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2.魔王にたどり着かなかった魔王討伐隊(王女を除く)

 俺達はリシュタイン城の……はるか上空に転移した。

 いつもそこにあるはずの地面がない。

 母なる大地が恋しい、なんて思っている場合ではない!


「キャーーーーー!」リディ様の悲鳴が空に響く。

「ぎゃあ! 助けてー! アレク様ぁーーー!」

「………っく!」


 アレク様は必死に剣を手繰り寄せて、何やらブツブツ唱え始めた。

 アレク様が引き起こした風により、落下速度は減速したものの、地面への衝突は避けられないっぽい⁈

 アレク様はリディ様の腕を掴み、衝突からリディ様を守ろうと、自分の元に手繰り寄せた。


「アレク様! 俺はーーー⁈」

「腕を伸ばせ!」


 俺が必死に腕を伸ばすと、アレク様はグイッと力を入れ、俺も引き寄せた。死ぬ間際の今でなければ、間違いなく惚れているだろう。


「リディ! 防御呪文だ!」

「わかったわ!」


 リディ様は防御呪文の詠唱を始めた。

 アレク様はリディ様の詠唱時間を稼ぐため、極限まで落下速度をおとそうと、魔力が枯渇するまで風を呼び寄せる。


 リディ様が最後の防御呪文を唱えると、オレンジ色の暖かい光が俺達を包み込んだ。地面に激突する覚悟を決め、身を固め衝撃に備えた。


 そのとき、目の前に突然フェリクス様が現れた。


「「「殿下っ!!」」」と、三人が同時に叫ぶ。


「アレク! 水を起こす! リディを守れ!」

「だから俺はーーーー⁈」


 俺もいるからね⁈ 

 恋人だけじゃなくて、国民も守って!


 フェリクス様は杖を掲げ呪文を唱えた。突如現れた巨大な水の塊に、俺達は飛び込んだ。

 ドボーーーン、激しい水しぶきが宙を舞う。

 俺は水面に上がろうと、必死に腕をかいた。


「ブハッ!」と、顔を出すとアレク様とリディ様の顔が見えた。どうやら三人とも無事なようだ。

 フェリクス様は、俺達の無事を確認すると、徐々に水を消していった。

 リディ様が静かに地面に降り立つと、フェリクス様は「リディ!」と、声をあげて駆け出し、リディ様を抱きしめた。


「フェリクス様……ありがとうございます」と、リディ様は小さな声で応えた。

 滅多に見られないリディ様のデレモードを拝むことができた。


 フェリクス様はリディ様をそっと離すと、アレク様に問いかけた。

「アレク、ローラはどうした? なぜ一緒にいない?」

「……っ、申し訳ありません。ローラ様はお一人で魔王の元に向かいました」

「お前がついていながら! なぜローラを一人にした!」


 フェリクス様は激昂した。犯人は俺なのに、申し訳なさで胸がいっぱいになる。


「どのような処分も甘んじて受けます。ですが、今はローラ様の元に向かうのが最優先です。カインっ!」


 いつも穏やかなアレク様の厳しい声に、ビクッと震えた。


「はい!」

「呪文を使えたのか…魔力は全く感じられなかったのに……今すぐ俺をあの洞窟に転移してくれ。俺にはもう、転移する魔力が残っていない」


「アレク様、それは無理です」

「なぜ無理なんだっ⁈」


「知っての通り、俺には元々魔力はありません! 姫様がこの時だけのために、俺に『魔力の譲渡』を行ったんです!」

「魔力の譲渡? まさか……そんな魔力がローラ様にある訳がない……仮にローラ様が魔力の譲渡をカインに行ったとしたら、カインは転移魔法を使えるはずだ」


「姫様が俺にくれた魔力は、片道分しかありません。三人が城へ帰れる魔力だけです。だから俺には今、魔力が全くありません」


 アレク様は呆然とし、その場に崩れ落ちた。

「そんな…ローラ様、なぜなんだ……」


「殿下ー!」と、複数の足音がこちらに向かってくる。


「まずいな、さっきまで俺は騎士団の練習場にいたんだ。悲鳴が空から聞こえて、慌てて転移魔法を使ったから、騎士団がやってくる」


 フェリクス様がリディ様の手を引いた。

「とにかく今この場に、ローラがいない事が知れ渡るのはまずい。三人とも俺の執務室に来るんだ」


 俺達は、誰にも見つからないようにその場から姿を消した。


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