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エルフ賢者の子育て日記  作者: 剣の道
第一章 新生児編
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1.エルフ賢者と拾い物

 何やら森の中が騒がしいな。私の名はカーヤ・シュベリエ。エルフだ。こう言っては何だが、一応賢者と呼ばれていたりする。


 見た目はエルフなので十分美しいと言っておこう。長い金髪に碧眼、エルフの中では豊満な方だが、人族の中に入ってしまうとややスレンダーな体形だろうか。


 まあ、そんなことはどうでもいい。森だ。森についてだ。私が住んでいるのは、人里からはやや離れた深い森の中だ。ここに居を構えてから早150年。


 魔力はどこから来るのかを研究している。研究についてはそのうち話す事もあるだろうからここでは割愛しておく。


 私が森の中にある庵で日々の研究をしていると、何やら森の中がざわついている事に気が付いた。普段は寂しいと言ってもいい位ひっそりと静かなのが、この時に限ってぎゃあぎゃあと何かが騒いでいるようなのだ。


「ふーむ。ゴブリンどもでも騒いでいるのか? こう五月蠅くては研究に集中できんな。少し討伐でもしておくか。ついでに薬草でも採取してくればいいだろう。」


 そう思い森に分け入る決断をしたのがそもそもの始まりだった。さすがの私でも普段着のままで庵を離れて活動するのにはやや不安がある。


 ふふふ。そうだ。この庵周辺には、防御の護りと魔物避けの魔法がかけてあるのだ。そう易々と森の魔物でも侵入は出来ない。固定の儀式魔法なので移動物にはかけられない強力なやつだ。


 私は防御の魔法がかけてあるローブを纏い、壁に立て掛けてあった古木から削り出して先端にはやや大ぶりの翠色をした魔結晶が付いた古老の杖を片手に持つ。


 更には自作した各種ポーションや小道具が収納されているポーチを腰に付け、やや小ぶりだが機能性に富んだリュックに保存食を少々と水筒、フック付きロープや雑納袋も折りたたんで入れておく。


 そんなリュックを背負い腰のベルトに大型ナイフを差して採取準備完了だ。これが採取に行く時の私のいつもの格好だ。



     ◇     ◇     ◇



「……。人族の赤子か? なぜこんなところ……に? ……さてどうしたものか」


 森の中を進み騒がしい音がする方へ方へと進んで行くとどうやら大樹がある辺りが騒がしいと当たりを付け、見つけたのが籠の中に納まり激しく泣いている赤子だ。


 大樹の根元にそっと置いてあるのを発見して思わず呟いてしまったのが先程の疑問だ。私はこんな状況にもかかわらず小首をかしげてしまった。


 それはそうだろう、こんな深い森の中なぞエルフでもなければそうそう来ない。あ、いや素材採取や討伐で冒険者が来る事はあるか。


益体も無い事を色々考えていたが、現実問題として目の前でなく赤子をどうするべきか真面目に考えねばなるまい。


「ふ~~。仕方あるまい。見つけてしまったのだから連れて帰るしかないだろう」


 激しく泣く赤子に動揺してしまっている自分に気付くことなく、私はそんな決断を下してしまった。籠ごとそっと赤子を持ち上げ帰路につく。


 赤子を抱えて薬草採取なぞをしている場合では無いとの考察の結果だ。ほどなくして私は庵に帰り着いたが、言葉の意味をしみじみと実感している。


「これが火が付いたように泣くと言うことか。そなたのお陰で実感したぞ」


 発見してから今までずーとこの調子で泣き続けている赤子に辟易としている。まあ、辟易としている場合ではないことも十分理解している。何せ私は賢者なのだから。


 さてここでまた考察をせねばなるまい。ここでの命題はこの赤子はなぜ泣いているか、だ。恐らくだが腹が減っているのではないかと思う。


 もう一つの心当たりである粗相をしている可能性が無いことが確認されたからだ。恐らくと付けたのは確認の手段が無いためである。


「えーい。分かった分かった。そう泣かなくても乳が欲しいのであろう。今やる!」


 大丈夫。大丈夫。ちゃんと知識はある。おもむろに片肌を脱いで赤子を取り上げる。ふむふむ。まだ首が据わっておらんな。


 ならば頭部を支えねばなるまい。腕全体で赤子の頭部を支え他方の腕で体を支える。その時頭部をやや持ち上げ乳を含ませる。完璧だ。里に居たころの知識だが、まさか役に立つ時が来るとは思っていなかった。


「あ痛っ! いたたたたた! ち、ちぎれる! ちぎれる! やめて。やめて~~~!」


 赤子を抱えたまま悶絶したが、幸い赤子を放り出す事も無くこの苦行に耐えきった。まさか噛みつくとは!


 ……分かっている。今自分が粗忽者であった事を噛みしめているところだ。この赤子の行動は私の知識の中にもある。乳が出にくい時の行動だ。


 もちろん赤子を産んだ事が無い自分に乳が出ない事も分かっている。ただ思い出す順番が違っただけだ。思わず深くうなだれてしまったが、赤子はまた火が付いたように泣いている。


「くっ。そうだった。出るわけが無い。知っていたさ。隣のお姉さんがやっていたのは自分の子供だったものな」


 ならばどうする? 次善の策を考えねばならない。あ~~痛かった。自前の胸をさすりながら一応千切れていないか確認する。大丈夫のようだ。歯が生えていないのが救いだったのだろう。


 あ、次善策次善策っと。

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