君に幸せになってほしかった。
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「舞香、俺と付き合ってくれ。」
ずっと待ち望んで、だけど言ってほしくなかった言葉を向けられる。涙が零れそうになるくらい嬉しくて、つい頷いてしまいそう。でも違うの、私じゃダメなの。
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この3年間、クラス中、いや学校中が恋の香りに包まれていた。なにせ高校生といったら、文化祭、体育祭、修学旅行のようなイベントを存分に楽しめる最後のチャンスなのだ。受験戦争に飲まれる前に青春を謳歌する。それは10代にとってはある意味最も重要な課題であり、最も幸福な特権だ。教室では毎日のように恋バナが繰り広げられ、次々とカップルが生まれていく
結ばれていく人たちを羨ましいとは思いつつ、決して自分がそうなりたいとは考えていなかった。
恋に興味がないという話ではない。私も花の女子高生だし、好きな人くらいいる。
今でもハッキリ思い出せる、入学式の日の記憶。
1人の男子が目に留まった。ふんわりとまとまった艶のある黒髪、明るく屈託のない笑顔、細いけれどしっかりと筋肉のラインが見える身躯。男の子らしく友達と下らない話をしながら歩く姿がとても楽しそうで、無意識のうちに視線を奪われていた。これを一目惚れというのだろう、胸がギュッと縮まって、そのすぐ後に大きく跳ねる。
目が離せなくなっている私に向こうも気づいたのか、こっちを振り向いてニッコリと微笑みながら手を振ってくれた。
(そんなのズルいよ。)
この日私は、人が恋に落ちるのに時間はかからないことを知った。
神様のイタズラか、1年生の時は同じクラスになれた。彼の方から「あのときの子だよね」と話かけてきてくれて、名前を教えてもらった。
“飯島隼人”
見た目に負けない爽やかな響き。真っ直ぐに目を見ながら告げられたせいで、一気に顔が赤くなる。
「そ、染野舞香です…。」
ちゃんと返事をしたかったけれど、どうしても俯いてしまう。ほぼ初対面でいきなり顔を赤くしているのを見たら変に思われるかもしれない。
「舞香、ね。これからよろしく!」
「う、うん…。」
初めての挨拶は最悪で、もう隼人くんと関わることは無いのだろうと悟った。それでも彼は何度も私に声をかけて、色々なことを話した。好きな漫画とかアーティストとか、そういうのに疎かった私は曖昧なことしか言えなくて、それが申し訳なかったから必死に勉強した。いっぱい楽しんでもらいたくて、いっぱい笑ってもらいたくて。
段々と話しを合わせられるようになって、一緒にいる時間は増えたけど、同時に私たちを噂する声も大きくなっていった。隼人くんは気にすることないって言ってくれたけど、私には耐えられなかった。
2年生では違うクラスになった。それでも隼人くんは私を見かけると声をかけてくれて、たまにこっちのクラスに来て話すこともあった。
相変わらず噂をする声は残っていて、それを言われる度に「そういうつもりじゃないよ。」と否定した。だって、私じゃ彼に釣り合えないから。本当はあと一歩先に進みたいけれど、あんな良い人、私にはもったいない。
だからと言って離れたいわけじゃない。彼といる時間は楽しいし、もっと一緒にいたい。だけど私なんかと付き合ったりしたら、彼は絶対に周りからバカにされる。私は可愛くなんてないし、自分でも嫌になるくらい地味だ。彼の隣にいるべきではないことは、私が一番良く分かっている。
(ね?こんな曖昧で醜い女なんて、不釣り合いでしょう?)
