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山の守護神様

※チハルは神獣たちを引き連れて戦います。

 ――しばらく経ったある日のこと。

 私。チハルは久しぶりに守護神様からのお願いにより、ただいま電車で移動中。


 子ぎつねのロンを連れて遠くの神社に参拝とハイキングに行くとママに嘘をついてやってきた。


「さあ、そろそろ着くよ。ロン」


 子犬用のバックを開けて、電車の窓に乗り出したロンは外の風景を懐かしむ。


『きましたのじゃ。懐かしいのぉ』


 一人と一匹は、小さな無人駅で降りた。

 ひとけの少ない駅舎を出て周りを眺めるが何も無い。――林ばかり。


「さてと、ここから山登りだよね」とチハルは子犬用のバックを畳んでリュックにしまう。


 目的地は、ここからハイキングコースを歩いて少し登った先にある野原。

 普通の人達は早朝から来ていて近くの山頂を目指すので今の時間帯はほとんど人に会わないらしい。


『チハルちん。それなぁ。ここの守護神様にお願いするとよいぞぉ』とロンは足元からチハルの顔を覗き込む。


 チハルは(まぶた)を閉じてロンに言われるまま、来る前に守護神様から教わった。呪文の詠唱(念仏)をはしょり呼び出した。


「山の神にお願い……」


 空がモクモクと曇り出して風と共に天から――その姿を現した。


麒麟(きりん)聳孤(しょうこ)

 荒々しいくも青く長い、しっとりとした艶やかな、そのたてがみは「ふわぁっ」と風になびいている。


『待っておったぞ。ロン。ひさしいのうぉ』

『きてやったぞぇ。聳孤(しょうこ)どの』とロンも笑顔いっぱいに聳孤(しょうこ)を眺める。


 聳孤(しょうこ)もまた、神獣と呼ばれ、全身は青い鱗に覆われ馬の蹄を持ち、鼻筋が通った美しい顔貌(かおかたち)の若い麒麟(きりん)である。


『さあ。急ぐのじゃ。我に乗れ!』

 チハルたちに背負向けて乗りやすいように少しかがむ聳孤(しょうこ)


「では、お世話になります。よろしくお願いしますね」

 恐る恐るチハルは聳孤(しょうこ)の背中に飛び乗りたてがみを(つか)むと、ロンはチハルのリュックの上に乗った。


『ロン。お主も乗るのかぁ?』


『久しい間柄、妾も乗っても良かろう』と卑しい笑みを見せるロン。


『随分とダレたな……』聳孤(しょうこ)は、ため息をもらして小言をいう。


聳孤(しょうこ)様。もっと言ってやってください。このぐうたらギツネに説教をお願いします」

『あぁ。残りは後でしておこう。では、参る!』と掛け声を上げて、空へと駆け上がった。


「こ、これ、現実なの?」とチハルは宇宙怪獣よりヤバイんじゃないのと思った。


 ――さて、今回のお願いは宇宙人ではない。宇宙怪獣なんだそうだ。

 地球に降りて来たのが、幼体(こども)だったため、すぐに退治すれば、害は無いと教えられた。

 相手は、でかいミミズなんだとか。


『早速だが、チハルどの。ロンから聞いているから分かっておるよな』

「あのアスファルトの上で干乾びているニョロ助だよね」


 生きたミミズを見たことがなかったチハルにとっては、ニョロニョロした海の生物。ゴカイを思い出していた。

 パパに海釣りに連れて行ってもらった時に見たものだ。そのゴカイがちょっと大きくなっただけと思っていたので、リュックの中には、なぜかタッパーとスコップを用意してある。


