は神的防壁の外から見えるとコハクからは聴いている。
だから、上空からマサミちゃんと連携して予定通りに爆撃をする計画だ。
そうすることで無事に聳孤様を救出して撤退するまでの時間は確保できるはず。
『チハルちん。そろそろ、中へ突入するのじゃ』
「ロンは待っててね」
『いや、妾も一緒に行く。先頭を進んで道案内するのじゃ』
「キツネらしいことするのね」
『妾はキツネじゃぞ。なんだと思っている』
「よろしくね。ロン」
『あい。分かったのじゃ』
念話でみんなに連絡する。
『ユイナさん、アズネさん。これより突入します』
『気をつけてくださいね。チハルさん』
『チハルちゃん。無事に戻って来るよね』
『任せて下さい。――マサミちゃん。手筈通りGPSで確認してね。合図を送ったら指示した地点に爆撃をお願いします』
『チハル。分かっているよ。さっき、アズネさんが神的防壁の中にスマートフォンを入れて確認とれたから、大丈夫!』
そうなのだ。アズネさんが先陣をきって、前方の敵を排除しつつ確認してもらったのはこれだった。
神的防壁の中は、携帯の電波が通るのか。
そして、GPSがちゃんと機能することを確認したのだ。
これで私が突入しても、現在位置を把握できる登山用GPSアプリも、しっかりとスマートフォンにインストール済みである。
前々からスマートフォンを手にした時から、これはこれで準備して来ているから完璧だ。
(携帯電話会社さん、ありがとう)と心の中でささやく。
「では、チハル。参る!」
*
山のある場所まで来ると空中で戦う黒服の男と聳孤様を発見する。
『チハルちん。どうするのじゃ?』
「いきなり爆撃を開始しても避けられるだけだから、相手を油断させる必要があるの。でも、中に入って見たけど、……ロン。これって守護神様から見えなくするだけで、普通に力が使えるんだけど、何の意味があるのかなぁ?」
『守護神様はのぉ。前に聴いていると思うが、未来を見通せる力があるのじゃ。だから、妾たちが向かっても必ず死なずに戻って来れるのじゃ』
「そうだったね。と、言うことは、今回は私たちの実力次第ってことになるのかぁ」
『そうじゃ。今までは、守護神様が安全に導いてくれているのじゃぞ』
「守護神様にお礼を言わなくちゃね」
『うむ。チハルちん。そろそろ、向こうに気づかれるぞ』
「大丈夫。聳孤様が、……ほらね」
私とロンが聳孤様のところにゆっくりと近づく。
『やっと来てくれたか。チハルどの。ロン』
『助けに来たぞぉ。聳孤』
『聳孤様、無事で良かったです』
『うむ。これで揃ったな。では、奴を倒そうぞ!』
私の姿を見た黒服の男が驚く。
「……ここまでやってくるとは、外の連中はどうした? なぜ、無事にここまで来れた?」
「甘いね。それでよくまぁ。何と言うか。こちらも総力を掛けて攻撃しているからね。お仲間さんは、みんな逃げたよ。あなたはどうするの?」
「さすが、これまで襲撃しても勝てる者が、いなかったと聞くが、こんなにあっさりとやられると、こちらとしても清々しいぞ!」
「そんな冗談を言っている余裕があるの?」
黒服の男に気づかれないように『聳孤様。私を乗せて、背後に数キロほど、逃走願います』と念話で指示を伝える。
『チハルどの。何かを仕掛けるのじゃな?』
『はい、ロンも合図したら、お願いね』
『チハルちん、分かっておる』
「ひとつ聞くけど、あなたは『レッドキャップ』という連中の仲間なの?」
「ほう、ミディアルから聞いたのか? そうだが、お前たちとは関係なかろう」
「じゃ。なぜ、私を襲ったり、この場所に狙ったりしてるの?」
「お前は、そんなことも知らずにこちらの邪魔をしていたのか?」
『チハルちん。今はヤツと対話する余裕はないぞ』
『そうだったね。とりあえずは聳孤様を救出してからが良いよね』
『チハルどの。実はそうもいかんのだ。ロン! きちんと説明せい!』
『……分かった。聳孤。仕方あるまい、チハルちん。状況を話そう』
『何か、トラブルでも起こったの?』
『……どうやらヤツが、この地面の下に眠っている宇宙怪獣を目覚めさせたらしいのじゃ。だから聳孤が留まって、時間稼ぎとしていた』
『あれ、さっき、封印を解けないハズとか。言ってなかったかな?』
『……すまぬ。チハルちん。妾が侮っていたのじゃ。まさかな、秘術を知っておったのかぇ? それに神的防壁を使った理由が解ったのじゃ』
『チハルどの。これより先はかなり困難になるかも知れん。もしもだが、仲間たちを連れて来ているなら一緒に避難するがよい。奴は我が抑え込む』
『いや、それはどういうこと? わけが分からないんだけど、もしかして、……倒せないヤバいやつが出て来るの?』
『そんなところじゃ。チハルちん』
『でも、目の前のあいつを先に倒せは防げないの?』
『それは手遅れじゃ。宇宙怪獣が目覚めるのを気づかれないようにするため神的防壁が張られていたのじゃ。……妾もこの場所に立ってそれが分かった。
地面から湧き出る邪気――これはここに来ないと分からないものじゃ。
……もう、何千年ぶりかのうぉ』
『そんな暢気なこと言ってて良いの? ロン』
『ロン。チハルどのに呆れられているぞ!』
『本当はのうぉ。チハルどの。ここに眠る宇宙怪獣を再び、倒すために守護神様が、お主たちを導ておったのじゃ。今まで秘密にしていてすまぬ』
