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エルフ賢者の子育て日記  作者: 剣の道
第一章 新生児編
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7.エルフ賢者と辺境の街

 ちび助に乳を貰った後、村長のお宅を訪ねる事にしたのだが……もう体が痛くて歩けない。昼間の無理が祟っているようだ。


「村長、すまんが一泊宿をお借りしたい。明日にはセールの街に向けて出発するから一晩泊めてくれ」


「ふむ。ターラばあの倅が持ってきた荷物はそういうことですか。もう日も暮れますし仕方ないでしょうな。大したおもてなしも出来ませんが、どうぞお上がり下さい。」


「すまんね。それとポーションの買い取りは出来るかい? 少々入用なのでお金にしておきたいのだ」


「ふむ。賢者様のポーションなら大丈夫でしょう。いかほどでお譲り頂けますので?」


「うーん。7等級のポーションを500ピコ、解毒ポーションは350ピコでどうだい? 小売りの半値だ」


「そうですな。その値段ならあるだけ引き取りましょう。賢者様の知識より物価が上がっておりますから半値以下ですな。ふぉふぉふぉ」


 そこそこの金額を手に入れたが、今のところこれが全財産となる。この後街で1年以上も暮らして行かなければならない事を考えると不安で仕方ない。


 街に着いたら仕事を探さないといけないな。ちび助と二人、暮らして行くのにどのくらいかかるだろうか? 村長は物価が上がったような事を言っていた。この感覚のズレは結構響くかもしれない。


 村長宅で久々の食事を頂いて、早々に休む。そう言えば朝から何も口にしていなかったな。ここから街までは3日の工程だ。道すがら貰い乳は出来るのか出来なければどうするのかうつらうつら考えているといつの間にやら眠っていたらしい。


 おぎゃあおぎゃあ。――はっ! まだ宵の口だ。ちび助が泣いている。寝ぼけた頭で考える事もなしにちび助を抱き寄せる。だんだんと意識がはっきりして、理解が広がる。


 もう乳の時間か。夜中に申し訳ないが、娘さんのところに行って乳を貰い頭を下げて朝にまた来る事を伝えて別れる。


 やっと一日が終了した。ヤギ乳も買っておかなければいけないだろう。冷却魔法があれば3日位はなんなく持つはずだ。


 寝床に潜り込んでまたすぐに寝いってしまったらしい。自分では気付いていなかったが相当疲れていたのかもしれない。幸いちび助は、夜の間ぐっすりと寝てくれたようだ。


 ちょうど朝方に泣きだしてこの村での最後の貰い乳をする。娘さんには解毒ポーションを渡し、感謝の意を伝えておく。


 これであの娘さんのところは多少の事があっても安泰だろう。娘さんの方でもそれが分かっているから、この臨時収入は渡りに船だっただろう。


 村長のところでヤギ乳と干し肉、固パンなどを購入し別れを告げる。駅馬車の通っているところまで一っ走りだ。だいぶ軽くなった荷物を持ち、朝から洗濯などしていられないから『清潔』一発で済ませる。


 駅馬車が通っている場所は街道に面した宿場だ。そこでセールの街行きの馬車に乗り込む。昔と変わっていなければセールは辺境の街だがここらでは一番大きな街だ。


 3日の道程を経て何とかセールの街に辿り着いた。幸運な事に同じ馬車に乗り合せた客の中に乳飲み子を抱えた客がいた。赤子が粗相をするたびに『清潔』の魔法を使ってやり多少のお礼をすることで道中貰い乳をする事が出来た。


 その親子は、もう少し先の実家に子供を見せに行く途中だそうだ。セールで名残を惜しみながらも別れた。さて、街に入るか。私の記憶よりもちょっとだけ大きくなった街。


 セールはどこにでもある辺境の街だ。周囲を城壁に囲まれた農業が主体の街だ。その街の城門には、街に入ろうとしている人の列が多少出来ている。


 その列の最後尾に並んで少々待つとすぐに私の番になった。ライセンスを提示して城門を潜ろうとした瞬間、衛兵の槍が私の目の前で交差される。


「そこのエルフ、ちょっと待て。なんだこれは?」


 私が提示したライセンスを見て、首をかしげる衛兵。何だと言われてもライセンスだ。ふふん。昔取った杵柄じゃないが、これでも若いころはブイブイ言わせていたのだ。


「なんだこれはとはなんだ。金級冒険者ライセンスだ。知らんのか?」


 私が提示したのは金色に輝く一枚のプレートだ。木片プレートから始まり銅、青銅、鉄、鋼鉄、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコンとランクが上がっていく冒険者ライセンスだ。


「これはまた骨董品を持ち出してきたな。金級と言うとA級ライセンス相当か。俺のじいさんの代の頃の話だぞ。」


 な、なんだと! 確かにずいぶん世間からは離れていたが制度が変わったのか? ちくせう。ライセンスがあるから油断していた。


「身分証明ならそれでも問題無かろう?」


「いや、いくらなんでもこれじゃあダメだ。街に入るなら1000ピコだ。ライセンスはちゃんと更新するんだな。」


 ここで揉めてもいい事はない。しぶしぶ税金を払って街に入ることにする。金級冒険者が1000ピコ程度でしぶっていたら逆に疑われてしまうからだ。


 今の私にとって1000ピコは厳しいが、仕方ない。ちび助も長旅で疲れているだろうからさっさと済ませる。そうそうこの3日でちび助もといソウタ・カトウという名前である事が判明した。


 馬車での移動の間、唯一の手掛りである籠を調べた結果、一枚の羊皮紙を発見できた。そこには名前と『汝育てるべし』という言葉と主神の紋章だけが記してあった。


 これで確定した。主神の寵児で私を狙い撃ちにした転生者だ。ソウタがどんな恩恵を受けているかは分からないが私に育てろってことなのだろう。

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