善意とカリスマ 従者に次ぐ無法者 影の所作
ときに、この十二大戦、力を温存する者もまたいる。
背中に天使のような真っ白な翼をはやしたものは、はたから見れば、なにやら執事のような者を傍に控えさせて優雅にティータイムの様子をえがいている。
その、天使のような者、下級神はその紅茶のようなものを飲みながらこういう。
「なんで、この僕がこういうことに巻き込まれなければいけないのかな。別に、こういう事態になるなら、僕だってここに来る前の召喚を防いでやったさ。本当に完全な不意打ちであったとも言ってやる。そうは思わないかね?執事?」
「僭越ながら申し上げますと、私は、この状況にも満足しているのですよ。この体は、元の場所でも、日々の中で執事になるように組み込まれていたような生活でしたから。そうして、誰かに使えることができるのならば、これに勝る喜びは今はないかと。」
「ふん、そんなに楽しいのか。一応ここは戦場、よそから来たお前も私の敵になると思っていたが、まさかの雑草取りよ。簡単だが、私がやると少々広範囲で犠牲が出てしまうだろう。
それならば、こうしてくつろぐことにする。おい、もう少し茶菓子を用意しろ。」
「かしこまりました。」
執事は茶菓子を取りに行ったと見せかける。それは獣を狩りに行ったということだ。
実はこの執事、等価交換という稀有なスキルを持っていて、獣の死体であれば、その買取金額または等価程度の物と交換することができる。しかし、その場で使うには、その本人が認識している者に限る。
しかし、この執事は有能である。ここに来る前にスキルの存在に気づいては、その特性を理解し、商品の値段を網羅した。転移した先でもどうやらそれは使えたようだ。
獣を知っている限りの高価な茶菓子に変えて、執事は再び下級神のもとに戻ろうとする。
すると、待ちな、と不意に声をかけられたふりをして、執事は振り返る。
「あら、あなたはもしやガンマンという方ではないのですか?申し訳ありませんが、私は今無用な戦闘は避けております。要件を端的におっしゃってください。」
「なぁ、執事さんよぉ、そんな上等なもんいったいどこから持ってきた?質の良すぎる原料から作る過程まで恐ろしいほどの一品じゃねーか。俺にも分けてはくれねーのか?」
「残念ながら、この茶菓子は下級神様がご注文された品です。むやみに人に分け与えていいものではありません。」
「じゃあ、奪うしかねーな。言っとくけど、俺の早打ちは早いぜ。それも変則的で弾もオリジナルだ。だから、覚悟s、「ですので、獣を五匹ほど狩ってきてくださいましたら貴方にもお譲りすることを約束しましょう。」んんんっ!」
断られてもらえないガンマンが強行しようとした直前に、執事が妥協案を出した。
この近辺の獣五体で、あれとおんなじものがもらえると。ガンマンは普通に執事とやりあうよりそっちを選んだ。
「じゃあ、俺は五体ほど打倒してくるからぁ、その辺で待っててくれや。」
「ええ、ここに魔法陣を張っておきますので、終わったら目印にしてきてください。」
こうして、一旦ガンマンと執事は分かれた。執事は下級神のところへ、ガンマンは獣を求めて。
そして、執事のほうに忍び寄る黒ずみのようなものも動き出した。
下級神のもとに戻る執事。嫌な気配がしたので、魔法を使って、身体能力を高めて早めに戻った。
そうして、下級神のもとに戻ると、下級神が、遅いぞ、と腕を組んで待っていた。
そのテーブルにあった茶菓子はもうすでになくなっていた。それで少し怒っていたのだ。
それを察した執事は、さっそく茶菓子を取り出すが、下級神は、「執事、つけられたな。愚図め。」と罵る。
その意味を分かっている執事自身も、「申し訳ありません。どう対処なさいますか。」とすぐさま行動で示そうとする。
とりあえず、構えろ、と下級神がいう。そして、
「我神にして至高の存在。その怒り、死して受けろ!『ホーリーブラスター』!」
すると、執事の来た方向に、一筋の光が差し込み、そこからドーム状の光の奔流を魅せた。
しかし、追ってきた影、すなわちオルターなのだが、まるで平気なように地上に姿を現した。
すると、オルターはそのまま体当たりでもするのかと、体を押し出して突っ込んでくる。
下級神と執事は思わず、その突進を避ける。オルターはそのままテーブルへと直行し、茶菓子をむさぼり始めた。
それを呆気にとられる下級神だったが、自分の茶菓子が食い尽くされんとなると、オルターに突っ込んでいった。
オルターはそれを気にも留めないようで、ひたすらに茶菓子を食べ進める。
戦場に、必死になって、食べる人が二人、そのうち一人は影のように暗く、おそらく人間ではない異常な存在。
そんなシュールな光景を生み出しつつも、執事は冷静でいた。
しかし、そこに、様子がおかしかったからか、ガンマンが来てしまった。
執事は、確かこの人に茶菓子を渡す約束でした、と思い出したのはいいのだが、目の前の状況だと、その約束を果たせるかはどうかは想像に難くなかった。
執事は、一瞬でガンマンに詰め寄ると、場所を変えます、といって、その場を後にするのだった。