獣を斬れる者
クリーチャーが出て言った矢先、参加者は次々とコンテナを出ていった。
もちろん、出なかったといって、主催者の逆鱗に触れることはないだろう。
それはルールによっても禁止されていない行為だからだ。闘うものは戦うだけ。
単にコンテナが埃で煙たかったとか、暑苦しいという理由で出ていった者もいた。
戦うもの、即ち行動を起こす者は、主催者の目に興味を抱かせる。
さて、こいつはどんなものか、どれほどのものか、選ばれた者の真価とは。
こうして、参加者が散らばったとしても、あらゆる目で、観察をしている。
そうした中で、戦いに生きるものは躍動感が激しいものだ。
今、荒々しく刀と呼ばれる業物をふるったと思えば、刀をしまって、居合という所作を取る。
そして、前面にいる獣は、何をされたかわからぬまま、バラバラに切り捨てられている。
そこには、茶色がかった髪を後ろで束ね、逞しいあごひげを持つ、鋭い二重を持つ剣士がいた。
その者は侍。大江戸の国からやってきた者。参加資格はその刀による、逸脱した剣技。
その大江戸の国では、刀は珍しくない。むしろ、地位のあるものほど携え、抜くことが多いのだ。
この侍、流浪にありながら、各地を転々とし、特に何をするでもなく、降りかかる火の粉を払う。
この際の降りかかる火の粉はちょっかいをかける人間、足元を見る商人、強欲な権力者である。
そのすべてをなぎ倒し、前だけを見て生きてきた彼についぞ参加資格の手紙が来たのだ。
これを、ちょっかいとみなし、切り捨てるのは簡単だ。しかし、必然なのか手紙はふとした時に手元に戻ってくる。
これは、誘い出しであると、そして、自らわざと参加したと。
この場所に来た時、いろいろな人間、物、得体のしれぬ怪物がいた。しかし、その誰もが手紙による呼び出しに応じたものだったらしい。
しかし、どこからともなく聞こえてきた声、即ち主催者の声、そして呼び出した張本人。
この時点で、侍のやること、これからの目標は決まったも同然だった。思わず、「…やるな。」と声に出してしまうほどだ。
主催者を存分に切り伏せてやろう。その一択だった。しかし、どうやら、戯れのようなもので、この大したこともないでかい生物を切り捨てねばならんとか。
このようなもので、吾を図れるようなものではない。そして、予想以上の嘲りと見えた。
侍は、手段のために獣を殺す。そうして雲が茂るといえよう空に目線を上げる。
そして何をしたかと思えば、刀を振り上げたのだ。その行為はまさしく阿呆か見栄はりか。
そして、また侍は歩き出す。特に何をなしているということもない。
しかし、雲がかった空の一部からは日が差すようにして明るくなっていた。
とある剣士は言った。剣だけの魔法だけのろくでなしは、時代おくれの象徴だと。
その者、魔法剣士は知恵と魔法の国から来た王位継承者。しかし、性格は他人を小ばかにするような言動を飄々と言い放つ争いの火種のような人物だった。
その魔法剣士がこのように成り上がったような性格をしているのは、やはり、王族故に王位争い、兄弟間の激突、それを生き抜いた中で改めて自分の強さに溺れる機会があったかもしれない。
兄弟は7人いた。上に兄3人、姉1人、下に弟1人、妹1人と、最初は、多くの中間子の兄弟の中に埋もれていた。
しかし、知恵と魔法の国。王位争い。血で血を洗う争いは、それぞれが勝つために、剣を極めたり、魔法の威力や、早さ、魔道具を用いた併用戦術など、いろいろと試しては競い合っていた。
剣は物理的に重いか早いか、魔法は、火、水、風、無の属性、威力の速さ、魔道具は発動時間、誘導か切り札か、戦うにして駆け引きのできる手段は多かった。
魔法剣士は、魔法も出来たし、剣もそこそこ振れた。そして、悪だくみが好きだった。
いたずらと呼ぶべきか、下町に降りては、何かといたずらをしていて、阿保王子といわれ、他の兄弟たちも大して目もくれなかった。
しかし、それが狙いでもあり、その搦め手を誰かにばれないように、無能を演じていた。
そして、できた武器が毒だった。それは一つにまとめて毒とは言えないもので、生き物に聞くものもあれば、生き物以外にも、それはロボットのような機械にきくような毒というものもあった。
魔法剣士は、魔法と剣士の両方を掲げながらも、毒その他の搦め手で、兄弟を屠ってきた。
力で勝てない者には、魔法になじむ毒を、魔法を極める者には、魔法を散布させるような搦め手を。
兄弟たちは、未知なる毒や搦め手になすすべもなかった。だから、戦いといっても楽観視できるような残忍な性格となった。相手を馬鹿にするくらいなら可愛いほうであるというほどだ。
そんな国から獣に襲われて今に至る。獣用の毒を使っているようで、既に飛んできた獣も地から足を動かすことができないくらいには衰弱している。
魔法剣士は、「別に、剣とか魔法とか正攻法でも倒せるんだけどね、君たちに僕の技術が効くのかどうか試してみたくって。いやー、お粗末様。」などと、獣が大したことないようにへらへらしている。
彼が通った道には、当分の間、獣が来ることはないだろう。阿呆王子の化けの皮がはがれ、まかれた毒は、今回に至っては、獣に致命傷を与えることになりそうであった。
その金属は獣と相対する。人型、いやほぼ外面は人の顔までを模した精巧なオブジェが動いてるといったほうがよさそうだ。
その金属は、間違いなく、誰かの産物であった。金属の国、人間が暮らせないほどの二酸化炭素の密度が高い世界線。おそらくそのようなところから呼び出されている。
そもそもは、参加者それぞれ時代風景も何も違い、関係ない者同士が集結している。
それをなしえる主催者側は、どれほどの規格外というものか。
話を戻し、その金属は人間が体を機械化して、からだのすべての機能、状態までもを機械に返還させて生きているということである。
そんな世界で、とある学者は、かつての人間の様相が、今の自分たちから失われていることに気づき、金属による人間体の創造に着手した。
致し方ない、辛うじて子供を産んだとしても、その子供は、次の子供、そのもとの卵子や精子といったものを体外で受精させるためのサイクルの元手としての意味でしかない。
そこから、心配を停止して、高速治療により、もはやメカニックという形に強制的にならざるを得ない。
金属は、作られた人間体。音声機能があり、強度があり、とてつもなく強い。
美術品のごとき精巧に作られた人間体は、そのこだわりまくりの合金の体で、ひとりでに変形する力を覚えた。
そうして今、大戦の舞台にいる。目の前に獲物を見つけると、人間体で言う腕が、剣のように刃に変形して獣を切り裂く。
そして、体全体を槍のようにして、宙に浮かび、獣を貫いていく。
ここは、様々な参加者が集まる詳細不明の地、一般的な地域、人、植物以外の小動物はいないようにされているのだろう。
その中で、参加者の金属の人間体は、周りを凌駕する戦い方で、獣が近づいてこなくなるまで、圧倒的にその場の雰囲気を支配していくのであった。