――このとき、私は小町さんが言っていた言葉を思い出す。
『うん。小町さんから聞いていたから驚かないよ。……ロン。これから現れる宇宙怪獣を倒すんだよね』
『そうじゃ。すまぬのう。チハルどの』
「おいおい、お前ら。黙ってないで何か言わぬのか? お前たちに言っておくが、既に事は終わっているのだから何も出来んぞ。それを知っていて、俺様の邪魔をしたところで、どうするつもりだったのだ」
「そんこと、今知ったから、こちらも相談しているところだよ。少し黙ってくれないかな」
「ハハハハハァ、……チハル。いい加減に悪足掻きするのはよせ。これから起こることは、この星の最後になるかも知れぬが、宇宙の新しい目覚めでもある。
悲しくも、お前たちは最後に見届けるが良い。……おーい、聞いているかぁー」
『どうなるか。分からないけど、やるところまで頑張ろうか。ロン』
『うむ。こちらにも考えがある。もちろん、余裕じゃ。チハルちん』
『我も、まだまだ大丈夫だ!』
『では、聳孤様、一旦退避して、まずは邪魔な目の前の宇宙人を排除します。それから本題の宇宙怪獣を叩きましょうか?』
『それでこそ、チハルどのだな』
『はい、お任せください。では……』
――上空から黒い筒状の物が多数、落ちてくる。
『――聳孤様ぁ。お願いします!』
私とロンは聳孤様に飛び乗り、この場所から撤退した。
マサミちゃんの攻撃が着弾すると同時に神的防壁が崩れた。
外へ飛び出すまでもなく、私はみんなに念話を送る。
『みんなぁー。これから宇宙怪獣が出て来るよぉー』
『えぇー。やっぱりかぁ~。チハル』
『チハルさん。こちらの排除は終わってますよ』
『チハルちゃん。無事だったんですね。それで宇宙怪獣って、どこに出ますか?』
『皆のもの、山頂が崩れると現れるのじゃ。気をつけよ!』
『ロン。てめえ。やらかしたな?』
『カイチ。今回は我の失態だ。ロンを責めるな』
『聳孤。てめぇもかぁ』
『カイチ。誰も死なせなければ、問題ないでしょう』
『コハク。あいつを相手して無事でいれる者はいねぇー。そんなこと言って、大丈夫なのかぁ』
『失敗しても逃げれば良い。カイチ。前回の戦いで妾たちも学んだ。無理はするが無茶はしなければ良いのだ』
『てめぇが言うかぁ。ロン』
『ここは妾に力を貸してくれ。カイチ。お主もいなければ、何ともならん』
ぞのとき、地震が発生する。――轟音を轟かせ、地面が大きく揺れた。
空にいる私たちとマサミちゃんは何も影響はないが、さっきまでいた山の山頂部が目の前で崩れ砕け落ちる。そこに大きな落盤が発生したのだった。土煙をあげて、ぽっかりと大きく陥没した穴が見える。
アズネさんを乗せたコハクが上空に飛び出て、その様子を見ているが、これはコハクがやったことではない。
この地震と陥没が、ついに宇宙怪獣が目覚めたのだとロンが言う。
あの黒服の男。『レッドキャップ』の宇宙人はどこへ行ったのだろう。
護符で確認しても山のところには赤い点滅が消えている。
また逃げたのか、それとも陥没した穴に落ちたのかは分からなかった。
赤い点滅が遠くの方へ敗走して固まっているブラウニー星人の集団は確認できたのだが、ヤツがそこに合流する理由が無い。
しかし、今は目の前の敵を叩くので精一杯だ。
私たちに追走する余裕は無かった。
カイチが迎えに行き、ユイナさんを乗せて上空で合流した。
「チハルさん、お待たせしました」
みんなで陥没した穴の中から何が出て来るかと。見ていると穴の奥から空に向かって長く、おどろおどろしい黒いウネウネした触手のようなものが伸びる。
『チハルどの。ここは一旦、安全なところへ避難するか?』
『いや。なんか嫌な感じがするから、今のうちに攻撃する方法は無いの?』
『では、チハルどの。試してみよう!』
「ゴロ、ゴロ……」
空に雨雲が集まり黒い渦が巻く。
「ピッシャャャャ――――――――ン!!」
「ゴギャギャギャギャャャャアァァァァァァァァァァァァ――ン!!」
大きな雷鳴が、この一帯を破壊するかに思えた。
聳孤様の必殺技である『雷撃』を穴に落として見たのだ。
――すると触手が地面に大きな音と立てて倒れた。
『……やったのか? 聳孤』とカイチが訊く。
『ロン。あれは効いておらんなぁ』
『妾にも、そう見えるのじゃ。チハルちん。今回は剣では倒せるか分からん』
「チハルさん。どうしますか?」とユイナさんが尋ねた。
「ユイナさん。姿を見せたところで一斉攻撃を仕掛けるけど、今回の相手からすると結果は想像がつくけどね」
(これって、私ではどうにもならんかも……)
「ロン様。あれ、海で戦ったやつと同じなのか?」
『そうじゃ。マサミどの。あの時と同じ種類の宇宙怪獣じゃ。
しかし、今回のヤツは手ごわいぞ。空に浮かぶからのうぉ』
(そんなの、聞いてないんですけど……)
「どうするの? ロン」とコハクが尋ねる。
――そして、ついに全体の姿を現す。
漆黒のウネウネした泥団子みたいな塊が穴から浮かび上がった。
一瞬で畏怖する。……これは、あかんやつと感じてしまう。
「ロン。どうするの?」涙が出そうになる恐怖。
とんでもないものが出て来たんじゃないと後悔するばかりだ。
こんばんわ。ラシオです。
読んで頂いきましてありがとうございます。
次回はロンの秘密の力が分かります。
20時頃に公開します。