 ちなみにパパは海鞘(ホヤ)とエラコを食べる。

 エラコはゴカイと同じ見た目のニョロニョロしている海の生物。


 なんでも、パパが昔に地方の海に行った時に酒のつまみとして出され美味しかったとか。


 正月にネット通販で取り寄せて、エラコを食べている姿を見せられた。

「パパがぁぁ。エイリアンに食べらたぁぁー」と言う寂しいギャクを見て。

「…………」家族みんなで引いたのは最近のことである。


 チハルもエラコをひとつ食べてみたが、自分にとってはエイリアンの味だった。

「ぶるっ」と悪寒を感じる。


『チハルちん。寒いのん?』

「ロン。大丈夫だよ!。聳孤(しょうこ)様、あと、どれくらいになりますか?」


『もうすぐじゃ。すまぬが少し急ごう。ロン。お主も気づいておるだろ』

『分かっておるぞ。チハルちん。少々、面倒になっているみたいだから気を付けてなぁ』

 神獣たちは宇宙怪獣の気配を察知していた。



 ――少し丘になっている場所へ降り立つ。


「この先に奴がおる。心して掛かれよ。チハルどの」


 場の雰囲気からチハルは思う。(……どんだけ巨大になってるんじゃ)


『チハルちん。先に武器を強化するぞぇ』


 チハルはパパがアウトドア用に持っていた播州三木打刃物ばんしゅうみきうちはもののサバイバルナイフを持って来ていた。


「ロン。お願いします」

 ナイフをロンの目の前に差し出すと……。


 その場で空に黄金色の半透明な小槌を「ポン!」と出現させた。

『うむ。大きくなれ。……《エトマグナ》』と唱える。


 ロンも守護神様から授かった力を使いナイフを巨大化させた。

 にょきにょきと大きくなり、取ってとなる柄が伸びて、刃身は黒い大剣へと変化する。


『これでよいかのぉ~』とその出来栄えに満足するロン。


「ありがとう。ロン。よいしょっと」

 チハルは軽々と大剣を持ち上げ肩に掛けた。これも守護神様から授かった力。


 その姿に頼もしく目を潤ませた聳孤(しょうこ)は、チハルたちに呼び掛けた。


『さあ。お主たち参るぞ! いざ!』


 ……チハルは頭の中でどことなく、法螺貝(ほらがい)の轟く音が聴こえた。


「おぉぉぉ!!」と掛け声を上げて全員で丘を駆けおりた。


 眼下の先にある平地の地盤が揺れて地面から巨大なワームが飛び出してきた。

「ドドドド。ドシャァァァァーン!」


「おぉぉ~!?」と驚くチハル。(……ヤバイくらいでかい)


