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記憶を失った僕と彼女たち  作者: 天笠愛雅
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第一歩

1限目、まずは現代文だ。「山月記」というものをやるらしい。何かよく分からないけど登場人物が虎になったということは分かった。

2限目は数学。結香の授業だったが、さっぱり分からない。

3限目は地理。海が好きだという先生の雑談で終わった。

4限目は生物。ほとんどの生徒が寝ている中、必死にノートはとった。

そして、昼休み。ランチタイムだ。


「よっしゃ愛斗、一緒に食おうぜ!千代間さんも!」

本当は自分から誘おうと思っていたが、岳が肩を組んで誘ってきたのでその必要はなかった。だが、本当に岳は、こちらのペースを乱してくる。

その辺にあった机を適当に合わせて、愛斗、岳、夏海は一緒に弁当を食べ始める。


「岳の弁当、意外とヘルシーそうだね」

愛斗の言った通り、蒸したり焼いたりしたものが多いのが岳の弁当だった。鶏ささみや野菜などとても男子高校生の弁当には見えない。


「お、気付いたか。やっぱ陸上は食事にも気をつけなきゃだからな」


「岳は陸上部なんだ...」

芽衣と同じ陸上部。なぜか、自分が見ることのできない芽衣の一面を知っていそうで少し心がもやっとした。


「そう、陸上部。楽しいぜ」


「本当にいつも楽しそうですもんね。よく女の子たちと...」


「おっと、それは言わない約束じゃないか?千代間さん」

何かやましいことでもあるのか?こいつは。


「す、すみません」


「気にすんな愛斗。なんでもないから」

それはなんでもある時に使う言葉だということくらい愛斗は知っている。


「ふーん?」

ちょっと目を細めて岳に揺さぶりをかけてみる。


「いや、本当、何も、ないって」

あー、こりゃ図星だ。なんかあるわ。


「い、いやぁ、今日も千代間さんのお弁当は美味しそうだなぁ」


「お、おい!話を変えるな!」

だが、夏海の弁当が美味しそうなのは事実だった。バランスも良さそうだが唐揚げなどの揚げ物も入っていて、いかにもお弁当って感じだ。聞いてみると、どうやら自分で作っているらしい。


「そういえば、千代間さんは部活に入ってるの?」

ふと気になったことを愛斗は夏海に訊いた。


「いえ、私は入っていません」


「そっかー、やっぱ勉強とか優先なのかな」

見た目から判断してそう言ってしまったが失礼だったかもしれない。


「まあ、そうなるのかもしれません」

あぁ、やっぱり。


その後も3人で会話をしながら昼食を食べ、楽しいひと時を過ごした。こんな時間がこれから毎日続くと思うと愛斗は、これから待ち受ける全てがとても楽しみになった。


そして5限目、情報。パソコンの使い方は全くと言っていいほど理解できなかった。岳が呆れながら、でも、丁寧に教えてくれた。

6限目、今日の最後の授業は英語。理解不能のまま終業を告げるチャイムが鳴った。


「じゃあ、席に座ってー」

結香が終礼をするために生徒たちに着席を促しながら教室に入ってくる。愛斗と岳、夏海は集まって話していたが、それを聞いてそれぞれの席に戻った。

5分くらいの終礼が終わると、岳は

「じゃあ、部活行ってくるな!またな愛斗!」

と言って行ってしまった。


「時田くん、ちょっといいですか?」

取り残された愛斗に夏海が話しかけてきた。夏海が愛斗を呼んで連れてきた場所はグラウンドだ。校舎を出て目の前にあるのが野球場、校舎側から見てその右にあるのが陸上部が練習しているトラックだ。愛斗たちは、岳が教室を出て行った後少し話していたので、すでに陸上部は練習を始めていた。あのチャラそうな岳は遠くからでもすぐに見つけることができた。トラックに近づくと芽衣の姿も確認できた。


「岳はああ見えて実は部活にストイックなんですよ」

夏海が今発した言葉は、軽く愛斗に衝撃を与えた。夏海が岳と呼んでいること。2人の関係性を考えさせられる。

この2人と打ち解けたような気でいたが、まだそう感じるには早かった。2人のこと、2人との関係、2人の関係。知らないことしかない。彼らを知って1日目だからしょうがないが、知らないということが怖い。恐怖だ。

誰だって未知と遭遇すれば怯むだろう。愛斗はそれを今、いや、ずっと味わっているのだ。


「これからご予定は?」


「特に、何も」


「そうですか...」

何の生産性もない会話を夏海が生み出した。

この子は本当に何を考えているのかわからないミステリアスな女性だ。


「岳は...」


「帰ろうかな、ね、千代間さん」

夏海が何かを話そうとしたが、愛斗はそれに気づかなかった。

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