守護神様を探す
私が住んでいる町から少し離れた別の町を訪れる。
時期的にタイミングが良かったのか、地元の祭りが行われていた。
「ピィー! ピィー! ワッショイ!! ワッショイ!!」
威勢の良い掛け声に御輿と人が混じり合って移動する。
そんな喧騒の中。私はロンを子犬用バックに入れて目的地を目指した。
商店街通りの人混みを通り抜けて、川沿いを歩き山の方へと向かう。
人が少なくなったところでロンをバックから出して一緒に歩くことにした。
『チハルちん。どうして、ここに守護神様がいると思うのじゃ?』
ロンはここに行くと決めた日からこの質問を投げかける。
「図書館でそれらしき文献の本に書いてあったのを見つけたから調べに来たの」
と、私は嘘のをついている。守護神様は知っているようだがロンには教えていないみたいだ。
祭りが行われている地域から外れた場所にある集落へと足を運ぶ。
そこに珠江おばあちゃんから教えてもらった小さな神社があるはず。
好天に恵まれ、川沿いの里道とも農道とも思える名もない道をゆっくりと景色を楽しみながらその場所に近づく。柴山が見えてきて田んぼと林が多くなり、畦道のさきにどうやら神社らしき、のぼり旗が立っているのを見つけた。
私は声を掛けて駆け出す。
「ロン。行くよ!」
ロンも一緒に走り出す。
――思っていた通りに神社に着く。
そこは静かな林に囲まれ誰もいない、ひっそりと立っている石の鳥居とその奥に本殿が見えた。
鳥居を見上げてロンは驚く。
『チハルちん。本当にあったのじゃ』
「だからあるって言ってたじゃない」
『凄いのぉ。チハルちん。これでここの守護神様に妾は会えるのじゃな』
「それって、ロンは分かるの?」
『あぁ。妾には分かるぞぇ』
(……それはよかったね)
さて、問題の祠だが、いつも通りなら本殿の裏にあるのかな、私の六感が囁く。これは別の場所じゃないかと、ならばこうしよう。「ロン。案内してよ」と頼る。
『任せたもれぇ。妾についてくるのじゃ』
ロンが喜んで歩き出す、私もあとを追ってわずかな石段を登り鳥居をくぐる。
本殿の方には行かず、途中のところから左の林を抜けて、小さな石碑が並ぶ場所へとたどり着いた。石碑の端にさらに小さな祠を見つける。
『チハルちん。さあ。一緒に挨拶するのじゃ』
ロンに誘われるまま、祠の前で目を瞑った。
そこに姿を現したのは、毛むくじゃらな男の守護神様が姿を見せる。
『おぉ。これは、そなたたちは天女のところのものか?』
『はい。お初にお目にかかります。チハルと申します』
『ロンでございまする。守護神様』ロンは緊張気味に挨拶した。
『うむ。遠いところわざわざお越し下さって礼を言おう。ところでチハルさんとやら、お主の目的は既に把握しておるが、お会いになりたいのだな?』
すべてお見通しの守護神様から訊かれる。
『はい。ご紹介して頂けるとありがたく存じます』
『うむ。ならばここに行くと良い。既に連絡は送っておる』
守護神様がそう言うと私とロンの目の前に、ここ一帯の立体地図が空間に浮かび上がる。
今いる場所を起点に矢印が伸びて行き目的地のところで止まった。守護神様の説明がマラソンのコース案内を見ているようで少し笑いそうになる。
『ありがとうございます。守護神様』
『いや。こちらこそ。ありがたい。彼女も困っていたところ。助けて頂き、こちらこそ。礼を言おう』
ここまでくれば、ロンも気づいたようで少し呆れていた。
『では、行って参ります』
『うむ。それではまた会おう』
私が目を開けてロンを見るとロンも目をぱちくり、私を見つめて尋ねた。
『チハルちん。このことは守護神様に相談しなかったのかぇ?』
「ロンには、内緒で相談しに行ったよ」
ここはしらを切り通す。
『それならば、よい。出来れは妾にも教えてたもれぇ』
