黒いやつ
あれから数日後。私たちがミディアルたちのところで宇宙人の情報を聴いた話を小町さんにも伝えた。
後日、ミディアルたちの屋敷に小町さんも訪れたとハイエルちゃんから連絡をもらう。
なんだかんだと祠を襲う宇宙人が減ることを願って話が良い方向へ進んでいると思いたい。
でも、情報の共有が出来ただけ、これと言ってミディアルたちがどのようなことをするかは解からない。
*
――学校の授業が終わり喧騒の中。
「キーン、コーン、カーン、コーン……」
校門を出て友達と別れて自宅に帰る途中、ふっと気になって私はひとり、いつもと違う別の道を通って(トボトボ)歩く。
「お前が、チハルか?」
背後から低い男性の声が聴こえた。
私は距離を取って振り向くと……そこには細身で黒いニット服とサバイバルパンツ姿の男性がいた。
「我々の邪魔をする奴は、許さないぞ!!」
その男は私に向かって、怒りをあらわに声を上げた。
危険を感じて、この場はロンに念話で状況を連絡する。
(……しかし、ちょっと早い感じがしたが、やっぱり現れたのか)
ここで焦っても仕方ないが、ミディアルたちから説明を受けて数日が経つ。
私はこう言うことも想定済みである。
だが、相手を見れば、ここで素手でやり合っても勝てるかどうか。
よし、とりあえずは逃げようと、私は聳孤様を召喚した。
上空から姿を現して舞い降りる。――麒麟、聳孤様。
『状況は把握した。我が立ちはだかるゆえ、チハルどのは逃げよ』
「うん。お願いします。聳孤様。危険なら知らせて下さい。ロンと合流したらすぐに戻ります」
『うむ、任せよ。チハルどの』
「ククク、……忌々しい奴だ。チハル。そんなもので俺様を倒そうなんて無理だぞ!」
(……言うだけ言ってろ)
何も語らず、その場から素早く逃げるチハル。
聳孤様がチハルを隠すように男の前に出てる。
すぐにブロック塀の角を曲がって、私は走りながらSNSでミディアルに連絡を入れた。
そのまま、自宅の方に走って行くとロンと合流する。
『チハルちん。大丈夫だったのかぇ?』
「うん、でも、聳孤様が抑えてくれているから、早く合流しないとダメだよね」
『あい、分かった。これを受け取るのじゃ』
緊急用にと、用意している縮小化されたショルダーバッグを受け取る。
そこにロンが呪文を唱えて元のサイズへと戻してくれた。
バックの中からゴソゴソとサバイバルナイフを取り出して、予備のバクダンも確認する。
『チハルちん。あの護符で様子を見るのじゃ』とロンが言う。
「そうだね。ちょっと待って……」
バックの横のポケットから取り出した護符を握り、私は目を瞑って、この場所一帯の地図を頭の中でイメージする――赤い(ピコピコ)点滅がひとつ。
……やっぱり、あの男は宇宙人だった。
「うん、さっきの場所にいるみたい。聳孤様が心配だね」
『なら、準備するのじゃ』
ロンはサバイバルナイフに呪文を掛けてくれた。
大剣へと変わっていく……よし。
『チハルちん。向かうのじゃ』
大剣も背負い、聳孤様のところへとロンと一緒に駆け出す。
――対峙する黒服の男と聳孤様。
少々、苦戦していた聳孤は、背後に到着したチハルとロンに気づく。
『チハルどの。ヤツは手強いぞ。心して掛かれ!』
聳孤様の隣で大剣を構えるチハル。さらに隣にロンが並んだ。
「うん。これで三対一だよ。まだ、抵抗するの?」
黒服の男は両手を上げて、こう言った。
「ハハハ、良いものが見れたぞ。では、ご厚意に甘えて退散させて頂く」
黒服の男の姿は、その場で白い煙を出して消えた。
「えぇっ。忍者か?」
護符を使ってみるが、赤い点滅も赤い点すらも、消え去り完全に行方が分からない。
「ロン。どこに行ったのかなぁ?」
『うむ。チハルちん。やつは完全に逃げたようだのぉ。ここは守護神様に相談に行くのじゃ』
その前に聳孤様を労う。
「聳孤様、ありがとうございます。また、助けて頂きました。このお礼はいずれ致します」
『そう、かしこまらなくても良い。次も危機が迫ったなら、すぐに呼ぶのだぞ』
「そうさせて頂きます。聳孤様」
『では。さらばだ!』聳孤は姿を消した。
「それじゃ。ロン。守護神様にへ向かいましょう」
『あい。分かった』
――そして、いつもの社に向かい、祠の前で目を瞑る。
眼前に現れる天女は少し表情が曇っていた。
『ご苦労でしたね。チハル、ロン』
『はい、さきほどの男。あの宇宙人はどこに消えたのでしょうか?』
『こちらでも、探知できないわね。でも、心配は要らないわ。近々、襲ってくることも無さそうね』
『それでは、私たちも大丈夫でしょうか? または他の守護神様へ狙いを変えたとかは?』
『あなたたちは大丈夫よ。それに他の祠も大丈夫のようね』
『では、あやつは何者だったのでしょう?』
『それについて、チハル。ひとつ頼みたいことがあります』
