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記憶を失った僕と彼女たち  作者: 天笠愛雅
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励まし

愛斗の頭の中では、芽衣がこのような状態になっている理由として、色々なことが想定されていた。

結果に不満を抱えているのではないか。怪我をしたのではないか。

だが、その解は少し違っていた。


愛斗は、芽衣がいるところにテントを周ってそっと話しかけた。尋常じゃない緊張だった。落胆している人に話しかけるのは勇気がいる。

しかし、幼なじみだから話せることもあるはずだ。ここで僕がどうにか話しかけないと心を閉ざしてしまうかもしれない。話を聞くべきだ。原因となる種が、心の箱に閉ざされてしまう前に。

愛斗は自信を持って、静かに芽衣に声をかけた。


「お疲れ様」


芽衣はゆっくりと顔を上げた。愛斗からははっきりとその顔は見えないが、だいぶ疲れているように見える。


「愛斗...」


「何をそんなに落ち込んでるんだよ」

愛斗は言った後に思った。なんて無神経な質問なんだと。これだから女心が分かってないと言われるのだ。しかし、何も考えずに撃った銃弾は、綺麗に的中したようだった。


「ほんと、何で落ち込んでるんだろうね」


愛斗は何も言わなかった。芽衣の心の内を聞くために。


「自信がなくなっちゃった。だってさ、まだ地区だよ?これから県があって、近畿もある。それに、インターハイでも結果を残さなきゃいけないのに...」

芽衣の言葉から、どこか怒りのようなものを感じた。怒りの対象は自分。芽衣自信。


「不安」

芽衣が独り言のように言った。まるで地面に話しかけるように。


「あなたにはまだ時間があります。短くてどうしようもないかもしれない。だけどまだスタートラインにすら立ってないんですよ?」

なんと、芽衣に言葉をかけたのは夏海だった。愛斗は驚いた。話しかけられた本人も驚いただろう。


「え?」

芽衣が反射的に聞き返した。


「不安ならその不安をなくせばいいんです。それは競技的なことだけじゃないです。友達はきっと手を差し伸べてくれるはずです。あいにく私はあなたにとって友達じゃないかもしれない。けれど、部の仲間や時田くんだっていますよね?」


芽衣はきょとんとしている。だが愛斗には、それでも夏海の言いたいことを芽衣は汲み取っているように思えた。

しかし芽衣は無言だった。彼女なりに夏海の言葉を咀嚼しているのだろう。


「あなたに何が分かるの!?この気持ちが分かるって言うの?」

消化の途中だった芽衣は、よく知らない同学年の女子に(いか)った。

対して、それを聞いた夏海は冷静だった。


「全く同じというような気持ちは分かりません。ですが、似たような気持ち、感情は分かります」

愛斗は思った。彼女も過去に何かあったのだと。

だけど、今は芽衣のことが先決だ。何より、夏海が芽衣とタイマンを張っているのだ。そんな奇々怪々な状況下で、他のことを考える余裕などない。


「なんで...」


「教えてあげましょうか?私が、あなたの気持ちが分かる理由を」

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