疲労感
茜が去り、どうなるかと思っていたことが1つ解消されたので、昨日の疲れと安心感からか、急に体が重くなり、愛斗は椅子に崩れるように座り込んだ。
「時田くん」
愛斗の名を呼んだのは、昨日も競技場で偶然会った夏海だった。自分の席から、彼女は一部始終を見ていた。
「あぁ、千代間さん。おはよう」
「おはようございます。お疲れですか?」
昨日愛斗がどこで何をしていたか知らない人でも分かるようなくらい、疲れ切った顔をしている愛斗。
競技場で応援し、芽衣を励ましたということしか知らない夏海にとっては、愛斗は不自然なくらいに疲れている。
「うーん、まあちょっとね」
「彼女さんと何か?」
「あんなの見られたらそう思われても仕方ないか。事実だけど」
「やっぱり。大変そうですね。私にも何かできればいいのですが…できなさそうですね」
愛斗の身の回りに起こることが多大過ぎて、夏海も困惑し、呆れるほど。
愛斗が愛斗でなかったら、ストレスや問題を抱え込み過ぎて狂ってしまっていただろう。
記憶がないというハンデを抱えながらも、現実と人とに向き合う姿勢は愛斗を知るものなら認めざるを得ない。
「そんな、大したことないよ」
ふと、愛斗は立ち上がった。
その時、愛斗の視界は影に支配された。
バタッ
「え?」
夏海の声が遠く、愛斗の耳に届いた…かもしれない。
「時田くん!?誰か!」