『はい、何なりと出来ることであれば、引き受けます』
天女は礼を言うと、小町さんを尋ねるように言われた。
(さっきの宇宙人に詳しいとのこと)
ロンは誰のことかは知らないので、ハイエルちゃんから紹介された祠を守る人のひとりと説明する。少しだけ機嫌が悪くなるロンだが、私が勝手に会いに行ったわけでないので怒りはしなかった。
週末にロンを連れて、小町さんの住む旅館を訪ねることにした。
*
「いらっしゃいませ」
私は初めて見る。――小町さんの旅館で働く仲居さんの女性に挨拶された。
「あの、小町さんと約束していた者です」
「はい、チハル様でしょうか? 女将から言伝を承っております。では、こちらの方から中へ、どうぞ」
仲居さんに案内されて向かう先は、この前に訪れた和室だった。
部屋に入ると、お茶を用意してもらい「では、こちらでお待ちくださいませ」と優しく微笑み、仲居さんはスタスタと元の場所へと戻って行った。
「ありがとうございます」と礼だけ言っておく。
『チハルちん。ここが守護神様が言ってた人のところなのかぇ?』
「そうだよ。これから会う人は、私より昔から祠を守っている人だよ。ロンが眠っている間、ひとりで他の祠も守っていたんだって」
『ふ~ん。守護神様も妾に話さないことがあるのじゃのぉ』
「そうなんだね。ロンもすべて知っているわけじゃないんだね」
『それはのうぉ。妾も畏れ多くて訊きづらいこともあるのじゃ』
奥の部屋から和服姿の小町さんが、すっと現れる――ロンに目を配る。
「おや、そちらが、チハルの神獣様かい?」
「はい、他の神獣様とは別の特別な、神獣ロン様でございます」
「そうかい。――神獣様、私は、この近くの祠を守るように託された者。小町と読んで下さい」
『うむ。……お主。半分、人でないな?』
ロンは私と小町さんに聴こえるように念話する。
小町さんは座卓テーブルを挟んで目の前の座る。
『はい、そうですが、それが何か?』と小町さんも念話で言葉を返す。
『――気を悪くしないでくだされ。少々、珍しかったもので、すまなかったのぉ』
『いえ、初めてお会いする神獣様は、みな同じことを申します』
小町さんは、ここまで念話すると通常の言葉で私に訊いてきた。
「では、チハル。話とは、なんだね?」
「はい、守護神様から小町さんなら知っていると訊きました」
目線を下ろして吐息する小町さん。
「――現れたんだね。黒い恰好をしていたかい?」
「よくご存じで、正体を知っているのですか?」
「予想通りだよ。その様子だと、向こうも慌てているのかね。……となれば、あれかい?」
少しばかりの緊張感が漂う。
「チハルちゃんのところに何か、仕掛けて来たかい?」
「いえ、祠を狙われたわけではないですけど、こちらが神獣様を呼び出して対峙したところで逃げられました」
「そうかい、こちらも準備が必要だね。これを持って行きな」
小町さんが座卓テーブルの上に置いたのは、石のようであるが重さと形が一致しない、どこか不思議にもので硬さだけは触った感触から何となく分かる。ロンも見たことが無いらしく首を傾げる。
「小町さん。これは何ですか?」
「その破片は、いつぞや、その黒い恰好の連中と戦ったときに落としていった物だよ。それをミディアルに渡して調べてもらえば、何か解るだろう」
「分かりました。お借りして行きます」
「いや、私は要らないからミディアルにあげておくれ」
そのあとにロンと小町さんの間で念話で会話があったが、私は外されて少し拗ねて見せた。
まぁ、聴かない方が良いことは黙っている。余計なことには首を突っ込まないことにしているが、かなりいろんなことに巻き込まれている。
(ふふん。私だけロンと違う。今川焼買って帰るもん)と意固地になる。
「チハルちゃん。すまないね。ロンを借りてしまって、昔のことを聞きたくてね」
「いいえ、余計ことには関わらないようにしてますから気にしないで下さい」
「そうかい。……その方がいいかもね。それとミディアルたちのところには、いつごろ行くのかい?」
「では、早速明日にでも……あっ、そういえば、小町さんは深緑色の背の小さな宇宙人はご存じですか?」
「やれやれ、やつらもやって来たのかい。こりゃ大変になりそうだね。そいつらは『小鬼』だね。ブラウニー星人と呼ばれる連中さ」
「ブラウニー星人って言うんですか……どうのように大変になるんですか?」
「あいつらは俗に言う神隠しと呼ばれる方法で人をさらうのさ。チハルちゃんも気を付けな、やつらはかなりしつこいからね」
「小町さんは、ブラウニー星人と何かあったのですか?」
遠くを見るように部屋の天井に目を移し微笑む小町さん。
「――まぁ。そんなこともあったね。でも、ほとんど殲滅したら来なくなったけどね」
……この人はどんだけ暴れているのやら。
こんばんわ。ラシオです。
読んで頂いきありがとうございます。




