プロローグ 後編
――ロンの話をしよう。
私。チハルがロンを始めてホームセンターに連れて行ったことだ。
家からそんな遠くないところに行きつけのホームセンターがある。
数年前に出来たので店内はかなり広い。新しいお店はどんどん広くなる。
『ここは宝物殿かぇ?』
ロンは真新しい品々を見て、どこぞの皇家の宝物が、わんさか保管されていると勘違いしたらしい。
これらを教えるのに大変、苦労する。
ダメ出しが『なぜ、木や草を買うのかぇ?』と質問された。
自分でわざわざ取りに行けないから、商人と呼ばれる人たちが種や苗を集めて農家と呼ばれる人たちが、その種や苗から大事に植えたものを引きついて育てたい人たちがいるの。
但し、国内の土地ではどうしても育たないものは生えている場所から運んでくるんだよ。と教えてあげたら、『変わったことをするのうぉ』と面倒くさそうに答えた。
『ロンの大好きなババナは海を渡って運ばれてくるよ』と教えてあげたら。『おぉぉ。宝船じゃ!』とはしゃぎだした。……この唐突にキャピ気だす姿を見て楽しい。
話は変わるが、しばらく守護神様のお願いを聞くことにした。
そこでロンから聞いた。宇宙人の中には攻撃的な者と平穏を求める者がいることを教えられて驚いた。
どうやら上手く、人や動物に化けて潜伏しているらしい。
それが何の因果か。祠を狙う連中がいる。
しかし、祠が何のために狙われるかは教えてもらえないのでモヤモヤする。
でも、そんな宇宙人たちが毎日、襲って来ることは無いので平穏な日々を過ごしている。
やっぱり、ロンを養うように押し付けられただけなんじゃないのか。と言っても仕方ないか……。ペットらしく扱う訳にもいかないだろうし、崇めるにも信仰心が薄い私たち。
何気なく適当に暮らして行けばよいと守護神様からも言われた。
五千年も生きているキツネなんだし、そうなんだねと思うしかない。
守護神様から見れは、私たちが生きている時間は一瞬だ。
悩んでも仕方ない楽しめと言うことかと思った。
パパは仏門を極めるつもりはないが、「発菩提心」の意味を考えて、私に教えてくれた。
「偏見を捨てて観測せよ物事は始まる。全てを知れば腑に落ちる」とさらに謎の説明を聞かされて理解するにはとても時間がかかった。
ようは、何でもやってみよう。コツを掴めば楽しいよ。
失敗しても後で役に立つ。逃げるとつまらないよ。
とまあ、死んだり怪我や病気しない程度に何でも楽しもうと言うことみたいだ。
ちなみに、ここのホームセンターは、〇トリではない。
*
――私。チハルが気になること。
ロンは商店街を通ると必ず足を止める。お気に入りの店がある。
そのひとつが、知り合いのナルミさんがやっているパン屋だ。
うちでも定期的に買いに来ている。手作り米粉パンがおすすめのお店。
ロンはその中でも変わったパンを気にっている。「たこ焼きパン」だ。
……タコは入っていない揚げパン。
どうも、紅ショウガとかつお節の匂いに反応するらしい……。
商店街にたこ焼き屋さんがないせいか。パン屋の前を通るたびにガラス越しに見ている。
『美味しそうな、匂いがするのうぉ』とガラスに張り付かんばかりに見ている。
……この光景が見てて楽しい。
――それである日のこと。この話をママにしたら、パパがネット通販でたこ焼き器のホットプレートを購入してくれた。
家族が全員揃うので晩御飯が、たこ焼きパーティとなった初めての日。
『チハルどの。凄いぞぇ。あれをお家で毎日、食べられかぇ』とロンの尻尾がMAXでブンブンしている姿を初めて見た。
『でもね。たまにするから美味しんだよ』と私は念話する。
そこで家で行うんだらか。何を入れてもいいよねと、私はたこ焼きの中にカマボコを入れてみた。しかもピンクのやつ。
できたてを皿に置いて少し冷ましてからロンに食べさせてみる。
『おおぉ。このタコは変わっておるぉ。むしゃむしゃ』と喜んで食べた。
しめしめと心の中でガッツポーズする。
(……お主も悪よのうぉ)と頭の中で代官様がほほえむ姿を思い浮かべた。
私はツナと椎茸を入れた。たこ焼きをほおばる。(……まあ、まあかなぁ)
『もっと、食べたいのだ。あぁー』とロンが目をキラつかせ、口を開けて催促してきた。
……ウインナー入りのたこ焼きを取り合えず、食べさせる。
『おおぉ? チハルどの。これなぁ。これ、たこ焼き違うんちゃう?』
『そうだよ。ウインナーだよ。こういうたこ焼きもあるんだよ。なにか?』
『ううぅ。妾はタコがほしいのじゃ』
『そう。しょうがないね。こっちのができているから口開けて』と別の皿に取り分けてあるたこ焼きに青のりとソースをかけて放り込む。
『あぁぁー。パク。おぉおぉ。これじゃ。これじゃ』とそしゃくしながら、ニッコリするロン。