…だけど隼人くんは私の心を掴んで離さない。
「今度の文化祭さ、ステージで歌うんだ。舞香も見に来てくれるよな。」
「…見に行っても、いいの?」
「あったりまえだろ! 舞香が来てくれなきゃこっちもやる気出ないよ。」
そう言って私の頭を優しく撫でる彼の手はとても温かくて、その熱がどんどん体に伝わっていく。
(ごめんね隼人くん、私やっぱり、あなたのことが好き。)
文化祭でのライブは大成功、隼人くんはいつにも増して輝いていた。歌い終わった彼はステージの上から私を見つけて、あの日のように笑顔を向けながら手を振っている。彼への想いを全て晒してしまいたい気持ちが体を駆け巡るけど、必死に堪えた。告白なんてしちゃいけない、私自身が、彼を傷つける原因になるわけにはいかない。
身を焦がす感情を抱えたまま3年生に上がった。神様はすごく意地悪で、私と隼人くんをまた同じ箱の中に閉じ込める。これじゃ嫌でも彼のことを見てしまう。
案の定、隼人くんは毎日のように私と話をしたがった。私はどうしても気持ちに逆らえなくて、感情を抑えながら会話を交わした。受験に向けて一緒に勉強することもあった。
でも。あくまでそれだけ。それ以上のことを求めたりはしなかった。文化祭の後から隼人くんはすごく距離を縮めてきて、何度もデートに誘われたけど、毎回理由をつけて断った。
そのまま高校生活の終わりが近づいた。もうカップルの数は入学時の何倍にもなっていて、まだくっつかない私は珍しい方だ。
「本当に好きじゃないの?」
「告白しちゃえばいいのに。」
「…だから、そういうのじゃないって。」
今日も友だちと同じ話題を繰り返す。このやりとりを何度繰り返してきたことだろう、みんなよく飽きないものだ。私はいつも通り、嘘のセリフで興味が無いように装う。さすがに3年も嘘をつき続ければ周りも段々と信じるようになってきて、
「まあ、舞香は大人だもんね~、高校生のガキなんかに興味ないか。」
と返される。みんなは私を“大人”と言って感心するけど、言いいながらこちらを見つめる目には、明らかな侮蔑が込められていた。
そう見られることに対して文句はない。今は小学生ですら彼氏彼女がいる時代なわけで、18歳の私が恋愛に飢えていないのがおかしいという意見は至極真っ当だ。だから何も言い返さない。それに、「舞香には好きな人がいない」と勘違いしてくれるのは都合が良かった。
(好きだから、告白しないんだよ。)
みんなも分かってる通り、私は隼人くんのことが大好き。
大好きだから、隼人くんの趣味をたくさん勉強した。
大好きだから、隼人くんとたくさん話せるようにした。
大好きだから、隼人くんをたくさん応援した。
大好きだから、隼人くんには幸せになってほしいの。
そのためには私なんかと一緒にいたらダメなんだよ。だってあんなにカッコよくて、優しくて、温かい人は他にいないから。
私じゃ隼人くんを幸せにできない。隼人くんにはもっと相応しい人がいるはずだから、その人と出会う前に、私が隼人くんを奪ったりなんてできるわけない。
幸せになってほしいから、隼人くんが間違わないように、どれだけ囃し立てられても否定し続けた。
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……だけどね、やっぱり一緒にいるのが楽しくて、“高校生の間だけ”、君の隣にいさせてもらうことにしたの。
なのに、どうして?
ねぇ、今日は卒業式の日だよ。
そんな日に、誰もいない教室に呼び出すなんて、これじゃまるで…
そう思っているところに、君が来た。妙に息が上がって、顔が赤くなってる。
「悪い、こっちが呼び出したのに待たせちまった。ちょっと…練習しててさ。」
やめて、そんなの。期待させないで。
「すぅー…はぁー…よし、いくぞ。」
待って
「舞香、俺と付き合ってくれ。」
はい。と言いそうな口を無理やり閉じる。言わないで、私、堪えて。
「ごめん、なさい…っ。」
泣きながら絞り出した声で引き離す。
「…どうしてだよ。俺じゃ、嫌だったのか。」
「違う!違うの!私だって隼人くんのことが好き!…でもダメなの、私じゃ隼人くんを幸せにできないから…っ」
何度も自分に言い聞かせてきたセリフをぶつける。もう分かって、きっといつか、君に相応しい人が現れるから。
「俺は、舞香といる時間が一番幸せだと思ってる。」
…ズルいよ、そんなセリフ。私は“君に”幸せになってほしいんだよ?
これじゃ私の方が幸せになっちゃう。
そんなこと言われたら、勝手に舞い上がっちゃうよ?私が隣にいてもいいの?
「だから、ずっと俺と一緒にいてほしい。次は俺が舞香を幸せにするから。」
ああ、無理だ、抑えられない。私が欲しいセリフを全部言ってくれる、今までよりももっと好きになる。
「もう一度言うぞ、舞香、俺と付き合ってくれ。」
君がここまで言ってくれたんだもんね、私も正直に答えなきゃ。
「…はいっ!」
目の前の恋人に負けないくらいの笑顔で返事をする。
よろしくね隼人くん。私も頑張るから、君に相応しい人に、なってみせるから。
タイトル見てバッドエンドだと思ったんじゃないですか? 残念!純愛ハッピーエンドでしたー!wwwww
まあそれはそれとして、この話は最後らへんの「”君に”幸せになってほしかった」というフレーズを使いたいがために書いたものです。本当は長編で使うべき言葉なんでしょうけど、僕がアイデア膨らませるのが下手なのと、ネタの鮮度が落ちないうちに書き上げたい!って気持ちがあったんで、短編としてギュッと詰め込みました。




