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記憶を失った僕と彼女たち  作者: 天笠愛雅
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見立て

コンコン


病室の扉がノックされた時、すでに愛斗は起きていた。10時11分となればさすがに起きている。

須崎が「おはよう」と言いながら入ってくる。

「おはようございます」と愛斗も挨拶を返す。


「診察の予約が取れたよ。11時からだからちょっと時間ないけど大丈夫かな」


「大丈夫です」


「よかった、服はそのままでいいから10分前になったらここに来るナースと一緒に行ってくれな」


「分かりました。ありがとうございます」


愛斗に予定を伝えると須崎はすぐに出ていってしまった。彼も医師である以上愛斗に付きっきりになっている訳にもいかないのだ。

視線を落とすとスマホがベッドの上に転がっている。電源をつけ、充電を確認すると1%になっていた。SNSの通知が来ている。内容はこうだった。


芽衣1111

久しぶりー!今日旅行から帰るからお土産届けに家に行くね!


その内容を通知で確認したところで充電が切れた。すぐに使えるようになる訳ではないが、とりあえず充電ケーブルを挿しておく。

充電が切れたことに落胆しているとまた扉がノックされた。

今度は食事を持ったナースだった。


「おはようございます!ごめんねー遅くなってしまって」


「大丈夫です。さっき起きたところなんで」


「ならよかった。召し上がれー」


朝食は焼鮭を中心としたものだった。それを無言で食べ進めているとナースが話しかけてきた。


「今日は診察だよね?私が連れて行ってあげるから」


昨日は気付かなかったがそのナースはよく見ると可愛かった。食べているとこを見られているのがだんだん恥ずかしくなる。見られているか確認すると目が合ってニコッと笑顔を作ってくる。それがまた可愛い。ナースとしてはイマイチだと思っていたが女性として見ればなかなかアリだ。そういえば名前を聞いていない。聞いてみるか。


「あのー、お姉さんのお名前聞いてもいいですか?」


「私の名前ですか?春井(はるい)七奈(なな)っていいます」

天使のような笑顔でいちいち楽しそうに答えてくれる。犯罪級の笑顔。もはや愛斗は七奈に惚れかけていた。


何度かチラチラと七奈を見ては食べを繰り返しているうちに朝食を食べ終えた。


「これ片付けてくるから身支度整えといてくださいね」


愛斗は頷いて返事した。


鏡を見て寝癖がなかなかすごいことに気がついた。この髪を七奈に見られていたとのかと思うと自分を恨んだ。

水をつけてもなかなか直らない随分とたちの悪いくせっ毛のようだ。

寝癖をどうにかしようとすることを諦め、歯磨きや洗顔を済ませ部屋で待機していると診察10分前に再び七奈が入ってきた。


「じゃあ行きますよー」


長距離の移動はまだ慣れていないので車椅子に乗って、七奈に押してもらって移動を始めた。

昨日は暗かった外も青空が広がっている。

外に出てどこか出かけたいな。特に海に行きたい。

そんなことを考えていると七奈が愛斗に言ってきた。


「白良浜、覚えてます?こんな日にはあの白い砂浜に出てフラフラと散歩するのが良いんです」


白良浜。知っている。この町の人間じゃなくてもあの白い砂浜のことを知っている人は多いだろう。


「覚えてます。行った記憶はないですけど」


「そうですか。そのうち行きたいですね。意外とここから近いですし」


白良浜のことについて話しているとすぐに精神科に着いて、前の順番だった人が診察室から出てきた。すると名前が呼ばれる。


「時田愛斗さん、診察室にお入りください」


改めて自分が「時田愛斗」なのだと実感した。何気ないことも感動してしまう。感受性が馬鹿になっているようだ。

その気持ちは一旦しまって、落ち着いて診察室に入っていく。

そこには1人の若い男性の医師とナースがいた。連れてきてくれた七奈は診察室の外で待っていてくれるようだ。


「はじめまして。僕は精神科医の三井(みつい)。よろしく時田くん」


「あ、よろしくお願いします」


「えーっと、記憶がないんだよね?」

三井が愛斗の顔をしっかりと見つめながら言う。


「はい、ないです」


「いつから記憶がないって分かったの?」


「目が覚めて...須崎先生と話した時です」


「お母さんと妹さんがその場にいたって聞いてるんだけど見覚えなかった?」


「はい、全く」


「逆に覚えていることはある?」


覚えていること、それは昨日気付いたことだ。SNSを見た時のこと。

そのことを三井に伝えた。すると三井はこう言う。


「そういった自分が書いたものとかで思い出す人も時々いるんだけど全く思い出せなかったのかな。だけど心配することはないよ。僕は医師だ。悪いとこを治すのが得意だからね」


「僕はどうすれば...」


「これから少しづつでいい。時田くんが記憶を取り戻すことを望むならここに来てほしい」


「分かりました」


「大変だとは思う。辛くなったら誰かを頼るといい。1人で抱え込むのは今の君にとっては辛すぎるだろうしね」


誰かを...


誰とは誰だろう。須崎か、七奈か。それとも母や妹?

愛斗が今信用できると思える人はそのくらいだ。頼れる人が少ない。人を知らない。

お気に入りにあった「古賀」や「芽衣」という人物のこともよく分かっていない。

「茜」に至ってはもはや恐怖心すらある。記憶のない状態であんなことをされたのだから...

そのような不安もこの医師が取り除いてくれるはずだ。

そういった色々な意味を込めて大胆な質問をした。


「本当に記憶は戻ってくるのでしょうか」


「信じていれば、いつか」


それが医師の答えだった。

いつかとはいつだろう。明日かもしれないし5年後10年後。あるいは死ぬ直前に走馬灯のように蘇るかもしれない。だが立ち止まっていたら何も起こらない。それは愛斗にもよく分かっていた。何か行動を起こさなければならない。

まずすべきことはすでに心に決めている。


「信じていれば...。分かりました。ありがとうございます」


その後も診察という名の会話が続いたが診察室に入ってから20分後に終了した。退院は1週間後くらいになるそうだ。その後通院という形になる。

愛斗が診察室を出る際に三井はこう言った。


「思い詰め過ぎないように、落ちついて行こう」


診察室を出ると七奈は健気に愛斗のことを待っていた。


「お疲れ様!このあとどうします?部屋に戻りますか?」


七奈は診察のことについては訊かなかった。本当にこの人は人を落ち着かせ、かつ楽しませてくれる。こんな人が家で夕食を作って待ってくれていたらどんなに幸せだろうか。

待てよ。もしかしたら七奈さんには彼氏が?

いやいや、確かに可愛いが付き合いたいという感情とは違う。


「リハビリってできますか?」


七奈と一緒に時間を過ごせるのではないかと思い、言ってみる。


「じゃあ須崎先生に言ってきますね。一旦部屋に戻りましょー」


須崎かよ。

やはりそうなるか。


愛斗は七奈に車椅子を押してもらい、自分の病室へと戻り、七奈は確認を取るために須崎の元へ向かった。


スマホがある程度充電されていて使えるようになっていた。手に取り電源を入れる。

通知がまた来ている。


芽衣1111

愛斗、大丈夫?会いに行きたいけどダメだよね?また機会があったら会いたいです


僕が記憶を失ったことを知ったのかそれとも事故のことだけか。もし後者だとしたらこの子はより傷つくだろう。

だが伝えなければならない。愛斗はキーボードに指を滑らせる。

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