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遺書  作者: あや
4/5

真冬、雨の日

小学1年生の冬、クラスの友達と遊ぶ約束をした。

我が家は門限が厳しく決まっていて地元に流れる「良い子は家に帰りましょう」のチャイムが流れる前に家の中にいなければならないというルールだった。


いつも門限に間に合うように帰っていたが、その日は突然大雨と強風が吹いて自転車が思うように進まず、最後は風で倒れて転んでしまい、厚着のおかげで擦り傷にはならなかったが、膝と肘を打ってあざになってしまった。


我が家はマンションだったが膝が痛んで歩くのも時間がかかり、エレベーターに乗り込む頃に外で良い子のチャイムが鳴っているのが聞こえていた。

しかしこの大雨と強風に怪我もしている姿を見れば大目に見てもらえると思った私はいつも通りに家の鍵を開けたが、チェーンがかかっていて開かない。

驚いて一度ドアを閉めると、内側でチェーンが外される音が聞こえた。


少し緊張しながらドアを開けて中に入ろうとすると突然腹部に衝撃が走り外に蹴り出され尻餅をついた。

見上げると母がいて、「門限」と一言だけ言うとドアを閉めて鍵をかけてしまった。


それから雨と寒さでしばらく凍えながらドアの外で体育座りをしていたが、隣に住むおばさんが通りかかり「どうしたの?鍵がないの?」と優しく声をかけてくれた。

私はどうしたらいいか固まっていたが、「寒いでしょ、うちで待つ?」と聞かれて、寒さのあまりに頷くと隣のおばさんの家に行ってしまった。


タオルで体を拭かせてもらい暖かいお茶を飲ませてもらった。

門限に間に合わずに追い出されたとは言えず、鍵を忘れた事にした。

するとすぐにインターホンが鳴り母が迎えに来た。

とても早かったので私とお隣さんの会話を聞いていたのだと思う。

母はペコペコと頭を下げて謝りおばさんに感謝して、私もお礼を言って家に帰った。

母は私には無言で怖かった。


怯えながら後ろをついて行き、家の中に入って鍵を閉めると、すぐに服を脱ぎなさいと言われた。

雨で濡れているからだと思って慌てて服を脱ぎ下着になると、母は私の髪を掴んで「この恥さらし!」と言うとそのままベランダまで引っ張り外に追い出した。


「そこで反省してなさい」

そう言われ、私はごめんなさいと謝ったがガラス戸に鍵をかけられカーテンを閉められた。


大きな声で騒げば中には入れてもらえるかもしれないが、もっと酷いことをされると思ったし、ご近所さんに母の行いがバレて「私のせいで」母が悪口を言われるのが嫌で、私はまた体育座りをして縮こまった。


まだ雨は風呂続けていて、あっという間に私の体はびしょびしょになった。

真冬の身を刺すような寒さで手足の感覚が無くなり体の震えが止まらなかった。

震えながら小刻みに吐く息は白く、手足の指は真っ赤になりシワシワになった。それ以外の肌は真っ白だった。

涙だけが暖かく、少しでも暖を取ろうと私はダンゴムシのように体を丸めてジッとしていた。


寒さが痛い程で苦痛だったのに、次第に体の感覚が無くなっていって、もしかしたらこのまま死ぬかもしれないと思った。

そうしたら我が家に邪魔者はいなくなってこの家は幸せな一家になるのだろうか。

私は何のために生まれたのだろうか。

ここで死んだら母は虐待で捕まるだろうか。でもそれは母がやったことだから許してほしい。

悲しい。怖い。痛い。苦しい。

それでも母のことが好きで愛されたかった。

母が私を愛したがっていることを知っていた。時々可愛い服を買ってきてくれて仲良くしようとしてくれてることを知っていた。

それなのにこんな行いをさせるのは私が悪い子だからだと思った。

産まれてきてごめんなさい。もっと良い子が生まれてきたら良かったのに。そしたらみんな幸せだったのに。

そう思って泣きながら震えていた。


外が真っ暗になった頃にガラス戸が開いて慌てた様子の母が私を抱きあげると浴室に運ばれ暖かいお湯をかけられた。

運ばれながら「忘れてた」と母が口走ったのを覚えてる。


その日から、門限を破ったと言う理由で友達と遊びに行くことを禁止された。

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