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Mirror world  作者: 叶 葉
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6







牡丹はウトウト眠っていたようだった。

突然、部屋に電子音が響く。部屋の内線が鳴った音のようだった。心臓が嫌な音を立てている。

「はい?」

受話器の一番近くに居た須藤が取った。

一言、二言話し、受話器を本体へ戻した。

「食事の用意が続きの間に用意されたようだ。どうやら連中は俺たちを歓待したいらしい」

溜め息を吐いて須藤が言う。

出入口とは別に、ベッドを背にして二つ扉があり、その内の左側。つまり一番廊下から離れた扉が続きの間への入り口だという。

「どういう魂胆なんだかねえ。行くしかないか?」

「様子を見よう」

士郎がそう言うならと牡丹も無言で立ち上がった。

須藤はさっさと続きの間の扉を開けた。


続きの間は矢張りワインレッドの絨毯が敷かれている。広い部屋だ。

部屋の中央には縦に長いダイニングテーブル。その上には真っ白なテーブルクロス。縦にラインを引くようにコバルトブルーのテーブルランナーがかけられている。

テーブルの上には両端と中央に金装飾の燭台があり、灯りが灯っていた。

十人は優に座れるテーブルには贅沢にも椅子は四つしか配置されておらず、その椅子の前には豪華な食事が並んでいた。

料理は四人分———。

士郎と須藤が一気に警戒を強めたのが見て取れた。


息を呑み、佇んでいる。

すると、牡丹たちが進入してきた入り口とは対極にある入り口のドアをノックされた。

須藤がまたもや代表で返事をすると、外から一人の男が入ってきた。

「ようこそ、いらっしゃいました。どうぞ、席にお掛け下さい」

男は先程の壮年の男を従え自分はさっさと座る。壮年の男は席に着いた男の斜め後ろに僕のように立っている。

須藤がイライラと座る。続けて牡丹も席に着いたが、士郎は座らなかった。

「ぜひ座ってください。食事をしながら話しましょう」

男は再度士郎に勧める。

「では、その後ろの男を部屋の外に追い出すか、座らせるかしろ」

士郎が言うと、着席している男は振り返りもせずに背後の男に向けて片手を上げた。

壮年の男は主人の合図を正しく汲み取り黙礼して部屋から退出した。

「さあ、どうぞ」

士郎が着席すると得体の知れない男は満足気に微笑んだ。

「椎名と申します。当施設を取り仕切っております。どうぞよろしく」

何の前振りも無く、男は名乗った。

椎名は三十代前半くらいの精悍な顔立ちの男だ。椎名に勧められ、食事に手をつける。もうここまで来てしまったら食事の中に異物などは警戒しても無駄なような気がしたからだ。それは士郎や須藤にしても同じだったらしく、やや不貞腐れながら食事を突いていた。

「美味しいでしょう?この楽園の外の主食は数年前に製造された缶詰だと聞いていますよ。如何ですか、正に楽園でしょう?」

椎名は大袈裟に笑った。

「御託は結構です。こちらの用件を話してもいいですか?」

牡丹は切り出した。

「いいでしょう。ご希望に添えるかは分かりませんがね。貴女のお母様を捜していらっしゃるとか?先ずはお名前を伺っても?」

一々語尾を吊り上げるような話し方が如何にも不愉快な男だ、と牡丹は感じた。

「私は一条 牡丹と言います。母は一条 皐月です」

牡丹が名乗ると椎名は幽かに瞳を揺らしたように感じた。

「そうですか、一条さんですね?どうぞよろしく。捜しらっしゃるのは、その一条皐月さんという事ですね?」

牡丹は不愉快ながら頷く。

「八年前に生き別れました。当時、父が働いていた研究所に避難させて戴いた後、母が忽然と姿を消しました」

ふん?と椎名は相槌を打つ。

「詳しく話して戴いても?」

牡丹は椎名に母と別れるに至った経緯を完結に説明して聞かせた。

「それで?牡丹さんはお母様が居なくなった建物の場所を探していると。そういう事ですね?そして貴女たちは当施設に見当を付けた。間違いありませんね?」

「そうです。当時の記憶にある研究所も、ここと同じく戦火を越えても電気や水道などが通っていました。そんなところが二つも三つもあるのは今の世情では不自然ですから」

すると椎名は高笑いする。

「そうですね!うちのような素晴らしい設備が他にあるとしたら見てみたいものですね?」

牡丹は椎名の不快な笑い声が収まるのをじっと待った。

「いいでしょう。貴女のお母様を当施設内で探す許可を与えましょう。この施設には実に多くの人間が働いて居ります。貴女のお母様が消えた場所が当施設であるならばきっと会えるでしょう。但し、貴女方には当施設の客人の役割も熟して戴かねばならない。よろしいですね?」

「ご厚情ありがとうございます。唯、私たちには金銭のようなものはありません。客として何かを落とすことが出来ないのに客人とは少し可笑しいです」

「いいえ、私たちは金などは必要としていませんから結構ですよ?当施設は仮想現実の研究をしております。その検体になって戴きたいのです。分かりますね?」


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