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記憶を失った僕と彼女たち  作者: 天笠愛雅
24/38

パスト

「今回も最高点は千代間だ」

数学の答案が返ってきた。いつものように自分の名前が呼ばれる。

また、クラスから冷たい視線を浴びせられているようだ。いつになってもそれは慣れないことで、心臓が(えぐ)られる気分だ。私とて、感情を失った訳ではない。


「ったく、めっちゃ勉強したのにまたあいつかよ」


「友達いないから勉強するしかないんだろ」


そんな声が聞こえた気がした。

そう。私、千代間夏海には友達がいない。

だが、そんな日々は突然終わりを告げた。


「さすが千代間さん。すごいよねいつも」


「ほんと。教えて欲しいくらいだわ」


誰かがからかいに来たのだろうか。

視線を上げると、同じクラスの、名前は確か、時田と日高だったはず。その2人が私を見ていた。

この時、私は気づいていなかった。2人の言葉が本心だったということを。

だから私は無視をした。何か言っても調子に乗ってると思われるからだ。

だが、2人は私に話しかけ続けた。


「千代間さんはずっと勉強してるの?」


「塾とか行ってるのか?」


「...」

なんとも言えない気まずい空気が漂う。


「...時間のある時は基本的に。塾は行ってない

私は、口を開いた。これ以上無視したら逆にまずいという私の中の良心が働いたのだ。


2人は、私が口を開いたことに驚いたり引いたりしなかった。むしろ嬉しそうだった。

私はその瞬間悟った。彼らはいい人たちだと。


私と時田、日高は、それから毎日のように会話を楽しむようになり、昼食も一緒に食べるようになった。


訪れた1年生最後の日、教室は涙の渦に巻かれていた。だけど私には、涙の1滴はおろか、寂しいという感情や名残惜しさも生まれない。

ただ、時田と日高と別れてしまうという心配が胸を駆け回っていた。集合写真の撮影は、1番端にとりあえず写り込むように入った。彼らには私以外にも友達がいる。私なんかがそれを邪魔することは到底許されない。私と関わることで、周囲からの彼らの評価が下がるのも怖かった。

最後の挨拶が終わると私は早々に教室を去った。


彼らにとって1番じゃなくても、彼らの友達になれてよかった。彼らと仲良く過ごした約半年、本当に幸せだったと思う。


来年に期待はしていない。だけど、もしかしたら友達ができるかもしれない。そう思えるようになった。何もかも彼らが教えてくれた。


春休みが明け、新しい学年での生活が始まった。真ん中の列の1番後ろ。そこが私の席だ。私には周りにいる人間が、去年と同じように見える。人としてしか見てなかったから。それでも実際、去年教室にいたと思われる、見たことのある顔もあった。そういう人たちが1番怖い。勝手な私のイメージを周りに吹聴するからだ。そういった人たちが私の過去の人生での平穏な日々を壊してきた。


けれど、そんなのは正直どうでもよかった。

日高が同じ教室にいる。そして今、彼が私の前にいるのだから。

でも、時田は姿を現さなかった。席がそこにあるのに。


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