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記憶を失った僕と彼女たち  作者: 天笠愛雅
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岐れ路

「今の僕...」


「そう、今の愛斗は違う」

ふと、愛斗が茜の言葉を繰り返すと、茜は更に今の愛斗を否定してきた。

彼女には否定するような悪意はないのかもしれない。

茜が注文してくれたらしいアイスコーヒーを店員が運んできて、茜はそれを飲むことを勧めた。

愛斗はそれを1口飲んだ。


否定...


愛斗は気づいた。

今の自分を否定されたことに腹を立てているのだと。

今まで愛斗は、過去の自分に近づけるように努力してきたつもりだった。

そして、それを気付かぬうちにみんなは認めてくれた。

しかしそれを、茜に一瞬のうちに壊され、それは今まで苦しみに耐え、甘やかされてきた愛斗には酷だった。

そのどちらの弱さにも響いた。


「いや、違くない...」


「ううん、違う」


「違くない!」

店内に響き渡る大きさで愛斗は茜に言い放った。

こんな感情に襲われたのは記憶がある限り初めてだった。

あの日、夜空の下、病院で泣け叫んだ。

あれは辛かった。

だけど、それとは全く違う辛さ、憤り。


「愛斗...」

愛斗を諭すように、茜は周りを気にしながら名を静かに呼んだ。


「ごめん、言い過ぎた...」

茜は反省している。だけど別に茜だけが悪い訳でもない。

それは愛斗自身も分かっていた。


「すみません、急に...」


「ごめん、今日は帰ろうか...」


「はい...」

愛斗には、拒否する気力も理由もなかった。


とても悪い雰囲気のまま愛斗と茜は店を出た。

しかし、2人の帰り道は途中まで同じだ。

愛斗は何か話さないといけないと思い、必死に頭を巡らせる。

いつもこんな時、茜が先手を打つ。

でも今日は違った。

愛斗がいつまでもそうやって考えて時間を使っても、どこまでも歩いても、茜の口は閉ざされたままだ。

そして分かれ道が現れた。


「じゃあね、愛斗」


「は、はい。また」


別れは一瞬だった。

茜と別れた愛斗は、その場に立ち尽くした。茜の徐々に小さくなっていく靴音を聞き、アイスコーヒーのようにほろ苦い思いを胸に抱きながら。

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