「うん。次はそうするね」
『頼んだのじゃ。では、早速、向かうとするかのぉ。あやつと会うのも久しぶりじゃ』
なんだかんだと言ってもロンも楽しみにしているみたいだった。
――再び、祭りに賑わう商店街通りの横道を抜けて目的の建物に着く。
黒を基調とした古雅な感じの和菓子屋がそこに立っていた。
ここで守護神様がいう彼女とまみえる。ロンには外で待っててもらい。
お店の中にはいると和菓子が並んだショーケースの向こう側に同い年ぐらいの女の子がひとり。
店番をしていたというよりは。……今、端からダッシュでポジションに着いたよね。
「いらっしゃいませ。好みの商品がございましたらご注文下さい」
明るい感じで声を掛けられる。
「あのう。お聞きしたいのですが?」
「はい、どうされました」
「私、守護神様に教えてもらって来たものです」
――その瞬間。「バンッ!」と後ろの台に張り付く女の子。
「あ、あなた何者? 何を狙ってここにきた!」
(……そりゃ。警戒されても仕方ないよね)
「はい、宇宙人でありませんよ。私もあなたと同じ守護神様に頼まれた人です」
「……それは本当? その証拠を見せなさい」
そう言えば、どう証明するんだろうと首をかしげると「あっ」と思い出した。
「あのう。私は狭井チハルと言います。お名前を教えて下さい。そのあとは念話しますがそれで良いでしょうか?」
コクっとうなずく女の子。
「わたしは、粟嶋川アズネ。では、念話を受けます」
『はい、どうでしょうか? アズネさん』
『はい、聴こえていますよ。チハルさん。それで私に何の御用でしょうか?』
『このまま、念話で続けますけど、さきほど守護神様に会いに行きまして、こちらを尋ねました。理由は一緒に守護神様から頼まれた者どうし、仲良くしようと思い訪ねたんですよ』
「えっ? 逆にお聞きしますが、もしかして、あなたのほかにもいらっしゃるのでしょうか?」
「はい、もちろんいます。でも連れて来るのはちょっと大変かと思います」
「では、わざわざ、あなただけ私を訪ねて来たと言うことは別の目的もあるってことですか?」
「いえいえ。そんな急な話はありませんよ。アズネさんが怪しまれたのも分かります。私も以前は、他の仲間に尋ねられたときは疑いましたから」
そういえば、マサミちゃんが来た時は何も疑わなかったような。
まぁあ、いいのだ。
「それは本当なんですか? ちなみにあなたの神獣様は何でしょう?」
「はい、ひとつはキツネ。もうひとつは麒麟です」
「はあ、ふたつの神獣様に守られているのですか? その方が私を訪ねて来てくださったのですね」
アズネさんはその場にしゃがみ込んで涙を流し始めた。
「あ、ありがとうごぜえます。私を助けに来て下さったのですね」
ボロボロと涙をこぼすアズネさんをじっと見つめる。
そのまましばらく、その様子を眺め待っているとアズネさんはようやく気を取り直して立ち上がった。
「すみません。恥ずかしいところを見せてしまって」
「いいえ。こんなこともあるんじゃないかと心配して訪ねて来ましたから、もう安心してください」
その場の流れでアズネさんを励ます。
アズネさんが家の方で話しましょうと呼び掛け店の照明を落として入口には「休憩中」の看板を立て始めた。
その間に店の外に出てロンに念話する。
『ロン。守護神様が言ってたアズネさんだよ』
『うむ。様子はガラスの向こうから見ていたのじゃ』
ロンを抱き上げアズネさんへ紹介する。
「こちらがさきほどの神獣様ロンです」
『そなたが守護神様から託された者かぇ』とカッコつけながら言うロン。
「はい。私は土の守護神様を守る者です。ロン様」
『うむ。ご苦労であった』
「はい、ありがとうございます!」
「では、チハルさん。店を閉めましたから、こちらへ自宅は奥の方になります」