『お主ら!! 気を引き締めて行けよ!』

 聳孤(しょうこ)のゲキが飛ぶが、チハルは目の前のワームでいっぱいいっぱい気味だ。


『チハルちん。妾が先に出るぞぇ。後ろに回るのじゃ』

 ロンが気を利かせて、おとりをかってでた。


「うん。わかった。ロン。気をつけてね」

 ドキドキしながらチハルは何も考えていなかったことに気づいて見送ることにした。


「しゅぴぃぃーん」とその場を離れるロン。あとはチハルと聳孤(しょうこ)だけだ。


 ワームはロンに狙いを定め頭部を右に向ける。肛環節(でんぶ)は地面に埋まっているままだ。


 チハルが聳孤(しょうこ)の前に飛び出して胴体に向けて大剣を振り下ろす。

「うおぉりゃぁぁー!」


 硬さが手に伝わり大剣を手放しそうになった。

「わぁぁ。なんて硬さ。手が痛い。チチチッ」


 聳孤(しょうこ)がチハルの隣に並び警告する。

『チハルどの。胴体に気をつけて、動きますぞ!』


「わかってる」チハルはその場を駆け足で離れ、巨体の攻撃をかわした。


「ドゴォォォォーン!」と大きな土煙が上がる。


 その隙をついて、聳孤(しょうこ)が胴体の上に登って噛みついた。

 ここでエラコを思い出して身震いするチハル。

 反対側にいるロンは正面でワームの頭部と対峙しながら、素早く左にヒョイと攻撃をかわしていた。


「ズドォォォォーン!」


「では。もう一丁! おりゃぁぁー!」とチハルが気を取り直して前に出て大剣を振り抜いた。


 そこに僅かにキズが入った。『では、我が行くぞぉぉ!』と聳孤(しょうこ)が素早く前足の蹄を傷口につっこみを引き裂いた。

(……麒麟(きりん)の足って、じょうぶなのぉ?)と驚くチハル。


「く、きゅちゃい!」と飛び出した体液の匂いにチハルはひるんだ。


 そのあとはチハルたちはワームの攻撃を巧みにかわしながら、約ニ時間の戦闘をつづけて、ついにワームを倒した。胴体は三つにちょん切れて地面に転がっている。


「くちゃすぎて、気持ち悪いようぉぉ」とぐったりするチハル。

『チハルちん。これで今回は終わりじゃ』無傷で勝利を微笑むロンと。

『ありがとう。チハルどの、ロン。亡き骸は我が処分しておこう』と喜ぶ聳孤(しょうこ)である。


(……こいつら、この匂い臭くないのか)とロンと聳孤(しょうこ)をジト目で見るチハルであった。


 ――こうして宇宙怪獣を何気なく退治して、山の神が(まつ)られている神社を訪れる。


『では。チハルどの。我が守護神様にお会いになられよ』と聳孤(しょうこ)に進められ、チハルは境内を通り過ぎて、裏の林の奥にひっそりと置かれた小さな(ほこら)がある場所へと案内された。


 チハルとロンは並んで、その祠の前で目を(つぶ)る。


『ありがとう。チハルどの。ロン』と姿を現した山の神に礼を言われてチハルは思う。


 ……宇宙人に狙われる祠がいくつあるのだろう。


『あのう。お聞きしたいことがあります』とチハルは山の神に訊いて見た。


『わしに答えらることがあれば、教えてあげよう』

『では。宇宙人から狙われている祠はいくつあるのですか?』


『うむ。わしが知る限り。八つかのぉ? ほれ、お主の天女に後で聴くが良い。わしよりは詳しいだろう』


『わかりました。聞いて見ます』

 あっさりと答えられて少しだけ、ほっとするチハル。

(……そうだよね。自分のところの神様に先に聞くべきだよね)


『それと、こちらもお世話なった礼としてこの翡翠の飾りを差し上げよう。危険になれば、聳孤(しょうこ)を呼び出すことができる品じゃ』


 これにはチハルも思わず驚いた。

 いままで、守護神様に言われるまま、粗野(そや)な宇宙人ばかり相手にしていた最中。こんな特別ボーナスがあるとは思ってもいなかった。

(……麒麟(きりん)が飼えるよ。麒麟(きりん))


『あのう……キツネをここに置いていっても構いませんか』

『ち、チハルちん。そんなぁぁぁ……』


 鼻水を垂らしながら大粒の涙をぼろぼろと流すロンが、口でチハルの服を一生懸命にひっぱる姿を見せた。


『ごほん。うむ。それはできん相談だな。天女の奴が困るだろう』

 コクコクとうなずくロン。


 やっぱりかと肩を落としたチハルはロンをジト目する。


『ところでロン。お主。日頃からチハルどのに迷惑を掛けてないだろうな』

『……はい。気をつけます』


 ロンも少しは反省したようにも見える。

 チハルは笑みをこらえつつも喜び勇んで、お(いと)することにした。


『では、わたしたちは帰ります。首飾りありがとうございます。大切に致します』

『よい。困った時は迷わず、使うのだぞ』

『はい。ありがとうございます』


『では、チハルどの。何かあれば我も呼んで下され』と後ろに控えていた聳孤(しょうこ)が「ぶるるん」と鼻息を荒げる。


 チハルはその姿に微笑む『うん。またね。聳孤(しょうこ)様』

 そのあと、ロンと一緒に神社に参拝して電車で帰るチハルであった。


 ――帰りの電車の中で。


『ありがとうなぁ。チハルちん』

聳孤(しょうこ)様がいてくれたから、思ったより楽だったよね』

『でもな。チハルちん。聞いておくれ。あれほど大きな宇宙怪獣(ワーム)が現れたとなると少々、厄介事が増えそうじゃぞ』


 それは聞きたくない言葉だった。


 ――家に着いた一人と一匹は、晩御飯のおかずを見て驚く。


 珍しく家族が全員揃ったとのこともあり、焼肉だったのだが、テーブルに置かれているユッケを見て……チハルは宇宙怪獣(ワーム)の内臓を思い出して気持ち悪くなり寝ることにした。


 ロンは分けてもらった焼肉を美味しく頂きましたとさ。

『チハルちん。すまんのうぉ』


ラシオです。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

※この話から戦闘シーンが多くなります。

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