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記憶を失った僕と彼女たち  作者: 天笠愛雅
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着信音

「ちょっと出かけてくるわねー」

母が1階から大声で子供たちに声をかけた。


「お風呂先入っちゃっててもいいわよ」

と、母はあとから付け足すように言った。


「はーい」

愛斗と美咲は、実の兄妹さながら同じタイミングや調子で返事をしたので、思わず2人は顔を見合わせ、クスッと笑う。


母が外に出た音がした時、愛斗は美咲に言った。

「ちょっとシャワー浴びてくる」


「う、うん。分かった」


愛斗は美咲を自室に残し、風呂場に向かう。

その時、愛斗は気づいていた。美咲が付いてきていると。

でも、知らないふりをして服を脱いで浴室に入った。美咲の心の中にまだ、あの時の感情が残っているのかもしれない。だから愛斗は美咲を受け入れようとした。今日は美咲に悪いことをしたとも思っていたから。

脱衣所の扉が開く。これから美咲は服を脱ぐだろう。愛斗は何も聞こえていなく、気づいてないふりをして母が入れた湯船に浸かり続ける。

美咲が浴室の扉に手を掛けた。


プルルルル


浴室に着信音が響いた。愛斗は風呂に入るときに、スマホを持ち込む癖がある。

その癖は記憶を失う前からやっていたのだろうか、身体が勝手に覚えていたようなのだった。


ガタッと言う音が浴室と脱衣所を隔てる扉から発せられた。裸の妹が着信音に驚いたのだろう。

愛斗は、ここで電話に出ないのは、妹の存在に気づき、そして意識しているからだと思われると勝手に考え、本人に察せられないために電話に出ることを決めた。

そこでようやく誰からの着信か確認した。


茜1223


彼女である今西茜だ。迷わず電話をとった。


「もしもし、愛斗?」


「あ、はい。そうです」


いつも通りの茜の声だった。連絡を疎かにしていたので怒っているかもしれないと勝手に推測していたのだがどうやら違うようだ。


「どうしました?」

安心したのか、愛斗は自分から質問する余裕があった。

だが、その質問に対して、茜の回答は愛斗の予想を少し上回るものだった。


「今から私に会いに来なさい」


「え?」

言っている意味は分かっていたが、意味もなく聞き返す。


「だから、今から会える?って聞いてるの」


「最初からそう言ってくださいよ」


「それは悪かったわ。で?」


これから特に用事はない。飯を食って寝るだけだ。


「いいですよ。どこですか?」


「そうね、それは後で連絡する」


「分かりました。では」


「うん、じゃあね。よろしく」


プーという音が鳴り、通話が終了した。そして、それと同時に妹が撤退する様子があった。

なるべく音を立てないように服を着て脱衣所を出て行ったので、もしかしたら、まだ愛斗に気づかれていないと思ったのだろうか。


愛斗は早々に風呂から上がり、服を着替えた。なんとなく脱いであった服のしわとかがずれていて、美咲が来たことが伺えた。


美咲は、愛斗の部屋で何事もなかったかのように愛斗を待っていた。


「ちょっと出かけてくる」


「あっ...分かった!」


美咲にとっては愛斗が出かけることはすでに知っていたことなので、応答の言葉に困ったようだ。

あえてそれを一切気にせず、愛斗は美咲に背中を向け、部屋を出た。


「...いってらっしゃい」


義兄を見送る美咲の声は、どこか寂しげだった。

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