しかし、それもカマボコだ。
うちの家ではある儀式がある。私は幼い時に、お寿司の軍艦巻きのひとつ。えびっ子をイクラと教えられて育ち最近、その違いを知る。
パパは塩っぱいものは子供はだめだろうと、どこから聞いきたらしく親心だったらしい。
しかし、問題はこれだ。嘘のつき方だ。
「イクラはね。大人用と子供用があるんだよ。だから、イクラは大人になったら粒が大きくなるんだ」と言った。
(……魚のたまごであることは教えてくれなかった。赤い実の生き物だと思わされた)
単に自分が食べたいだけだったらしいが……。それを白々しいくママが見ていたのが不思議でならなかったことは幼い私の疑問だった。
――そして私もロンで試してみる。ロンは未だに本物のたこ焼きを食べたことがない。
よって、安いカマボコなら美味しく食べてくれるだろうと考えたのだが上手く行った。
ちなみに本物のタコ入りはパパとお兄ちゃんが試しにと嘯いて、とっくに食べきって残っていなかったので、たこ焼きパーティではカマボコで我慢しただけ。
こうして初めてたこ焼きを食べたロンは満足していた。
『チハルどの。ありがとうなぁ』
*
我が家に住み着いたロンは日中。ベランダの近くで昼寝しながら、のんびりしているらしい。
昼間にママが夜勤から帰ってきている時は、面倒を見てくれる。
家族からも可愛がられているせいか。最近、コロッてきている。
このままではタヌキと間違えられてもおかしくない。
――休みの日のことだ。
「ねえぇ。ロン。散歩いく?」
『面倒じゃ。ポテトチップスが食べたい』
相変わらずのぐうたらぶりに私はムッとする。
「ねえぇ。ロン。ゴロゴロしてポテトチップスばかり食べていると太ったタヌキになるよ」
『うぅぅぅ。あやつと一緒にするなぁー』
衝撃的な言葉にたじろぐロンであった。
「だったら、散歩いく?」
『しかたない。守護神様に会いに行くのである』
「そうね。たまには行って見ようか?」と私とロンは外出して軽く走りながら神社を目指した。
――石段を登り、鳥居をくぐると前の神社からすっかり姿を変えている。
(……パパのバカと言ってやりたい)
そう、パパの小説のせいで、今ではりっぱな観光地だ。
社殿も新しく少しだけ大きくなり、祠も場所を移して隔離された。
これはこれで安全になったとも言うが何か違う感じがする。
宇宙人だよ。宇宙人。
彼らがどこまでマナーを守れるかは分からないんだよ。
しかし、今のところは、宇宙人は現れていない。
何でもこちらに近づいてきた場合に敵意があれば、時間をさかのぼり検知されるらしい。悪い事はお見通しと言うこと……。
私とロンは祠の前に並んで目を瞑る。
『あら、お久しぶりね。どうされました?』と頭の中に天女が現れる。
『はい、最近、平和ですね』
『そうね。特に悪いことをする者も近くには来ていないみたいね。聞きたい事は子ぎつねのこと?』
『はい、言ってやってください』
『ロン。タヌキになっちゃだめよ』
『……はい、わかりました』
本日、二度目。守護神様から冗談で言われたみたいだが、ロンにはこの言葉が効いたようだ。
――トボトボと商店街を歩く。一人と一匹。
いつもなら、揚げ物屋さんやケーキ屋さんの前をだらだらとよだれを垂らしながら、目をキラつかせているキツネの姿はない。
さすがに今までの不摂生が過ぎたのか……。へこむロン。
『ねえぇ。ロン。毎日、私と散歩しない?』
『…………』とダンマリ混むロン。……これは重症だね。
そしてロンは何かを思い立った。
『狩りじゃ。妾は狩りをするのじゃ』と何かを見つけたらしい。
(……普通に運動すればいいんじゃない)と思ったが、余計なことは言わず様子を見る事を決めた私。
野鳥でも狩りにいくのだろうか。
――家に帰るなり、テレビの前を陣取ったロン。
「だめよ。そんなの狩りじゃない」とそそくさと準備を始めたゲーム機を私は取り上げた。
『なぜじゃ。なぜ、いかんのじゃ』と目を潤ませてしがみついてくるロン。
「それって。体、動かさないよね」
『しかしなぁ。体を動かす前に思考の俊敏性が必要なのじゃ。妾に足りないのはそこからじゃ』
「あまい!! ごたくをならべるな! ロン。本当に俊敏性を上げられるところへ連れて行こうかぁ」
『そんなところがあるのかぇ?』
「ある。猟師50人に山中で追われて見れば、嫌でも必ず痩せる」
『やめてたもれぇぇー』
「じゃ。健康的に私と毎日、散歩しよう!」
『あい。わかった』
――こうして翌朝、お散歩する一人と一匹でした。
『チハルちん。今日もいい天気だねぇ』
……この日からロンは私を「チハルちん」と呼んだ。
ラシオです。
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