獣の大群、獣の殺り方
周りは獣で溢れていた。
その多くは獅子の顔をしている。
獅子の顔をして空中を闊歩するような怪物。
その地上、大地にもつばさはないが、獅子の顔
に、尻尾が蛇のような形、形相をしているものが
四足歩行で参加者に迫り来ている。
これが試運転と称されたもの、多分、準備運動か
何かなのだろう。
この獣の脅威はその数と力に優位があるということだ。
裏を返せば、力だけの能無しが有象無象いるとい
うことで、対処は楽になってくるだろうと思われ
る。
参加者の一体である、魔物のような姿をした二足歩行の怪物は顔をしかめた。
彼の、かの獣の名はクリーチャーである、参加者名簿にそのようにしてあった。
その彼はこの試運転に自分の風貌を合わせて、嫌味を覚えた。
これだけいれば、どさくさに紛れて流れ弾を受けかねないと。
戦争狂がいれば、無差別に話は別だが、可能性と
してこの場面で巻き込まれが予想されるのは自分だと。
知性ある一体、クリーチャーはそのように捉える。
そして、各々が動き出す前に周りに説く、
「どうやら、これはあの獅子をやっつければいいようだ。
正直に言う、俺を攻撃するな。したらし返す。
少なくとも、この段階ではお前らと交える理由は無いようだからな。
よって、口約束ではあるが、個人的に休戦を約束する。
一先ず先に地上に降り立って行く。いずれだ。」
そう言って、シェルターを抜けていくクリーチャー。
それに釣られてか、皆どんどんシェルターを抜けていく。
シェルターに残ったのは、学芸者と生還者と呼ばれる者だけになった。
学芸者と生還者は顔を見合わせる。
学芸者が突如、
「あの、自分こういうことがあるのは知らなくてです
ね、本当に皆さんが血の気のある人たちで、な正直自
分はここに死ぬために来てしまったといっても過言で
はない状況なんですよ。もしかして、あなたも戦えな
いタイプですか?こういうところってあまり実力をひ
けらかさない方が当たり前なんですけど、気になって
しまいまして、あなたは外に出ないんですか?」
シェルターの開いた口の方を指差す学芸者。それに対して、生還者は一言、
「今はまだ戦ってはいけない。」
と、誰に言ったか分からない言葉を述べ、シェルター
を出ていくのだった。
すると、シェルターの中に残った学芸者は、
「結局、あなたもそっち側ですか、はぁ。」とため息をついて、
「それでは皆さん頑張って下さい。私は籠らせて頂き
ます。」と言って、自らのポケットに入っていた、
人差し指に掛かるか掛からないかの小さな鞄のジッパ
ーを開けると、その中に身を入れようとした。
すると、その小さ過ぎるカバンは、一般の人の大きさ
である学芸者の姿を飲み込むようにして、学芸者の姿
が見えなくなるのであった。
シェルターを出た生還者は案の定獣に襲われるか、戦
闘になるかと行ったところで、ただただその大地を歩いていた。
相手が強者であろうが関わらず襲っていく獣に、彼は
まるで認知されてないかのように相手にされなかった。
それは、さっきまで学芸者と話していたような相手に
認識されてるといったレベルから遠くかけ離れたものでもあるかのように。
生還者は、ポケットにある、よく分からない小さい水
晶玉を避けて、手に持っていた虫除けスプレーのようなものをしまう。
そして、獣たちから遠ざかる生還者、どんどん獣たちの姿が薄く見えていく。
その目の前には、まるで一枚の透明な壁があるかのように音以外を通さない。
余裕が出てきたのか、生還者はそこに座り込んでしまう。
そして、このゲームが過ぎるかのようにぼんやりと壁の向こうを見つめていた。
一方、初めにシェルターを飛び出したクリーチャーは
獣の生態をある程度理解して、一方的に目の前の敵をなぎ倒していた。
彼は、クリーチャーとしてこのゲームに参加した。
何故なら、このゲームに参加する資格がそれだからだ。
自分が自分たちの縄張り、地域、世界から1人の代表
として選ばれた、そう彼は考えている。
字など尊ばないクリーチャーはその思念を体に直接送
り込まれたかのようで、それはクリーチャー全体に一
時的に広まったものだった。
その中で、情報が共有され、強いものを参加させよう
とこのゲームのために何人が命を落としたのか。
ゲームに参加するために同胞を倒す、それで治らなか
った場合殺すというクリーチャーにとってはそれが唯
一の選抜方法といってもいいものだった。
彼はクリーチャーの中のクリーチャー、その力と頭、
戦術を生かすその体躯は一級品で、獅子の攻撃をある
程度食らっても痛手にはならない程には選ばれた強さが伺える。
そうして、空の敵をもその爪と角で切り裂き、突き殺す。
この獣は心臓は確かにあるようで、動物のような感覚であった。
蛇の尻尾は牙に毒があるのは、想像に難くない。
彼は、そんな蛇の追随を許さない様子で、獣を駆逐していく。
その爪は、大戦に来る前の過酷な選抜の血の勲章を思
わせ、また爪を赤く染める。
角は、もう何体刺し殺したか分からない、だが、その
切っ先の鋭さだけは失われず、獣はまた一体、一体と
その亡骸を散らしていく。
その獣、クリーチャーは前進する。後から来る参加者
がその亡骸を見るよりも前に先に殺し続ける。
大戦はとうに獣の敗色濃厚な様子を映し出していた。