歌う者、屈辱、忌み嫌われるものと女
東西南北、それぞれに分かれる参加者はどいつも特異性を持った者ばかりである。
その西、何やら騒がしいのは、戦闘音だけではないようだ。
「ねぇねぇ。みてみて~。私は戦闘アイドルだよー。歌って踊って戦って、ナイスバディーの16歳でーす☆。今日はこんなに大勢で出迎えてくれてありがとー(⋈◍>◡<◍)。✧♡。
これから一曲ついでにボコスカライブだよ~。さぁ、いってみよーーーーーー!」
獣の突進を何らかのステップで軽々とよけ、そのがら空きの背中に一撃パンチをくらわすと、獣は動かなくなった。
すると、そのアイドルは、「イェー
イ☆クリティカルヒット大成功だよ~みんな~見てる~?」と笑顔で獣に問いかける。
どうやら、見てくれる人がいるいないにかかわらず、そのようなスタンスなのであろう。
彼女は、戦闘も出来る、自立型アイドルの世界からきた。無論、痴漢も不審者も自分で防げるという戦闘力に加えて、アイドルのような可愛さを発揮している。
これがAIでない、人という概念を壊していないというのが、彼女たちの恐ろしいところだ。
可愛さは正義、そして、軍を相手にしてもひるまない戦闘センスを持ったアイドル集団。
それらは、人望をも兼ね備え、実質その世界を支配していた。
ゆえに、ここまで、はつらつに歌って踊ってと、やりたいことをしているのは、既に自分のテリトリーだといっているようなものであった。
特に、武器などは持っていないが、その機動力、身体能力はピカイチ。参加者の中で、一番ギャップがあるかもしれない。
「あ~あ、もううちの周りに誰もいなくなっちゃった☆テヘランッ☆。次のライブ場所までレッツゴーだね☆」
そういって、スキップしながら戦場を後にするのだった。
同じく西、その男は獣に堂々と近づき、切りかかる。完全に真正面から切りかかったはずだが、その獣は息絶えなかった。
男は、チッと舌打ちすると、そのまま獣の上にはねて、首の後ろから攻撃する。
すると、問題なく攻撃が通ったのか、獣はその体液を散らして、完全に動かなくなった。
男は敗者、敗北者の国からの参加者、通称「ツータイム」と呼ばれる。
男の特異性、それは、攻撃の二回目に発動する何らかの作用で、対象は必然的に命を落とす。
男は、最初はしがない街で、冒険者まがいのことをしていた。特に、趣味もない男には日銭を稼ぐその日暮らしの冒険者が性に合っていた。
しかし、その冒険者の依頼を受けるときに、他の冒険者で、自分よりもランクも高く、実績の高い冒険者に目が留まってしまったのが運のつきか、冒険者を辞めるかをかけて勝負することになった。
男はそのとき、相手の冒険者に確実な一撃を入れたと思った。しかし、相手は残像だったのか傷ひとつなく、そのまま締め上げられ、勝負に負けてしまった。
その日は悔しくて、一人ダンジョンに入った男。しかし、出るときにはそこはなぜか退廃した町であった。
見たこともない街で、男はそこら辺にいる老人に話を聞いた。ここは、敗北者の国だと。
ちなみに、その老人は、全財産をかけて挑んだルーレットに負け、そこで家族までもを失ったらしい。
意外にもその代償が大きすぎたのか、男は、自分のここにきたことに対して冷静になることができた。
そして、思う。あの入らなかった一撃、ダンジョンでも一撃で仕留められなくて、でも、二撃目で確実に
仕留めたことに対して、なんで一撃でできないんだと自分を責めていた。
しかし、逆に考えれば、二撃目で確実に葬ることができるのは変だと男は思った。
そこから魔物を狩るときによく検証して、何やらそういうものだと確信した瞬間、急に憎悪が襲ってきた。
何やら耐え難い衝動だ、ちょうど帰った時だから、あの時の老人が近くにいて、そうかそうか、と首を納得したようにして動かしている。
そして、おぬしにも来たじゃろ。ここの者はそれがたまっていくのじゃ、と言われた。
そうして過ごし、いつしかそこには自分だけが残っていた。みんな憎悪に飲み込まれたり、そのまま寿命を全うしたりして死んだ。
そして、ここに呼ばれた理由、それは強さだと。自分はこの二撃目に賭けている。
一撃で葬れないが、その分着実に獣を殺していく。獣は数を散らし男はその場を去る。
その獣たちの死体には必ず二つの傷がついていたという。
淡々と敵を倒す、灰色よりの黒色の人型の者は、額に角をはやし、人間でないことを表している。
彼は、魔戒というところにいた魔族だ。単純な力比べでも、素手で獣を倒していくだけでその戦闘能力は計り知れない。
そんな魔族の近くに一人の人間が、民族衣装のような物を着た女が、襲い掛かってきた獣にまたがり、腰のナイフを取り出して、獣の脳天に突き刺した。
その流れはスムーズで戦いなれているような風を思わせる、この戦場では戦う必要はない。
魔族は好奇心から、その女の戦いを見ていた。その視線に気づいた女が、「なんだよ?」とと目を向けてきた。
魔族は何でもない、といったが、その女はそれ以上に突っかかってきて、「いーや、あるね。」とさも断定したように詰め寄ってくる。
魔族は、こんなことなら見なければよかったと後悔したが、表情に出してしまったからか、その女は、「なんか、むかつく顔だね。」と怒ったように眉を寄せる。
そして、「あたしはアマゾネス。あんた、ほかでは見ない顔だけど、悪くはないんじゃない?」といって翻していく。
魔族は、自分が見にくいのを知っている。灰色はなんだかネズミみたいで実際そういわれていた。
しかし、あの女は自分をけなしはしなかった。そこにアマゾネスに親近感を抱いた。
前にいた世界でも、不必要な殺戮は避けていたし、人間を助けたことだってある。
しかし、角がある時点で、正体が目に見えていて、やはり、良い関係にはなれなかった。
だが、このアマゾネスなら、強いこの女なら構わず関わることができるかもしれない。
戦場と化した地で、とある魔族は、別の目的をもって、他の参加者を追跡する。
そんな様子を、主催者は口の端に笑みを浮かべて、様子を見るのであった。