6.エルフ賢者と貰い乳
村の入り口をくぐって少し、畑仕事を終えたおばあさんが鍬を片手にえっちらおっちら歩いていた。当然家に帰る途中だろう。
「あ~、おばあさん。すまんが、ちょっと尋ねたい」
「おや、賢者様でねえが。あんれまあ、その格好さどうしただ! あれあれ子供さ産みなさっただか!」
「あ、いや。産んだ訳ではないが事情があってな。貰い乳をしたいのだ。カエラ村に乳の出る女子は居ないかね?」
「はて、隣の娘っ子はまだ三月も先だで。後は、村長っとこの隣におったのが随分前だったような気がするべさ。だどもまだ一年は経ってねぇと思うだ。だいぶ出は悪かろうが、かろうじて出るべ」
「ああ、ありがとう。さっきからちび助が泣いてしょうがなかったんだ。五月蠅いったらありゃしない」
「はは、赤子が泣くのはしょうがないべさ。早よ行きなされ。荷物さ置いてええから、うちの倅に運ばせっから」
「申し訳ないがそうさせてもらおう。体中が痛くてもう運べないとこだったんだ」
村のおばあさんと別れ教えてもらった家に急ぐ。おんぎゃあおんぎゃあとちび助が泣く事火の如し。ようやく辿り着いた家の前、ノックをするより先に扉が開く。
「あんれ。赤子の声がすっと思ったら賢者様でねぇですか。おわぁ~、いつの間にやらお産みなされたですか。賢者様さ凄かですね。」
「いや、私が産んだ訳じゃないんだ。事情があってな。申し訳ないが乳を分けてもらえんだろうか?」
「はぁ~、あちしももうだいぶ出が悪くなったけど、どうぞどうぞお上がり下さい。あんたー、賢者様に乳さ分けるでちょっくら村長さのとこ行って賢者様がきなさったって伝えてあげて」
娘さんに促されるまま痛む体を無理やり動かして土間の先、上り口の辺りに腰を下ろす。袈裟にかけてたシーツをほどいてちび助を娘さんに渡す。
娘さんは手慣れたもので、洋服から胸をポロンと出してすぐにちび助の口にあてがう。ちび助も待ちに待ったお乳に吸い付いてごきゅごきゅと乳を飲みだす。
「ああ、やっと人心地ついたよ。もう五月蠅いのなんの。ずっと泣きっぱなしだよ」
「ふふ、しょうがないですだ。赤子だってだいぶお腹さすかしてたみたいですよ。あちしももうだいぶ出なくなってきたんで両方吸わせますけど足りるかどうか」
「やっぱり君じゃダメかい? 貰い乳をしなくちゃいけなくってね」
「ええ。いつ出なくなってもおかしくないですよ。うちの子が飲まなくなってからひと月は経ちますから」
「うーん。困ったな。他にお乳の出る人っていないかい?」
「この村では今ちょうど居ないですね。あと三月もすれば一人出産すると思いますけんど」
「三月は待てないな~。どうしよう」
「街まで行けば、人も多いので誰かしらお乳の出る人は居ると思いますけんど……」
「街か~。しょうがないか~。明日行くかな」
娘さんと話しながらちび助が飲み終わるのを待つ。結構飲むな。ヤギ乳の時は30ccだったのに。ああ、そうか。全部吐き出しちゃってたっけ。
「あの~、賢者様。この子、人間の子供ですよね? まだ生まれてそんなに経ってないですよね? どうして賢者様がお育てに?」
「ああ、森で見つけてな。成り行きで私が今日から面倒を見てるんだ」
「はぁ~。森ですか。この辺だと村はここしかないですよ? どうした事ですかね」
娘さんが首をかげて考えてしまった。そりゃそうだ。私だってその辺は考えてる。ちび助が入っていた籠を詳しく調べてみないと確かなことは言えないけどきっと転生者じゃないかと思う。
たまに神々が異世界から魂をこの地に降ろすと言う噂がある。きっとそれじゃないかと思う。ふぅ。検証する暇も無いから困ったもんだ。
ようやく飲み終えたのか娘さんが肩に手拭を当てて、ひょいとちび助を担ぎあげる。そのまま背中をポンポンと叩いているとゲフッってな感じでゲップをして終わりのようだ。
「はい。終わりましたよ」
「ああ、ありがとう。これポーションだけどお礼に貰ってくれるかい。それとすまないけど、夜に一回と朝方に一回お乳を貰えないかな?」
腰のポシェットに常備しているポーションを娘に渡す。7等級のポーションだが買えばそこそこの値段がする。私くらいになると8等級や9等級は逆に作り辛い。効果が高くなってしまうんだ。
「まあ、賢者様。ありがとうございます。賢者様のポーションは凄く便利で効果があるので助かります。ええ、ええ。お乳なら出るうちはいくらでもいいですよ」
娘さんはうれしそうだ。村での収入だと私の作るポーションクラスはなかなか手が出ない。一応は安く卸しているのだけど、数に限りもあるから村長がそこそこの値段を付けているのだろう。
明日には解毒ポーションを渡しておけば、お礼としては十分かな。こうして初の貰い乳ミッションを完了した。