第1話[無くならないタバコ]
とあるデパートに俺は居た。
友人の誕生日プレゼントを買い、エレベーターに乗る。
エレベーター内には俺一人で他に誰も居なかった。
日頃の疲れか、ついウトウトとしてしまう。
そんな時だった。
「地下十階です。」
地下十階?
ここは地下一階しか無い筈だろう。
それに、一階しかボタンを押してないのに。
そのまま、一階のボタンを押そうと思ったが、好奇心からか、ボタンを押すのを止め、地下十階を見て回ろうと思い、エレベーターから出てみる事にした。
辺りはBARの様に薄暗く、ガラスケースの中には奇妙な物が色々と置かれていた。
「げっ、三万もする。」
一通り見回し、帰ろうとする俺に、美人の店員さんが声をかけて来た。
「お客様、探し物は見つかりましたか?」
「もしまだでしたら、こちらの商品なんて如何でしょう。」
そう言って見せられたのは、缶のタバコケース。
吸っても吸っても無くならいタバコ。
商品名を口にして、何だか胡散臭く感じる。
とはいえ、値段は五百円。
これを買って、あの店員さんと仲良くなれるなら…。
そう思ったが、たかが五百円の品で仲良くなれる訳が無い。
俺は断り、帰ろうと思ったが…。
「よろしければ、お試しになりますか?」
この辺りは禁煙区間。
何処にも喫煙する場所が無い。
吸えるならと思い、俺はタバコに火をつけた。
フーッと煙を吐き、店員さんが灰皿を取り出して、目の前に置いてくれる。
俺は店員さんと話しをし、タバコを灰皿に押し当て、火を消した。
「どうぞ、吸殻をこの缶の中にお入れ下さい。」
言われるがまま、缶に吸殻を入れ、そしてそれを振る様に指示される。
そして缶を開けると中には吸殻では無く、新品のタバコが一本入っていた。
手品か何かか?
そう思った俺は、これを購入する事に決めた。
仮に騙されていたとしても五百円。
大した痛手では無い。
後日、友人の誕生日パーティーでこのネタをした所、場は盛り上がり、次第に俺はこれを合コンの鉄板ネタにしていた。
「それにしてもこれ、二十本は遥かに超えている。」
大体タバコ一箱五百円ちょい。
それがワンカートン以上もっている。
この時から俺は、これが本物なのではないかと思い始めていた。
この缶を購入し、数ヶ月が経った頃。
とある異変が起こる。
会社の自動ドアが開かない。
誰かに話しかけても無視される。
会社に居るのに欠席扱い。
これらの事に頭を抱え、俺はタバコに火をつけた。
何が起きているのか分からない。
そういえば、ここ最近、腹も減らなくなった。
街を歩けば人とぶつかる。
だが、相手は知らぬ顔。
俺は透明人間にでもなったのだろうか?
そう思い、俺は幾つか実験をしてみた。
誰も気づかない。
俺はそれをいい事に幾つかの犯罪に手を染めた。
「最高な気分だぜ。」
俺はタバコに火をつけ、街をうろつく。
やがて、俺の姿は自分でも認識出来なくなり、そして俺は…。
完