表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mirror world  作者: 叶 葉
9/11

9

そして暫くした後、皐月と牡丹が研究所へと来た。

海老名は皐月にのみ事の成り行きを説明した。皐月はぐったりと現実を受け入れた。

二人が施設に来て数日経った時の事だ。

「検体が足りませんね?」

椎名がそう言い出したのだ。

海老名は嫌な予感がした。二人を逃さなければと思った。皐月に直ぐ様話した。皐月と海老名は逃走ルートを確認し、いよいよ決行という前日に二人は椎名に呼び出された。

「何やらコソコソ企んでいるようですね?」

「企む?」

海老名はしらを切った。

「飽く迄知らない振りをしますか?いいでしょう。そう言えば、貴女が連れて来た娘さんですがね?いいですね。若くて新鮮な状態は研究に適しています」

皐月は拒否した。海老名は当然だと思ったし、残念にも思った。

椎名は案の定、交換条件を提示した。

一つ、海老名は今まで通り、透の研究を下敷きに続けること。

一つ、皐月は新たな肉体を破棄する研究の検体になること———。

皐月は一も二もなく同意してしまった。海老名は反対出来なかった。皐月は海老名に酷く申し訳なさそうに謝った。海老名は首を振るしか出来なかった。

そうして皐月は検体が収容される隠し扉のある小部屋に入って行った。あの小部屋は奥の壁を押せば開く仕組みになっている。

そうして牡丹を海老名は自らの手で捨てた後、皐月を手に掛けたのだ。











まさか、まさか、それではお母さんは自殺と一緒じゃない———。

牡丹は叫びたい衝動と吐気を堪えて目を固く閉じる。

私の為?どうして何も相談してくれなかったのーーー。

例え十二歳の少女に相談したとして何が出来る訳でも無い。そんな事は牡丹も分かっている。唯、理解する事と心は別なのだろう。

じっと士郎は黙して牡丹の頭に置いた手で慰め続けてくれた。

「そう言う訳なんだ。君たちは早くここから立ち去って欲しい。椎名は最早誰も裁く事は出来ないくらいの力を付けている。僕の部屋がある三十階のみはカメラも盗聴も無い。但し、椎名も僕たちがいずれ会うだろう事は織り込み済みだ。君たちが監視下から抜ける事は即ち僕と会っているという事だからね」

海老名はそう言ってから牡丹の顔をじっと見つめる。

「立ち去るっていっても、簡単では無さそうだがね」

須藤が言う。

「そうだな。簡単では無い。だが、椎名は建物の外に出た人間は追わない。ここから出さえすればいい」

「それは希望的観測じゃないんだな?」

「ああ。椎名は無駄な事が嫌いな人間なんだ。でなければ、病や老化で変質する肉体を精神から切り離すなどという変態的な研究に私財を突っ込んだりしないさ。それに、今まで迷い込んだ人間も、建物を出た後はそれまでの執拗な監視は一切解除している。君のようにね」

と海老名は牡丹を指す。

「それを聞いて安心した。海老名、と言ったな。一緒に来ないか?確かに外の暮らしはここに比べるまでも無く酷い有り様だが、案外悪くない」

須藤が言うと、海老名は緩く首を振った。

「いいや。僕は僕でやらなければならない事があるから気持ちだけ有難く頂戴するとしよう」

最後に再び牡丹を優しげな目で見下ろした。







三人は海老名と別れてすぐ様エレベーターに乗り込み一階へと降りた。


三人はエレベーターの中でじっとりとしたまとわりつく視線のようなものを感じていた。

エレベーターが矢張り音も無く開く。

三人は急いで駆け出し、出口を目指す。




出口の前には椎名と武装した黒い覆面の男たちが複数並んでいた。覆面の男たちは皆手に銃を握っている。

「随分と早いお帰りですね?でも出す訳にはいきません。貴重な検体ですから」

椎名は不遜な笑みを浮かべている。

士郎と須藤は牡丹を背後に庇う。

ふいに士郎が気配を感じて振り返ろうとする。しかし、それは叶わなかった。

首筋にごつりとした感触を突きつけられる。

三人は両手を上げて降伏した。


「地下に連れて行きなさい」















地下に降りるとそれぞれ別室に拘束された。

牡丹は酷く後悔した。須藤を、士郎を巻き込んでしまった。しかし、もう後悔しても遅いのだろう。

まんじりともせず時間をやり過ごしていると唐突に部屋の扉が開いた。

「出て来てもらいましょう。今から貴女と、若い方の彼に実験の協力をしてもらいます」

「須藤さんは?」

「彼は幾ばくか歳をとっていますので、別の研究材料になりますね」

それ以上の質問は許さないというように、視線で制された。

牡丹は拘束されていた部屋で衣服を全て剥ぎ取られ、両脇を覆面の男たちに挟まれて暫く歩いた先の部屋に入れられた。

その部屋には同じく裸の士郎がいた。抵抗した為か顔や手足に打撲の痕があり、痛々しい。

裸の恥ずかしさも無く、牡丹は叫んで走り寄った。

「士郎!!」

士郎は牡丹を安心させるように、牡丹の身体を隠すように、抱きしめた。

「大丈夫、大丈夫だ。何も心配するな」

牡丹はこんな状況下にも関わらず、士郎の励ましに安堵していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