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4.魔力のない少年に、魔法の特訓をさせるという無茶振り

 姫様は俺の結界を解除すると、『わかってくれた?』とニッコリ笑った。


『………』

 俺があまりの出来事に何も言えずにいると、姫様は何か勘違いをしたらしい。


『あ、安心して! あの島は無人島なの! わたくしが大地の魔法を使って、海の底を隆起させたものだから! 魔法の特訓をするために、無人島をいくつも作ったの!』


 海の底を隆起させる⁇ 無人島を作る⁈ って……安心できる要素が一つもない!

 地形って人が変えていいものなのか⁈ 地球が長年かけて形成してきたものを、姫様の腕一本で変えるなんて世も末だ。


『魔王は一人で倒しに行くわ! だからカインは転移魔法を習得して頂戴!』


 そこで、俺の頭はようやく回転し始めた。

 魔力が高いから、一人で魔王を倒す。まあそこまでは分かる。問題はここからだ。


『姫様が人外の魔力で魔王を倒せるのは分かりましたが、みんなで行けばいいじゃないっすか。それに、なんで俺が転移魔法覚えなきゃいけないんすか? てか、俺、魔力ないんすけど』


 姫様は何やらごちゃごちゃと言ったが、まとめるとこうだ。


 まず、今見せた力はマックスではなく、三分の一程度だということ。


 生まれてから魔力を全解放したことはなく、どれほど周囲へ影響するか自分にも分からないため、魔法を発動した時にみんなを巻き込むかもしれない。


 だから魔王は一人で倒しに行きたいが、それをアレク様とリディ様が許すはずがない。よって、俺が転移魔法を使って、二人を強制的に安全な場所に移動してほしいということ。


 転移魔法を使うタイミングは、魔王と対決する直前であること。

 もし、旅の途中で一人になったら、アレク様とリディ様は血眼になって自分に追いつくから。


 最後に、姫様ランクの魔法使いは【魔力の譲渡】という、何とも便利な技が使えるらしい。魔力の譲渡をすれば、俺も一時的に魔法が使えるようになるんだと。


 だが、譲渡した分の魔力を消費すれば、通常の魔法使いのように休息で回復することはないため、魔法は使えなくなる。


『そこまでは、納得いかないけど、了解です。てか、姫様なんでその力いつも発揮しないんですか? 三分の一の力でも、魔物なんて瞬殺ですよね?』


 姫様はまたモジモジとし始めた。俺には姫様のモジモジポイントが理解不能である。


『…カインは、自分より魔力が強い女の子って……どう思う?』

『どう思うって、俺は魔力がないから分かりませんけど、かっこいいって思うんじゃないっすか?』


『かっこいいけど、可愛くはないよね? 守る必要ないものね?』


 あーなるほどねっ!

 

 つまりは人外の力で、魔物をぶっ殺す姿をアレク様に見られたくないと。

 女の子は弱くて、守ってやりたくなるぐらいでないと好きになってもらえないと。


 治癒魔法から恋は始まると思っている、頭の中がお花畑の姫様が考えそうなことだ。


『まあ好みは、人それぞれですしね。可愛い女の子が好きな男もいれば、かっこいい女の子が好きな男もいるんじゃないっすか?』


『でもヘザーは、世の殿方の大半は、お淑やかな女性が好きだから、姫様はもうちょっと落ちつきなさいませ! って、いつもわたくしに言っているわ』


 姫様にとって、殿方=アレク様だから、姫様の淑女教育に利用したな…さすが侍女頭のヘザー様。


 でも俺はここで引くわけにはいかない。

 姫様にはその力を大いに発揮してもらって、魔王討伐などという危険な旅はさっさと終わらせてもらいたいのだ。


『姫様、それは違いますよ。アレ…力が強い男性は、同じく力が強い女性を好むものです。同類を求めるものですよ』


 姫様はしばらく考え込み、そして俺を指差した。


『カインは嘘をついているわ! だって、口調がいつもと違うもの! そんな丁寧な言い方、絶対にしないもの! 魔物をさっさとやっつけて、旅を早く終わらせようとしているでしょ!』


 なんてこった⁈

 その通りだよ!

 鈍い姫様に感づかれるなんて、俺も末期だ。やはり、あの魔法を見たことで多少動揺しているのか⁈


 さらに姫様は畳み掛ける。

『それにお父様はとっても強いけど、お母様はとっても弱いもの。でもお父様はお母様が大好きなのよ!』


 おっと、その例えは首を絞めますよ、姫様!


『フェリクス様は魔力絶大だけど、同じく魔力絶大なリディ様が大好きじゃないっすか!』


『カインは全く分かってない! リディは攻撃魔法が使えないのよ! だから守ってあげなくちゃいけないの! 魔力が強くても、女子ポイントは高いのよ!』


 だめだっ!

 なぜか今日に限って、姫様の返しが鋭い!

 そのポイント制度、廃止してくれ!

 俺はもう勝てない……恋する乙女は最強だ……


『分かってくれたようね! だからわたくしの力は内緒にしてね?』

『へいへい、俺の負けです』


『やった! じゃあこれから転移魔法の特訓ね!』

『その前に言うことが。今日はもうパンを作る時間はありませんからね。夕食はパン抜きです!』


 姫様は『そんなぁ』と絶望していたが、仕方がない。パンは発酵時間が命だ。


 こんな風にして俺と姫様の、地獄の転移魔法特訓は始まったのである。


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