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記憶を失った僕と彼女たち  作者: 天笠愛雅
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嵐の後

「大丈夫?愛斗。顔色悪いよ」

愛斗と一緒に登校している芽衣が、朝会った時からずっと愛斗の心配してくれている。

愛斗が玄関を開けて、芽衣と顔を合わせたときは、なんとも言えない気まずさが漂ったのだ。


「うん…大丈夫」

そう言う愛斗の眼の下には隈ができていて、大丈夫と言える状況ではない。


「やっぱごめんね。朝から夜まで…」

芽衣は、愛斗が疲弊しているのは自分のせいだと負い目を感じていた。


「もう謝らないでよ。ほんとに違うから」


2人は、そんな気の重くなるような会話を時々して、それ以外あまり話さなかった。

そんな状況下で学校に着き、2人はそれぞれの教室に別れる。

愛斗も芽衣も、別れ際はよそよそしかった。

教室の自分の席に座り、愛斗は1人教室で思った。もし昨夜、自分が夢を夢だと思い込み、芽衣のところに行かなかったら、今日という未来は変わっていたのかと。もし変わっていたら、芽衣が隣の教室にいなかったら、自分は今頃どうしていただろうか。そんな悪夢のような現実になっていたら怖いし、自分の予知能力も証明され、なおのこと怖い。

とりあえず、なんともなかったのだから良かったと思いたいが、自分の心は簡単に思い込ませてくれないものだ。他のことを考えようとしても、必ず昨日のことが横入りしてくる。

そんな時、誰かに肩を叩かれていることに気づいた。周りの状況も知らずに頭だけ使っていたので、今まで気づかなかったのだ。

振り返ると、茜が立っている。


「あ、おはようございます」


「うん、おはよう」


「昨日はごめんなさい!」

茜がまさかそんなことを、しかも頭を深々と下げて言うと思ってなかったので愛斗は戸惑った。


「え、あ、頭上げてください。僕こそ、いや、僕が悪かったんです」

愛斗は、無理やり何か言おうと、考える前に口を動かしたので、自分で何を言っているのか分からなかった。


「いや、私が悪いの。愛斗に対して嫌なことばっか言って。愛斗は頑張っているのに。本当は支えなきゃいけないはずの私が悪いの」

茜の眼を見ると、うっすらと潤んでいる。今にもこぼれ落ちそうだ。

そんな状況に、愛斗はさらにどうしていいか分からなくなった。

また、茜の言っていることは否定しなければならないのだろうけれど、どこか正しいと思えるのだ。だからこそ何を言えばいいのか迷う。


「愛斗は昨日のことで私を心の底から嫌いになったかもしれないけど、私はあなたのことが好き。だからあんなことを言っちゃったのかもしれない」

彼女がそう言った瞬間、茜の目から涙が溢れた。それが彼女の頬を伝っていく。


「僕は茜さんのことを、今は好きか嫌いかよく分かりません。でも好きになりたいという気持ちは変わってません」


「そんな、嘘つかなくていいのよ」


「嘘じゃなくて、これは僕の心の底からの想いです」


「愛斗…。どこまでいい子なの」

もう、茜の涙は止まることを知らない。クラスの目など気にもせず茜は泣き続ける。


「茜さん…」

愛斗は彼女の名前を言いながら、その背中をさすった。


「ありがとう…。大好き」

茜は愛斗にそう言った後、

「じゃあ、またね」

と言って、涙を流したまま自分の教室に向かって行く。

愛斗は、茜がそのまま出て行くことに抵抗があった。なぜ彼女は泣いているのか、すれ違う人は疑問に思うだろう。

彼女がそうやって変に思われることが嫌だ。


「待って」


その声に茜は立ち止まり振り返った。


「放課後、会いましょう」


「…うん!」

茜の涙は嬉し涙に変わった。


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