「ところで、お店の方は大丈夫なんですか?」
「あはは。うちの店は注文配達なので直接お店に来る人は近所の方だけなんです。
他のお客さんは、みんなインターネットから注文して来ますので工場の方で対応していますので、どうしても欲しい場合はみなさん自宅の方に来ますから安心してください」
「そうなんですね。分かりました」
「ささ、こちらにどうぞ。私が案内致します」
お店の脇道を通って玄関ドアを開ける。少し広めのホールを抜けて廊下に入り、居間に通される。ソファーに座るよう進められて、待っている間に冷えた緑茶と和菓子を出されるとロンが喜んでさきに食べた。
「チハルさん。訪ねて来てくれてありがとう」
私服に着替えてきた奥からアズネさんが入ってくる。
「はい、アズネさんも無事でよかったです。では、ご馳走になります」
私もひと口。
「……うまっ。これ餅菓子だ。モグモグ」
私のコップの緑茶を足してアズネさんが訊いてくる。
「チハルさんは、他の方にもわたしのように会いに行かれているんですか?」
「どうも」とお礼を言って、ぐびりと緑茶で餅菓子を流し込み質問に答える。
「う~ん。今のところはひとりですか。その時は討伐の協力をお願いしに行きましたけどね」
「やはり、ひとりでは退治出来ない宇宙人が現れたりしますかね」
「そうか。アズネさんは宇宙怪獣はご存知でしょうか?」
「宇宙怪獣ですか……うぅ」
その反応とさきほど涙を流したのは、ズバリそうなんだね。
「チハルさん。それでお願いしたいのですが、チハルさんも宇宙怪獣を退治したことがあるんですね。それで私を助けに訪ねてこられたのでしょうか。ありがとうございます……」
アズネさんが鼻をぐずり出した。
(……おろろ、また泣かれると困るよ)
「アズネさん。宇宙怪獣に困っているなら協力します。私もみんなに協力してもらって退治しましたから」
「ありがとうごぜぇます」
結局、アズネさんは泣いてしまった。
そんなに辛かったんだね。もっと早く来てあげるべきだった。
その姿をロンはじっと見つめている。
アズネさんの背中を擦り、彼女が落ち着くのを待ってから訊いてみた。
「アズネさん。それで宇宙怪獣はどうされたのですか?」
「はい、神獣様が大きな穴を掘ってそこに閉じ込めています」
「えっ。そんな方法で大丈夫なんですか?」
「はい、守護神様も、やも得ないと申していました」
なんて大胆なことを、そんなんでよく人に見つからないもんだ。
しかし、この地域ならこのような方法可能だろうか。
『チハルちん。召喚してもらえるように頼んでくれぬか』
「そうそう。アズネさん。神獣を紹介して頂けませんか? ロンが会いたいそうです」
「はい、では………」
ぶつぶつと詠唱(念仏)を始めるアズネさん。
そして、床が白く光りそこから白い猫が出てきた。
『ぴょーん。妾を呼んだかね』
『コハク。元気にしておったのじゃなぁ』
ロンがほわっと笑顔で迎える。
『あらやだ、ロン。お久しぶりね。元気にしてたのぉ。来るって聞いたけどすぐに来てくれたんだねぇ』
白猫の姿をした神獣も驚き、ロンに駆け寄る。
【白虎】
その姿をよくみれば、ふわふわな白い毛並みの虎の子。
珍しくロンが喜んで走り回る。……この姿を見るとキツネらしい。
「コハク様と仲が良いんですね」と驚くアズネさん。
「はい、ロンはみんなと仲良しですよ」
ロンがぼそりと言った。
『……あいつは別じゃ』
「……では、チハルさん。守護神様のところへ相談しに行ってから例の場所を案内します」
アズネさんにもロンの念話が聴かれてしまったらしく苦笑いする。
「そうですね。お願いします」
私たちは再び、守護神様のところへと足を向けた。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




